180話
【お知らせ】
とりあえず、ある程度ストーリーを進められたので、今後は更新が止まっている別作品にも着手していきます。
カクヨムコン10にエントリーする小説も書いていくので、更新頻度が落ちると思いますが、その点よろしくお願いします!
ですので、再び更新されるまでお待ちください( ̄д ̄)ノ
「いきなり呼び出してすまんの」
「いや、問題ない。それで、呼び出しの内容は?」
秋雨が無人販売と木材の納品で稼ぎまくっている最中、突然商業ギルドから呼び出された。待っていたのは、ギルドマスターのベラバザールとジェイドの二人で、なにやら余裕ありげな態度だ。
秋雨としても、少々その余裕さが気になるところであったが、今回の呼び出しの件を聞き出せばすぐにわかることだということで、彼は二人に問い掛けた。
「実はの。今、市井で無人露店の噂が出回っている。聞いたことがあるかね?」
「まあ、そういったものがあるという話は聞こえてくるな。それがどうかしたか?」
「我々は、その露店の持ち主が君だと考えている」
「ほう、それはまた面白い話だ」
秋雨がなんでもないことのような返事をすると、二人の視線が突き刺さった。それは、どんな小さな変化も見逃さず嘘を見抜こうとする商人独特のものであり、並の人間であればそれだけで居心地が悪くなるようなものであった。
しかし、王侯貴族ですらだまくらかそうとした秋雨にとって、その程度の視線はなんでもないものであり、いつも通り白を切る。そして、以前彼らに口にした言葉をあらためて口にする。
「そう言うからには、俺がその露店の持ち主であるという明確な証拠があるってことだよな? まさかとは思うが、なんの根拠もなしに言っているのならただの言いがかりだぞ?」
「もちろんじゃ」
「……なら、見せてもらおうか」
その自信に満ちた表情に、秋雨は違和感を覚える。そして、今までの自分の行動を記憶から反芻しどこかに証拠に繋がる見落としがあるのではと考える。
だが、何度確認しても自分がボロを出したと感じるようなことは思い当たらず、相手のブラフであると思った秋雨であったが、彼が予想していない意外な部分を指摘される。
「あれから、無人の露店を調べさせてもらったのじゃが、いろいろとわかったことがある。まず、無人の露店と呼ばれるだけあって、あの露店には店員がいない。そして、その意味はいくつかあると考えられる。それは店員を配置する必要がないということと、無人にすることで誰があの露店の持ち主であるかを特定されないようにするためじゃ」
「まあ、道理だな」
ベラバザールの言葉に秋雨は同意する。その言い様は、まるで秋雨の逃げ道を一つ一つ潰していくような物言いであり、徐々に追い詰められている雰囲気が漂いはじめる。
「じゃが無人の露店には、重大な欠点が存在する。それは、店の商品を代金を支払わずに客に持ち帰られたり、売り上げ自体を盗まれるということじゃ。じゃが、現在その無人の露店からなにかが盗まれたという噂は流れておらん。不思議に思って調べてみると、どうやら高度な魔法または魔道具を使って、ある一定の条件を満たさないと持ち出せないよう結界が張られていることが判明した」
「ほうほう」
ベラバザールの説明に、いかにも興味ありげに相槌を打つ秋雨であったが、彼が放った次の言葉に秋雨の思考は一瞬停止する。
「その結界を調べた結果、ある魔力紋が発見された」
「魔力紋?」
「魔力紋とは、魔力を持つものであれば誰しもが持っているものであり、一つとして同じ紋は存在しないと言われている。それを調べれば、魔法を使った人間を特定することができるわけで」
「なるほど(要は、指紋とかDNA鑑定のようなものか)」
秋雨は聞いたとがなかったため、頭の中で疑問符が浮かんだ。そして、ジェイドの説明によって魔力紋がどいういうものか理解する。そして、彼らが自分が無人露店の持ち主であるという明確な証拠の提示がその魔力紋であるということにも秋雨は気づいた。
「つまりは、その結界から出た魔力紋と俺の魔力紋が同じであるとあんたらは言いたいんだな?」
「そういうことじゃ」
「だったら、調べてみるか? 本当にその露店に張られている結界から出た魔力紋と俺の魔力紋が一致するのかを」
「そうさせてもらおうかの。例のものを持ってきてくれ」
そう言って、ベラバザールはジェイドになにかを持ってくるよう指示をする。しばらくして、ジェイドが持ってきたのは顕微鏡のような見た目をした魔道具だった。
「それは?」
「【魔力紋測定装置】と呼ばれる魔力紋を測定するだけの名前そのままの魔道具じゃ」
「これを使って、君の魔力紋と例の露店に張られた結界の魔力紋を比べて、同じかどうか確かめてみよう」
彼らが持ち出してきた魔道具は、魔力紋を測定する魔道具だった。それを使い魔力紋を比較することで、露店の魔力紋と秋雨の魔力紋が同じであると証明するつもりのようだ。
この魔道具は、それぞれ七つの色とAからZまでのアルファベットに八桁の数字の三種類で魔力紋を測定でき、そのパターンは百八十億通りを超える。その精度はかなりのもので、今までこの魔道具を使って同じ種類の魔力紋のパターンが出たことは一度としてない。ちなみに色のパターンは、赤・青・緑・黄・紫・白・黒の七種類である。
「どうすればいい?」
「これにお主の魔力を注ぐのじゃ。そうすれば、すぐに結果が出る」
「わかった」
そう言われて、秋雨は躊躇うことなく測定装置に魔力を注ぎ込む。当然ながら、このままでは露店の結界の魔力紋と彼の魔力紋が一致し、無人の露店の店主が彼であることが明るみになってしまう。
だが、そんなことは百も承知の秋雨は、二人に気づかれないようある魔法を使用する。
(変化せよ。魔力変幻!!)
秋雨は魔道具に魔力を注ぐ直前に魔力の質を変化させる魔法を使った。そうすることで、測定装置によって出てくる結果を別のものになるよう仕向けたのだ。
「注いだぞ」
「どれどれ……うーむ、これは」
「ば、馬鹿な。露店の結界の魔力紋と違っているだと」
予想とは異なる結果が出たことに、ベラバザールは唸り、ジェイドは驚愕する。これが並の相手であればこれでチェックメイトだったのだが、残念ながら相手はあの秋雨である。
今まで人をだまくらかすことを生業にしてきた彼が、この程度のことで尻尾を掴ませるはずもなく、二人の切り札と言ってもいい証拠は役に立たなかった。
「これで、俺が無人の露店の持ち主でないことが証明された。残念だったな。またなにか証拠を見つけてきたときは、遠慮なく呼んでくれ。では、俺はこれで」
そう言い残し、秋雨は商業ギルドをあとにした。本心では引き止めたい二人だったが、これ以上彼が露店の持ち主であるという証拠を提示できない以上、彼が去って行くのを二人は黙って見送るしかなかった。
「ふっ、ちょろいな」
こうして、ギルドの追及からまんまと逃げることに成功した秋雨は、詰めの甘いギルドに対し、誰にともなくぽつりと独り言ちたのであった。
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