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173話



「ということだったみたいです」


「なるほど、君はあの少年をどう見る?」



 秋雨が商業ギルドからいなくなってから、事の顛末がジェイドにも伝えられる。そして、彼は意見を求めるため受付嬢へと投げ掛けた。



 彼女は困惑した表情を浮かべながらも、忌憚なき意見を口にする。



「はっきり言って異常ですね。その日のうちに木材場に行って木を十本切り倒してきたこともそうですが、それが異常であるということを彼が自覚していない」


「そうだな。さらに不可解なのは、一体なんの目的で木材を集めているかだ」



 受付嬢の答えにジェイドは同意しつつも、さらに踏み込んだ内容を口にする。秋雨がなにかしらの目的で木材を手に入れようとしていることは推測できるが、どういった用途で木材を手に入れようとしているのか予測ができなかったのだ。



 ただ日銭を稼ぐというものであれば、手に入れた木材すべてをギルドで買い取ってもらえば済む話だ。だというのに、秋雨はそれをせずあくまでも現物支給に強いこだわりを見せた。



 これは、金銭が主目的ではなく木材そのものを手に入れるために行っていることであるということは、彼の言動からなんとなくは予想できる。しかし、木材を手に入れてそれをどうするかまでは予測できない。



 すると、ここで受付嬢からこんな意見が出てくる。



「木材というものが重要なのではないでしょうか?」


「どういうことだ?」


「あの少年の目的が、木材を手に入れることなのは明白です。では、なぜ木材でなければならないのか。逆を言えば、少年がやろうとしていることに木材が必要ということになる」


「……今後、木材に関連する商いを監視しろ。君はそう言いたいんだな」


「それ以外は、打てる手はないかと思われます」



 受付嬢の言い分はもっともではある。だが、木材に関連する商いを監視すると単純に言っても、その種類と数は膨大である。



 単純に木材を納品する業者だけでも百は下らず、その木材を購入している消費者は、事業者でない者も入れればさらに膨れ上がる。それらすべてを監視するなど途方もない労力を強いられることになる。



 しかし、件の少年が手に入れた木材をどのように使用するのか把握できていない以上、市場の動きを監視しつつそこからなにか違和感があるかを探ることしか、今の彼らが取れる選択肢はなかった。



 もちろん、少年本人に聞き出すという選択肢もあるが、問いかけたところで素直に答えてくれるとも思えず、逆にギルドが少年に探りを入れていることが露見する可能性が高い。



 少年を追及するのは、すべての証拠が出揃いかつ言い逃れができないほどの状況になったときだ。そうでなければ、とぼけられて終わりである。



「そうだな、しばらくは様子を見よう。ところで、あの連中はどうなった?」


「【フラデリ商会】の連中ですか。でしたら、代表のフラデリは不正取引と非人道的な行為によって死罪が確定し、他の連中も犯罪に加担したことで最低十年の重労働の刑に処されることになりましたが」



 商人の耳というものは早いもので、その日にあった出来事がすでに話題になっている。もともと、なにかと黒い噂の絶えない組織であったということもあるが、それを差し引いても情報が出回る速度が速すぎた。



「今まで尻尾を掴ませなかったというのに、一体どういうことだ?」


「兵士の話では、いつの間にか詰所にフラデリ商会の不正取引の証拠の書類が届けられていたそうです。誰が届けたのかは不明とのことです」


「内部告発か、それとも商会を潰すために工作員を送り込んだか。どちらにせよ、あの連中が潰れてくれるに越したことはない」



 商業ギルドでも、フラデリ商会の不正の情報は掴んでいた。しかし、いくら追及してもフラデリ商会は知らぬ存ぜぬを貫き、証拠となる書類も出てこなかったのだ。



 ところが、今になってその書類が詰所に届けられた。これが一体なにを意味するのか、ジェイドは正解に辿り着けないでいた。



 この状況を生み出したのが、たった一人の人間の手によるものであり、しかも本人にそういった深い意図はなく、ただ目の前のおっぱいを堪能したいという邪な感情で動いたなどと誰が予想できただろう。



 しかも、その人間というのが先ほどまで話題に上がっていた少年だと結びつけるにはあまりに荒唐無稽な話であり、もし仮にそういった推測を口にした場合、こじつけ以外の何物でもない。



 だからこそ、二人とも件の少年とフラデリ商会が消滅する原因を作った人間を結び付けることができず、この二つの事件が繋がっていると考え付かなかったのである。



「フラデリ商会に関わっていた別の商会も、順次摘発の対象になるでしょう」


「これで少しは、治安が良くなりそうだな」



 一つの悪が滅びたことで、ウエストリアに平和が訪れた。そのことにジェイドは安堵する。



 しかし、後日新たな問題が発生し、それの対応に追われることとなるのを今の彼らは知らない。



 こうして、秋雨の知らぬところでギルドの手が伸びはじめていたが、当の本人は木材を手に入れたことにほくほく顔で大通りを歩いていたのであった。

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