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171話



「ふむふむ」



 一方、商業ギルドをあとにした秋雨はさっそくもらった冊子に目を通していた。木こり事業については特に難しい規定は設けられてはいないが、特定の品目の木や決まっている場所以外で伐採してはいけないなど、あまり特殊なルールはないようだ。



 ただし、決まった期間で一定の数の木材を納品しなければならず、それを二か月以上怠ると木こり事業の資格を剥奪されるという記載があった。



「まあ、これなら問題ないだろう。特に聞かなきゃならないものもないな」



 これならばギルドで質問する必要はないと判断した秋雨は、オルガスの薬の材料を補充するため、レイチェルの店へとやってきた。だが、店に入るとそこは今まさに緊迫した状況になっていた。



「いや、離してちょうだい」


「ぐひひひひ、お前は黙って儂のものになればいいのだ!」


「ふむ」



 そこには、小太りの中年男性がレイチェルを床に押し倒し組み伏せていた。彼女も抵抗したようで身に着けていた衣服が乱れ、あられもない姿となっている。



 男の見た目は目がぎょろりとして、まるでカエルのような顔つきだった。



(おそらく、あれが彼女の言っていた息の臭いカエルだな)



 前回店を訪ねた時やってきたごろつきと彼女のやり取りから彼女はどこか悪いところから借金をしており、その利息が払えず借金を返すためごろつきの雇い主の愛人になれと迫られていた。



 その時は秋雨がごろつきどもをこっそりと眠らせ兵士に連行してもらったが、どうやら性懲りもなく再び彼女の前に現れたらしい。



 そして、今回はごろつきの雇い主が直々にやってきたということは状況として理解できたが、まさか白昼堂々このような暴挙に出るなどとはさすがの秋雨でも予想できなかった。



(最初は警告のつもりだったが、どうやら理解できるほどの頭はなかったらしい)


「あっ、ボスこいつですよ。この前俺たちの邪魔をしやがったガキです」



 そうこうしているうちにごろつきの一人に見つかってしまう。それを聞いたカエル男が不遜な態度で秋雨に言い放った。



「どうやら、うちの者が世話になったようだ。そのお礼をさせてもらおうか」


「礼には及ばん。こちらとしては、警告のつもりだったんだがな。どうやら、理解できなかったらしい」


「ふんっ、お前たち少し痛い目に遭わせてやれ!」


「坊や、逃げて!」



 カエル男の指示によってごろつきたちが秋雨へと襲い掛かる。悪漢の拳が秋雨の顔面を捉えたかに見えたその刹那、突如として男がバランスを崩して床に倒れ込む。



 それを見た仲間が駆け寄ってみると、男に怪我はなくよく見てみると眠っていることがわかった。



「おい、一体なにをしやがった!?」


「なにもしていないが」


「嘘を吐け」


「てめぇら、気ぃ抜くんじゃねぇぞ。こっからは本気でいく」



 ここにきてようやく秋雨がただの子どもではないことを理解したごろつきたちは、警戒しながら彼を取り囲んだ。しかし、いくら警戒していても仲間が眠らされた原因がわからない以上、むやみに近づくことはできない。



 それに焦れたカエル男がごろつきたちに檄を飛ばす。その口から唾が飛び散り、まるでモンスターが叫んでいるかのような醜さがあった。



「なにをガキ一匹にもたついている!? さっさとそいつを片付けないか!!」


「で、ですが」


「行け! 行かんかぁー!!」



 雇い主の叱咤に渋々といった具合で秋雨との距離を縮めるごろつきであったが、残念ながらもう時間切れである。



「な、なんだ急に眠く……」


「お、おい! だいじょう、ぶ……」


「一体なにが、なにが起こっているん……」



 一人また一人と秋雨を取り囲んでいたごろつきがバタバタと倒れていく。全員ただ眠っているだけであり、特になにか攻撃を受けたわけではない。



 その様子に目を見開いて驚くカエル男だったが、ここでようやく自分が不利な状況と悟り、レイチェルから離れ秋雨と対峙する。



「こうなったら儂直々に相手をしてくれる。火よ我が敵を討て【火球のファイヤーボール】」


「あぶないっ」



 いきなり魔法による攻撃を放ったカエル男であったが、それが秋雨に命中することはなく、店の外の地面にぶつかって消滅する。その音に驚いた通行人が何事かと騒ぎになる中、再び男が攻撃しようと呪文を唱え始める。



「運良く避けたか。だが、次で最後だ。死ねぇい! 火よ我が敵を、討て、ぐごー」


「おやおや、どうやら連中は働きすぎのようだ。この状況で眠ってしまうほどに疲れていたらしい」


「いや、仮に疲れていてもこんな状況で眠る人間なんていないと思うけど……」



 などとわざとらしい言い訳を述べたが、それを聞いたレイチェルが秋雨の言を信じるわけもなく、その代わりに冷静なツッコミをもらっていた。



 そんな彼女のツッコミを華麗にスルーし、秋雨は床に座り込んだ彼女を見下ろす。



 乱れた衣服から今にも零れ落ちそうな乳房は妖艶であり、その姿を見て欲情しない男など存在しない。そして、秋雨も男であるからして……。



「いい眺めだ。まさに眼福といった光景だな」


「坊やもなの。まったく嫌になるわ」


「あんたに魅力があり過ぎるのがいけない。ところで、今回の礼にその素晴らしいおっぱいをしゃぶらせてくれないか?」


「それはちょっと」



 さすがのレイチェルも助けてもらった礼はしたいとは考えている。だが、貞操の危機を救ってもらったのにその礼が自身の体を使った行為となれば、彼女を襲った人間のやることとなにも変わらないのではないかという思いがあった。



 ひとまず眠っている連中をこのまま放置すればいずれ起きてくるので、再び兵士を呼び出し眠ったまま連行してもらった。



 とりあえず兵士に連行してもらったところで、秋雨は今後のことについて話し始める。



「これからどうするんだ?」


「どうとは?」


「今回はたまたま相手が疲れていてなんとかなったが、そうでなければ悲惨なことになっていたかもしれない」


「ああ、その話まだ押し通すのね」


「とにかく、これからどうするんだ?」



 秋雨は差し当たっての今後については話を彼女に持ちかける。彼の相手が疲れていた云々の話は抜きにしても、このまま連中が諦めるとは思えない。目を覚ませば再び彼女のもとへとやってくるだろう。



 秋雨がずっと側にいて守り続けるというわけにもいかず、誰か守ってくれそうな頼みになるような人間もいない。



「……」



 状況的にはこの都市にいることはできない状況に彼女は唇を噛みしめる。それを見た秋雨は彼女にある話を持ち掛けた。



「そこでなんだが、俺と取引をしないか?」


「取引?」


「あの連中をこの都市から追い出してやる。その代わり、あんたのおっぱいを――」


「なんでそうなるのよ!!」



 なにはともあれ、まずは邪魔者を片付けるのが先ということになり、取引については改めて交渉するということになった。

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