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170話

【お知らせ】

この度、わたくしこばやん2号コロナになってしまいました。

しばらく、病気療養のため投稿ができなくなりますことをお伝えいたします。

投稿再開予定は未定とさせていただきますので、ご了承くださいませませ( ̄д ̄)ノ



「ここだな」



 ジョンたちに今後の動きを説明した秋雨は、次に木材屋に向かった。その目的は言わずもがなハンガーの材料となる木材の確保である。



 商品を作って売り出す場合、当たり前だが商品を作るためのコストがかかる。そのかかったコストによって商品価格を決定するのだが、現時点で木材の相場を知らない秋雨はそれを確認するために動くことにした。



「たのもー」


「おう、らっしゃい」



 木材屋に入ると、ガタイのいい髭面の男が出迎えてくれた。秋雨は物怖じすることなく、腰に下げたポーチからジョンに見せた木材を取り出しながら男に尋ねる。



「このくらいの木材でどれくらいの値段なんだ?」


「うーん、そうだな。それくらいの木なら、木の種類にもよるが銅貨四枚か五枚が妥当ってところだな」


「なるほどな(ということは純利益は銅貨十枚になるのか)」



 男から木材の相場を聞き出した秋雨は、すぐさま脳内でハンガー一個当たりの利益を計算する。その結果、飲食系と同様多くを売って利益を上げる薄利多売になるという結論に至った。



 あまり目立った営業を行うことができないため、秘密裏に売らなければならないという制約がある。そのため、それほどたくさんの商品を捌ききることはできない。



 商品の生産も手先の器用なジョン一人任せにしているため、一日に売れるのは五十個に届かないだろう。



(ジョンの製作時間を考えると、一日に二十個から三十個。二十個と見積もって、一日銅貨三百枚。かかるコストを差し引くと、純利益は銅貨二百枚だな。そのうちの三十枚は少年たちの取り分になるから……俺の手元に残るのは銅貨百七十枚か)



 ハンガー一個の価格が銅貨十五枚で、それを一日に二十個売ったとする。そうなると、一日売り上げは銅貨三百枚になるが、そこに一個当たりにかかるコストの問題が生じる。



 秋雨の提示したハンガーの材料となる木材の相場が銅貨五枚とするならば、ハンガー一個売れるごとに銅貨十枚の利益が出ることになる。そして、ジョンたちにはハンガー一個につき売れた金額の一割を報酬として支払うことになっているため、銅貨十五枚の一割が彼らの取り分となる。



 この世界の通貨の最小が銅貨であるため、銅貨十五枚ではきりよく計算ができない。そのときは切り上げで計算することにしてあるため、それほど問題ではない。



(銅貨百七十枚といっても、結局は銀貨二枚に届かない程度しかない。かといって販売数を増やそうとすれば商人や貴族どもに見つかってしまうか)



 いろいろと改善すべき点があると考えていたところで、急に黙り込んだ秋雨を訝しく思った男が声をかけた。



「おい、大丈夫か?」


「ああ、問題ない。ありがとう」



 そう言って、秋雨はその場から離れた。そして、木材屋からの木材の入手はコストがかかりすぎるということで、自分の手で入手する方向に切り替えることにした。



「いらっしゃいませ。本日はどういった用件でしょうか?」


「できれば、誰にも聞かれないところで話したい」



 というわけで、商いのことであればギルドに聞いた方がいいという理由から、秋雨は再び商業ギルドに足を運んだ。内密の話であるため、個室での対応を希望し応接室へと通される。



 しばらくすると、部屋に先ほど対応してくれた受付嬢とその上司と思われる男性職員が入ってきた。



「初めまして、私の名はジェイドといいます。今日は何やらお話があるということですが?」


「まず聞きたいんだが、木材屋を経由せずに木材を手に入れるにはどうすればいい? 勝手に森から取ってきてもいいのか?」


「それは駄目ですね。木材に関しては、商業ギルドの認可を得た木こり業者が木を切っておりますので、一般の方が木を伐採することはできません」


「なら、質問を変えよう。木こり業者になるにはどうすればいい?」



 ジェイドと名乗ったギルド職員は、秋雨の突飛な質問に面を食らったようである。だが、すぐに冷静に木材関連の実情を説明し始めた。



 そして、それを聞いた秋雨も木材入手のために木こり業をやりたいことを告げる。だが、そこまで聞いたジェイドはふと疑問に思った。



「失礼ですが、なぜ木材を必要としているのでしょうか? 見たところ木こり業者になりたいというよりも、木材そのものを欲しているようにお見受けしますが?」


「質問を質問で返すのはどうかと思うが、こちらも質問しよう。商人が個人で独占している仕入れルートや仕入れ先をほいほいと教えると思うか?」


「いいえ」


「そういうことだ。俺がギルドに求めるのは、自らの手で木材を入手する方法であって、その木材をどうするのかは知る必要はない。違うか?」


「それは、そうですが」



 それを聞いたジェイドは、長年の経験から金儲けの匂いを嗅ぎ取る。こういうもったいぶった言い方をするのは、独自で儲ける方法を確立した人間が多く。そのことをひた隠しにしたい人間の言葉だった。



 しかし、こういった物言いをする人間は絶対にその儲け話を口にすることはなく、むしろその方法を聞き出そうとすればするほど頑なになってしまうことをジェイドは知っている。



(仕方ない、か。ここは少し泳がせて、この少年がなにを思いついたのか見る必要がある)



 これ以上の情報を得ることは難しいと考えたジェイドは、秋雨が希望する木こり業者になる方法を伝えることにし、この先の彼の同行を見張ることでその儲け話を見極めることにシフトした。



「木こり業者になるには、登録料として大銀貨三枚が必要です。その後、ギルドが定めたルールに従って木を伐採していただくことになります」


「わかった。じゃあ、木こり業者の登録を頼む」



 最終的には、木こり業者に登録することができたが、ギルドに計画の一部を知られることになってしまった。それでも秋雨が敢えてギルドに話を持っていたのにはもちろん理由がある。



 仮に秘密裏に木を伐採したことがギルドに知れ、それがギルドの規約に違反するような行為であった場合、よくてギルド員の資格を剥奪、最悪の場合生じた損害の賠償を請求され、労働奴隷として十年二十年という長き時を過ごすことになるかもしれないと踏んだからである。



 もちろん、秋雨の持つチートな能力を使えば、ギルドにバレないよう立ち回ることは決して不可能ではない。だが、秋雨自身はそうでも今回協力してくれているジョンたちはその限りではない。



 秋雨は自分がこの事業から離れてもあとのことを考えて、最終的にギルドと協力して事業を成立させる下地を作っておこうと思ったのだ。



 そのためにも、ギルドの意向を無視するようなことはせず、ルールに則った方法で木材を得ようとしたのである。



 その過程でギルド側に秋雨の企みが漏れる可能性があったが、後々ギルドを巻き込むことを鑑みれば、今回の話は必ずしも愚行とは言い切れない。



「お待たせしました。これが木こり事業の営業許可証となります」


「ああ」


「事業についての詳細は同封されている冊子を参照していただければ問題ありません。なにかわからないことがあれば、いつでもギルドに来ていただければ結構です」


「わかった」



 そういったやり取りが行われたあとで、解散の流れとなった。そして、秋雨が応接室から出て行ってしばらくして、ジェイドが口を開く。



「これは調査の必要がありそうです。あの少年から目を離さないようお願いします」


「はい」



 長年商いに関わってきた彼の勘なのか、儲け話があることを感じ取っているらしく、受付嬢に秋雨を見張るよう指示を出す。



 新たな土地へやってきても、どうやら秋雨の向かう場所にはトラブルの種は尽きないのであった。

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