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168話



「はいこれ」


「ん? なんだこれは?」


「あんたの病気を治すための薬だ。試してみてくれ」



 思い立ったが吉日とばかりに、秋雨はさっそくオルガスにできた薬を提供した。オルガスに差し出された薬は、緑色の中に薄い紫色の何かが混じったなんとも怪しげな色のものであり、どう見てもまともな薬の色をしていない。



「これ、飲んでも大丈夫なのか?」


「その病気を治したいのなら、飲むしかない。色はアレだが、効果のほどは保証する」


「そ、そうか。なら、遠慮なくいただこう」



 オルガスとしても、せっかく自分のために作ってくれたのに色が変だから飲みたくないなどという子供染みた我が儘を言えるはずもなく、秋雨の手から薬を受け取る。



 しばらく薬を訝し気に眺めていたが、病気の治療のためということで覚悟を決めて一気に流し込んだ。



「う、うおっ。うがっ、うげごがっ」



 オルガスが薬を飲んだ瞬間、突如として苦しい表情を浮かべながらなにやら呻き出す。そして、しばらくその状態が続いたが少ししておさまった。



「不味いんだが」


「そりゃあ病気を治す薬だからな。美味くある必要性がない。それに、今のあんたは味覚障害だから仮に美味しく作っても不味く感じただろう」


「……それもそうか。で、これで治ったのか?」



 秋雨の言葉に、納得するオルガスであったが、それよりも気になるのは自身の病気が治ったか否かである。



 多少なりとも辛い思いをしたのだから、これで治ってほしいという願望はわからなくもない。だが、秋雨から告げられたのは非情な一言であった。



「そんなわけないだろう。とりあえず、今飲んだ薬を一日一本。それを半月くらい続けてもらうことになる」


「そ、そんなにか?」



 今回の治療法は、効果のある素材を調合し薬で治療する投薬法を用いている。メリットとしては、ある程度の期間を使って治療していくため、体に大きな負担がかからない。逆にデメリットがあるとすれば、完治するまでに一定期間薬を飲み続ければならないというものだが、それでも一日一本の薬を飲むだけならばそれほどの負担にはならない。



 もちろん、瞬時に魔法を使って治すことは可能かもしれないが、それを実行した場合、反動で正常な部分に支障をきたす恐れがある。例えば、耳が聞こえなくなったり、目が見えなくなったりということが起こる可能性だ。



 エルフの病気もそうだったが、こういった病はピンポイントに効果を発揮する治療法が望ましい。そのため、オルガスの治療も一定期間薬を投薬する方法を秋雨は選択したのである。



「まあ、しばらくの辛抱だ」


「わかった」



 どうせこのまま何もしなければ症状がなくなるわけではなく、大人しく秋雨の言葉をオルガスは聞いた。



 当面の間、オルガスの治療のためウエストリアに滞在することになってしまった秋雨であるが、とりあえず次の目的を探す間彼の治療に付き合うことに秋雨は決めた。








 翌日、朝の支度を済ませた秋雨は、街の散策を行うため、すぐに外へと繰り出した。



 ウエストリアの街並みは他の街とそれほど違いはなく、中世ヨーロッパ風の石畳が敷き詰められた大通りが広がる光景だ。



 この世界の文明ではこれが限界であり、科学が発展した地球とは比較する意味はないが、地球からやってきた彼にとってはやはり見劣りしてしまう。



 そう考えるのであれば、彼の手でこの世界の文明を発展させればいいのだが、今までの彼の言動から鑑みてそんな目立つことをするとは思えない。



 これが他の異世界ファンタジーの主人公であれば、某小説サイトに掲載されているような「あれ、俺なにかやっちゃいました?」的なノリで事が進んでいくのだが、今まで慎重な行動――本人はそのつもり――を心掛けてきた秋雨がそういった行動に移ることはない。



 もし、そういったことが起こるとすれば、誰かを表舞台に立たせ自分は影の黒幕としてその表舞台の人間を操る場合だ。



 そんなとりとめのないことを考えつつ、街をぶらぶらと歩いていると、一際大きな広場に出た。そこには多くの人間が露店を開いており、様々な商品が取引されるちょっとした市場のような様相になっている。



(ふむ、どんなものが売られているか、少し調べてみよう)



 まさに市場調査といった感じで、秋雨はその市場に売られている商品を確認する。調べてみると、最も多かった商品は食材で、次点ではその食材を加工した食品であった。



 それ以外にも、冒険者が扱う武具類や料理に使用する調味料や調理器具なども扱われており、それを求める客で市場は賑わいを見せていた。



 そして、調査を進めるうちに秋雨はあることに気づいた。それは、店を営業しているのが商会を持つようなしっかりした商人ではなく、辛うじてお金のやり取りができそうな一般人が多いという点だ。



 商業国家ということもあり、商人でない一般人も商いを行うことがあり、それは他国でも同じだ。だが、他国と比べても一般人が商いを行っている比率が多く、マセドニアが盛んに商いを行っている国であるということが一目でわかる。



「ふむ、俺もなにか売ってみるか?」



 その雰囲気にあてられたのか、せっかく商業ギルドでギルドカードを発行してもらったということもあって、自分もなにか物を売ってみたいという気分に秋雨はなる。



 もし、秋雨を知る人物がその言葉を聞いたら全力で「やめておけ、妙なことになるのは目に見えている」というツッコミが飛んできただろうが、残念ながらそういった人間が彼の周りにはいないため、彼の言動を止めることはできなかった。



 そうと決めれば秋雨の行動は早いもので、どこか開いているスペースはないかと周囲を探し回ると、ちょうどいい場所を発見する。



「ここって空いてるか?」


「ん? おう空いてるぞ」



 近くで店を開いていた人間に確認を取り、そこでちょっとした商いを秋雨はすることにした。場所取りのため小さな木箱を置き商い場所を確保した秋雨は、そこから少し離れた空き地に移動する。なぜその場所に移動したのかといえば、販売する商品を作るためである。



「さて、なにを作ろうか……」



 そう呟くと、秋雨はしばらく思案に耽る。ここは慎重に売り出す商品を考えねばならない。



 まず、候補として食品は除外する。飲食系は薄利多売で数を売らなければ利益が出ず、作業量が多くなってしまう。その一方で、売り出すときの作業量は少ないものの、その道のプロに目を付けられやすいアクセサリーやジュエリーといった装飾品系も避けるべきだ。



 であれば、秋雨がなにを売るべきなのかというと、それなりに需要があってなおかつプロの商人や貴族などの有力者たちに目を付けられないそこそこな商品ということになるのだが……。



「そんな商品あるのか?」



 元地球人の秋雨としては、生活に便利なグッズを販売している某百円均一の店に売られている商品が候補として浮かんだのだが、どれもこれもこの世界からすればオーバーテクノロジーなものであるため、そんな商品に目を付けない人間が果たしているのだろうかという答えになる。



 それから、あーでもないこーでもないと秋雨が頭を悩ませていると、空き地の隅の方に人影があることに気づく、そこにはボロボロの服を着た七、八歳くらいの少年少女がおり、なにやら遊んでいる。



 そのまま静かに観察していると、彼らの一人が椅子のようなものをナイフで加工しているようだ。



「……使えるか」



 その様子を見た秋雨はなにかを思いついたらしく、無警戒に彼らに近寄って行く。それに気づいた彼らが警戒心を露わにする中、先ほどまでナイフを使っていた少年に話しかけた。



「この椅子はお前が作ったのか?」


「誰だお前?」


「そんなことを聞いてどうする? それよりも、これはお前が作ったんだな?」



 少年の誰何の声を黙殺し、淡々と彼に質問を投げ掛ける。諦めたように彼が頷くと、秋雨はその口端をニヤリと吊り上げ、彼に言い放った。



「お前、俺に雇われる気はないか?」



 こうして、秋雨の計画が始まったのであった。

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