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166話



「次は、薬屋だな」



 商業ギルドでの手続きを終えた秋雨が次に向かったのは、薬屋だった。その目的は、オルガスの味覚障害を治療するための薬の材料の調達である。



 一度治療すると決めたからには、できるだけ早い方がいいと考えた秋雨は、すぐに行動に移ったのである。



 商業都市ということもあってか、様々な品を取り扱う兼業店もあれば、特定の品しか取り扱っていない専門店もいくつか存在する。



 秋雨はそんな薬に関する品を専門に取り扱う薬屋に足を運んだ。



「【レイチェル錬金術店】」



 とりあえず、あてもなく歩いていた秋雨だったが、そんな彼の目に薬屋を表すポーションの絵が描かれた看板が飛び込んできた。



 店の名前を呟きながらその店の外観を眺めていた秋雨であったが、特に怪しい雰囲気はなかったため、意を決して店の中に入る。



 中に入ると窓が開いていないのか、少々薄暗い印象のある店内であったが、棚には調合済みと思しきポーションや薬類が陳列されており、れっきとした薬屋の体裁は保たれている。



 そんな些か怪しい雰囲気の店内を見まわしている秋雨に気づいた店の人間が声を掛けてきた。



「いらっしゃい、何かお探しかしら?」


(ほう、これは)



 そこには、ドレスローブに身を包んだ妙齢の女性がいた。会計カウンターの奥に設置した椅子に座っており、いかにもな雰囲気を醸し出している。



 典型的というべきとんがり帽子を被っており、魔法使いか錬金術師のそれであるが、秋雨が感心したのはそこではなかった。



 扇情的なドレスに引けを取らないほどの均整の取れた抜群のプロポーションと、ドレスから零れ落ちそうなほどに大きな乳房。そしてまるで乳鉢のように透き通った白い肌は、秋雨でなくともそそられるものがある。



 薄い緑の髪に神秘的なまるですべてを見透かしたような黄色の瞳は、彼女の肢体も相まってその魅力を十全に引き出していた。



「娼婦か?」


「違うわよ! いきなり失礼な子ね」


「失礼。あまりに魅力的な姿だったのでね」


「あら、そんな歳でお世辞がお上手なのね」


「残念ながら、俺はお世辞を言わない人間だ」



 そう口にした秋雨は女性と視線を重ねる。しばらくお互いの視線が交差する中、不意に女性がふっという蠱惑的な笑みを浮かべ、彼の言葉に反応する。



「坊やの気持ちはうれしいけど、あと五年経ってから言ってほしかったわね」


「まあ、じゃれ合いはこれくらいにして目的を果たすとしようか。今から言う素材があれば譲ってほしい。まずは……」



 秋雨としても、別段彼女を口説き落としたいわけではなく、たまたま寄った店に好みの美人がいたから思わず口説き文句のような賛辞が漏れただけに過ぎない。



 些か気障な言動だが、どこの世界でも男という生き物は美人には弱いのである。どれほどの言葉を重ねたところで言い訳にしかならないが、これは仕方のないことなのだ。そう、仕方のないことなのである。



 それから、女性に指定した薬の原材料となる薬草や素材を持ってきてもらう。その最中、彼女が秋雨に話を振ってきた。



「珍しい素材とかもあるけど、一体何に使うつもりなのかしら?」


「ある症状を持った人間を治療するための薬の材料らしい」


「どんな症状なの?」


「それは言えない」



 彼女の問い掛けに秋雨は教えられないという意思表示をする。彼は医者ではないが、治療する人間の情報を第三者に漏らすような愚かな真似はしない。



 医者であれば患者を治療する上で守らねばならない情報の秘匿義務……即ち守秘義務というものが発生するが、秋雨はそれに似た義務感のような感情で彼女にオルガスの情報を漏らすことを拒否した。



 そして、自分が治療を行う人間ではないという意図を含ませるため“らしい”という言葉を使って暗に他に治療する人間がいるという偽装を行った。



「ちょっとくらいいいじゃない? なんだったら……ほらぁ」


「それは、いや、だがしかし……」



 秋雨の持つ情報が気になった女性は、胸元を強調するような姿勢で彼を誘惑した。彼が自身の容姿を称賛したということで、自分が相手の好みのタイプだと確信があったのだろう。



 そして、その勘は当たっており、ローブから見える彼女の谷間は秋雨の意思を簡単に揺るがすものであった。



(なんという柔らかそうなおっぱいだ。ミランダやウルフェリアとは違った趣のおっぱい……)



 思わず唾を飲み込んでしまうほどの魅力的な光景に、秋雨の心は大いに揺れた。彼女の胸を堪能したいという欲望と、情報を漏らしてはならないという義務感のせめぎ合いが彼の脳内で始まっていた。



 そこに理性というものはなく、仮にオルガスの情報云々がなくとも彼女の許可があれば、秋雨は迷うことなくその胸を堪能していただろう。そういった意味では、彼の理性は壊れてしまっていた。



 それから、どうなったのかといえば、予想通り誘惑に負けた秋雨がむしゃぶりつくように彼女の胸を堪能した……ということはなく、なんとかぎりぎりのところで思いとどまった。理性というよりも、維持で踏みとどまったといったところだ。



「むぅ、意外とガードが固いのね坊や」


「危ないところだったぜ……」



 汗もかいていないのに、額の汗を拭うような仕草をする秋雨。その仕草はどこか演技染みており、この状況を楽しんでいるかのようであった。



 そんな一幕があったが、突如としてやってきた連中によって彼女との楽しい時間が引き裂かれることになった。



「レイチェルはいるか!?」

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