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165話



「ここがこの都市の商業ギルドか」



 そう呟くと、秋雨は自分の背丈の何倍もある建物を見上げる。



 商業国家マセドニアの主要都市の一つ【ウエストリア】にある商業ギルドは、国内に強い影響力を持つ組織であり、それは国という枠を超え、他国にすらその力が及んでいる。



 特にマジカリーフの国境に最も近い商業都市というだけあって、魔道具やそれに類する商品の取り扱いが盛んであり、その市場規模は計り知れないものとなっていた。



 清潔感漂う木造の建物内に足を踏み入れた秋雨は、さっそく受付カウンターに向かう。



 建物内には、幾人かの商人の姿もあり、一見すると話に花を咲かせているように見える。だが……。



(……見られているな)



 秋雨が商業ギルドに足を踏み入れると、気づかれないようさり気なく目を向け、彼を値踏みするような粘り気のある視線が突き刺さってくる。しかし、気配に敏感な秋雨相手では、商人程度の視線などすぐに気づいてしまう。



 特に実害が出たわけでもないため、商人たちの視線を無視して受付カウンターにいる女性職員に話しかける。



「ちょっといいか」


「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか?」


「商業ギルドへの新規登録を頼みたい」


「新規登録をする方にいくつかの質問をさせていただいているのですが、よろしいですか?」


「ああ」



 そう言って、職員は秋雨に質問を投げ掛ける。といっても、その内容は質問というよりも商人としての適性があるかどうかのテストのようなものだった。



「二十個のリンゴが入った袋に五個のリンゴを追加すると、袋にあるリンゴは何個になりますか?」


「……二十五個」


「その袋から十個のリンゴを取り出すと、袋にあるリンゴは何個になりますか?」


「……十五個」


「その十五個のリンゴが入った袋が四つになると、リンゴの数はいくつになりますか?」


「……六十個」



 といった具合に、袋に入ったリンゴに関する質問なのだが、これはどう考えても加減乗除の計算ができるかという確認をしているようだった。



 商人にとって数の計算というものは必須事項であり、商いをする上で求められる能力の一つではある。だからこそ、ギルドが新規登録希望でやってくる人間にその能力があるかどうかを試すのは決して理解できないものではない。



 この質問をすることで、最低限数の計算ができる人間かそうでないかを振るいにかけることができ、資格だけを欲しているだけの人間を省くことができるのだ。



「では最後に、その六十個のリンゴを十人で均等に分けると、一人あたりがもらえるリンゴは何個になりますか?」


「……六個だ」


「ありがとうございます。では、こちらの登録用紙に名前と希望する商いの内容の記載をお願いします」



 質問を終えた職員は何事もなかったかのように登録用紙を差し出してくる。その対応に、秋雨は内心で上手いやり方だなと感心する。



 彼女がした質問は四つでそれぞれが足し算、引き算、掛け算、割り算に関する計算問題であり、今の質問で四つの計算法ができるかどうかの確認を行うことができる。



 しかも、その確認を終えたあと、何事もなかったかのように登録用紙を出すことで、今の質問がただの質問であり、四つの計算法ができるかどうかの試験であることをさり気なく隠している。実に上手いやり方である。



 当然だが、秋雨もそのことには気づいていたが、敢えてそれを指摘することに意味を見出せなかったため、気づかない振りをして差し出された登録用紙に目を落とす。



(記入欄は名前と扱いたい商品または業種か。とりあえず、いつも通り名前は偽名にしておくか。業種はいろんなものを扱っていく可能性を考慮して小売業にしておこう)



 そんなことを考えながら、秋雨は名前と業種を記入する。ちなみに、今回の偽名は“商い”という言葉にちなんで【エチゴヤ】という名前を採用することにした。



「これで頼む」


「かしこまりました。名前はエチゴヤ様ですね。扱う業種は小売業ということですが、具体的にはどういったものをお考えでしょうか?」


「まだ決めていない。いろんなものを幅広く扱うことを視野に入れたものだと思ってもらえればそれでいい」


「かしこまりました。では、こちらの内容で登録させていただきます。では、登録のためこちらの水晶に手を置いてください」


「これは?」



 そう言いながら、職員は占いで使用するようなソフトボール大の水晶玉を取り出す。秋雨の質問に彼女は淀みなく答えを返す。



「こちらは、登録の際にエチゴヤ様の魔力を登録する魔道具となっております。簡単な犯罪歴も調べられるようになっておりますので、当ギルドとしても重宝しているものでございます」


「なるほど」



 彼女の説明を聞いて納得した秋雨は、改めて水晶に手を置く。すると、真っ白に光り輝きしばらくしてその輝きが消失する。



 その後、女性職員が水晶を持ち上げるとその下にはカードのようなものが置かれていたらしく、どうやらこれがギルドカードらしい。



「ちなみに、犯罪歴があると赤く輝きます」


「なるほどな」



 以前バルバド王国の王城に不法侵入したことのある秋雨であったが、どうやらそれは犯罪と認定されることはなかったようだ。理由としては、侵入した王城の人間が最終的に秋雨に感謝しているからである。



 王妃の不妊を治療したばかりかずっと眠っていた王女を目覚めさせた人間を罪人扱いしては、王家としても面子に関わる事態になると判断したらしい。



 であるからして、秋雨の知らないところで彼は王家の危機を救った英雄扱いされているのだが、それはまた別の話である。



「これで正式にエチゴヤ様の登録が完了しました。これより、簡単な説明をさせていただきます」



 そこから、女性職員の簡単な説明を聞かされる。具体的には以下の通りだ。




 ・商業ギルドの信用を落とす行為の禁止



 ・商業ギルドには冒険者ギルドのように貢献度に応じたランクが設定されており、ランクが高くなればなるほど納めなければならない年会費も高額になる。



 ・ギルドカードは身分証としても使え、マセドニア国内での通行料はすべて無料(他の身分証は有料)



 ・その他にもランクに応じて取引についての様々なことを優遇してもらえる。




「以上がギルドカードに関する説明となります。何か質問はございますか?」


「ランクは任意で上げることができるのか? それともギルド判断で上がるのか?」


「基本的にはギルド判断となりますが、最終的にはご本人様にランクを上げていいかの確認が行われますので、ランクを上げたくない場合、そこで拒否することも可能です。ですが、明らかに貢献度とランクが見合っていない場合は、本人の了承なく強制的にランクが上がる場合もあります」


「なるほど」



 それから、いくつかの質問を行い、粗方の疑問を解決したところで秋雨は商業ギルドをあとにした。

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