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162話



「むぅ」


「おばあちゃん、いい加減諦めて別れの挨拶をお願いします」


「やだやだやだやだぁー! まだ彼と何もできてない!!」


「もうアキサメさんは里を去るんです。長老として最後の挨拶くらいしっかりしてください!!」


「ねぇ、アキサメくん。最後にお姉さんと気持ちいいことしない? 君のをわたくしの穴にずぼず――あいたっ」


「いい加減にしろ! このドスケベエロエルフが!!」



 ターニャフィリスの言動を見かねたエーリアスが、彼女の頭を叩く。それがきっかけでまた見苦しい低レベルの喧嘩が起きるも、秋雨はそれを見届けることなくその場をあとにする。



 今日で里を去ることは伝えたし、エルフの秘薬の調合に必要な素材もある程度確保した。彼にとって、もはやこの場に留まる理由はなく、彼女たちの喧嘩を尻目に里を出て行く。



「ソッシュか」


「……」



 里を去る道中、エーリアスの弟ソッシュと遭遇する。相変わらずの無口だが、今回ばかりは最後の別れということでぽつりと呟く。



「……いろいろと世話になった。感謝する」


「問題ない。俺もいろいろと利益は確保できたからな」


「またいつでも来い。歓迎する」


「ああ、じゃあな」



 あまり愛想のいいとは言えない態度であったが、彼なりに感謝を伝えたいということは感じられたため、秋雨も不快には思わなかった。



 それから、他のエルフが声をかけてくることはなかったが、特に気にすることなく里の出入り口へと向かった。



「おお、救世主殿。今回は我らにかけられた呪いと森神様から救っていただきありがとうございました」


「まあ、成り行きでそうなっただけだ」


「またここに来てください。我らエルフは、あなた様の来訪を心待ちにしております」


「ああ」



 里の出入り口を警護するエルフに見送られながら、秋雨はエルフの里を出立する。そして、最後に心の中でこんな感想を述べた。



(エルフか。一回くらいターニャフィリスのおっぱいは堪能しておくべきだったか?)



 などと相変わらずな感想だったが、彼女の場合そのあとの行為に不安があったため、さすがの秋雨も彼女に手を出すことを躊躇ったのだ。



 何事もほどほどがちょうどいいという言葉がある通り、いくら秋雨がそういったことに好奇心旺盛とはいえ、それにどっぷりと浸かるようなことは憚られたのである。



 兎にも角にも、エルフの里をあとにした秋雨は次の国を目指して旅を再開することにしたのであった。



 余談だが、自分たちのもとを去った秋雨に気づいたターニャフィリスとエーリアスが、喧嘩を止め秋雨を見送ろうとしたのだが、すでに彼は里を去っていたため、二人とも彼を見送れなかったことを後悔した。



 その際にターニャフィリスの口から「せめてチューくらいはしておくんだったわ」という言葉に、エーリアスと口論になったのは言うまでもない。そして、しばらく里の男性エルフの寝所から、艶めかしい女性の声が漏れ聞こえてくるという噂が立つことになるのだが、それはまた別のお話である。









「ふう、なんか数日しか滞在してないのに一月くらいいたような気がするな」



 エルフの里を旅立った秋雨が休憩時間にそんなことを漏らす。今回の一件で肉体的にも精神的にも疲労があったようで、秋雨には珍しく疲れた様子だ。



 しかしながら、エルフの秘薬のレシピという収穫もあったので、彼の働きが決して無駄骨に終わったわけではないと彼は自分に言い聞かせた。



「いろいろあったが、ひとまずは次の国を目指すとしようか」



 完全な寄り道となってしまったが、もともと秋雨が目指していた目的地へと再び歩みを進める。目的地の名は、商業国【マセドニア】である。



 大陸随一の魔法国家がマジカリーフであるならば、マセドニアは大陸随一の商業国家だ。大陸中のありとあらゆる物が集まり、大小様々な商いが行われている。当然だが、周辺諸国の中で最も商人の数が多く、その元締めである商業ギルドの本部は国内だけではなく国外にもその影響力を持っている。



 そんなマセドニアだが、商業国家としての顔だけではなく、国内有数のダンジョンがあることも有名な話として伝わっている。



 そのダンジョンから取れる多くの素材もまた国内を潤してくれる要因となっており、人々の間では“欲しいものがあるならマセドニアに行け”などという言葉もあるほどだ。



 そんなわけで、引き続きマイペースに自身のレベルアップを図りつつ、冒険者生活を満喫しようと目論んでいる秋雨であるが、果たしてそう上手くいくのかという疑念もある。



 今までが今までだけに、またなにかとんでもないことをやらかすのではないかという不安要素が拭いきれないが、本人は至って真面目に自身が間違った選択をしたという自覚がないため、次に生かすということができないのだ。



 もっとも、今まで彼が体験してきたすべての出来事が、彼の行動が原因で起きたことなのかと問われれば、必ずしもそうとは言い切れない部分もあるため、仕方がないといえば仕方のないことであった。



 そんなこんなでマセドニアに向けて順調に進んでいる秋雨であるが、何もトラブルがなく進んでいるようで、実は道中で数回盗賊に出くわしている。



 もちろん、いつものように全員気絶させてあとは襲われた人間に判断を委ねている。当然、その場に姿を見せることなくだ。



 そうすることで、余計なトラブルを背負いこむ必要がないため、楽といえば楽だ。それに襲われているものの中に女性がいた場合、救い料として彼女たちの胸を触ったりなどということも行っている。



 客観的に見れば、胸だけではなくそれ以上の“あはーん”なこともやってもいいのではと思わなくもないが、秋雨には少々乙女チックなところがあり、初めては好きになった相手と、という妙なこだわりがあるようだ。



 これもまた第三者から見れば笑止千万なことであるが、エルフの里でターニャフィリスとのワンナイトラブを蹴ったことを見れば、そのこだわりが筋金入りであるということは想像に難くない。



 それでも欲求というものは溜まっていくため、いずれ我慢できなくなって娼館のお世話になるのではと他でもない本人が予想していた。



 そんな本人以外はどうでもいいようなことを考えながらマセドニアに向かっている道中、何度目かの休憩をしたところで、背後に気配を感じ取った。



「誰だそこにいるのは? バレてるぞ。出てこい」


「さすがは我が主だ。やはり気づかれるか」



 その気配は、何日か前からずっとついて来ていたのだが、ある一定の距離を保ったままであったため、秋雨は余計なちょっかいをかける必要はないと考え放置していた。



 そこに現れたのは、エルフの里で死闘を繰り広げた相手である白狼狐だった。相変わらずの巨体をくねらせ秋雨の前にその悠然とした姿を晒している。



 しかし、以前と異なるのは敵意など感じられず、ただそこに佇んでいるだけということだろう。そして、秋雨は白狼狐の不穏な一言を聞き逃さなかった。



「お前の主になった覚えはない」


「これは異なことを言う。我を打ち破りし者などここ数千年いかなった。だが、主はそれを成し得た。この世は弱肉強食だ。であれば、強者に従うのは道理というものだ」


「道理でも何でもない。それにエルフはどうするんだ? 森神様だろう?」


「あれはたまたま我の住処の近くにエルフが住み着いただけで、我はエルフの守護神でも何でもない。森神様などとエルフが囃し立てただけに過ぎぬ」


「そんなことはどうでもいい。お前みたいなやつを連れて歩くと目立つだろうが! 今すぐ森へ帰れ!!」



 まさか、日常会話で“森へ帰れ”などという言葉を使う日が来るとは思っていなかった秋雨であるが、今回は表現としては正しいものであるため、その言葉を口にしても違和感を抱かなかった。



 それから、あーでもないこーでもないと白狼狐と口論をした結果、白狼狐がある結論を出す。



「主は我がこの姿であるから供を拒まれるのか?」


「それ以前の問題だ。あと、俺はお前の主ではない」


「ふむ、ならばこれならどうだ。【変化へんげ】!」



 白狼狐がそう口にすると、白狼狐の体全体が白い煙に覆われるそこに現れたのは、白髪のケモ耳を持った人間であった。



「これでどうだ! これならばただの獣人としか見られまい」


「確かにそうだが、それよりもお前……メスだったのか?」



 そう言いながら、秋雨は人間に変身した白狼狐のある部分を見て彼女が雌であると判断する。もちろん、その部分とは彼女のおっぱいである。



 当然だが、もとの白狼狐の姿は毛皮に覆われた四足歩行だ。そのため、服を着用する必要はなかった。だが、人間の姿になったことで毛皮は透き通るほど白い肌へと変化している。



 そして、人間でない白狼狐が服など持っているはずもなく、今の彼女は何も服を着ていない全裸の状態となっていた。



 吊り上がった鋭い目を持ち、挑発的な顔つきをしている。その顔は端正で、見た目はSっ毛の強いお姉さんといったところだ。引き締まった体とは裏腹に大きく膨らんだ乳房は、秋雨の脳内に“スレンダー巨乳”という単語が浮かび上がる。



(いかんいかん、こいつはモンスター。俺は人間。種族が違うのだ。だが、この体つきはなかなか悪くない)



 エルフの里にいたターニャフィリスもなかなかの逸材であったが、この白狼狐のもかなり魅力的な体つきをしていた。



 そんな秋雨の無遠慮な視線に気づいたのか、口端を吊り上げながら自身の胸を両手で持ち上げ、挑発的な台詞を口にする。



「どうだ? もし我の同行を認めてくれるのなら、この乳を好き放題にできるぞ? 何だったら、子作りもし放題だ」


「……お前は一体何を言っているんだ?」



 ゆさゆさと胸を揺らしながらそんなことを言ってくる白狼狐に、秋雨は呆れた様子を見せる。だが、その実内心ではかなり揺れていた。



 人としてあまり褒められたことではないが、自分のすぐそばに好き放題にできる人間がいることは彼にとってはこれ以上ない程に魅力的な提案であり、まさに悪魔の囁きの如き挑発である。



 しかし、そんなメリットとは裏腹に単独行動ができなくなるというデメリットも存在し、その利点を失うことは秋雨の中ではかなり大きな損失として位置づけられていた。



 よく異世界ファンタジーで登場する主人公は、複数人の女の子を側に侍らせハーレムという状態を形成しがちだが、実際のところ主人公にとってそういったものは自身の行動を制限する枷でしかない。



(だが、いつでもあのおっぱいが触り放題というのは捨てがたい。だがしかし、そうだがしかしだ。そうなると俺の自由気ままなスローライフに陰りが出る可能性が……。くう、悩ましい!)



 彼の脳内でそんな葛藤があることも知らず、ただ無駄に時が流れていく。いろいろと熟考した結果、秋雨は一つの結論を出す。



「そうか、常に連れて歩くから問題なんだ。いつもはどこかにしまっておいて、必要な時取り出せれば……」


「どうした主?」



 雰囲気の変わった秋雨を敏感に察知した白狼狐が訝し気に見つめる。そんな彼女にお構いなく、彼は問い掛ける。



「本当に俺についてくる気か?」


「無論だ」


「どんな扱いを受けても文句はないんだな?」


「構わんぞ」


「そうか、ならば……。我が意に従え、そして契約せよ【召喚契約サモンコントラクト】!!」



【召喚契約】……それはある一定の生物と主従の契約を結び、必要な状況に応じてその生物を召喚獣として呼び出せる魔法だ。



 この魔法の利点として、契約主が呼び出すまで召喚獣は時が止まった亜空間に押し留められるという仕様となっており、まさに秋雨にとっては都合のいい仕様だった。



 常に連れ歩くことは自由を阻害する。かといって、目の前の好物おっぱいを前に撤退するわけにもいかない。であるならば、自由を阻害せず好物も手に入れるという良いとこ取りな方法を模索した結果、召喚契約を思いついたのだ。



「これでお前は俺の召喚獣となった」


「うむ、これからよろしく――」


「では、用があるまで待機していろ。【送還】」


「あっ、ちょ――」



 そう言って、有無を言わせず秋雨は白狼狐を送還する。すると彼女の姿が一瞬にして消え、まるでそこに最初からいなかったかのように忽然と姿を消した。



 実際は召喚獣が待機する亜空間に帰っただけであり、秋雨の意思で自由に呼び出しが可能だ。



 こうして、新たに白狼狐が仲間となったが、三つ目の国であるマセドニアに辿り着くまで彼女が呼び出されることはなかったのであった。

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