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159話



「長老大変です!」


「な、なんですって!?」


「……まだ何も言っていません」


「そう、なら早く言いなさい」



 などと、コントが展開されていたが、それどころではないことを思い出したエルフがターニャフィリスに事の次第を報告する。



「森神様の封印が解かれました」


「な、なんですって!?」


「里の外を見回っていた者の話では、封印が解かれたやつは今、目に付いた魔物を補食しているようですが、このままだと里にやってくるのは時間の問題かと……」


「なんてことなの……」



 詳しい話を聞いたターニャフィリスが憔悴した様子を見せる。その雰囲気に何やらただならぬことが起きたと考えた秋雨は、話を聞いてみることにする。



「森神様ってなんだ?」


「この里を見守ってくれているという伝説の魔獣です。でも、ある時を境にエルフを襲うようになった森神様を当時のエルフたちで封印したのだけれど、もう千年も前のことだから封印が解けてしまったようです」


「ふーん」



 エーリアスから詳しい話を聞いた秋雨の感想は、あまり興味がないというものであった。魔獣だろうが何だろうが、これはエルフの問題であって秋雨には何ら関係のないことだからだ。



 だが、無関係だと思っていた秋雨にターニャフィリスがとんでもないことを言い出した。



「アキサメさん、森神様を倒していただけないでしょうか?」


「はあ? なんで俺が?」


「エリーちゃんから聞きました。うちの孫はこれでも里一番の戦士。その戦士をまるで赤子のようにあしらい手も足も出なかったと。アキサメさんであれば、森神様を倒すことができるのではないかと……」



 そう口にするターニャフィリスであったが、秋雨にとっては寝耳に水なことであり、なぜそんなことをしなければならないのかという気分であった。



 仮にその森神様を倒せたとしても、秋雨にとってメリットになるものが何もない。倒した報酬として莫大な金銭がもらえるわけでもなければ、特別な魔法のアイテムをもらえるわけでもない。最悪の場合タダ働きになってしまう可能性があったのだ。



「その対価にエルフは何を差し出せる? 釣り合いの取れる報酬を出せるとは思えないんだが」


「わたくしのすべてというのはいかがでしょう? あなたが死ぬまであなたの奴隷になります」


「おばあちゃん!」


「話にならんな」



 ターニャフィリスの提案を秋雨は一蹴する。確かに、ターニャフィリスほどの美貌の持ち主は滅多におらず、モンスター討伐の報酬としては成り立たないことはない。そして、秋雨の目から見ても彼女は十分に魅力的な存在であった。だがしかし、常に連れて歩きたいかと言われればそうではない。



 むしろ、己の実力を隠した状態での行動中、彼女の存在は邪魔以外のなにものでもない。常に人の目を引きつけてしまうことは火を見るよりも明らかであり、場合によっては彼女を奪わんと襲撃を受けることは想像に難くない。



 つまり、彼女を奴隷として連れ歩くなど論外であり、秋雨にとっては彼女を自身の奴隷として受け入れるなどあり得ないことであった。



「じゃあ、俺はこれで失礼させてもらう。あとはエルフの間で話し合って決めてくれ」



 そう突き放すと、秋雨はターニャフィリスの家から出て行った。あれ以上あそこにいれば、自分の条件に合う報酬を提示される可能性を嫌ったためである。



「アキサメさん」


「エーリアス、エルフの秘薬の素材の取れる場所ってどこだ?」



 追いかけてきたエーリアスに背を向けた状態で秋雨が問い掛ける。すると背後で“どさっ”という音がしたので振り返ってみると、そこには土下座したエーリアスの姿があった。



 一体何の真似だと秋雨が怪訝な顔を浮かべていると、彼女が身勝手なことを口にし始めた。



「アキサメさん、あなたの力を見込んで理不尽な願い申し奉る!」


「まつるな!」



 秋雨の突っ込みも虚しく、彼女は願いを口にする。それは案の定、森神様と呼ばれる魔獣を何とかしてほしいというものであった。



「このままでは、里のエルフは森神様に蹂躙されてしまう。どうか、我らに代わって森神様を倒してください!!」


「だから、報酬を払えないだろうが! タダ働きは御免被る」


「私もあなたの奴隷に!」


「いらんっ! エルフなんて目立つやつを奴隷にできるか!!」



 そう言うと、秋雨はその場を足早に離れて行く。彼としても、今回の件について同情するところがあるが、だからといって会ったばかりのエルフに対し、命懸けの戦いに赴くほどお人好しではないのだ。



 仮にエーリアスの実力が里で一番の戦士であり、秋雨が実力的に彼女よりも優れていたとしても、森神様という未知の魔獣相手に戦って勝てる保証はどこにもない。最悪の場合返り討ちにされてそのまま帰らぬ人になる可能性だってある。



 その可能性がある以上、簡単に彼女の願いを叶えるわけにもいかない。赤の他人のために命を懸けるなど愚かとしか言いようがないのである。



 これが漫画やアニメのキャラクターであれば、何の躊躇いもなく動くのだろう。だが、秋雨は漫画やアニメのキャラクターではなく、ちゃんとした生身の人間なのだ。わざわざ死ぬ可能性ある場所に赴くほど馬鹿ではない。



 そんなこんなで、エーリアスをおいて里の外へと赴くと、そこには多くの薬草やキノコが自生しており、中には希少な薬の材料となるものも含まれていた。さすがはエルフの生息域といったところだろう。



「おー、なかなかいいものだ」



 数時間ほど夢中になって薬草採集に励んでいたそのとき、何かの気配を感じた秋雨が周囲の様子を窺う。どうやら里からかなり離れた位置まで移動してしまったらしく、付近に人の気配はない。そんな状況の中、さらに悪いことに草むらから巨大な四足歩行の獣が姿を現した。



 それは、体長五メートルはあろうかという巨体で、地球に生息するどの動物とも規格が合わないほどの大きさだった。その見た目は一見すると白い毛皮を纏った狼のようだが、三又に分かれた尻尾とピンと張った耳はまるで狐を思わせる。



「なんだこいつ」


「ふん、人間か。なぜここに人間がおるか知らんが、我が縄張りを犯すものには死あるのみ」


「喋った。まさかこいつが森神様というやつか? それにしてもすごい殺気だ。俺の邪魔をするというのなら、すべてこの拳で応えるのみ!」



 いきなり殺意を向けてくる狼のような狐のような相手に対し、秋雨も拳を構えて臨戦態勢を取る。そして、相手の情報を探るため、スキル【鑑定】を発動させた。





【魔獣・白狼狐(森神様)】



ステータス:



 レベル122(ランクS)



 体力 689234


 魔力 731456


 筋力 13244


 持久力 12677


 素早さ 11455


 賢さ 10980


 精神力 13666


 運 9800



 スキル:身体制御Lv6、体当たりLv8、爪攻撃Lv6、かみつきLv8、嗅ぎ分けLv7、瞬足Lv7、


炎魔法Lv5、水魔法Lv5、風魔法Lv5、氷魔法Lv5、雷魔法Lv5、光魔法Lv4、闇魔法Lv4




「なん、だと!? 馬鹿な……あり、得な――ぐふぅ」



 突如として現れた強敵に珍しく狼狽える秋雨。しかし、敵がそんな隙を黙って見ているほど優しくはなく、接近され体当たりを食らってしまう。



 未だ成長しきっていない秋雨の体が宙に投げ出され、そのまま木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。そして、ようやくその勢いが止まったものの、受けたダメージは決して小さくはない。



「ぐ」


「ほう、今の攻撃を食らって立つか。どうやら、ただの人間ではなかったようだな。ではこれならばどうだ」



 そう言いながら、白狼狐が口を大きく開けそこに電気が充填されていく。どうやら雷魔法を使用したらしく、電撃の塊が形作られ、それがレーザーのように秋雨に襲い掛かった。

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