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153話



 その姿は、美しい妙齢の女性であった。



 金色の長髪にまるで宝石をはめ込んだかのような淡い緑の瞳は、まさに物語から飛び出してきたかのような神秘的な美しさを湛えている。



 すらりとした体型に、かの物語に登場する種族を彷彿とさせる慎ましい胸と尖がった長い耳は、まさに伝え聞く通りの姿をしていた。



 エルフ……人々の間では森妖精とも森の住人とも言われる種族であり、先に挙げた特徴を持った男女問わず美形な種族である。



 そのエルフが秋雨の結界に顔を張り付けており、それが原因で顔が多少おかしな形になっていることを除けば、その姿はまごうことなきエルフであった。



 だが、そんなことよりも重要なことが秋雨にはあった。それはなにかと言えば……。



(まずいな。結界を見られた)



 そう、秋雨の使った結界を不覚にも見られてしまったということである。



 今までの彼の行動は、目立たないよう平穏に過ごす――本人はそれができているように思っている――よう心掛けてきたつもりだ。だが、今回は蟹というご馳走を前にして周囲の警戒を怠ってしまったことによって起きたことであった。



 もっとも、結界で外からの攻撃や侵入者がいないことを理解していれば、警戒が緩んでも仕方のないことといえばそうなのだが、それが原因で結界を見られてしまったことについてはごまかしようがない。



(よし、ごまかそう)



 そう即座に判断し、秋雨は指をパチリと鳴らすと、結界を解除した。それと同時に自分の姿と気配を消す魔法を展開し、結界が消えたと同時に自分が消えたように演出したのである。



「あ、あれ? ど、どこにいったの?」



 その術中に見事はまった見た目エルフな女性は、突如目の前から消えた人物を探すべく、周囲をきょろきょろと見回していた。



 その様子をいつの間にか木の枝の上に移動した秋雨が、見下ろして観察する。そして、そのまま相手の素性を見るべく、鑑定を使って調べた。




 名前:エーリアス・ヴァッシュ・フォルトレリアン


 年齢:79


 職業:戦士・エルフ族


 ステータス:



 レベル46



  体力 218966


 魔力 259765


 筋力 1888


 持久力 1309


 素早さ 2833


 賢さ 2314


 精神力 2891


 運 1966



 スキル:身体制御Lv4、格闘術Lv4、短剣術Lv5、弓術Lv5、



水魔法Lv2、風魔法Lv5、光魔法Lv3、精霊魔法Lv4、生活魔法Lv3





(ふみふむ、強さ的にはバルバドの王女と同じくらいか少し上ってところだな。おっぱいも同じくらいの大きさだな。うむ、ト〇ルキンの約定は守られていると見える。それにしても、あの見た目で八十手前とは、やはりエルフは歳を取らないらしい)



 見た目的には、十代後半から二十代前半くらいなのだが、実年齢はまったく違っていた。



 そんなことを脳内で考えつつ、秋雨は彼女の名前について意識を向ける。



(確か、エルフの名前って名前+出身地名+一族の名前だったはずだな。つまり、彼女の名前は“ヴァッシュ”っていうところに住んでる“フォルトレリアン”一族の“エーリアスさん”ってことになるはず)



 エルフの名は人間の貴族や王族とは異なり、一つ一つの名前に意味が存在する。基本的には秋雨の言った通り、個人名+出身地+氏族という組み合わせが一般的であり、どうやら今回もその流れが正しいようだ。



 そんな豆知識を脳内でひけらかしている秋雨に突如として問題が発生する。なんと、先ほどまできょろきょろと姿を消した自分を探していたエルフが、背中に背負っていた弓を取り出し、矢を番えたのだ。しかも、明らかに秋雨のいる方向を狙って……。



(ダニィ!? 俺のいる場所を正確に捉えているだと!?)



 飛んできた矢を躱し、転移魔法で別の木に移動する。しかし、それでも彼女は標的を見失わず、再び秋雨のいる方向に矢を放ってきた。



(くっ、やはり居場所がバレている。どういうことだ!? そんな特殊なスキルは持っていな……。まさか、精霊魔法か?)



 秋雨は、彼女が精霊に語り掛けることで敵の居場所を認識しているのではという予想を立てる。もしそうならば、精霊の声を聞けなくしてやればいい。



(がなり立てろ。【阻害する悪意あるジャミングボイス】)


「ぐあっ!?」



 秋雨は魔法を使って攻撃してくるエーリアスの耳元で、鳥とも猿とも思えるような甲高い声を発生させる魔法を使用する。すると、耳を押さえ急に彼女の動きが鈍る。



 さすがにまともに耳が聞こえない状態では精霊の声を聞くことはできないようで、その場に膝をつき、襲ってくる苦痛に耐える。そのあまりの苦痛に持っていた弓さえも放り出し、両手が完全に耳を押さえるのに塞がってしまう。



 その隙を見逃すほどお人好しでない秋雨は、そのまま接近し、彼女が放り出した弓を回収して姿は消えたまま警告する。



「いいか、お前は何も見なかった。ここには誰もいなかった。今回のことは悪夢にうなされたと思って忘れることだ」


「くっ、お前は一体何者――」


「忘れろ。知る必要のないことだ。では、サラダバ」



 そう言って、秋雨はその場から徐々に離れて行った。追いかけたかったエーリアスだが、未だに耳襲っている騒音は彼女の体力と精神を奪い、まともに動くことすらままならない。



 最後にどこか適当な木の枝に彼女から奪った弓を引っ掛け、秋雨はエーリアスから逃げることに成功したのであった。



「それにしても、あれがエルフか。なかなかの美形だが、いかんせんおっぱいがなぁー。まあ、ちっぱいも決して嫌いというわけではないが、やはり揉み応えのあるデカ乳が好ましい」



 美人ではあるものの、胸部装甲のレベルが低いエルフに秋雨の食指は動かないようで、特に興味を抱いてはいない様子だ。それだけ、彼にとって女性の胸というものは特別なものであるらしい。



 などと、傍から見ればどうでもいい論評を繰り広げていた秋雨であったが、あることに気づいた。それは、エーリアスにかけた魔法である。



「あ、そうだ。あの魔法は、任意的に解除しないとずっと継続するタイプの魔法だった」



 彼が使った魔法【阻害する悪意ある声】は、術者の意思によって術が解除される類の魔法であり、術者が解除しないとずっとあのままなのである。



 今も苦しんでいる彼女を心苦しいと感じた秋雨は、すぐさま指をパチリと鳴らして、彼女にかけた魔法を解いた。



「これでよし。まあ、とりあえず蟹が手に入ったし、この世界のエルフはト〇ルキンの約定通りの体型らしいから、まあ特に関わる必要はないだろう」



 などと、口にする秋雨だが、彼の口にするト〇ルキンの約定とはなんなのだろうか? それは、エルフという種族を生み出した有名な作家であり、その作家が生み出したエルフがちっぱいであったことから“エルフとはちっぱいであれ、巨乳なエルフなどエルフではなくエロフである”という意味が込められたものがト〇ルキンの約定である。



 もちろん当たり前のことだが、そんな約定が公式に発表されたわけではなく、秋雨が勝手に言っていることだ。そして、実際のところ巨乳のエルフというのもこの世界にはちゃんと存在しており、特に巨乳だからといって差別的なことをされたりもしていない。要は、人間の女性と何も変わらないのだ。



「よし、では旅を続けますか」



 いろいろトラブルはあったが、概ね問題なかったため、秋雨はそのまま次の国を目指して歩き出した。



 だが、問題ないというのは彼自身の個人的な主観であり、これが別の人間の視点から見れば大問題であることに彼は気づいていなかったのである。

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