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15話



「こんばんわ、今からお出かけですか?」



 盛りのついた犬が如き勢いでお楽しみ中だったカップルから逃げるように、宿の一階へと逃げてきた秋雨だったが、そんな彼に声を掛けてくる人物がいた。



「あんたは?」


「申し遅れました。私はこの宿を経営しております宿主の妻でケーラと申します」


「そうか、俺は今日……正確には昨日の昼から部屋を借りている、秋雨という者だ。しばらく世話になる」


「こちらこそよろしくお願いしますね」



 そう挨拶してきたケーラという女性を改めて観察してみた。

 年の頃は三十代の前半で、少し年季の入った給仕服に身を包んでいるものの、その見た目は若々しく二十代前半と言われも信じられるほどだ。



 栗色の髪をポニーテールで纏めて止めており、いかにも宿の女将という風格を持っていた。

 顔つきがどことなくケイトに似ており、おそらくは彼女の母親なのだろうとは容易に想像できる。



 その身体自体も均整が取れており、特に圧巻なのはケイトよりも遥かに上回る胸部の膨らみだ。

 ケイトがGからHカップほどの大きさであるなら、今目の前にいる女性はJカップはあるのではないだろうかという巨大なものであった。



 だがしかし、それほど巨大な乳房となると普通であれば重力に耐え切れず、下方向に引っ張られてしまい垂れる傾向にあるが、彼女のそれはツンと上向きに張った所謂ロケットおっぱいの様相を呈している。

 感触自体は実際に触っていないため、何とも言えないが柔らかいということは彼女の胸の揺れから容易に伝わってくる。



「ところでアキサメ君でしたっけ? うちの娘と何かありましたか?」


「何かとは、具体的に言うと?」


「例えば……そうね。うちの娘とキスしちゃったとか?」


「ぶ、ゲホッ、ゲホッ」



 突然のケーラの爆弾発言に思わずむせ返ってしまった秋雨。

 いきなりの不意打ちに驚きを禁じ得ない様子だ。

 そんなことはお構いなしとばかりに、彼女の追及の手が伸びてくる。



「それでどうなのでしょうか? ケイトとしたのですか?」


「さっきから聞いてればキスだの、したのだの、下世話すぎるぞ!?」


「あらあら重要な事ですよ。もしかしたらアキサメ君が、将来この宿の後継ぎになるかもしれないんですから」



 その視線はまるで獲物を捕捉した蛇が如くに、有無を言わせぬほどに重く冷たさを持ち合わせていた。

 だからこそ、秋雨は彼女に対する警戒の度合いを数段階引き上げ、事実のみを淡々と伝えた。



「何を期待しているのか知らないが、俺と彼女はそんなことは一切やっていない」


「……本当ですか?」


「俺が今嘘を付いて何の得がある? ケイトとは何もないぞ」



 彼が言い放った最後の言葉である“何もない”という言葉の後ろには注釈がついていた。

 “ただし、俺の方からは何もしていない”という注釈が……。



「そう、ところで話は変わりますが、こんな時間にどうかしましたか?」



 ケーラは秋雨が自分の娘と何もなかったということを確認し終わると、素直に疑問に思ったことを聞いてきた。

 なんとか彼女の追求から逃げ切ることに成功した秋雨は、内心で安堵のため息を吐きながらも、ボロが出ないように神経を尖らせながら返答する。



「これから冒険者ギルドに冒険者登録をしに行くんだ。これでも冒険者志望だからな」


「それにしたってどうしてこんな真夜中に?」


「真昼間に行くと、自称お優しい先輩冒険者とやらがいろいろとご高説を宣ってくるだろう? そんなのを相手にするのは面倒臭いことこの上ないからな、そんな連中がいない今の時間帯を狙って登録しに行くんだよ」


「なるほど、“お優しい先輩冒険者”ですか……うふふ、言いえて妙ですね」



 ケーラは秋雨が言わんとしている事が何となく伝わり、思わず笑みを浮かべる。

 冒険者とはモンスターとの戦いに明け暮れることも多いため常に冒険者同士のちょっとした諍いは後を絶たない。

 特に新人冒険者とある一定期間冒険者として活動している、秋雨の言うところの“お優しい先輩冒険者”との確執は物凄く顕著だ。



 “新人は新人らしく黙って大人しくしていろ”というやっかみから、悪辣なものになると、新人が手に入れた高価な素材やクエストの報酬を指導代として痛めつけた挙句に奪っていく者も少なくはない。



 そんな連中を相手にしないようにするためには、秋雨の真夜中に冒険者登録に行くとという選択は実に、最善と言える。

 この時間帯になると、それぞれが拠点にしている宿に戻っている者や、仮にギルドに併設されている酒場にいたとしても、今の時間帯であれば酔いつぶれて眠りこけている事がほとんどだからだ。



 そんな連中であればあるほど、自制が効かないというのが相場であるため、この時間帯に新人冒険者を狙って起きている素面の冒険者は皆無と言えた。

 その選択を躊躇いなく選び行動する秋雨の強かさにケーラが感心していると、秋雨が宿の出入り口に向かって歩き出す。



「というわけで、俺はこれで」


「お気を付けて行ってらっしゃいませ」


「ああそうだ、ちなみにだが冒険者ギルドってどこにあるんだ?」


「知らずに出て行こうとしてたんですか? 全くしょうがないですね……」



 そう言いながらも冒険者ギルドの場所を教えてくれたケーラにお礼を言うと、改めて宿を後にする秋雨であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中世レベルの世界なのに
[気になる点] 宿に入ってから出るまでに7話は冗長すぎる。
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