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悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~  作者: こばやん2号
第十三章 G・T・H(A)[グレート・ティーチャー・ヒビーノ(秋雨)]
145/180

145話



「ちょっと待て! 本来の目的を見失ってないかこれ!?」



 誰もいない室内で、秋雨が突然そんなことを叫び出す。というのも、彼が魔法学園に来て早一月が経過しようとしていた。



 今まで魔法陣に関するレポートや表向きの雑務をこなしてはいたが、そもそも彼が学園にやってきた目的は、魔法についての知識を手に入れることであった。



 だというのに、蓋を開けてみれば職員に助言をし、暇を見つけてはやってくるウルフェリアやアーシャをあしらい、その合間にレポートを書くというもとの目的を一切こなしていないことに気づいてしまったのだ。



 いや、もともと薄々は気づいていたのかもしれない。だが、あまりに忙しい日々を送っていたために、魔法の知識を手に入れることについて精力的に動いていなかったのだ。



「よし、今日は学園が休みの日だから職員もあいつらもやってこない。となれば、やるしかない」



 そう言うが早いか、すぐさま行動することにした秋雨は、図書室へと向かった。



 ダルタニアン魔法学園にある図書室は、国内はおろか周辺諸国に存在するありとあらゆる魔法書や錬金術、その他専門的な内容が記載された書物が保管されており、その数は優に三万冊は超える。



 そのため、名目上図書室という呼称をしているが、実際のところ図書館と言った方が正しい。



 そんな巨大な図書室へとやってきた秋雨だが、そこには本の虫たちがいた。



「これは、ヒビーノ先生。あなたも知識をお求めですかな?」


「そんなところだ」


「一体どういった書をお求めで?」



 秋雨に問い掛けてきたのは、日頃から図書室の管理をしている職員で、言ってしまえば司書のようなことを行っている人物だ。



 どこにどんな書物があるのかをすべて把握しており、まさに本の虫の究極完全体のような人物だ。グレートモス? いいえ、人間です。



 その能力は唯一無二であるため、下手に彼をクビにすることができないという話を秋雨は学園長から聞いている。



「魔法に関するものすべてだ。とりあえずは、実践的な魔法のあれこれが書かれたものがいい」


「となりますと、初級編や入門編も含めることになるので、かなりの数になりますが?」


「まあ、そこは読みながら取捨選択していくから、該当するものすべてで構わない」



 秋雨の言葉に頷いた職員は、すぐに該当する本を探し始める。秋雨が手伝おうかと提案したが、口頭での説明がややこしい場所に保管されている本もあるということで、その申し出を断られる。



 空いている席に座り、しばらく待っていると、十数冊の本を両手に持って彼が戻ってきた。



「お待たせしました。まず実践魔法を知るには、ここらあたりのものを読んでおくのが良いかと思います」


「助かる」


「では、次を取ってまいります」



 そう言ってすぐに駆け出していく彼の背中を見送りながら、さっそく彼が持ってきてくれた本を手に取って読み始める。



「【初級魔法のすすめ】か、どれどれ」



 本の内容は、特に難しいものではなく、基本的な魔法についてのあれこれが記載されている。魔法というものは魔力を使って発動させる技術であり、魔法発動に大切なのは魔力の制御と“特定の決まった呪文を詠唱することにある”と……。



 といった具合に、魔法というものについて多少事実と異なるような内容が記されてはいるものの、魔法を使うという点においては、この方法でも問題はないため、決して間違っているというわけではない。



 他にも職員のすすめるままにいくつかの本を読んでみたが、書かれている内容はどれも詠唱が大事という一点張りであった。



「……なるほどな」



 そう秋雨は呟くと、自分の知らない知識が書かれた本をさくさくと読み始める。彼自身、本の内容が間違っているという事実はどうでもよく、それを指摘するということはなしない。



 仮に、指摘してしまったら“どうしてそう思ったのか?”という理由を聞かれることになるからだ。



 秋雨もその問いに答えることは可能なのだが、それを行ってしまうとあとでとても面倒なことになる可能性が高いと踏んでいた。ただでさえ、魔法陣の知識を収めた人間として一目置かれているというのに、ここで魔法についての本質を語ってしまったら、待っているのはそれの具体的な証明をする検証やレポートの提出をするという結末だろう。



「いかがですかな?」


「さすがは、大陸随一と言われた魔法学園の図書室だ。魔法に関する多くの知識が集まっていると感心する」


「そう言っていただけて光栄です」



 秋雨の返答に満足した職員は、残りの書物を置いて元の場所へと戻って行った。ちなみに、今日中に読めなかった書物は、読み終わった本と分けておけばそのまま置いておいても問題ないとのことだったので、秋雨はじっくりと本を読むことに集中した。



 初級魔法について書かれた本は流し読みする程度に留め、主に中級・上級についての本に目を通していく。



(やはり、こっちでも“詠唱”が重要となるか)



 ここで秋雨は一つの仮説を立てた。それは、高位の魔法を使用するのに魔力が足りていない可能性があるということだ。



 それは、ウルフェリアのステータスを覗いた時にふと思ったことであった。獣人である彼女の魔力量は、一般の人間と比べると多いと断言できる。一般の人間の平均魔力が20程度であるのに対し、彼女の魔力量は300とその十五倍はある。



 もちろん、一般の中には魔力がほとんどなく一桁の人間も存在している。かくいう【天災の魔女ペンドリクス】が潜伏していたエリスという奴隷の魔力量はとても低かった。



 だが、基本的に魔法というものは、発動時に魔力を消費するものであるという基本概念があり、逆を言えば魔力がなければ魔法を発動することができないのだ。



 そして、魔法発動で大切なのはイメージ……想像力なのだが、それを無詠唱で行った場合、軒並消費魔力が高くなる傾向にある。そして、その高くなった消費魔力では魔法を発動させることはできない。そこで足りない魔力を補完する形でできたのが、呪文の詠唱というものなのではないかと秋雨は考えたのだ。



 だからこそ、主要な魔法の書物に“魔法を使うには詠唱が必要”だとしつこいくらいに記載されているのではないかと彼は推測した。



 しかし、実践的な面から見て呪文の詠唱は魔法発動の時間がかかり過ぎてしまい、相手に魔法を使う前に剣士などに距離を詰められて攻撃される可能性があり、どうしても安全圏にいるときにしか使用できないという欠点がある。



(まあ、俺の場合だと威力の固定化をするときは便利なんだろうけどな)



 他の魔法使いは詠唱を魔法発動の補助という目的で実行するが、秋雨の場合威力が出過ぎるのを抑える目的のために詠唱することがある。



 際限のない魔力を投入してしまうと、辺り一帯を焼け野原にしたり、自分が求めていた威力より何倍もの威力が出てしまったりと、力のコントロールが難しいのだ。



 もちろん、秋雨は魔力制御を行うことでそれを器用にこなしているつもりではある。だが、完全ではないため、それを確実なものとするために詠唱を使うのだ。



「とりあえず、詠唱についての一般的な認識がわかっただけでも収穫だな」



 丸一日を費やして出した秋雨の感想はこれであり、これは彼の中では大きいことであった。今度魔法を人前で使うときは、ある程度の詠唱をしてごまかす必要があるということがわかったのだ。これは、本を読まなければ得られなかった知識である。



「まあ、今日はこれくらいにしておこう」



 そして、ある程度まで読み進めた秋雨は、職員の言った通り読んだ本と残った未読の書物を分けてから図書室をあとにした。



 それから、暇を見つけてはちょくちょく残りの本を読み続けていた秋雨であったが、その姿を他の職員に見られてしまい、再び意見を求められることとなる。特に実技魔法を担当しているアリマリからの質問がしつこかったとのちの彼は語った。

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