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悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~  作者: こばやん2号
第十三章 G・T・H(A)[グレート・ティーチャー・ヒビーノ(秋雨)]
143/180

143話



「ヒビーノ先生! 今日もご指導お願いします!!」


(どうしてこうなった?)



 ウルフェリアといじめっ子の騒動から数日が経ち、秋雨にようやく平穏な日常が……戻ってきてはいなかった。



 あれから、事あるごとにウルフェリアが彼のもとを訪れ、口調も丁寧なものへと変化してしまったのだ。



 彼としてはどうしてこうなったのかその理由すら理解できず、頭を悩ませていた。ウルフェリアが彼のもとを訪ねたとき置き手紙の差出人が秋雨であることを言ってきたが、そこは全力で否定した。だが、なにやら確信めいたものがあるらしく「先生以外には考えられません」などという謎の根拠を展開し、彼のもとに通う日々が続いている。



 そういった経緯から、秋雨は自分が咄嗟に叫んだことが原因で置き手紙の差出人と自分を本能的に結びつけたのだと結論付けたが、たったそれだけのことで核心に迫ってしまうあたり、野生の勘おそるべしといったところだろう。



(バレねぇように毎度毎度消臭までしてたってのに、俺の努力が無駄になっちまったじゃねぇか!)


「先生! 本日はどういったメニューでしょうか!?」



 そう言いながら、ケモ耳をピコンピコンとさせ、尻尾もこれ以上ないくらいにブンブンと揺れている。一応言及しておくと、秋雨がウルフェリアに何か指導したことはなく、ただひたすら「自分は置き手紙の差出人ではない」と否定し続けていた。



 ここで指導の一つでもしようものなら、それこそ自分が置き手紙の差出人であることを肯定してしまう結果になりかねないからである。



「何度も同じことを言わせるな。俺はただの事務員だ」


「ただの事務員にもかかわらず、あの指導力。さすがは先生です!!」


「……」



 これである。どれだけ秋雨が否定しようとも、一度野生の勘で思い至ったものは、余程のことがない限りは覆ることはないのだろう。



 そんなこんなで、今回の一件で懐かれてしまったウルフェリアを適当にあしらう日々を送ること数日、新たな知らせが入ってきた。



「一身上の都合で自主退学? アリマリ先生、それは本当か?」


「はい、学園長からはそう聞いてます」



 あの一件で自宅謹慎を言われたいじめっ子二人だが、どうやら実家の貴族家はこれ以上の醜聞を広まることを恐れて二人を強制的に家に戻すことにしたようだ。



 おそらくは、今後家から一歩も出ることを許されずほぼ軟禁状態の生活を余儀なくされるだろう。場合によっては、流行り病などの適当な理由をでっち上げて存在そのものをなかったことにする可能性すらある。



 酷いことだとは思うが、貴族という特権階級を持つ人間は、家のためならば血を分けた家族ですら手にかけることは珍しくない。



 だからこそ、その特権に見合った言動を心掛けねばならず、戦争やモンスターの襲来などの非常時には国や領民を守るため、矢面に立たなければならない責任と義務を背負っている。俗に言う【高貴なる者の責任または義務ノブレス・オブリージュ】である。



 どちらにせよ、これでウルフェリアを苦しめていた元凶がいなくなったことで、これ以上彼女がいじめられることはなくなった。秋雨の描いた結末とは少々異なっているが、結果的には彼の目的は達成されたため概ね問題はない。



 問題はないが、彼にとって誤算だったのはウルフェリアに自分が指導していたことがバレたことであった。もっとも、秋雨は頑なに否定し続けており、彼が置き手紙の差出人という動かぬ証拠はどこにもない。そのため、認めさえしなければ実質的にはバレたことにはならないという苦しい言い訳で自分を納得させていた。



「問題になった途端すぐに対処したところを考えれば、自分の息子がいじめを行っていたことを実家の当主は知っていたようだな」


「おそらくとしか言えませんが」


「これも推測だが、今回の件彼らの実家はウルフェリアに謝罪することはないだろうな。あれだけ獣人を蔑む思考に染まったのは、家がそういう考えや価値観を持っていたということだろうし」


「でしょうね」


(まあ、それならそれで制裁方法はいくらでもやりようはあるのだがな。ふふふふふ……)



 このまま逃げ得は許さないとばかりに、秋雨はいじめっ子を止めようとしなかった実家にも何かしらの制裁を加えることを視野に入れる。



 真面目な表情とは裏腹に、内心ではどす黒い負の感情を浮かべ、どう料理してくれようかと秋雨はほくそ笑む。



 数週間という短い期間であったが、仮にも自分が目をかけていた生徒に何の謝罪も補償もしない相手をどうして許さなければならないというのだろうか。



(それに、いいおっぱいを持ってる女に悪いやつはいない)



 結局はそれである。体をマッサージするという名目で、いろいろと楽しませてもらったことに秋雨は多大な恩を感じており、その恩に報いなければならないと考えていた。まさにかわいいは正義ならぬおっぱいは正義といったところだ。



「まあ、彼らには悪いが、自主退学してくれたことでこれ以上の被害が出ないことだけはよかった」


「そうですね」


「おっと、仕事の時間だ。悪いが、これで失礼する」



 これ以上の話は必要ないので、彼女との話を早々に切り上げ、表向きの業務となっている学園の雑用を行うべく、秋雨は与えられた仕事をこなす。



 それからしばらくして、こんな噂が貴族の間で囁かれることになる。神の怒りを買った件の家に呪いとしか言いようのない様々な不幸が訪れ、それに恐れをなした現当主二人が息子に家督を譲って隠居した。



 隠居後も毎夜眠るごとに悪夢にうなされ、まともに睡眠をとることもできず、精神を病んでいると。



 その出来事に一人の少年が関わっていることを知る者は誰一人としておらず、しばらくしてそんな噂も聞こえてこなくなったため、次第に人々がその件について気にすることはなくなっていった。



 だが、当事者がいる貴族家の人間は得体の知れない何かを敵に回している錯覚を覚え、口々にこう呟いた。“我々は、一体何に喧嘩を売ったのか?”と……。



 その後、いくつか代替わりがあった二つの貴族家だが、それがきっかけで不幸体質な者が生まれる家として貴族の間で噂となり、なかなか縁談の決まらない家として辛酸を舐めることになるのだが、それはまた別のお話である。








「噂だと?」


「はい」



 秋雨が学園生活(?)を満喫している最中、ある人物のもとに情報が入ってくる。



 それは、荒唐無稽なものであり詳細はわからないのだが、ダルタニアン魔法学園に怪しい動きがあるというものであった。



「噂程度ではこちらも動くに動けん。それにダルタニアンに怪しい動きありというその内容も仔細が知れない以上、下手につついて心証を悪くすると今後の信頼にもひびが入ることになる」


「ですが、かなり確かな筋からの情報です。詳細はわかりませんが、放置しておくには些か問題があるかと」


「で、あるか。であれば、調査のための人材を派遣しよう。ただし先方に怪しまれないよう細心の注意を払え」


「御意」



 詳しいことが何もわからない以上、まずはそれを調べるところから始めるのは理に適っている。それを冷静に指示するあたり、この人物はかなり頭が切れるようだ。



「ところで、それとは別にアーシャの様子はどうだ?」


「はい、相変わらずでございます。学園に入学しても王城にいた頃と何も変わっておりません」


「我々以外の人間と触れ合えば少しは態度を改めるかと思うたが、そうそう上手くはいかんな」


「誰かあのお方を導いてくれる人格者がおればよいのですが……」


「そのような者がおれば、とっくのとうにアーシャは立派な王女になっておるわ」



 宰相の言葉に彼は顔を顰めながら答える。それだけアーシャと呼ばれた人物に頭を悩ませているということだろう。



 もうおわかりかと思うが、ダルタニアンに怪しい動きがあるという一報を受けたのは、魔法国家マジカリーフの現国王である。



 名をディルク・ベガ・オスファル・マジカリーフといい、歴代の国王の中でも善政を行う王として、民から厚い信頼を得ている。



 そんな名君である彼だが、一つだけ目の上のたんこぶのような存在がいる。言わずもがな、先ほど名前があがったアーシャという王女だ。



 王女ということは、国王の娘であるということなのだが、このアーシャという人物には手を焼いていた。



 王族という身分で育った彼女にとって、なんでも思い通りになると勘違いをしており、成人を迎えた年齢を過ぎてもそれは変わらなかった。



 あとになってわかったことなのだが、王族の教育はそれなりの実績のある人間が行うのだが、今代の国王を良く思っていない貴族の策略によって歪んだ教育が施されてしまったのだ。



 その結果、自分の思い通りにならないことがあるとヒステリックを起こすとんでもない王女ができあがってしまい、気付いた時には修正不可能なところにまで拗れてしまっていたのである。



 幸いなことに、次の王位を継ぐ王太子はいるため、彼女に王位を継がせるような最悪の事態にはなっていないものの、国の代表者である王族に品位がなければ、それは国としての品格が疑われることになりかねない。



「どちらにせよ、あれが学園を通じて何も変わらないのなら……」


「陛下」



 国王とて人の子である。好き好んで血をわけた肉親を手にかけるなどやりたくないというのが正直なところだ。だが、国の存在と品位が疑われる可能性がある以上、このまま彼女を放っておくことはできず、最悪の場合、もとからいなかった存在として処理することになってしまう。



「本当に、どこかにあれを矯正してくれる人材がいないものか……」



 国王の言葉が響くが、それに答えるものはいない。少なくともその場には……。



 そんな出来事が起こっているとは露知らず、秋雨は一人の少女と出会うことになる。そして、そこから彼にとって災難ともいうべき事件が迫ってきているのであった。

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