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134話



「今回の実技試験は私が担当いたします。まずは、受験生の皆さんの魔力量を測定します。そのあとで、あの的に向かって自分が最も自信のある攻撃魔法を放っていただきます。では、呼ばれた方から魔力量の測定行います」



 第四訓練場へとやってきた秋雨は、すぐに訓練場にいた女性職員の説明を受ける。試験の内容は、魔力量の測定をしたのち攻撃魔法を的に当てるという異世界に登場する魔法の試験としてはテンプレなものであった。



「次、ヒビーノ君」


「ん」



 そうこうしているうちに、呼ばれた受験生が順番に測定が行われ、ついに秋雨の番がやってきた。魔力量の測定方法は、水晶のような見た目をした魔道具に手を当て、そこに魔力を込めるといったこれまたどこかで聞いたような方法であった。



「では、この魔道具に手を当て魔力を込めてください」


「わかった」



 そう言って、魔力を込め始める秋雨であったが、当然全力ではやらず、できる限り魔力の放出を加減した状態で行った。



 そのお陰か、計測結果は一般人よりも魔力が多少あるという評価に収まった。それは、魔法学園に入学する生徒の平均程度のものであった。



「うーん、大丈夫です。次、スカーレットさん」


「はいですわ」



 秋雨の計測が終わり、次に呼ばれたのは彼が筆記試験を受けていたとき同じテーブルに座っていたふてぶてしい態度の少女であった。



 職員の呼びかけに自信満々な表情で歩いていき、まるで周囲に見せつけるような勢いで手を水晶玉へと持って行き魔力を込めた。



「こ、これは!?」



 すると、今までで一番水晶の輝きが強くなり、しばらく目が見えなくなるほどの強い光に包まれた。そして、光が収まりその結果が職員の口から伝えられる。



「これは素晴らしい! 第一級宮廷魔術師並の魔力量です!!」



 その言葉に、周囲が騒めく。秋雨は意味がわからないかったので首を傾げたが、要するに魔力の量だけで言えば、魔法使いのエリートが集まると言われている宮廷魔術師……その中でも一流の魔法使いのみに名乗ることを許された称号が第一級宮廷魔術師であり、そんな連中と同等の魔力量を彼女は持っていた。



「おい、あれって」


「ああ、マジカルズ家だ」


「代々魔法に長けた商家の一族よね?」



 マジカルズ家……魔法国家マジカリーフの歴史の中でも古くから存在している商家で、魔法に長けた一族であることはマジカリーフ国内でも有名だ。



 その能力は高く、一族の中には宮廷魔術師としてその手腕を発揮した者もいたと伝えられているほどだ。



 高い魔力と複数の属性魔法を操る才を持ち、その商人としての功績と一族が持った魔法適正により数代前から爵位を持った貴族でもある。



 だが、商人として生きてきた彼らにとって堅苦しい貴族の柵というものは窮屈なものであるらしく、爵位は持っていてもその権力を行使することは稀であった。



 あくまでも我らは商人であり、それ以外の何物でもないと言わんばかりのその意思表示は、国内外問わず有名な話として人々の噂に上がっていた。



「なんでそんなのが編入試験に? 普通は推薦枠とか一般枠で入学するんじゃ?」


「それが、噂じゃあ筆記試験が既定の点数に達してなくて、そっちで落とされたらしい」


「嘘だろ? 推薦枠は?」


「そっちでは面接で落とされたらしい。だから仕方なく編入枠で入学することにしたって俺は聞いたぞ?」


「まあ、マジカルズがダルタニアンに入学できなかったなんて許されないだろうしね」



 そんなこんなで、一時騒ぎになったものの、すぐに落ち着きを取り戻した受験生たちの魔力測定はつつがなく終了する。ちなみに、彼女以外に水晶が光り輝くことはなかった。



「はい。では、続いてあの的に攻撃魔法を放ってもらいます。一応、手本を見せておきましょう。『火よ、我が敵を討て【火球のファイヤーボール】』!」



 職員が呪文を詠唱し、的に向かって魔法を放つ。人型をした的に吸い込まれるように火の球が飛んでいき、瞬く間に的が火に包まれる。しかし、魔法に対して耐性があるのか、的は燃え尽きることなく火だけが消失していく。



「ご覧いただいたように、この的には特別な術式が施されており、どれだけ強力な魔法を当てたところでびくともしない設計になっています。だから、安心して魔法を放つように」


(いやいやいやいやいや、フラグフラグフラグフラグ!!)



 職員の言葉に、秋雨は内心でそれはスラグだと叫ぶ。世の中には、そういうことを言ったときに限ってそうなってしまうというお決まりパターンが存在する。特に、今は秋雨というそういうことができてしまう人間が実際にその場にいる。



 だからこそ、職員の言葉は彼にとっては嫌な予感を呼び起こすものでしかない不吉な言葉でしかなかったのである。



(絶対に的を壊すわけにはいかん! 全力で魔力制御をやらせてもらう!!)



 そう考えつつ、秋雨は自分の番が来るのをひたすらに待つ。その間にも、受験生たちが魔法を放つ姿を観察する。



「土よ、我が敵を討て! 石のストーンボール!」


「風よ、切り刻め! 風の斬撃ウインドスラッシュ!」


「火よ、燃え上がれ! 炎の球体フレイムスフィア!」


「水よ、我が魔力を糧とし顕現せよ! 水鉄砲アクアガン!」



 的に目掛け受験生たちが、各々得意な攻撃魔法を打ちこんでいく。



 ここで魔法の講義を一つすると、この世界で魔法の発動に重要なものとして想像力……所謂イメージが大切になってくる。



 魔法というものを発動させるには、特定の手順に従わなければならないと勘違いしている人間もいる。だが、実際のところは大きく異なる。



 魔法を行使するのに必要なのは頭でイメージすることのみであり、そのために必要だと勘違いしている呪文の詠唱やら魔法名の宣言やらはまったく必要ではないのだ。



 であるからして、人によって詠唱の文言が違っていたり、魔法名が違っていたりするものの、発動した魔法の効果はまったく同じという現象が度々起こるのである。



 それは、この世界でも知られていることではあるが、イメージする力さえあれば、頭の中で思い描いた現象そのものを出現させることは決して不可能ではないのだ。



「次」


(さて、ここは慎重に目立たずそれなりの結果を出さないとな)



 いよいよ秋雨が魔法を放つ番となり、目線の先にある的を見据えながら、試験とまったく関係のない内容で頭を悩ませていた。



 いかに目立たず、それでいてそこそこな成績になるのかということをである。



 実のところを言えば、それはかなりの難問だったりするのだ。好成績を出すという一点のみならば、ここまで難しく考えず広範囲に影響を与えるハイランクの魔法をぶっ放せばいいだけだ。だが、そこに“目立たず”という条件が加わっただけで、その難易度は途端に跳ね上がる。



 いい成績を出すには目立つような魔法を使う必要がある。だが、それをすれば秋雨の流儀に反して目立つことになり、この先の学園生活に支障をきたすことは想像に難くない。



 であれば、どうするのか? いろいろと頭の中で考えた結果、秋雨は一つの答えを見出した。



「爆炎の業火よ、我が意に従い、その力を示せ! 【業火球ファイアーボール】」


「「っ!?」」



 秋雨が魔法を使った瞬間、その場にいた人間のうち彼の魔法の違和感を感じ取ったのは二人だった。



 一人は、この試験を担当した職員であり、そしてもう一人はスカーレット・マジカルズであった。



 見た目はただのファイアーボールである。だが、普段彼が使うファイアーボールであるならば、魔法名としては【火球の礫】というものになる。だが、今回彼が使ったのは【業火球】という魔法名だった。



 先ほど魔法を行使するうえで詠唱や魔法名は必要ないと言及したが、それは決して無意味という意味ではない。



 むしろ、詠唱する文言や魔法名によっては威力や内在する魔力量を調節する役目として使用されることがあり、そういった意味では詠唱や魔法名が完全に必要のないものとは言い切れないところなのだ。



 とにかく、秋雨は普段とは異なる詠唱と魔法名を使用したことで、試験を担当する職員にだけその魔法がだたの魔法ではないというさりげないアピールをしたかったのである。



 受験生の中にも何人か気付かれる可能性もあるにはあったが、この場にいる全員に知られるよりかはマシという妥協も入っていたことは言うまでもない。



 普段とことなる方式で放たれた魔法は、そのまま真っすぐ的へと向かっていく、別の意味で注目していた職員とスカーレットだったが、彼女たちの期待に反してそれはごく平凡な結果に終わる。



「なーんだ。全然普通じゃないか」


「爆炎の業火とか聞こえてきたから、もっとやばいのかと思っちゃったわ」


「ははは、詠唱が大げさだなあ」


(気のせい……かしら?)


(……)



 他の受験生たちはそう言っているが、スカーレットは自分の勘が間違っていたのかと怪訝な表情を浮かべ、試験を担当する職員はその事実に絶句している。



「ヒビーノ君、だったわね」


「そうだけど」


「もういいわ。他の受験生と交代しなさい」


「ども」


(冗談じゃないわ! あんなものをもう一発撃たれたら、こっちの心臓が持たないわ!! なんて……なんて凄まじい魔力制御能力なの)



 そう、秋雨が狙っていたのはこれである。魔法の試験を担当する人間であるならば、魔力の流れに敏感なものが試験官に選ばれる可能性が高い。彼はそれを利用した。



 通常であれば、魔力を込めれば込めた分だけ魔法というものは威力が高くなり、周囲に与える影響は計り知れなくなる。だが、それを意図的に制御すれば術者の意思で威力を決定することができるのだ。



 つまりは、込められた魔力がいかに強大でも、魔法を使用した本人が“威力を出さない”という意思で魔法を放てば、威力が抑えられた状態で魔法が発動するということである。



 そして、意図的にしろ込められた魔力が強大であることには変わりなく、暴発すれば甚大な被害は避けられない。その事実に職員は気づいたため、秋雨にこれ以上魔法を撃たせないようにするため、敢えて声をかけてこれ以上魔法を使わせないようにしたのだ。



 そして、周囲にはただのレベルの低い魔法に映っており、目立った行動には見られない。実際、秋雨の放った魔法で的が壊れるどころか傷一つ付いておらず、表面上は威力の低い魔法としてその場にいたほとんどの人間に認識されていた。それはまさに、目立たずに好成績を出すという条件に合致した彼の思惑通りの結果を導き出したのである。



「そ、そこまで! 今日の試験はこれにて終了!! 結果は三日後掲示板が張り出されるので、合否はそこで確認するように!!」



 受験生全員が魔法を撃ち終わると、職員はすぐに受験生たちを解散させた。まるで何かに怯えるようにちらりと秋雨に視線を向けていたが、彼がその視線の意図に気づくことはなかった。



 こうして、編入試験は何事もなく終わった……かに見えた。だが、ここから秋雨にとんでもない厄介事が舞い込んでくるのだが、今の彼は知る由もなかったのであった。

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