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131話



「なあ、いいだろ? 俺とパーティーを組もうぜ!」


「あんたもしつこいね。断るって、言ってんだろ? あたしの前から消えな!」



 男の勧誘をすげなく断る女がいた。美人爆乳冒険者のミランダである。



 野生の勘というべきか、女の勘というべきなのかはわからないが、ラビラタの街から姿を消した秋雨を追ってバルバド王国の王都バッテンガムまで追いかけてきたところまではよかったのだが、はっきり言って手詰まりの状態だった。



 件の少年の情報を頼りに、それらしい人物を探し回ること数日が経過している。だが、目的の人物が王都にいるという情報は未だ掴んではいない。



 唯一怪しいと感じているのは、彼と似た顔つきの同年代と思しき少年冒険者だが、黒髪黒目の秋雨に対し、その少年は茶髪に青い目をしたどこにでもいる色合いをしていた。



 しかし、なぜかは知らないがミランダは直感的にその少年が秋雨であるという確信めいたものがあった。だが、実際に話してみると、その言動は秋雨とは真逆のものであったのだ。



 それは秋雨が仕掛けた演技という名の策略であり、すべては彼がまったくの別人として王都で活動していたからに過ぎないのだが、その演技にまんまと彼女は騙されていた。



「王都に来れば、あいつに会えると思っていたんだがな」



 ミランダの勘は当たっており、一体どういう根拠があってそう思ったのか知りたいところではあるが、それは本人も言葉にできないものであり、なんとなくそう感じたからという曖昧な表現でしか説明できなかった。



 だが、件の少年が王都にいることは間違いなく、ここ数日探し回っているのだが、その姿どころか尻尾を掴むことすらできずにいた。



「とりあえず、ダンジョンでひと稼ぎしてくるか」



 ミランダにとって幸運だったのは、王都にダンジョンが存在していたことだろう。腐ってもCランクの冒険者であり、一人前の冒険者である彼女にとって、ある程度まとまった金を稼ぐのは難しいことではなかった。



 そんなこんなで、秋雨を捜索とダンジョンに出稼ぎに行くのを何度か繰り返していたとき、ミランダレーダーに反応があった。



「ん? 王都から離れた?」



 それは、秋雨が王城に侵入し、いろいろとやらかした翌日の出来事であった。どういうわけか、ミランダには秋雨がもう王都にいないことが感覚的にわかったのだ。



 王都に件の少年がいないとわかれば、もはや彼女にとって王都にいる意味などはない。早々に旅の支度をして彼を追いかけるのみである。



 そう、頭の中で結論付けところで、彼女の思考に割って入ってくる人物がいた。王都にやってきてから、再三に渡って彼女にパーティーを組もうと言い寄ってきた男性冒険者であった。



「ミランダ」


「……またあんたか」


「俺とパーティーを組んでくれよ」


「その件は断ると何度も言っているだろう」



 男性冒険者の申し出を、ミランダはすげなく断る。このやり取りも何度となく繰り返しており、さすがの彼女も嫌気が差していた。



 それを遠巻きに見ていた冒険者たちが、口々に感想を漏らす。



「おい、ダバラのやつまたミランダに言い寄ってるよ」


「あいつも懲りないねぇ」


「まあ、ダバラの気持ちもわからんでもない。あのおっぱいは、反則だ」


『それは、そうだ』



 ダバラと呼ばれた冒険者が、ミランダに固執するのも仕方がないとばかりに、周囲も納得する。少々粗野な印象を受けるものの、彼女の整った顔立ちと女性としての魅力をこれでもかと体現したような豊満な体は、男であれば誰でも魅力的だと感じてしまうほどの妖艶さを持っている。



 その魅力は女性冒険者ですら嫉妬することも憚られるほどの美貌であり、一種の高嶺の花のような存在であった。



 そんな相手に諦めることなくアタックし続けているダバラの精神力を褒めるべきなのか、それとも相手の気持ちを一切考えない自己中心的な言動を非難するべきなのかはわからないが、ミランダにとっては目の上のたんこぶでしかなかったのである。



「くっ、俺の何が不満だ? 言ってくれ!」


「あたしにはもうパーティーを組みたいやつがいる。今はそいつを探している最中だ」


「なに!? そいつは誰だ?」


「ここにはいない。だから探している」



 ミランダにとってダバラという男はどうでもいい存在であったが、客観的に見て、彼に何ら落ち度はない。筋骨隆々な肉体に若者らしい精悍な顔つき、そして冒険者としてはミランダと同格のCランク冒険者という一般的には優良物件といってもいい人物である。



 少々喧嘩っ早いところがあるにはあるが、それは若者特融の血気盛んなものであり、冒険者ならば極々普通のことであった。



 しかし、ダバラと出会う前にミランダは件の少年と邂逅しており、まだ決定的に手を出されたわけではないが、そういったこともあるにはあった。そんな微妙といってもいい関係ではあるが、彼女の中で何か少年の中に特別なものを感じ、こうしてラビラタから王都へと追いかけてきたのである。



 ある意味では一途に相手を思っての純粋な行動であり、ある意味では一人の人間に執着する歪んだ感情とも言える。



 とにかく、ミランダにとってダバラとパーティーを組むなどあり得ないことであり、いくら断っても諦めずに言い寄ってくる彼にはほとほと困っていた。



「そいつに会わせろ!」


「なんであんたに会わせないといけないんだ? むしろ、あいつに会いたいのはあたしなんだが?」


「そいつに会って確かめてやる」


「……なら、探すのを手伝ってもらおうか。王都にいるはずだからな」


「っ! おう、任せろ!!」



 初めて彼女から頼られたと思ったダバラが嬉しそうに答える。その一方で、ミランダは内心でほくそ笑んでいた。



 もうすでに件の少年が王都から離れたことを感覚的に察しており、いくら王都の隅から隅まで探しても目的の人物を見つけ出すことはできないとわかっていたのだ。



 ダバラの言葉を聞いたミランダは、そのまま冒険者ギルドをあとにし、その足で王都から出立するための準備を開始する。そして、ミランダから頼られたダバラは彼女が探しているという冒険者を捜索し始めるのだが、彼は致命的なミスを犯していることに気づいていなかった。



 なにかといえば、ミランダがパーティーを組みたがっている相手の名前や見た目の特徴を聞いていなかったのだ。



 そのことに早々に気づいた彼は、もう一度彼女から相手の情報を聞こうと冒険者ギルドで待っていた。だが、そのときすでに彼女は王都から出立しており、もう二度と冒険者ギルドに顔を出すことはなかったのである。



「待っていろアキサメ。あたしからは逃げられないよ」



 そんなダバラのことなどお構いなしに、ミランダは件の少年がいるであろう場所を目指して旅立った。奇しくも、その方向はバルバド王国の南方にある魔法国家マジカリーフであったことは言うまでもない。



 こうして、再び爆乳冒険者の追跡が始まった。果たして、秋雨はミランダから逃げることができるのだろうか。



 少年との再会に、見た目通りの大きな胸に期待をいっぱい詰め込みながら、彼女は彼のいる南へと向かった。

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