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10話



「ようやく宿を取ることができたな……うん? なんだこの声は?」



 当面の拠点となる宿を確保した秋雨は、自分に宛がわれた部屋に向かっていたのだが、その道中に妙な声が聞こえてくることに気付いた。

 その声の正体がなんなのか確かめるべく耳を澄ませていると、艶めかしいやり取りが聞こえてきた。



「アンジェラ、お前はなんていい女なんだ」


「ジョージ、あなたもとっても素敵だわ」



 とある部屋から聞こえてきたのはまさに桃色の雰囲気を醸し出しているであろうカップルの声だった。



(おい、マジかよ……こんな真昼間っからいちゃついてんのかよ?)



どうやら秋雨が来た時には、すでに男の方が限界に近づいていたようで、フィニッシュを匂わせるような言葉が男の口からこぼれ落ちた。



「ア、アンジェラ、キスしていいか?」


「いいわ、来て」



 そんなやり取りがあった数分間、男の荒い息遣いと女の甘い声が続いたが、どうやら男の言葉通り限界だったようでしばらくして声が聞こえなくなった。



(どうやら終わったようだな。それにしてもこんな明るいうちからいちゃつきやがって、けしからん! 実にけしからん、俺もやりたいぞ!!)



 先ほどまで情事を繰り広げていたカップルに対し、内心で悪態をつく秋雨だったが、その口調はどことなく嬉しそうな色を含んでいた。

 そして、秋雨は改めてこの世界での目標の一つとして、お金に余裕ができたら絶対に【娼館】に行くことを決意するのだった。






 カップルの情事を見届けた後、秋雨は自分の間借りした部屋の前までたどり着いた。

 ケイトから受け取った鍵でドアのカギを開け中へと入ると、すぐに鍵を掛ける。

 この異世界では何があるか分からないので、こういった細かい事が後々になって面倒事に巻き込まれずに済んだりすると秋雨は内心で呟く。



(元の世界でも家に帰ってきてすぐトイレに駆け込み用を足して出てきたら、自分の家に人が侵入してたなんて話もあったしな。鍵はこまめに掛けておくに越したことはないだろう……っていうか結構ぼろい宿っぽかったけど、部屋のドアに鍵があったことに驚きだな)



 という具合に秋雨の元の世界での防犯に対する徹底ぶりの凄さが理解できるのと同時に、何気にこの宿の評価が“ぼろい”の一言で片付けられてしまっていることに彼の人柄が如実に表れていた。

 そんな秋雨だったが、とりあえず部屋の内装をチェックすべく視線を巡らせる。



 そこは六畳ほどのスペースにベッド、一組のテーブルに椅子が二脚、それに服を収納しておける備え付けのタンスのみという実にシンプルなものだった。

 テーブルの上や椅子の背もたれ部分を指でなぞって見てみたが、どうやら掃除の方は行き届いているようで、埃で指が汚れるようなことはなかった。



「へー、意外と定期的に手入れはされてるみたいだな。家具自体は襤褸だが、別に壊れているわけではなさそうだし、機能的には問題ないかな」



 聞く人が聞けば上から目線甚だしい辛辣な感想だったが、幸か不幸かそれを指摘する人間はこの場にはいない。

 ベッドの端に腰を下ろした秋雨は今後の予定を口にする。



「とりあえず、午前三時半までまだまだたっぷり時間があることだし、この時間を利用して、創造魔法で使えそうな魔法を開発していくとするか」



 そう独り言ちると、秋雨はこの世界に転移させてもらった女神であるサファロデから得た能力の一つ【創造魔法】を使った魔法開発を行うことにした。



「まずはこの世界の魔法の基本概念を知る必要があるな……よし、鑑定先生出番です。教えてください」



 最早秋雨の中で実質インターネットの検索サイト扱いになっている【鑑定】だったが、鑑定自体に感情や意志などというのはないので秋雨の質問に対して淡々と情報を開示する。



 鑑定の結果によると、この世界で形成されている魔法というものには属性があり、炎・氷・水・雷・風・土・闇・光の八つが基本的な属性らしい。

 それぞれ修得できる難易度も属性ごとで異なり、比較的修得しやすいとされるのは炎・氷・雷の3つで、次いで水・風・土が先の三つよりも修得難易度が高く、闇と光に関しては修得できれば英雄や勇者扱いされるそうだ。



 もちろんこの八つの属性はあくまでも基本的な属性でしかなく、何事にも例外は付き物なのは世の常だ。

 この八属性の他に無属性と呼ばれる属性が存在し、平たく言えば先で説明した八つの属性に当てはまらない属性のことを指す。



「多分この無属性っていうのは、サファロデの言ってた時空魔法に当たるんだろうな。まあ、このまま考えてても何も進まないし、ひとまず修得しやすいっていう魔法から試してみるか」



 そう呟くと、秋雨は早速創造魔法を使い炎の魔法の開発を始めた。

 まず秋雨が頭の中でイメージしたのは火のついたマッチの炎だった。火の灯ったマッチの炎は静かにゆらゆらと燃えている。

 そのイメージを頭の中で持ちながら右手の人差し指に意識を集中し、炎よ出て来いと祈った。



(爆発なんてしたら洒落にならんからな、使用する魔力も最小限の中の最小限だ)



 自身の魔力の高さを鑑みて、使う魔力量も最低限度になるように集中する秋雨。

 下手に魔力を込めすぎると街の端からでも見えるほど巨大な火柱を上げるか、この宿屋ごと吹き飛んでしまうかもしれないのではと考えた秋雨は、自分の魔力を極最小に留めるべく神経を尖らせた。



 ――ボッ。



「おっ、出たな。ふぅー、なんとか爆発せずに済んだか……」



 初めての魔法が成功したことに喜ぶよりも、この辺り一帯が火の海にならずに済んでよかったという安堵感の方が勝っていることに苦笑いを浮かべつつも、指先に出現した火を観察してみる。



 見たところ特にこれといって変わった点は無く、秋雨がイメージした通りマッチの火を灯した時と同じような小さな炎がゆらゆらと揺れているだけだった。

 


 秋雨はそれに満足すると、指を振って火を消した。

 これで炎魔法が修得できたはずなのでステータスで確認したところスキルの一覧に【炎魔法Lv1】が追加されていた。



「オッケーオッケー、この調子で他の魔法も習得していこう」



 誰にともなく呟いた秋雨は、自身の言葉の通り創造魔法での魔法開発を続けるのだった。

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