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不思議な服屋さん

作者: 神代 コウ

暖かい日差しと心地良い風が吹く昼下がり。


前日、夜更かしをしてしまった僕は今になって漸く起きた。


「もうこんな時間か・・・」


まだ眠たい目をこすりながら、スマートフォンで現在の時刻を確かめる。


折角の休日だというのに、すっかり午前中を無駄にしてしまった。


こんなにも気持ちの良い天気なのだから、外に出ないと勿体ない。そう思った僕は、重たい身体を無理矢理起こすと、洗面所へ行き顔を洗った。


水の冷たさが脳内まで伝わり、気持ちがシャキッと引き締まる。


壁にかけられたタオルで顔を拭くと、右へ左へ顔を向けながら、鏡に映る自分の姿を確認すると、続けて歯を磨いた。


タオルを首から下げたまま、リビイングに行くと、テレビの電源を入れ、聞こえてくるお昼の番組をBGMに、少し遅い昼食の支度を始める。昼食といってもトーストを焼き、コーヒーを入れただけの簡単な軽食だ。


食事を終えると、食器を軽く洗い、水切りかごに入れる。


部屋着を脱ぎ、外出のための服を選ぶ。特にどこへ行くか決めていないが、ラフ過ぎるのもなんだと思い、カジュアルな服装にした。


家の鍵と財布、スマートフォンをポケットにしまうと、テレビを消し、戸締りを確認した後、玄関のドアに鍵をかけ家を後にする。


休日ということもあり、外では子供の姿もチラホラ見かけた。


いつも出かける時に通る道に新しくできたオシャレな喫茶店の事を思い出した。丁度気になってはいたが、一人で入るのはなんだか気取ってるみたいで恥ずかしかったが、こんな機会でもない限り立ち寄らないだろうと思い、勇気を出しお店へ向かう。


お店の横には、こじんまりと構えた駐車場があり、そこには普段見かけない、可愛らしい装飾が施されたワゴンカーが止められてあった。


珍しいとは思ったが、別段気にすることもなく、お店の前まで足を運ぶ。扉の前で息を整えると、決心したかのようにドアノブに手をかけ、ゆっくりと店内へと入っていった。


モダンで木造の店内は、まるで別の世界に迷い込んだかのような空間が広がっており、僕に入るところを間違えたと思わせてくる。


「いらっしゃいませ。 空いてる席へどうぞ」


席のかたずけを終えて、戻る途中だったウェイトレスの女性が、入り口で立ち尽くす僕に声をかけてくれた。


返事をし、軽く会釈すると、店内を見渡し、外が見える窓際の席へと座る。


しばらくするとウェイトレスが水を持って来てくれた。


「ご注文が決まりましたら、お呼びください」


そういうと、ゆったりと瞬きをし、カウンターの方へと歩いていった。


僕は直ぐにこのお店が気に入った。オシャレな雰囲気がそう思わせるのか、お店の感じもさることながら、ウェイトレスの対応も凄く心地よく、時間を忘れさせてくれるようだった。


水で一口、喉の渇きを潤すと、僕はメニューを手に取る。


いくつかの難しい名前の飲み物と、それに合うパンやデザートが載っている。家で軽くではあるが食事は済ませたので、何か甘いものをと思い、暫く悩んだ後、パンケーキとオリジナルコーヒーに決める。


「すみません」


手を少し上げ、お店の雰囲気を壊さないような声量でウェイトレスを呼ぶ。目が合ったウェイトレスの人が直ぐに僕の座る席の方へと来てくれた。


「お待たせしました。ご注文をどうぞ」

「コレと・・・あと、オリジナルコーヒーを下さい」


メニューに書かれたパンケーキを指差し、お店独自の味が出るであろうオリジナルコーヒーを頼む。


別にコーヒーにこだわりがあるわけでもなければ、詳しいわけでもないので、僕に分かる違いなど、多少の香りとにがいかそうでないかくらいなものだ。


ただ、オシャレなところに来ると、その空気感に合わせて気取ってみたくなってしまう。


そう思うのは僕だけだろうか?


ウェイトレスが注文を承ると、内容を繰り返し僕に確認をとった後に、少々時間がかかるという趣旨を伝え、再度カウンターの方へと戻っていった。


待っている間、僕は店を訪れている人達を見渡した。


スーツ姿で机にパソコンと書類を広げ、仕事に勤しむ男性。


主婦同士で、愚痴や子供のこと、昔の友人達の話などをしながらランチを楽しむ女性達。


持参した本を、コーヒーを片手に読む渋いおじさん。


まだ小さな子供と食事をしながら、頬についたクリームを拭き取ってあげる親子。


普段、何気なく日々を過ごしていると、自分のことで精一杯になり、周りを意識することなどなかっただろう。


こうしてのんびり過ごすと、周りの小さな日常にも、いろんな思いや感情があるのだと、しみじみ感じる。


そうこうしている内に、注文していた品が届く。食事と一緒に楽しめるように、パンケーキの出来上がりに合わせて、コーヒーを入れてくれたようだ。


コーヒーと甘いものの組み合わせが、如何に素晴らしいものであるか、コーヒーを飲み始めて漸く気づいた。


程よい苦味を堪能した後に食べる甘いものは、その甘さがより一層引き立てられ、何もせずに食べていては気づかない旨さにたどり着ける。


子供の頃は、何であんな苦いものを飲むのか理解できなかったが、今にしたらこういうことだったのかと納得している。


一口ずつ、苦味と甘味の二重奏を堪能していると、あっという間に食べ終わってしまった。


個人的な楽しみ方だが、最後を甘いもので終わらせるとまだ何か食べたくなってしまうので、そこをグッと堪え、コーヒーの苦味で〆ると食に区切りをつけられる。


そんな事を考えながら、時間という概念が存在しないこの空間で、残りのコーヒーを優雅に飲む。


外を歩く人や、店内の雰囲気を楽しんでいると、ふと一席の机で話をしている二人の女性の姿が目に入る。


どうやら話が終わったようで、片方の女性が隣に置いていた荷物から財布を出して立ち上がる。


「今日は本当にありがとうございました。また機会があればよろしくお願いします」


「いえいえ、こちらこそご馳走になってしまって」


お互いに会釈し合った後、二人はレジの方へと向かう。財布を取り出していた女性が会計を済ませると、二人は店を後にする。


出入り口が開くベルの音がして、二人は窓際に座る僕の席の横を雑談でもしながら歩いて行く。


二人は隣の駐車場の辺りで止まると、再度お辞儀をし、そして別れた。


ご馳走になっていた女性の方が、駐車場に停めてあったワゴンカーで何やら作業をしている。


何を思ったか、僕はその女性が何者であるか気になり、残りのコーヒーを一気に流し込むと、急ぎ会計を済まし、店を出た。


丁度彼女は、作業を終え車の荷台を閉めると運転席へと向かうところだった。


「すっ、すみません!」


彼女は僕の声に気づき、ゆっくり振り返る。


「どうかしました?」


「その・・・、その車って」


車の方をチラッとみた後、ハッとなったように彼女は僕の聞きたいことを察して話してくれた。


「あぁ、これですか? 私、移動式の服屋をやってるんです。 しかもオーダーメイドで」


凄く気さくな女性だと、僕は素直に思った。

見ず知らずの男に向けるような笑顔ではないが、そこがまた僕の好奇心を掻き立てる。


「お話を伺っても、よろしいですか?」


「ご興味がお有りですか? ん〜・・・そうですね。場所を変えてもいいですか?」


場所を変えるとはどういうことだろう。

そう思う暇もなく、彼女はグイグイと話を進めていく。


「この後、お時間いただいても?」


「はい、大丈夫ですが・・・」


「それじゃぁ、移動しますので車に乗って下さい」


「え!?」


車の荷台を開けると、どうぞどうぞと背中を押され、流れるように車に乗せられた。強引な人だったが、不思議と嫌じゃない。


人にはパーソナルエリアと呼ばれるものがあるが、彼女はそれを越えてくるのが上手いというか、それを感じさせない雰囲気を醸し出していた。


「あ、あの」


「車内に布のサンプルなどありますので、道中、自由に見てって下さいね」


車内には布のサンプルが収められたファイルや、ちょっとした機材、そして壁や机のいたるところに写真が貼られていた。


これまでのお客さんと撮った写真だろうか。

みんな凄く嬉しそうで、とても幸せそうな笑顔の写真ばかりだ。それに、日本だけではなく外国で撮られたような写真もいくつかある。


「お兄さん、この辺でいいお店知ってます?」


突然質問されたことに驚き、お店と言われても何のお店なのか、頭に浮かばなかった。


「え? お店ですか?」


「そう。 私、お店を巡るのが好きなんですよ。いろんな人、いろんな場所、いろんな国で。お客さんとゆっくり話ながら、このお客さんにはこんな服が似合うだろうな〜なんて考えながら話すのが好きなんです」


「お店ですか・・・、僕、あまりお店で食事したりしないので」


「それじゃぁ、この街で私が気になってるお店にいってもいいですか?」


「僕はどこでも構いませんよ」


「ホントですか!? ありがとうございます!」


彼女は嬉しそうな声色に変わる。

それから、その女性は今までのお客さんとのエピソードや、いろんな場所で出会った人達やお店の話など、楽しい話をひたすらに僕に聞かせてくれた。


話を聞いていると、あっという間に目的のお店に辿り着いた。


「ここなんですよ。何度か通りかかって、時間が空いたら行きたいなぁって思ってたんです。お兄さんには感謝ですね!」


「僕も楽しみです」


これはまた、さっきのお店とは違ったオシャレな喫茶店だ。


アンティーク調というのだろうか、昔の懐かしい時計や椅子、食器など、今度はタイムスリップしたような雰囲気のお店だ。


「いらっしゃい。お好きな席へどうぞ」


味のある優しそうなおじいさんが、カウンターの方から声をかける。


僕は彼女がニコニコしながら指を指す方の席へと向かった。


「なんか別の世界に来たみたいだよね!」


彼女の凄いところは、一見あざとく見えてしまうであろう行動や発言をしても、全くそう感じさせないところだ。何故かこちらも心を開いてしまう。


「素敵なところですね」


足早に向かう彼女を追うように席へ向かった。


「さぁて、何にしようかな〜?」


メニューも凄く凝っていて、外国の古い本を基にしているようだった。


僕はメニュー本よりも店内の装飾に気を取られていた。古い壁掛けの時計や、年季を感じさせる照明など見ていて飽きない。


暫くして、水を持って現れたのは、可愛らしい少女のウェイトレスだった。


「お水です」


「ありがとう」


少女は慣れた様子でお辞儀すると、おじいさんのいるカウンターの方へ下がっていった。


「よぉし!決めた。 はい」


そういうと彼女は僕にメニューを渡してきた。パラパラとめくり、飲み物のメニューのところで手を止めると、見かけないコーヒーの名前に目を奪われる。


「じゃぁ僕はこの、しぇからあと?っていうのにしてみます」


「それアイスコーヒーだけど大丈夫?」


「知ってるんですか?」


「昔、外国のお店で飲んだことあるよ。 シェカラートをメニューにしてるとは・・・。お店の人、結構腕に自信があるのかもね!」


車内にあった写真は伊達ではなかったのか。おちゃらけた感じでいるが、彼女は意外と博識なのかもしれない。そんな知的な一面を垣間見た。


「じゃぁ頼んじゃうね。 すみません」


軽く手を振ると先ほどの少女がこちらに気づき向かってくる。彼女が手際よく注文を済ませると、少女は丁寧な対応をし、カウンターへ戻っていく。


「さてと・・・、じゃぁ話しながら待つとしますか。 服の依頼をしてくれるということでいいのかな?」


「はい。 それで早速不躾ではあるんですが、オーダーメイドってどのくらいするものなんでしょうか? あまり詳しくなくて・・・」


オーダーメイド品って聞くと、凄く高いイメージが僕の中であった。お客さんのニーズに合わせて生地を選んだりボタンやポケットのデザインを変えたり、個人の好みに合わせた洋服を作ってくれるのだろう。


「まぁ、人によって様々だからね。一応過去に作ったものの記録や値段なんかもメモしてあるから見てみる?」


「お願いします」


彼女は小さなメモ帳を取り出すと、僕に渡してくれた。


メモ帳には、手書きで様々な事が書かれていた。生地の説明だったり、過去に手掛けた洋服のデザイン案や値段、お客さんからの要望と思われる走り書きなんかもあった。


「あ、でもコレって見せちゃっていいんですか?」


「個人を特定出来るようなこと書いてないし、大丈夫大丈夫」


いろいろと洋服のデザインや値段を見たりしたが、驚くことになんとお手頃な金額だったのだ。それこそブランド店なんかよりも随分と安い。


「よかった。これなら僕でも買えそうです」


「それは良かった」


思わず本音が漏れてしまう。

実はというものの、いくらかかるかも分からずにここまでついて来てしまって、やっぱりやめますでは流石に失礼になると、内心ヒヤヒヤしていた。


あらかた見終わったので、メモ帳を彼女に返す。そして本題とばかりに彼女が話し出した。


「それじゃぁ、私流のオーダーメイドのやり方ってモンがあるんだよね! いくつか君に質問していくから」


得意げに彼女は言う。

僕は何が始まるのかと、固唾を呑む。


「そうだなぁ・・・、じゃぁまず君が子供の頃楽しかった事や好きだった事を教えて?」


「・・・ぇ?」


僕は唖然とした。

全くもって予想していなかった質問、というより洋服作りに全く関係ない質問内容で一体何を言っているのか・・・。


「ちょっと抽象的過ぎた? それじゃ、君の最も古い記憶で楽しかった事や思い出にのこってる事とかは?」


「あぁ、そういう事じゃなくて・・・。これが服作りになんの関係が?」


彼女はストンと肩を落として、話を続けた


「これは、私の仕事において1番大切なことなの。だから出来るだけ答えてね」


僕は、彼女に言われた通り、出来るだけ古い記憶から、楽しかった事や思い出深い事を話していく。


幼稚園の時、友達とよく遊んだ遊びの事、楽しみだったおやつの事。小学生になって環境が変わり緊張した事や、本格的に勉強というものが始まった時の気持ちや、どういう風に友達になっていったのか。


勿論、記憶を呼び起こしていけば悲しかった思い出や嫌だった事も思い出したが、彼女はそれも含めて教えて欲しいと言った。


中々嫌な思い出を人に話すというのも、過去とはいえ恥ずかしいものだった。でも、話が進むに連れ、彼女に僕が話すというよりもどこか、僕の話を聞いてもらってるという感覚になってくる。


彼女はひたすら、うんうんと黙って聞いてくれる。何も包み隠さず話す様はまるで、小さな子供が母親に今日あった出来事を話すように無邪気なもので、自然に色々な感情も顔に出ていた。


初めは昔の自分を語るといいうのに抵抗があったが、次から次へと蘇る思い出に話が弾み口が止まらない。


「あっ、すみません。 話が長くなってしまって・・・」


随分長いこと話していたと思う。

いつの間にか届いていた注文した品が机に並び、そして彼女の頼んだランチの皿は綺麗になっていて、カップのコーヒーも既に入っていなかった。


「ん〜ん、大丈夫。君の事よくわかったよ」


感慨深く頷く彼女は、とても穏やかな表情でいう。


「君にピッタリの服が作れそうだ」


それは僕に言った言葉なのか、彼女自身が山頂に登りつめ、絶景の中で見つめる朝日を拝むような心境で自分に言い聞かせるように放った言葉なのかは分からなかった。


でも僕は、その時の彼女の顔がとても印象深く感じ、純粋に綺麗だと思った。




その後席を立ち、僕は遠慮する彼女を言い包め会計を済ませる。


「ご馳走になっちゃって・・・悪いね」


あどけない表情で、顔の前に両手を合わせてお礼を言われると、僕は最初の店で初めて彼女を見かけた時のことを思い出した。


その時のお客さんも確か彼女に奢っていた。

今ならその時のお客さんの気持ちがよくわかる。あぁ、こういう事だったのかと。


「送っていくよ。勝手に連れ出しちゃったのは私だしね」


「大丈夫ですよ、一人で帰れます」


「君は私を、奢られっぱなしにするつもりかね?」


意地悪な返しをされたが、僕も許されるのならもう少し彼女と時間を共にしたかった。


「・・・それじゃぁ」


建前上、申し訳ない表情をして、来た時と同じようにワゴンカーの後ろに乗せてもらい、車は走り出す。


車窓から流れ行く景色を眺めながら、聞きそびれていた重要なことを思い出し、彼女に聞いてみる。


「そういえば、できた服ってどうやって受け取ればいいんですか?」


「あ! ごめん、伝え忘れてたね。その辺にメモと書くものがないかな?」


作業台のところにメモ用紙と、ペンや鉛筆などの入った入れ物が置いてある。


「そこの君の住所と電話番号を書いておいてもらえる? 服が出来たら届けるからさ!」


僕はそれを聞いてホッとっした。

彼女との出会いが、これっきりにならないことに安堵したのだ。


服の受け渡しでもう一度会える、それどころか電話でまた話すことだって出来るんだから、何度だって会えるじゃないか。


「どのくらいで出来上がるものなんですか?」


「ん〜、君の場合1週間もかからないかな。だから・・・、楽しみにしててね」


彼女の言葉にあった“間”に、この時の浮かれた僕は気がつかなかった。


「はい!」


車はゆっくりと見慣れた景色へと変わり、そして僕の道案内の元、自宅へと着いた。


「今日は本当にありがとうございました。服、楽しみにしてます」


車から降り、今日という楽しい時間をくれた感謝の気持ちを、運転席の窓から顔を覗かせる彼女に伝えた。


「いえいえ、こちらこそご馳走になってしまって・・・、それじゃぁ」


それだけ言うと彼女は手を振り、車は再びゆっくりと走り出す。僕も手を振り彼女を見送った。


車が見えなくなるまで手を振りながら。




丁度彼女と出会った日から1週間くらい経った頃だろうか。


その日も、あの日と同じく暖かい日差しに心地いい風が吹く昼下がり。


優しくドアをノックする音が聞こえた。


「はーい」


僕はドアを開けるが、そこには誰もおらず、とても可愛らしくラッピングされた袋だけが、そこに置いてあった。


まだ近くに彼女がいるかもしれな。

僕はその袋を持ったまま、家に鍵をかけるのも忘れ走り出した。


しかし、近所を探し回っても彼女を見つけることは出来なかった。


荒げる息を整えながら、手にした袋をゆっくりリボンを解き、開けてみる。


そこには、僕から聞いた事からイメージして作ってくれた彼女の”僕の服“と、手紙が入っていた。


手に持っていたリボンが風に乗ってゆっくりと舞い上がる。


手紙に綴られた彼女の直筆の文字を一つ一つ、大切に目で追う。なんて書かれていたかは、ここでは語らない。


僕は、彼女からの手紙は僕の中だけにしまっておこうと思う。


「あの、お兄さん。 リボン・・・落ちましたよ」


飛ばされたリボンを、わざわざ僕の元まで持ってきてくれたその女性は暖かい笑顔をしていた。その笑顔は、とても見ず知らずの男に向けるような笑顔ではない。


彼女と出会ったあの日は、とても不思議で忘れられない、特別な日になった。

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