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一目惚れを信じますか?

作者: 杏もち

羽田玲(はねだれい)・高校1年生・遊びにお金を使いたいため、バイトを始める

相崎諒太(あいざきりょうた)・25歳独身・コンビニ常連客・近くの会社で働いている

「いらっしゃいませ」

バイトを始めて2週間。仕事にも、営業スマイルにも慣れてきた今日この頃。

最初はお金のためとはいえ、大変だし、疲労は溜まるし。うんざりしていた。けれど、その疲れを吹っ飛ばしてくれるのは私のエンジェル!!……ではなく、常連さんが来るのだ。

この人は相崎諒太(あいざきりょうた)さんというらしい。店長の知り合いらしい。この相崎さんは私のドストライクの顔をしているんだ。ふわふわな髪の毛、優しそうな目、少し大きい眼鏡、そしてスーツ!ああ、今日も大変お美しいです…ありがたや、ありがたや。

あっ相崎さん今日もチョコチップメロンパン買うんですね大変かわいらしいです。いつものタピオカミルクティーも取りましたね、タピオカ美味しいですよね。

心の中で相崎さんの行動を実況していたら目の前にご本人様がいて驚いた。

「お願いします」

「はい」

律儀に言うなんてもう可愛いですね相崎さんグッジョブ。

「あ、あと唐揚げ棒もください」

「はい」

緊張しすぎてはいしか言えてない自分に腹が立つ。唐揚げ棒、美味しいですよね私が触ったものを相崎さんも触るのか。いい。まて、変態発言はよくない撤回撤回。

「合計で513円になります」

お財布から小銭を取り出そうとする相崎さん。小銭がなかったのか千円札を取り出した。少し顔が赤いですよ恥ずかしいんですかね、ちょっとわからないですけど可愛いので分かります。

「1000円お預かりします。487円のお返しです」

お釣りを渡すときに手が触れてしまった、すべすべしてる。

相崎さんの手がびくっと揺れた。え、うぶなのポイント上がった。

「ありがとうございました」

いつもの営業スマイルではなく、相崎さんだけにはちゃんとした笑顔で言う。相崎さんはいつも会釈をして去る。今日も爽やかですね、お仕事頑張ってください。


金曜日の夜。この日、どうしても先輩が出れないということでシフトを変わった。夜だから大人の人しか来ない。というより人がほとんど来ない。

人がいないのを確認して、こっそりと欠伸をする。今日はなぜか2時間連続で体育だった。テニスとかバスケだったらさぼれるのに、今日は2000メートルも走らされた。意味わかんないし超疲れた。軽く伸びもしているとお客さんが入ってきた。まずい、と思いすぐに仕事モードに切り替える。

「いらっしゃいませ」

「ういー、ひっく」

うわ、面倒くさそうなおじさ…お客さん。結構酔っぱらってる。しばらくの間店内をうろちょろして、カップラーメンとお酒を2つ。まだ飲むのか。

「合計で605円になります」

「んあ、ねえちゃんよぉ、ひっく、」

「はっ、はい、?」

「初めて、見る顔、だなぁ、」

じろじろと舐め回すように見てくる。気持ち悪い。

「この時間帯は初めてなので。」

でも、お客さんに悪態つくわけにもいかないので、ちゃんと返す。てか早くお金払ってよ。

「かんわいい顔してんなぁ?おじさん、好きだよぉ」

「あ、ありがとうございます」

あんたの好みなんて知らない、お金早く払ってって。

苦笑いで返していると急に手を握られる。おじさんの手、汗ばんでて気持ち悪い。吐き気がする。

「仕事、いつ終わるのぉ?おじさんと、いいこと、しよう」

おじさんの行動と荒い息に鳥肌が一気に立つ。

「いや、その…」

「ねえ、いいでしょ?いつ終わるのお?」

「あ、あの…」

嫌だ嫌だ、どうしよう。こんな時に限って今店長倉庫にいるし。レジから叫んだとしても、倉庫までは聞こえない。ずっと考え込んでいると、おじさんの態度が一気に変わる。

「教えろっつってんだろ、ああん?お客様だぞ俺は、ふざけんじゃねえ」

なんで、怒ってんの?意味わかんない怒りたいのはこっちだよ。酔っぱらってるから情緒不安定になってるのかな。今にも殴りかかってきそうなおじさんに、もう時間教えて警察を呼ぼうかと考えたその時だった。

「あのーすみません」

「あ、なんだよ?」

そこにいたのは、相崎さん。いつものスーツと違ってTシャツに灰色のパーカーを羽織り、ラフな格好をしている。そんな姿の相崎さんにうっとり……してる暇はなかった。

「その子、嫌がっていますよね。やめてください」

「ああ?いい人ぶってんじゃねえぞ、お前には関係ねえだろ!」

「関係?ありますよ。その子は僕の彼女です」

そう言うと私の手を握っていたおじさんの手を解き、おじさんの手首を力強く掴む。

「目の前で彼女が絡まれているのに、助けない彼氏がいると思いますか?」

「っ、わあったよっ」

不服そうにお金を置き、出ていくおじさん。手首がすごく赤くなっていた、相当痛かったんだろう。出て行ったのを確認すると、相崎さんは大きく息を吐いた。

「ああいう人、困るよね。大丈夫だった、怖かったでしょ?」

「はっ、はい。あの、ありがとうございますっ」

優しく微笑んでくれた相崎さん。強張っていた心が一気にゆるくなり、自然と涙が出てきた。

「大丈夫、大丈夫だよ。」

優しく頭を撫でてくれる手がとても温かくて、涙があふれて止まらない。

「ねえ、そっちいってもいい?」

大きく頷くと、ありがと、と言って私のほうへ来る。

「あんま知らない人に抱かれるのあれかもしれないけど、僕の胸貸すから、思い切り泣いてよ」

優しく抱きしめられ、思い切り泣いた。背中をぽんぽん叩いてくれたり、さすってくれたり。相崎さんの優しさと体温がとても心地よかった。

泣き止むまでの間、店長が戻ってきて相崎さんと話していた。その間も背中をずっとさすってくれていた。後で聞いたのだが、今日来たおじさんはよくこのコンビニにくるらしい。特に若い女性には絡んでくるみたいだ。そのため、夜はなるべく女性に仕事をさせないようにしている。今回は私しか変われる人がいなかったというのと、店長がいるから大丈夫だと思っていたそう。

泣き止んだころ、店長が私に謝った。

「怖い思いさせてごめんね、羽田さん。もうこの時間にシフト入れないようにするよ。今日は、もう上がっていいよ。」

「っ、はいっ、」

「諒太ごめん、羽田さん家まで送ってもらえる?」

「はい、わかりました」


こんなことがあったとはいえ、今私は好きな人と帰っている。由々しき事態である。ちなみに由々しき事態の意味は知らない。

相崎さんは話してみるとすごくフレンドリー人だった。よくうちのコンビニにうちの来るのは、会社がすぐ近くだからみたい。あと、家も近いって言っていた。

「さっきコンビニに行ったのはさ、唐突にスイーツが食べたくなったっていうのが理由なんだよね。ちょっと恥ずかしい理由だ」

はにかみながらそういう相崎さんは愛らしかった。とくとく速いスピードで胸が鳴る。

「羽田さんはスイーツ好き?」

「はい、好きです!あ、玲でいいですよ相崎さん。年上の方にさん付けされるの、なんか申し訳ないです」

「わかった、玲ちゃん。じゃあ玲ちゃんも僕のこと諒太でいいよ。」

「えっ」

下の名前で呼んでほしいといったのは私だけど、そう来ると思わなかった。それと破壊力が半端なかった。

「さんはい」

「り、諒太、さん」

「うんっ、ありがと」

いやいや、その笑顔は反則でしょ。今日、結構相崎さん…諒太さん、笑ってる気がする。なんで今、夜なんだろう。諒太さんの笑顔が見れないよ。

「玲ちゃんはさ、なんでバイト始めたの?」

「えと、高校入ってから友達と結構遊ぶようになって、お金が足りなくなってしまって」

「あーわかるわかる。沢山遊びたいのにお金なかったらきついもんね。あれ」

「ハイ?」

「玲ちゃん、高校生?」

「はい、そうですよ」

「うそっ、ずっと大学生だと思ってた!」

「え、ほんとですか?」

「うん。だって、大人っぽいから。」

「ありがとうございます?」

褒められたのかどうかわからないけど、大人っぽいは私にとって誉め言葉。一応お礼を言う。

「高校生ってことは、手を出したら犯罪になるのか」

「えっ…?」

「あ、ごめん!えと、そのっ」

たまたま街灯がある場所だった。顔を真っ赤にして顔の前で必死に手を振っている諒太さん。

「ふふっ、面白いですね」

その姿がかわいくて、つい笑ってしまう。すると、諒太さんの表情がすっと真面目な表情へ変わった。やばい、嫌だったかな。

ごめんなさい

そう言おうと口を開いたが、諒太さんのほうが少し早かった。

「あのさ、こんなこと急に言うの、驚くと思うんだけど聞いてくれる?」

「は、はい」

「僕さ、初めて玲ちゃん見た時から、気になってたんだ。その、顔が好みっていうのもあったんだけど。真面目に頑張っている姿とか、ちゃんと挨拶してるところとか、いつも笑顔で接客してるところとか。いつのまにか、好きになってたんだ。初めてまともに会話したし、いきなりって思うかもしれないけど。もし、僕でよかったら、付き合ってください。」

やばい、諒太さんも同じ気持ちだったんだ。私に向いている男性らしい大きくて少し骨ばった手は、かすかに揺れていた。それを見て、また、好きって感じた。両手で手を取り

「私でよければ、お願いします」

そう一言いう。諒太さんの顔は驚いていた。私も驚いていますよ。けど、ぱあっと明るくなって、抱きしめられる。

「ありがとうっ」



「いらっしゃいませ」

いつもの営業スマイルでお客様を迎える。

スーツ姿の男性は、今日もチョコチップメロンパンとタピオカミルクティーを手に取り、レジへと足を進めた。

「お願いします」

「はい」

「それと、春巻き一つ」

「はい」

「もう一つ、いいですか?

「なんでしょう」

「スマイル一つ」

「すみませんが当店にそのような商品はございません」

そういうと、二人で目を合わせ笑いあう。

この人はもう一目惚れした片思いの相手じゃない。

私の、大切な彼氏だ。



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[一言] 私は一目惚れ信じません はい
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