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#02 プロローグ

よろしくお願いします。

西暦2XXX年。

 技術もゆったりと進歩し、脳波操作によるVR技術が確立された。日常生活、医療、経済などでも当たり前に使われている。

 もちろん娯楽にも技術の発展は及んでいる。脳波操作による完全ダイブでのゲームなどもここ数年で完成した。

 そして昨日、完全ダイブ型の新しいゲームソフトが販売された。


【Dream Tale Online】通称【DTO(デート)

 メインとサブの二つの職業を持つことが出来、その組み合わせやプレイスタイルによって獲得スキルが変化することで独自の生き方ができる。また種族を選ぶことが出来、種族によってもスキルが独自に変化する。無限の多様性があり、現実とは違う新世界を体験できるというのが謳い文句である。

 1年前にオープンβが行われ、修正・追加された正規版が販売された。

 オリジンカンパニーを主体とした10社もの会社が共同開発した高度自立型AIを導入し、10社それぞれが管理・稼働している10000台以上の大型サーバーによる仮想現実ゲームである。そのため、新世界には独自の法律があるため注意するようにとも説明書にも書かれている。


 四月。ある町の一軒家の一室。サービス開始前日。


「よし。無事に届いたな。インストール開始。……楽しみだなぁ」


 僕は先ほど宅急便にて届いたゲームソフトをVRギアにインストールしているのを目を細めて眺めていた。一応本当に精一杯喜んでるんだ、これでも。


 名前:木花 裕南(きはな ゆうな) 性別:男 年齢:17歳 職業:高校2年生

 身長は161cmとやや小柄で体格も細めだ。眼鏡をかけているが前髪が眼鏡の上半分まで掛かっている。典型的な根暗キャラである。そして生活も典型的な根暗である。


「ゲームの中だったら……ゲームの中ぐらいは…違う自分で生きたいな。潤と尚以外僕がこのゲームすること知らないし。……興味もないだろうしね」


中島潤と福永尚。小学校からの親友…だと僕は思っている。よく一緒に遊んでいた。

 昔はもっとたくさんの友達と遊んでいたけど、一番遊んだのはこの2人だ。高校に入ってからは2人とも部活とかで遊べなくなったけどね。2人は充実しているみたいだし、それならいいと思っている。…本当だよ?

 自分で言って悲しくなり、ため息を吐きそうになったが直前にインストールが終了したことを示す音が部屋に響く。


「お。終わったか。キャラクターメイキングまでは出来るし、今日中にやっちゃおう」


 ベッドに横になり、ギアを被る。深呼吸しゲームを起動する。

≪Welcome to New world !≫


 気づいたら暗い空間にポツンと立っていた。


「なんか寂しいところだなぁ」


 ちょっとだけ怖く……悲しくなった。


『確かに寂しいがのぅ。これでも新しい命が生まれるためには大切ことなんじゃよ。すまんのぅ』


 どこかから声が響いた。

 ちょっとだけ嬉しかった。それになんか落ち着く声だなぁ。と思った。


「どなたですか?」


 この場合は尋ねるのが礼儀である。


『うむ。感謝感謝じゃ』


 目の前が光り、人の形を取り始めた。それに合わせて周りも明るく、しかし真っ白な空間に変化し

た。


『初めまして。渡り移る子よ』


 現れたのは老女だ。白い長髪。茶色のケープを羽織り緑のドレスを着ている。老いてはいるが、それでも出てくる言葉は「美しい」だった。

(若いころはとんでもない美女だったんだろうなぁ。周りの男性は大変そうだ。)

 他人事のように考えていると。


『あら。ありがとうね』


 老女はにっこりと笑った。


「あら。聞こえてたんですか。すいませんでした」

『謝るのはこちらじゃよ。必要なこととはいえ、勝手に思考を読んでしまっておるのだから。それに褒めてもらったことを不快に思うほど歪んではおらん』

「ありがとうございます」

『うむ。では進めようかの。最初の暗い空間だった理由は簡単じゃ。おぬしは今から新しい命として我らが世界に降り立つ。これは一種の転生と言ってもよいじゃろうの。新しい命が生まれたとき、それはどこにいると思う?』


 質問された内容を考える。転生と言った。確かに世界に合わせて体を作るのだから転生と言えるか。だとしたら最初にいるべき場所は……。


「母親のお腹の中ですか?」


 答えに自信はない。

 答えを聞いた老女は破顔する。


『うむうむ。見事じゃ。そう。ここは母親の胎の中を表しておるのじゃよ。生まれた命は胎の中で育つ。最初は光など見えんじゃろう?覚えとらんじゃろうがな』


 くつくつくつと老女は笑う。


「さすがにそうですね」


 僕も同意する。


『うむ。次は私の説明じゃ。おぬしが渡る世界の中では簡単に言えば、神に位置付けられておる。と言ってもあくまで舞台装置としての役割でしかないがの』


 自虐的な自己紹介である。


「まぁ、この段階で関わるなら神様でないとだめでしょうねぇ。ん?ということは向こうの世界の住人は僕らのことを理解しているということですか?」

『世界の管理を司るものは理解しておる。我らの作られた理由も役割も…のぅ』


 女神は目を伏せて答える。


「……ごめんなさい」


 謝るべきだと思った。娯楽のために作られたことを理解しているのに、決して神ではないと理解しているのに、神として役割を演じないといけない。道化だ。

 僕なら耐えられるだろうか。…無理だ。だって耐えられないから、ここに来ているのだから。


『…感謝感謝じゃ。おぬしのような子が行くなら、楽しんでくれるなら。私は喜んで道化でいれる』


 女神は笑う。


『さて……いよいよ本題じゃ。向こうのおぬしを生むとしよう。さぁ!おぬしの名は何じゃ!おぬしは新たな世界でどう成りたいのか!おぬしは……何を求めて世界を渡る!』


 女神は手を差し伸ばして僕に問う。女神と僕の間に白い光の玉が生まれる。僕の体も光り、玉の中へと吸い込まれる。

 僕が求めているのは……。




 裕南が吸い込まれて数時間が経過した。

 その間ずっと女神は慈悲に満ちた眼差しで裕南が吸い込まれた光の玉を見守っている。


 すると白かった光の玉が輝きを増し、色を変える。

 その色は常に変化している。虹のように様々な色を輝かせる。


『うむ。うむ』


 女神は嬉しそうに笑う。


『さぁ。ここでやるべきことは全て終えた。……私の名前を教えられないのは残念だが。まぁ、おぬしならば見つけてくれそうじゃのう』


 光の玉は下降を始める。降りる先には広大な大地が広がっていた。

 女神はそれを見送る。嬉しそうに、少しだけ寂しそうに。


『世界はおぬしを待っておる。良き出会いと別れをせよ。辛くとも試練を乗り越えよ。得難き旅をせよ。おぬしは決して1人ではない。常に世界はお前と共にいてくれる』


『おぬしの旅路に我が祝福を。ナナキ。誕生、おめでとう』


ありがとうございました。

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