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第7話 壬生浪士組局中法度八か条

 芹沢鴨。水戸藩出身の浪士で、前名を下村嗣次という。


 水戸藩は古くから、日本古来のものを重要視する国学の研究が進んでおり、多くの国学者・思想家が生まれており、世情穏やかならぬ幕末において、各藩の尊攘思想家に大きな影響を与えてきた。

 尊王攘夷の総本山と言われる所以である。


 水戸藩士達にもその思想は受け継がれ、特に下級藩士達は攘夷への思い強く、過激な行動に出る者も多かった。

 先の大老、井伊直弼を桜田門外で暗殺した者達の殆どは、水戸藩の下級藩士であった。

 一方で水戸藩の藩主は徳川家であり、攘夷への思いは変わらないものの、藩士達の『尊王・勤皇』と藩主の『佐幕』という両極の立場の摩擦の中で、水戸藩は数々の悲劇を巻き起こす。


 さて芹沢は水戸藩の中でも過激な攘夷派が集う、玉造組という組織に身を置いていた。

 この玉造組で芹沢は仲間と攘夷行動を起こす為の資金調達に奔走していたが、恐喝や強盗まがいのそのやり口がえげつなく、藩としてこれを憂慮した結果、投獄される。

 後に厳罰を指示した重役が罷免された為、多くの者が赦免されたものの、芹沢だけは二年もの間留め置かれる事になる。


 その過激派尊攘浪士を体現したような半生を送った男が、目の前にいる。

 男は、目にはサングラスを掛け、首元や指先にはジャラジャラと光るものを付け、常に葉巻を咥え、所構わず酒を飲んでいた。

 重そうな鉄扇を持っていて、そこには『NO MUSIC NO LIFE』と書かれている。

 突っ込みどころしかないような男だが、それを受け付けないような異様な威圧感を漂わせている。


「で?どうするつもりだって?」


 芹沢が酒臭い息を吐きながら俺に尋ねる。

 この日は試衛館一派八名、芹沢一派五名が一同に会し、壬生浪士組の今後を談判していた。


「まず、人事的な事を先に決めようと思います。とりあえず、ここにいる全員を幹部とし、下には向後募集する隊士を配置します。まず、局長として近藤勇…」


「待て」


 想定内の事だったが、芹沢が横槍を入れてきた。


「何か」


「何でブラザーが局長なんだ。俺の方が兄貴分じゃねえのか」


 上洛の途上から近藤さんとよく飲みに行く仲になっていた芹沢は、いつしか近藤さんをブラザーと呼ぶようになっていた。

 しかし当人の中では、自分の方が兄貴分のつもりだったらしい。


「現状、我々試衛館の者の方が多数を占めている故、至極当然の事かと思いましたが」


「数じゃねえよ。ただ俺が人の下には付けねえ人間だって事だ」


 芹沢は無造作にアーモンドを数粒掴み取り、口に運んだ。

 譲る気はないらしい。

 しかし試衛館の面々も厳しい顔を崩さずに動静を見守っている。

 こちらも、大将は近藤さんだと考えているからだ。


 これは単なる壬生浪士組の組織としての方向性を決める談判ではない。

 これから先、芹沢一派とどのような関係を持っていくのか、その駆け引きだ。

 と、俺と近藤さん以外の奴らは思っていたに違いない。

 どちらが大将になるのか。

 どちらの陣営もこの攻防だけは負けられない、と考える。

 だが、近藤さんは誰もが拍子抜けするような提案を持ち出す。


「では、芹沢さんと私、どちらも局長、という事にしましょう」


 これは事前に俺と近藤さんで話し合った事だ。

 どうせこんな流れになる事と考えていた。

 だから機先を制して、こちらから一定の譲歩を見せようという事になったのだ。


 これにはさしもの芹沢も呆気に取られていた。

 さらに近藤さんは続ける。


「局長が二人では、最終的な責任の所在がどちらに行くのか分かりません。ここは芹沢さんを『筆頭局長』という事にして、今後の壬生浪士組の顔になって頂く、というのは如何でしょう」


 またしても驚く一同。

 近藤さんは「これでいいのか」と俺の方を見やるので、俺はゆっくり小さく頷いた。

 試衛館の面々は納得がいかない様子ではあったが、当の神輿が自ら言い出したので、何も言えなかった。


「じゃあ、こうしよう。もう一人、DJ ENEMYも局長にする。二人だけなのに『筆頭』なんぞ、恰好が付かねえじゃねえか。それにいいDJがいねえと、俺のWARDは輝かねえ。いいだろ?」


 少し考えた芹沢がこう言った。

 近藤さんは再び俺の方を見たが、俺は勿体付けて返答を返さず、しばらくしてから近藤さんに合図を送った。


「仕方ありませんな」


 苦々しく答えた近藤さんを見て、芹沢達は多少満足したようだ。

 どうもこちらが話の主導権を握っている雰囲気が気に入らず、一矢報いたかったらしい。

 そもそも俺は、こんな人事など屁とも思っていない。実際に組を動かすのが誰か、という事が重要だ。


 壬生浪士組の幹部の顔触れはこうだ。


筆頭局長・芹沢鴨


局長・近藤勇、新見錦


副長・土方歳三、山南敬助


副長助勤・井上源三郎、永倉新八、原田左之助、沖田総司、藤堂平助、野口健司、平間重助、平山五郎


 その他、早々に隊士を募集して陣営を整え、充分な戦力が揃い次第、再び京都守護職に願い出る事となった。


「これで終わりか?もう用がないなら、俺は島原に行くぞ」


 芹沢は腰を上げかけた。ちなみに島原とは、京の西側にあるいわゆる遊郭である。昼間っからお盛んなこった。


「いえ、最後に一つだけ」


 俺は芹沢を引き止めて、一枚の紙をみんなの前に出した。

 全員で集まって、その紙に書いてある事を覗き見る。


「えー、なになに。『壬生浪士組局中法度』?」


 これこそ、俺がこの場で通したかったものだった。


壬生浪士組局中法度

 一、士道に背くまじき事

 一、局を脱するを許さず

 一、勝手に金策致すべからず

 一、勝手に訴訟取扱うべからず

 一、私の闘争を許さず

 一、時代にそぐわぬ機械の類を許さず

 一、魔法・超能力の類を許さず

 一、外来語を使うべからず

 

 以上いずれかに違反した者には切腹を申し渡す


「なんだよ、これ」


 内容を読み進めるにつれ、ざわざわとし始めた。

 このようなものを作るとも聞かされていなかった試衛館一派からも、戸惑う声が漏れ聞こえてきた。

 というより、思った以上に試衛館側の反応が激しく、芹沢一派は大人しいというか、芹沢の反応を待っているようだった。


「これ、どれかに引っかかったら切腹って事?」


 平助が目をまん丸くして聞いた。


「そうだ」


「厳しくない?」


「しなければいいだけの話だ」


 左之助、新八辺りは「マジかよー」「俺、すぐ切腹させられそう」と苦い顔をしていた。

 そんな中「貸してみろ」と芹沢が紙を取り上げ、じっくり見た後で俺に声を掛けた。


「どういうつもりでこれを作った?」


「これから新しく隊士も追加して、組織だった動きをするのに、必要かと。軽い気持ちで入隊されても困る。いざとなれば腹を切る、そういう覚悟が俺達の気持ちを一つにすると考えます」


「なあなあ、土方さん、じゃあこれは新しい隊士に適用って事?俺らは関係ない?」


 左之助が聞く。


「『局中』とあるだろう。無論、俺達もこれに従う」


 視線を逸らさずに答える。


「ねえ、土方さん。『局中』ってのは、この建物の中では、って事?」


 新八も分かり切った事をすっとぼけて聞いてくる。


「どこにいても、この壬生浪士組の一員である内は、従ってもらう」


 またしても視線を逸らさずに答える。

 俺の視線の先には、芹沢のサングラスがあった。

 芹沢はサングラス越しに、俺を値踏みするかのようにジロリと、こちらを睨みつけていた。


「なるほどな。おい土方。これには『この時はこうする』みたいな具体的な事が書かれてねえな。こいつはつまり、それぞれで解釈して構わねえって事か?」


 俺の意図するところの半分を言い当てられ、多少動揺したが、そんな様子は見せられない。


「ええ。お互いにね」


 そう言うと、芹沢はゆっくりと口角を上げ、無理矢理に笑った。

 俺は表情を変えずに是吏沢を睨み続ける。脇ではまだブーブーと左之助達が文句を垂れ続けていた。


 この法度は前の日の晩に山南さんと考え、近藤さんにも確認を取ってもらった。

 はじめは前半の五か条だけだったが、この際と思い、更に三か条足してやった。


 目的はさっき芹沢に説明したのが一つ。

 それ以外には二つあり、一つは試衛館の馬鹿共が調子に乗るのを抑える為だ。

 こうして法度で縛っておけば、ある程度無茶な事はしなくなるだろう、と考えたのだ。

 奴らは文句は垂れつつも、最終的には言う事を聞く。

 問題は、言う事を聞かない奴だ。

 

 もう一つにはこの法度を以て、芹沢達を粛清してしまおう、という事だ。

 どうせこいつらは、法度などに従うつもりはさらさらないだろう。

 今の芹沢の口振りなら、何か抜け道を作って、必ず自分達の思う通りにする筈だ。

 それはそれで、好都合なのだが。

 だから、解釈云々という話をされた時に、同じような事を考えていると思い、肝を冷やした。


「土方、俺が斬れるか」


 ただでさえ低い声をさらに落として、芹沢が凄む。


「かなり太ってらっしゃるので、いい刀が必要でしょうね」


「テメエ…」


 俺の小馬鹿にした態度に、サングラスの奥の眉間に皺が寄る。


「まさか芹沢さんを本当に斬るつもりなんてないですよ」


 今のところはな。

 いずれ時が来れば…


「ねえねえ土方さん、外来語がダメってのはきついよー」


 ちょっと平助黙ってろ。


「土方さん、3○Sとかやったら、切腹?」


 左之助うるさい、今いいところなんだから。


「土方さん、外来語ってどこまでがセーフでどこからがアウト?」


「あー、もううるせえ!!切腹する前にぶった切るぞ!」


 折角、という言い方はおかしいかもしれないが、芹沢とのやり取りにヒリヒリした緊張感を味わっていたが、完全に興を削がれた。

 その様子を見て、芹沢は鼻で笑い、新見達と席を立った。


「まあいい。今のところは認めてやる。だが、何を企んでるのか知らねえが、よくよく周りを見るんだな」


 何やら気になる捨て台詞を吐いていったが、俺はそれよりもうるさく纏わりついてくる馬鹿共に気を取られて、それどころではなかった。


 その後、余りにごちゃごちゃとうるさいので、最後の外来語の一文には「みだりに」という語を付けた。

 ちょっと位喋っても、目こぼししてくれ、という事だ。くだらない。

とにかく「世界観を壊してはならない」という話を四半刻程奴らに昏々と説教し、八か条の局中法度を認めさせた。

 後にこの法度は沢山の生き血を吸う怪物となっていく。


 壬生浪士組を正式発足するに当たって、まず大事なのは俺達が生活する場所だった。

 京に来た当初から住まわせてもらっていた八木家のご主人は幕府への忠義の篤いとてもいい方で、今後も屯所として利用して構わないとの事だった。

 「YOU達、使っちゃいなYO」と軽いノリの物言いは気に入らなかったが、助かった事には変わらないから、この際黙っておく。

 また隣接する前川家も住居を移転し、空いた所を使えるようになった。

 これでひとまずの屯所の心配はなくなった。


 早速新隊士の募集を掛けると、二十人程の浪士が集まった。

 剣の腕を見て使える者を採用していったのだが、ここで嬉しい事があった。

 斎藤一が募集に乗ってきたのである。


「おお、斎藤!よく来たな。もう用事は済んだのか」


「はい。またお世話になりたいと思います」


 斎藤は俺達が上洛する少し前から試衛館に出入りするようになった男で、まだ年は二十歳と若く、平助と同年、そして総司の二つ下である。

 剣は一刀流を使い、総司や新八とも伍する程の腕前だった。


 浪士組の参加ははじめ「所用があるので、それが済むまでは」と固辞し、いずれ上洛してくるものと思っていたが、まさかこんなに早く来るとは。


 全くと言っていい程感情を表さない男だったが、俺はこの斎藤が気に入っていた。

 何故なら他の試衛館の連中と違って、世界観を壊すものを持ち込んだり使ったり、変な事を言い出したりしないからだ。

 「悪・即・斬」とか訳の分からない事も言わない。

 試衛館ではこいつと山南さん位だ。


 年若なのに古武士然と振る舞う斎藤の姿を京で見て、俺は百万の味方を得たような気持ちになった。

 しかし俺は知らなかった。

 実は斎藤は夜な夜な布団の中で、古ぼけた白いゲームボーイで延々とテトリスを楽しんでいる事を。

 ゲームボーイを壊されて怒り狂い、壊した同僚を斬ってしまった事を。

 上洛が遅くなったのはゲームボーイの修理待ちだった事を。


 そんな事はこの時はつゆ知らず、俺は近藤さんに掛け合い、一応芹沢にも話を通し、早速やってきた斎藤を副長助勤に取り上げた。

 試衛館の連中は斎藤の腕の程は分かっていて文句も出ず、芹沢はどうでもいいのか「好きにしろ」と言った。


 最低限の体制を整えたところで、再び金戒光明寺に行き、容保公にお目通りさせて頂いた。

 今度は幹部全員で揃って参上した。

 容保公は相変わらずダラダラと姿勢を崩していたが、何やら光る板のような物をいじっていた。


「ん?これ?何か不逞浪士達が持ってたんだよ。タブレットっての?俺は持ってないから、使い方が中々分からなくって…いる?」


 飛びつこうとした左之助を制した。

 アレはまずいブツだ。


「今結構洛中でも流行ってんだぜ、コレ。それがどうも、討幕派がこういうのを作って売ってるらしいんだ。倒幕運動の資金になってるみたいだから、そのルートを調べるといいかもよ?」


 意味ありげに容保公は俺にニヤリとした。

 どうやら俺がそういった類の物が嫌いだという事を知っているようだ。


「もし、このような物を見かけた場合、没収しても構いませんか」


「調査の為には、それも必要だろうね」


「しかし、持ち主はいい顔をしないでしょう。その場合『京都守護職の指示』として処分させて頂いても構いませんか」


 俺が言わんとしている事が伝わっているようだ。

 容保公はトロピカルなものをチューチュー飲みながら「いいよ」と言った。

 本当はそれも処分してしまいたいのだが、流石にこれから上司となる殿様にそんな事は出来ない。


「ま、とりあえずやってみてよ。困ったら俺に言ってきて。何とか出来るなら何とかするから。何とか出来ればね」


 そして容保公はこの間の繰り返しのように、朝廷からの呼び出しにぐずり、西郷という側用人に連行された。

 容保公の去り際に新八が「これ、貰っていいですか」と聞くと「やる!」と言い残していった。

 新八に処分すると伝えると「どんな物かも分からないのに取り締まったり、没収したり出来ないだろ?研究だよ研究」と言って譲らない。

 左之助や平助辺りも「そうだよそうだよ!」「研究に必要だから!」と言い張る為、仕方なく一つだけ許してやった。

 その一つがどれだけ悪い影響を与えるのか、何度説明したことか。


 それにしても、タブレット等の取り締まりを認めてもらったのは、嬉しい誤算だった。

 浪士組内は局中法度によって時代に合わない物を抑える事が出来るものの、外の事となると、このままでは見つけても指を咥えて見ているだけになる所だった。

 容保公のお墨付きをもらった事で、天下晴れて世界観を壊す物を徹底的に取り締まる事が出来る。

 容保公ありがとう。


 外へ出ると、満開の桜が温かい春の風に揺れていた。

 まるで俺達の門出を祝福してくれているかのように感じて、自然と笑みが零れる。


「さあ、やるぞ!」


 今後どんな事が待ち受けているかは、神のみぞ知る事。

 しかし俺はこの壬生浪士組の名を上げ、いずれは近藤さんを大名にしてやる。

 その為には、何だってやってやる。

 隣に立つ近藤さんの肩に手を置き、「これからだな」と声を掛けようとした。


 すると近藤さんは俺の手をするりと交わし、「悪いトシ、これから寄るところがあるんだ」といって、歩いていってしまった。

 すぐに近藤さんの横には芹沢が並び、仲よさげに肩を組んで歩き出す。


「ま、そういうこった。じゃあなヒジー」


 俺を馬鹿にするように、新見が肩をポンポンと叩いて、近藤さんと芹沢を追っかけてった。

 その他の芹沢一派の連中も、下卑た笑い方をしながら輪に加わる。

 俺はそれをただ見ていた。


「土方さん、どうするんですか」


 総司が声を掛けたが、俺は何も答えない。

 奴のこの間の余裕は、こういう事だったのか。

 遠目で見ても分かる程、近藤さんは奴らと馴染んで、楽しそうに笑っている。


「何でだよ、近藤さん」


 俺は誰にも聞こえない程度の声で呟いた。

 風に飛ばされた桜の花びらが、近藤さん達の姿を消すように、目の前を一陣舞った。




 原田左之助、伊予松山藩出身の槍の名人。

 この男、腹に穴が開いている。

 なんでも、地元で切腹をしたらしい。


「何で切腹なんかする事になったんだよ」


 試衛館に左之助が来た当初、何故か自慢気に腹の傷を見せる左之助に俺が尋ねた。


「ああ、昔上司と喧嘩になった時に『切腹の作法も知らないゲス野郎』って上司が言いやがるから、『ゲス野郎は合ってるが、切腹の作法くらい知ってるわ』って、腹切ってみせたんだ」


 途方もなく馬鹿な奴である。

 喧嘩の拍子とはいえ、本当に腹を切るなんて。


「で、切腹をしくじって死にぞこなったと」


「いや、ちゃんと最後までしたぜ?」


 左之助の言葉に、話を聞いていた一同「は?」と声を揃えた。

 そんな事言っても生きてるじゃねえか。

 全員、左之助の言ってる事の意味が分からず、口を開けてポカンとしていた。


「原田さん、その『最後まで』というのはつまり、どういう事ですか?」


 総司が直接的に訊いた。


「だから、腹切って臓物出して、介錯もしてもらったよ」


 部屋の中の時間が止まった。

 源さんは饅頭を口に入れかけたまま動かず、俺も今しがた「失礼します」と障子を開けて部屋に入らんとして固まったつねさんと目が合ったまま動きを止めた。

 …いつ見ても酷い顔だ。


「じゃあ何でお前は今、首が繋がって、ここにいるんだよ!」


 あまりの事に、自分でも驚くほど声を荒げて、左之助に尋ねた。

 まるで怪談噺のような出来事に信じられない俺達に、左之助はどうという事はない、といった口調で、耳をほじりながら言った。


「ああ、まだ残機があったからな」


 この一言に一同、「なあーんだ」と胸を撫で下ろし、止まった時間が動き出した。

 近藤さんも呑気に「残機があったなら言えよ」と笑いながら左之助を小突き、一同安堵の笑い声を上げた。

 …残機?

 まてまて待て待てっ!

 残機って何だよ?

 何でお前ら、それで納得してんだよ?


「アレでしょ?マ○オとかであるやつ」


「あー、俺はグ○ディウスの方思い出したわ」


 どこの世界線の話をしているのか。

 普段からそういうのは止めろと口を酸っぱくして言ってるのに。


「俺はガキの頃、川で遊んでた時に溺れて、一機無くなったんだ。んで、切腹で二機目」


 左之助は、急に立ち上がって後ろを向くと、振り返りながら女のような声色を使って、こう言った。


「多分、私は三人目だと思うから」


 それを聞いて全員大爆笑。

 いい加減元ネタの分からない事をするのを止めろ。

 しかも俺には分からんが、どうせ時代にそぐわん代物なんだろ。


「アッハッハ…あ、土方さん」


 俺が苦々しい顔をしているのを見つけ、笑い声は収まった。

 俺は左之助を睨みつけながら、何と咎めたらいいのか言葉を探した。

 てか、こんな時に掛ける言葉を考える必要なんてあるか?


「あ、いや、土方さん、昔の話だし、ここは俺のホラ話って事で…」


「左之助、お前…次死んだら、ちゃんと死ねよ」


 自分でも何を言ってるのか分からなかったが、ドスを効かせた声と顔付きで有無を言わせなかった。


「だ、大丈夫だって!俺、もう後一機しか残ってないから!」


「普通はみんなそうだ!」


 ちぇっと舌打ちして左之助が部屋から出て行き、この話は終わった。

 しかし左之助はその後もしばしば、腹の傷を見せては切腹の話をしていたらしい。

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