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第4話 地球防衛軍、爆誕!?

 浪士組は清河八郎という男が計画した、という事は前にも言ったと思う。

 この男、元は庄内藩(山形県)の出身で、文武ともに優れ、学問は東条一堂に、剣術は北辰一刀流の開祖・千葉周作に学び、それぞれ類まれなる才を示した。


 清河は元より倒幕派であり、諸国を廻って尊王攘夷の志ある志士を京へと誘った。

 現在の京の混乱状態の元凶の一つと言えよう。

 さらに幕吏を斬った事でお尋ね者になり、そうかと思えば政治総裁職・松平春嶽に急務三策というものを提案し、これを受け入れられて表舞台に戻っている。

 狡猾で抜け目ない男といえる。


 急務三策とは、攘夷の断行・大赦の発令・天下の英材の教育である。

 その一環として浪士組が結成されたのである。

 かつて倒幕に力を注いだ男が幕府方に取り入って浪士を集め、京で一体何をするつもりなのか。

 共に京へ赴いた取締役達も、また俺達浪士達も、清河の考える事は想像もつかず、殆どの者が初めての京に興奮し、目的など忘れて観光としゃれ込んでいた。


 京に着いたが、浪士組は洛中に留まる事なく、そのまま西の壬生村へと行き、寺や民家に分宿する事になった。

 試衛館組は八木家という壬生でも名士の家にまとまって泊まり、何の因果か芹沢一派も同じく寄宿した。


 『将軍の警護』という話だったが、具体的にはどんな事をするのか、この時には何も聞いておらず、今後どうしていくのか分からなかったが、到着した夜急に近くの新徳寺に浪士全員が集められた。


 何事か分からずに集められた浪士達は、皆一様に戸惑っていた。

 取締役達も、この呼び出しは清河独断のものだったらしく、「聞かされていない」といった態で互いに顔を見合わせていた。


 全員が集まってから四半刻(三十分)ほど経った頃、悠然と清河が全員の前に現れた。

 待たされて随分と不満が溜まっていたろうに、清河の持つ雰囲気に気圧されてか、誰一人文句は言わなかった。


「諸君。諸君は尽忠報国の士である」


 江戸を出る前と同じ台詞を吐いた。

 全く同じ事を言ったのに浪士達が感動しているように見えるのは、清河の話す調子がそうさせているのだろうか。


「諸君らは幕府よりの呼びかけに応じ、馳せ参じた、類稀なる志士である。彼程の者達がこれだけいるのであれば、この日の本は安泰であろう。しかし、我が国は昨今、幕府の力ではどうにもならない、夷狄からの脅威に晒されている。この状況には帝も安んじて枕を高くして眠る事の出来ない日々を過ごしておられる事であろう。誠に残念である」


 この発言には「何だと!?」と幕臣である取締役達が気色ばんだ。

 当然だ、幕府にはこの難局を乗り切る力は無い、と断言されたのだから。

 しかし清河は顔色の変わった取締役達を気に留めず、話を続ける。


「されば、我ら浪士組は、これより幕府の手を離れ、帝の直轄の軍隊として、攘夷行動に励むべく、朝廷に働きかける」


「「なにーっ!!」」


 これには全員で声を上げた。何かしら裏のある男だとは思っていたが、密かに企んでいたのは、天皇直轄の軍隊を作り上げる事だったのだ。

 しかし幕府の人間を引き連れて、何とも大胆な事だった。


「この浪士組は帝の下、諸外国にも負けぬ力と技術を身に付ける。さらには来たるべく別の惑星からの侵略に備え、宇宙空間での戦闘や惑星防衛の為の装備を揃えた『地球防衛軍』として、新たに出発する事をここに宣言する」


「「ウォーッ!!」」


 地球防衛軍という得体の知れない単語に、浪士達は興奮して歓声を上げた。

 試衛館組は周りの浪士よりは反応が薄かったが、平助ただ一人「地球防衛軍だってさ、すげえや!宇宙とか行けるかな?」と目を輝かせていた。

 この状況に取締役は何も出来ず、ただ茫然と浪士達の盛り上がりを眺めていた。


 清河は中々の策士であった。

 天皇直属となる事で幕府が介入する事が出来なくなり、更に京に集めた尊攘志士を吸収して、一大勢力になろうという企みだった。

 清河は攘夷派の公家を通じて、『地球防衛軍』の設立建白書を朝廷に提出した。


 この時の天皇は孝明天皇といい、若く血気盛んな人柄で、何よりも大の『外国嫌い』であった。

 その為、攘夷行動を起こすべく立ち上がった事に関しては興味を示し、「叡感斜めならず」と言ったという。

 要は「悪くないね」という事だと思う。

 この事を聞いた清河は狂喜した。


 しかし、朝廷としては日に日に騒がしくなる京にこれ以上不逞の輩を置いておきたくはなく、浪士組には「攘夷を決行するなら、江戸で」と伝えた。

 清河はこれを好意的に捉え、「江戸にて攘夷行動を起こせ」との勅令が下った、と吹聴した。

 帝にまで自分達の存在が肯定された、と感じ浪士組は更に歓喜してお祭り騒ぎとなった。


「諸君。諸君らは帝によって選ばれた、この地球を守る唯一の軍である。そんな諸君らに相応しい、最先端の装備を支給しよう」


 昂奮する浪士達に、清河はとどめのように目新しい装備を出してきた。


「様々な環境に適応するバトルスーツと、岩をも砕くレーザー銃だ。諸君ら一人ひとりにこれを進呈しよう」


 同志と思しき奴らが、銀色に輝くバトルスーツと、流線型のいかにも近未来のフォルムをしたレーザー銃を持ってきた。


「ウォーッ!すげえ!」


「カッコイイ!あれを着れんのか?」


 新徳寺に響き渡る「清河」コール。

 こうなるともう、手が付けられない。

 立ち上がって雄叫びを上げる奴が続出し、中には「俺、浪士組に入ってよかった…」と泣き出す奴もいた。

 この流れを止められる者などおらず、浪士組は江戸へ戻って『地球防衛軍』として動き出すのは時間の問題だった。


「待たれいっ!」


 騒ぎの中、一際大きな声を上げた男がいた。

 近藤さんだった。おお、近藤さん。


「我々は大樹公の洛中警護の任を仰せつかって、この京まで参ったのである。その役目を全うせずに江戸へ戻るなどと言う事は、それがしは納得出来ん!一度言い出した事を反故にする、というのは武士としてあるまじき事ではないのか」


 それまでの騒ぎはなんだったのやら、近藤さんの言う正論に、浪士組全体が押し黙った。

 まさか反論されると思ってなかったのだろう、清河はそれまでの余裕のある振る舞いに動揺が見られた。


「しかし、大樹公も含め、この日の本に住まう我々は、帝を頂点に暮らしているのではないか、大樹公よりも上の帝よりの勅令…」


「この国のあり方について言っているのではござらん!」


 清河の話を遮り、近藤さんが怒鳴った。

 久々に近藤さんのかっこいいところを見た気がする。


「幕府の募集に応じ集まった我々を、『帝の勅令』などと申して違う事をさせるというのは筋が通らぬ!それがしは京へ残る故、清河氏と江戸で攘夷をやりたいという者は付いていったらいい…そのバトルスーツとレーザー銃はここへ置いて」


 最後何か聞き間違ったようだが、近藤さんの一言は少なからず浮かれていた浪士達にも衝撃を与えたようだ。

 清河は「そなたのような話の通じぬ者は、他にはおらぬ」と言ったが、ここで一人の男が立ち上がった。

 芹沢だ。


「待てよ。さっきから黙って聞いてたが、近藤の言ってる事の方が筋が通ってるよ。小手先のテクニックじゃ、魂持ったヘッズのハートは動かねえよ。さっさと江戸へ帰って、お仲間と楽しくママゴトでもやってな。俺も京に残る」


 恥をかかされたと思ったのか、真っ赤な顔をして「勝手にしろ!」と言って、清河は出て行った。

 近藤さんは清河の去り際に「おい、俺の分のスーツと銃は置いていけよ!」と言ったが、全く取り合われなかった。

 そんなもの、手に入れてもどうせ俺に捨てられるだけだろうに。


 紆余曲折あったが、浪士組は三月十三日、江戸へと戻った。

 もちろん近藤さんをはじめとする試衛館の面々は京へ残った。あとは芹沢一派も残り、他数名も京へ残ったようだ。


 ちなみにこの浪士組、幕府の方でもヤバい存在と思われていて、江戸に帰って早々、清河八郎は幕臣の佐々木只三郎をはじめとする六名に暗殺された。

 ざまあないなと思ったが浪士組は頭を失って統制が取れなくなり、江戸でも有名な荒くれ者集団と成り下がった。

 地球防衛軍として宇宙からの侵略者と戦う機会は、終ぞ訪れなかったのである。


 清河から約束されていたバトルスーツやレーザー銃も支給されず、見るからに浪人体の男達が商家や酒屋に押しかけて「おい地球防衛軍だ」と言っては金品をせびったり、ただ酒を呑んだりしていた。

 それから江戸では『地球防衛軍』という単語は禁句になったとか。

 翌文久四年(1864)に庄内藩預かりの新徴組として再出発を切り、ようやく統制を取り戻したようだ。

 以上、清河の目論見の顛末。


「清河率いる浪士組と袂を分かち、試衛館一行は陰謀渦巻く京へと残った!京にひしめく尊攘浪士、不気味な動きを見せる芹沢一派、そして近藤に声を掛ける謎の男!果たして試衛館一行の運命や如何に!次回『井上源三郎の恋』!次号を待て!」


 あ、今の台詞は源さんです、俺じゃないです。

 もちろんそんな内容になりませんので、悪しからず。




 ちなみに総司の義兄・沖田林太郎は他の試衛館組とは別に、江戸に帰る事になった。

 何故一人だけ帰るのか気になって、聞いてみた。


「嵐山とか金閣寺とか見たし、もういいかなって」


 …単なる観光じゃねえか。

 余りの温度差に開いた口が塞がらない。

 総司も普通に「気を付けて帰ってね」とか言ってるし。


「京で俺達と一旗揚げようって気はないのかい?」


 俺が一応引き止めるように言うと、林太郎さんは少し考えてから、笑顔で言った。


「うーん、めんどい!」


 さようなら沖田林太郎。

 もう二度と会う事はないだろう。

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