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僕がまだ正真正銘人間であった時のプロローグ



2031年 4月8日。


世の中で学生だったら進学、進級して新学期を迎える頃、全国各地の家電量販店やアニメ関連店では異例の盛り上がりを見せていた。というのも、国内のテレビ局のみならず海外からも来ていることからだ。

彼らは店の前に今か今かと待っている客にインタビューする。その様子は主に最後尾で見受けられるが、最前列に並んだ人たちにもインタビューが徐々に回ってきた。客はマイクを向けられると興奮を露わに答えた。



「あの、あなたたちの今の心境はどんな感じですか?」




・・・・・・・「あ、はい!!!!!!」


こちらにもインタビュアーの人が話し掛けてくる。その時ちょうどスマホで(イヤフォンを付けて)音楽を聴いていたので友達の「ニナ(本名 湯川にな))」に肩を ポン と優しく叩いてもらってようやく現状を理解した。

僕はイヤフォンを外し、答えようとするが何せインタビューを受けることは今回が初めてだったということもあって口ごもる。


「どうしよう・・・・・・・・」


しばらく何も言葉を発せらない心境で困っていた時、隣にいたニナがコメントしだした。彼女もまた、他の並んでる客と同様にテンションMAXで心境を話した。・・・いや、正確には語ったと言った方が正しいのだろう。

悠々と語った彼女はこの作品「ビルド・アザーワールド」のファンであることを誇る。それはまさしく園児が初めて遊園地に行ったかのようで僕は微笑ましく思った。だからこそ僕の心は苦しくなる。何故なら、僕はこの作品の熱狂的なファンじゃないからだ。



僕がこのソフトを買いにきた理由は何を隠そう「仮想世界」について興味を持った。この一点のみ。

それもつい最近、ニナが学校を休みがちだった僕に紹介してくれたことがきっかけになるレベル。


そして再び思う。・・・・・・僕が抽選に選ばれて良かったのか。

ニナにこの世界、この作品について教えてもらった夜、家庭教師の宿題を全て終わらせて一目散にインターネットで調べて、そこに載せられていた事前抽選会に応募した。ちなみに応募する商品はソフト単体の物と仮想世界空間にダイブする為に必要とされるハードとソフトがセットになった物。この2つが抽選会に応募できるのだが、もちろんゲーム用ハードなんて持ってなかったから後者に応募した。



そしてその2ヶ月後、ゲームの大規模な生放送の中で抽選が行われた。当初の予定で決めていた数を少し多く準備できたことにより会場に集まったファン、生放送を見てるファンは大いに期待した。

それぞれネットで予約した時に出る番号をメモった紙や携帯を持って。





ドラムロールがファンを煽る中、次々と番号が発表されていく。当たったものは会場中に反響するくらい喜びの声を叫んで。また、それは例外無くだ。ここで初めて僕はファンの熱狂に驚いた。



「さて、皆さん。これでラストです!」



「泣いても笑ってもこれで最後。でも、皆んなの心が一つになった時、また再販するかもしれないからねー!!!」


「だからこれからもビルド・アザーワールドをよろしく!!!!!!」




元々この作品は小説から始まり、アニメになってゲーム化した作品なので当然アニメで演じた声優さんが出てくる。

3人の声優さんは「諦めないで」というメッセージを伝えている。


最後のドラムロールが会場の空気を演出する。ファンはメモがくしゃくしゃになるくらい手に汗握ってほんの僅かな可能性に期待していた。



「バン!!! 2597番ー!!!!!!」



主人公ナオキ役の男性声優さんがアニメの声で叫ぶ。

周りのファンはその瞬間何も言わずただ立ち尽くした。



「えー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



当たった。思わず声を出してしまう。

言葉にできない気持ちが久々に込み上げる中、僕は声優さんが居る方へ行き、サイトに書かれた自分の番号を提示して商品購入確定券を声優さんから声優さんのサインが書かれた色紙と共に渡された。そして喜びのあまりテレビでサッカー選手が点を決めた時に仲間にハグする感覚で男性声優さんに抱きついた。抱きついてしまった。

一部のファンの方は後で聞いた話だか、僕のことを羨ましい目で睨んでいたという。

僕もすぐ「やってしまった」と思ったが3人の声優さんは優しく頭を撫でてくれた。

その行為に僕は瞳から涙を流し、しばらく男性声優さんの温もりを感じていた。




・・・・・・・・これが僕と3人の声優さんとの出会い。




「おっと、罪悪感を感じていたつもりが当たった過程を思い出してしまった」



「イサキ?大丈夫⁉︎」



独り言に反応したニナは僕の潤んだ瞳をみて心配する。

この、人情深い瞬間を経験すると忽ち泣いてしまう癖は幼い頃から変わらない。それを喜んで良いのかはたまた中学3年でこういう一面があることを幼いと情けないと残念に思うのかどっちが正しいのか分からないけど、あの日あの時抽選に当たって声優さんと出会えたことは今までで一番嬉しかった。



「10、9、8」



気づけば店員、客と取材班が声を揃えてカウントダウンを始めていた。ここ周辺の人たちの近所迷惑をなるかもしれないほど声量が大きく、鼓膜が破れそうな勢いで耳を防いだ。



「3、2・・・1!」



3秒前になると皆んなの声が更に弾む。


「いよいよだね。イサキ!やっと一緒に遊べるね!」


「そうだね!ついに、ついに僕は皆んなと一緒に遊んでも良いんだね!!!」



「・・・・・・・・・・・・ゼロ!!!!!!!」


僕は涙を拭い、店がオープンしたため足早に店内へ入る。一昨日から並んでいた苦労が報われたとこの時僕たちは感動した。そして当選券を出し、お金を支払って実物を買った。

それからソフト専用のレジを見てみると無事にニナは買えた様子でとても喜んでいた。



「じゃあ、早速遊ぶために帰ろっか!」



ニナはそう言うと僕の手を強引に引っ張り駅のホームへと走った。僕はせっかく苦労して手に入れたセットが入ってる袋を抱きしめてついて行く。女子なのに握力がものすごく強く、左手の指の関節が今にでも外れてしまいそう。しかし、体力が一般的な中学3年の男子より低い自分が1人で走ったらゲームをやる時間が少し減ってしまう。



「激痛が手に走ってるけど自称100メートル10秒という中学3年の平均に留まらず、オリンピック選手と同等かそれ以上の足の速さを持つエナに手を引っ張られていた方が最小限に留まられる!」


僕はその後電車に乗り、下りた後も手を引っ張られ彼女の家まで走った。








太陽が盛んに光り出し、人々が汗を流している午後1時。

僕たちは少し遅れてランチ。

ランチはエナの手作りのサンドウィッチとコンソメスープだった。(まぁあ、即席で作ったのでサンドウィッチの具材はハムとチーズで、コンソメスープにおいては何の具材も入ってないシンプルなものなのだが・・・・)



ランチを食べ終えたら歯を磨き、数分間仮眠を取る。

その時はもう足がパンパンの上に手が痛っかたから仮眠じゃなく普通に昼寝になった。


「ふぅあ〜・・・・・・あれニナは?」


起きた時は夕方の4時。ベランダの窓を見ると太陽がさっきより西の方角にある。ってそんなことはどうでもいい。


「いない、いない、いなぁぁぁぁぁい!!!」


リビングにもキッチンにも各部屋を見回ったけどエナがどこにもいない。


「どこ行ったんだよ。もう。」


これから一緒にゲームやろうって言った張本人が居なくなっちゃうとは。買った日にできると思って今日買いに行った意味があったかどうか?という後悔が頭に過ぎる。


「これで最後の部屋。もし居なかったら問答無用で仕返ししてやる!」


ドアの前に立ち、ドアノブに手を掛ける。・・・・全然開かない。でも僕は何の不安も抱かなかった。何故なら他の部屋は普通にドアが開いたからだ。



「絶対にここでゲームしてるな」


僕はため息をつくと先ほどの布団が敷かれた和室に戻り、ゲームをプレイする為に最初から用意されたハード機のスイッチを入れ、ついでにエアコンのスイッチも入れる。そして、買ってきたハードを出し設定、接続をする。もちろんハード機にソフトを入れるのは忘れずにやった。

全て正常に作動していることを確認すると同梱のガジェットを装着し、息を吸ってこう叫んだ。



「ビルド・アザー・ワールド起動!!!!」と。











耳をすますと草が風になびかせられているかのような心地よい音が聴こえ、同時に自分の肌や髪を撫でる。

ニナの家との違和感を感じ、ゆっくり目を開いた。



「ここは・・・・・・・仮想世界!!!!!!」



ゆっくりと目を開いて見えた光景はイメージ通り野原だった。「こうも仮想世界は現実の世界の感じと遜色ないのか」と、感動してガッツポーズを決めたところで下を向くと自分の手が視界に入る。それにより僕の心は現実で味わったことのない高揚感が沸き上がり、自然とスキップしてしまう。

獣道を草をかき分け、スキップしながら喜びに浸かる僕を周囲の人は笑いながら話しかけてくれた。


「今日はこの世界の記念日。1日を有意義にする為にまずは武器屋に行こう!」



ビルド・アザー ワールドは原作と同じ設定で一から自分の手で世界を作れる。

武器を持ち、モンスターを倒す冒険へ出かけ、何も無い土地を開拓し、村や町または国を作り、そこで暮らせる。暮らすことができる。

今までのゲームのほとんどはもう世界があって決められた物が用意されていたらしいがこのゲームは自分たちの手で世界を作れるとの新鮮かつ斬新な設定で人々を魅了した。だがこれができるのは原作でも登場した「原初の聖窟」。その中に保管されている聖書と聖剣を手にしたものだけにしか国は作れない。また、「原初の聖窟」はモンスターのれべるが尋常じゃないほど高レベルである。でも僕はその設定を見た時に頭に浮かんだ。



「・・・・・・それってレベルを上げれば誰でも国を作れるじゃん!?」


素直にその瞬間はそう思った。しかし、公式サイトの「原初の聖窟」の説明文を見たら



・・・・・・・・・「なお、原初の聖窟におきましては原作の設定の通り、ゲーム内のフィールドに12箇所とさせていただきます」


率直にやる気が冷めた。これじゃ先着12名様と言ってるのと変わらないと思った。しかし「諦めてはいかん」と覚悟を決め、僕も「原初の聖窟」に挑戦する。

その為に僕は獣道を抜けた先にある「中立の初会街」

という、最初から運営がゲーム初心者に用意された場所に行く。そこには武器や防具、生活、日常用品がだ、だだーんと揃っており買うことができる。


「それはそうと昼寝している間に約束を破って1人で先に楽しもうとした猫かぶり頭お花畑女は何処だ!」


顔を引きつらせ、ため息を吐く。









中立の初会街はそれほど遠くなかった。

早速最初の目的の武器屋に一目散に向かう。今日から正式サービス開始ということもあって武器屋は大変混雑でとても人が割り込むスペースが塞がれていた。現状を見て恐らく丸々1日掛けてならばなきゃ武器は買えないと踏んだ僕は仕方なく街を歩き回る。

「ファンタジーの世界観と言えば近世ヨーロッパだよな。ああ、このプレートメイルとか実にカッコイイです!」


「おお、嬢ちゃん。それ気に入ったのか?今なら850ドリスだよー」


「え、嬢ちゃん!!!イヤイヤイヤ違いますよ。俺は男子ですよ」


「ワッハッハ。そういう設定なのかい?見た目は小学生の女の子に見えるがね〜。で、どうするじゃ?」

武器屋の横の裏路地を入って左に50メートルくらい離れた所の防具屋に来ていた。幸いにも僕以外の客は見当たらなかったので遠慮なく紫陽花色のプレートメイルを見ていたら店番のおじいさんが話しかけて来て今に至る。(まぁ、小学生の女子と間違えられたのは容姿がそう見えたからだと言っているがそれに関して触れられると自分が嫌になる)


「・・・・・・・・・高いなー。お財布にある所持金じゃ足りないよ」

お財布に入ってるお金は500ドリス。バリバリ初期金額で買いたくても買えない悲しさが込み上げてくる。

「要らないです」


「良いのかい?それ気に入ったものじゃ」


「やっぱりダメです!要ります。・・・でも今は買えないからモンスターを倒してお金貯めてまたここに来ます!」


・・・・・・・久しぶりにこんなに大声出したなー。リアルではほとんど家に引きこもっていたから人と話す機会なんて滅多に無い。


「良いよ。でもこれがその時まで残っているかは分からんが」


おじいさんの言葉に何か温かいものを感じ返答に無言の笑みで店を後にする。


店を出て空を見上げたらもう夕暮れであることに気づいた。さすがに武器不装備の状態で野宿するのは正気の沙汰じゃない。

重い腰を上げ、もう一通り宿を探しそうと辺りを歩き始めた。


「空き部屋はございません」



「満室です」



「出直してこい!」



いくつか街の宿を訪ねてもどこも満室の状態。

せっかく、脚を立たせて生まれたての子鹿になるまで踏ん張ったのになんて仕打ち。

気づいたら街はもう暗くなり静寂に包まれていた。

こうなったら街のNPCに頼める選択肢も失われる。そして自分に残された選択肢を強制的に実行しなきゃいけない。


・・・・・・野宿だ。


風が耳に当たるとキーンとするくらい寒い。許されるのなら宿に宿泊するプレイヤーから毛布を奪いたいくらいに外は寒かった。

全身は鳥肌塗れでリアルだったら風邪をひいてしまうが、幸いにもここは仮想空間。


外でというのが不安だが、ログアウトしちゃえば関係ないや。


ログアウトの仕方は至って簡単。

1、「メニュー画面を開く」


2、「ログアウト確認表記のYESを押して叫ぶ」


ーたったこれだけのこと。それに倣いスマホのズーム機能を使う時の仕草(親指と人差し指だけを広げる)でメニュー画面を開いた。そして設定からログアウトボタンを押す。

後は「ログアウト!」と叫ぶだけだが一応辺りを見回して人がいないことを確認した。

もちろん夜も深まってるので居るはずはない。

白い息を吐いてから掠れ声で叫ぶ。


・・・・・・・・・・あれ? おかしいな。


ログアウトの手順を踏んだのに反応しない。

もう一回やってみよう。もしかしたらゲーム開始初日だから不具合が生じてるのかも。

そう思って再度叫ぶ。・・・・全然反応しない!?

イヤイヤイヤイヤイヤ冗談じゃないよ。

あ!!!そうだ!きっと聞き取りずらかったんだ。

今度は大きく息を吸って腹から声を出す。


ー ログアウト ー


確かにボタンを押しながら大声で叫んだ。山の頂上に立たずとも山彦が聴こえて来そうな勢いで。


・・・・・なのに何でログアウトできないんだ!

怒りがこみ上げ、拳をレンガに叩きつけるがさすがに体力が尽きた。

アスファルトに顔面を付けて僕は寝てしまった。
















・・・・・・その後一回起きた。

しかしその場所は街中ではなく光り輝いた洞窟だった。

同時に優しそうな女の子の声が聞こえてきたような。

寝惚けてて何て言ってたか分からなかった。




「貴方に私を扱えるだけの覚悟はありますか?」



声は反響して耳の奥に届いた。そして状況がわからないままの僕に対し、現実は変化した。


そう、次の瞬間。身の前に頭が八つの化け物が現れたのだ。ショックのあまりこの後はよく覚えていない。







「ハードタイプAX01特殊変異コード起動」



面白く書くのではなく楽しく自由に書いた物こそ本当に面白い。


この精神でこれから長期連載をリスタートするので感想などで応援してくれると頑張れるので是非お願いします

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