"人"として
この作品は他の自分の作品と違い、短く完結します。
夜まで続いた決闘が終わって、僕が死体を建物の外へと運び終わるとお姫様が僕の方へとやって来た。
「お疲れ様、明日もまたあるからゆっくりと休んでくれ。大臣、彼が休めるような部屋へと案内しろ」
僕の部屋があるのかな?
休めるのか……沢山運んだから疲れたし、本当だったら嬉しいな。
「奴隷に部屋等ありません」
大臣は冷たく言い放った。
「おい大臣!では彼は何処で休み、何処で寝ろと?」
「人ならば城内へ招き入れるのですが……まだお分かりになりませんか」
ああ……やっぱりそうか。
少し優しくされたから忘れていたけど、僕は奴隷なんだ。
何をするにも許可がいて、死ねと言われればすぐに死ぬ命を持った言われた事だけをする生き物、それが僕なんだ。
石ころを家の中に入れちゃだめなのと同じ、僕が建物の中に入る事ができるのは言われた時だけ。
そんな僕が少しでも希望を持つなんておかしな事だ。
「ならば彼はどうなる!?」
「放っておけばいいのです、代わりなどいくらでもいます」
お姫様は何故か怒っていた。
大臣の言う通り、僕の代わりなんていくらでもいるのに。
「その考え自体が間違っている!奴隷などというふざけた非人道的制度を採用しているのはこの国だけだというのに!」
「そのような感情論がまかり通るほど簡単な世界ではありません」
やれやれと呆れるように大臣は続ける。
「御自分の立場を弁えてください。あなたに与えられた使命は戦う事のみ、この建物の外であなたは精々兵士達へ命令する程度の権限しかありません」
「そうか、ならば」
お姫様は僕の手を取って建物の中へと連れ込んだ。
「私が勝手にこの建物の中で休ませる、これならば文句はあるまい」
え?どういう事?
大臣が何かを言う前にお姫様はこの建物の扉を閉めた。
「この建物は私の唯一の居場所でな、何から何まで全て揃っている……父上はここから私を出す気が無いらしい」
つまりこの建物はお姫様の家ってことなのか。
お姫様が決闘の場所に使った広い部屋の床はまだ血で汚れている、拭かなきゃ。
「ちょっと待ってくれ」
僕が拭こうとするとお姫様が呼び止めた。
「今更ではあるが……君はやりたくてやっているのか?」
え……?
お姫様は僕と目線を合わせるように屈んで僕の頭に手を置いた。
「君が喋れない事は分かっている、だから無理に答える必要は無いが……嫌ならば逃げてもいいんだぞ?君は人間なんだ、それぐらいの自由がある」
人……間?
「私の生まれが違えば、奴隷制度などすぐに止めさせて君のような人間が救われるような国にするのだがな……だから、だからせめて君が喋れるようになるまででも構わない、私の側にいてくれ。守らせてくれ」
お姫様は真っ直ぐ僕の目を見て続けた。
「勿論これも逃げていい事だ」