"もの"として
以前から構想があった奴隷ものです。
今まで書いてきたものとは毛色が違います。多分。
とある世界のとある王国。
その王国は豊かな資源と強大な軍事力を持ち、事実上世界を支配していた。
多くの国が友好関係を築こうとしたが、それは全て保身やその資源目当てのためだけであった。
保身でしか国交しようとしない国ばかり、自分の国の事しか考えていなかった国王はそれが気に食わなかった。
それが原因で長い間国交を断絶していたが、ある日次の事を世界中へ向けて発表した。
「我が娘が十四歳になった時、断絶していた国交を開く!ただし同盟を結びたければ真剣を使った決闘にて我が娘を殺す事だ!もし汚い手を使った場合はその国を徹底的に滅ぼさせてもらう!」
その十年後、国王の娘は十四歳になった。
※※※※※
僕に名前は無い
正確にいうなら必要じゃない
もっと正確にいうなら必要とされていない
僕は奴隷だ、この名前も分からない国の奴隷だ。
誰かに買われたらしく今から売られて何処かに連れていかれる。
「知っているか?この国が国交を限定的に回復するって」
「ああ知ってる、でも国王様もすごいことするよな、実の娘に殺しあいをさせて国交するかどうかを決めるなんて」
僕を売った店の中で話している人達の話を聞いていると首根っこを掴まれた。
「ぼーっとするな!折角買ってやったんだからな!?」
成る程、もしかしたらこの人が僕にとって初めてのご主人様なのかな?
とにかく謝ろう。
「申し訳ありません」
頭を下げて謝ったとたんに殴られた。
「謝れとも喋れとも言われてないだろうが!次勝手に何かしたら斬るからな!お前は言われた事だけやっていればいいんだ!」
次何か勝手に動いたら斬られるのか
斬られたら痛いだろうな
痛いのは……嫌だな。
「ちょっとあんた、いくらこの国の兵士だからって刃傷沙汰は勘弁だよ?」
この店で一番偉い女の人が言うと僕のご主人様はそれはすまないと言って僕を外へ連れ出した。
気付いた時には僕はあの店にいて、「良い奴隷」になるように育てられた。
何かに対して喜んでも怒っても哀しんでも楽しんでも殴られた。
普通はそういうのを嫌な事だなんて思う……のかな?
馬車に乗せられた僕は周りの風景を見ずに真っ直ぐ正面を向いていつでも言うことを聞けるようにしていた。
もし僕が周りの風景を勝手に見てご主人様が怒ったら僕は斬られて殺されてしまう。
痛いのは嫌だし死ぬのも嫌だと思うから僕はじっとしていた。
「降りろ、着いたぞ」
ご主人様が連れてきた場所は大きなお城の前だった。
「付いてこい、そこでお前を使う方とその役目を教える」
どうやらご主人様と思っていたこの人はご主人様ではないらしい。
でも僕を使う人が変わるだけだから意味は無いな。
お城の敷地内でその人に付いていくとそこには木で作られたの建物があった。
僕は建物の事とかよく分からないけど、一階建てで中は広そうだ。
建物の中に入ると人が一人。
その人は腰に刀を差してこちらに背を向けて立っていた。
とても美しい髪をした女の人だった。
僕がその髪に見とれていると
「姫様、死体処理のためのものを用意しました」
僕をここまで連れてきた人がその女の人に言った。
どうやらこの女の人はお姫様らしい。
「ああ、すまないな」
そう言って振り返った女の人は僕を見るなり驚いたような表情をした。
女の人というより女の子といった顔をしたお姫様は僕を暫く見た後に僕を連れてきた人へ険しい顔を向けた。
「私は奴隷を連れてこいなどと言った覚えは無い、それもまだ幼い少年ではないか」
お姫様の声色は怒っていた。
怒らないでよ、怖いよ……。
「お言葉ですが幼いのは姫様もでございます」
「幼いから私に殺しあいをさせるのだろう?父上と愛人との間にできた望まれていない娘だからな私は。今考えれば都合のいい排除の仕方だ……もういい下がれ」
お姫様の言葉に僕を連れてきた人はこの建物から出ていった。
「君、大丈夫か?」
怯える僕に膝をつき目線を合わせてお姫様は聞いてきた。
でも僕は答える事ができない。
喋っていいなんて言われてないから喋った途端に殺される。
「そう怯えないでくれ……ん?どうしたんだその痣は」
お姫様が手を伸ばして僕の頬に触れた。
「わああああああぁ!」
突然触れられてびっくりした僕は叫んで腰を抜かし、その場にうずくまった。
僕は驚けなんて言われて無いのに驚いて、声を出せなんて言われてないのに叫んだ。
もう何をされてもおかしくない。
だけどお姫様はそんな僕の体を起こしてぎゅっと抱きしめた。
「何か辛い事があったんだな……驚かせてすまない」
今まで僕に触れてくる人の手は痛いものばかりで、沢山叩かれて何度も殴られてきた僕にとって抱きしめられるなんて事は初めてだった。
暖かいな……
「私は君と話がしたい。君の名前は?」
そのままの状態でお姫様は聞いてきた。
でも僕に名前なんて無い、どう説明すればいいんだろう……
「……!もしかして君には名前が無いのか?」
おろおろしているとお姫様が僕の伝えたい事を言ってくれた。
僕が無言で頷くとお姫様は腕を組んで考えてくれた。
「うーむ君の一生を決める事になるからな……少し時間をくれ。あとそれから」
僕の肩に優しく手を置いてお姫様は続けた。
「慣れないかもしれないが私の話相手になってほしい。君が喋れるようになるためにな」
もしかして僕喋れないと誤解されてる?
「姫様、時間です」
僕がどうにか誤解を解こうとあたふたしていると誰かがこの建物の中に入ってきた。
見ると立派な髭を蓄えた人とお城の兵士達がやって来た。
「……そうか」
お姫様はそっちを見た後僕に向かって頭を下げた。
「私は非力だ、君にこんな酷いことを頼むしかないんだからな」
酷い……事?
「私はこれから人を殺すかもしれないし人に殺されるかもしれない、その時に死んだ人間を建物の外まで運んで欲しいんだ」
え……?
人を殺す?
「姫様、この奴隷に頭を下げるなどという愚かな行為は止めていただきたい」
「国王に尻尾を振るだけの地位にいる人間が何を言う。大臣、早く相手を連れてこい」
僕がどういう事なのか考えているのをよそに、大臣と呼ばれた人はかしこまりましたと言って兵士達と一緒に建物から出ていき、人を連れて来た。
その大臣達が連れてきた人は腰に刀を差し、豪華な服を着ていて少し太った男の人だった。
「この僕がなんでこんな目に……!誰か!助けてくれ!」
兵士達に無理矢理連れてこられたその人は泣きわめきながら助けを求めていた。
どうしたらいいか分からず、お姫様の方を見ると
「暫くの間目を瞑って耳を塞いでいてくれ。大丈夫、私は絶対に生き残る」
それってあの泣いている人は生き残らないって事じゃ……
「だから安心してくれ。少し変かもしれないがな……さあ、目を瞑って耳を塞いでくれ」
お姫様は優しい人なのだろう、奴隷の僕なんかにこんな接し方をするんだから。
でもそんな人が人を殺す?
もしかしておかしい事……ってわけじゃないのかな?
とにかく僕は言われた通りに目を瞑って耳を塞いだ。
四作品同時並列で書かなければ……。