(幕間) わたしの先生
遅くなりましいた……。
今回はセリフが一つもありません。
わたしの名はヤノイ!
え、変な名前って?
失礼な!!ゲームのキャラクター名は自由です!四時間ほど掛けて考えた名前です!
それにわたし以外にも変な名前の人はいます!たとえば、タキさんです!なんでタヌキのタではなく、ヌを抜いたのかわかりません!あと、クァル先輩は名前の発音が難しくていつも怒られます。カルでいいのに………。前に、カル先輩って言い続けてたら、鬼みたいに厳しい訓練をやらされました。でも、その日はよく眠れました!
コトミ先輩とタキさんに怒られていたのを見てスッキリです!帰ってきた時、オーバーに演技をしたかいがありました!
でも、ギルドマスターのメリサ先生にはバレてて、少し怒られました。
さすがギルドマスター!
ところで最近、ギルドホームに変な人がいます。ギルドメンバーでも、売り込みにくる商売人でもありません。とてもメリサ先生と仲がいいように見えます。恋人でしょうか?
週に数回ほど来ては一緒に訓練をやっています。
スゴいんです!メリサ先生の恋人さんがいると訓練が効率的(?)らしくて、疲れるけどレベルが早く上がります!カル先輩とは段違いです!
ご飯がおいしい!
恋人さんの名前はイズナといいそうです。普通な感じの名前の、強くて厳しい人です。でも、訓練中以外だと優しくて、まさにいい人です!メリサ先生からもお人好しと、よく言われています。
イズナさんがいるとメリサ先生はいつもより笑っていて、とても楽しそう!
恋人さんですか?って意を決して訊いてみました!
………違ったようです。メリサ先生は満更でもない様子でしたけど、イズナさんが断固否定していました。
お似合いなのに………。
わたし、気づきました!メリサ先生がときどき一人でいなくなっているのは、イズナさんを探しているからです!コトミ先輩に訊いたというのは内緒です!
なんで探しているのか訊いてみると、いつも一人ぼっちだから心配なんだって。一人ぼっちは寂しいのに………、どうして?
みんなを守るれるくらい強くなるためって教えてくれたけど、わたしはみんなで強くなったほうが効率的(?)だと思います!でも、イズナさんには何か理由があるみたいです。メリサ先生も知りませんでした。
あわ~~~……。
怖かったです……。初めてPKに遭いました。レベルが上がって思い上がってたんです。イズナ先生みたいに一人でも行けると思って、クァル先輩とタキさんから離れてモンスターを追いかけたら怪しい人達に囲まれてしまいました。怪しくない、紳士なお兄さんとか自称する人ほど怪しい人はいません!レベルはわたしより低いですけど、囲まれては太刀打ちできません。
即刻、逃げます!けど、囲まれているので逃げ道がありません!
どうしよ!どうしよ!?………一人でも多く道連れに。
──無理!!わたしには人を殺すことができません!こうなったら潔く殺されるしかないんですか!?絶望的です!
そのとき、後ろから人の倒れる音がしました。仲間割れ?
違います!イズナ先生です!
イズナ先生は怒ったような無表情でPK達を倒していきます!
イズナ先生に勝てないとわかって、仲間を盾代わりにして逃げていく人がいます。でも、すぐにイズナ先生が捕まえてしまいました!速業です!
イズナ先生が一人で行動しているのは、裏切られるのが嫌だからかも。でも、わたしは思います!もしそうなら、平気で人を裏切る人のはずです。そんな人にメリサ先生があんな笑顔を浮かべるはずがありません!
でも、PKを倒したときの表情が気になって、コトミ先輩に訊きました。
悲しいお話しでした。イズナ先生にいろいろな技術を教えてくれた師匠の人達がある日、武具を狙ったPK達が襲ったそうです。近くにいたイズナ先生はすぐに駆けつけたけど、大人数のPKに邪魔をされて助けることができなかったそうです。
だからPKが許せないそうです。
わたし、気づいてしまいました。今度は誰にも訊いてないです!
イズナ先生は笑わないんです。いくらメリサ先生が楽しそうにしても、ギルドが賑やかでも愛想笑いです。心から笑ってません。なんで?ってみんなに訊いてみたけど、みんな知らないようです。メリサ先生に訊くと、絶対に直接訊かないように言われました。謎が深まります!
最近、気になっていることがあります!それはズバリ、イズナ先生の隠された右目です!いつも長い前髪に隠されているので見えません!質問にはなんでも答えてくれるから、教えてくれるはずです!
──なんとっ驚きました!!そういうことだったんですか!また一つイズナ先生の謎が解けました!
え、なんだったのかって?
秘密です!
やって来ました、100階層!!今日で時計塔イベントをクリアして、このゲームともおさらば!
イズナ先生が言ってくれました、わたし達なら大丈夫と!
イズナ先生はあとから来てくれるそうです!きっと大切なことをやって来るんだと思います!
わたし達は強くなりました。最前線組よりも少人数なのに強いんです!
なんで最前線組と一緒に戦わないのか質問したことがあります。
最前線組と一緒だと戦いにくくて、危ないからだそうです。簡単に言ってくれましたけど、よくわかりませんでした。でも、最前線組と一緒になってしまってわかりました。
邪魔です!ものすごく邪魔です!最前線組の戦い方は数人を囮として、安全圏から残りの人が攻撃するというものです。
あの人達は変です。目に光がなくて死んでいるようで、指揮されるがままに前衛に出てきてモンスターに殺されていきます。
イズナ先生が来てくれました!負ける気がしません、勝てます!そう思ったけど難しそうです。だって本当に邪魔なんです。わたし達は一度モンスターの攻撃範囲の外に退きました。メリサ先生は帰ってから準備を整えてもう一度挑むつもりみたいですが、イズナ先生が否定して一人で行ってしまいます。
無理です!だってモンスターは1200レベルなんです。ぶつぶつと呟いても状況は変わりません。ここはみんなでサポートです!
なんでか、怒られました……。あれ?イズナ先生のレベルが一気にモンスターとならびました。武器が雨みたいに降ってきて、モンスターの武器を破壊します!スゴいです!いえいえ、ここからがもっとスゴいんです!
消えました!見つけました!消えました!みつっ、消えました!目で追うことができません!白黒と青色の光が飛び交います!いろんな武器がモンスターに向かって飛んでいきます!
やった、倒しました!さすがイズナ先生です!
あれ?怖いです!!逆さま骸骨が喋ってます!?
わたしはこのあとのことを忘れません。イズナ先生に殺されたときのことは、今でも脳裏に焼き付いています。
メリサ先生が自分のお腹に白い刀を突き刺して、イズナ先生が首を斬り落としました。続いてコトミ先輩とクァル先輩。ついに、わたしにもその刃は向きました。
わたしは知っています、イズナ先生がためらいなくPKを殺したことを。だから、自分が生きるために、わたしたちを裏切ったんだと思ったんです。
………とてもとても怖いです。怖くて身体が動きません。
──見ました。わたしは、イズナ先生がとても苦しそうに泣いているのを見ました。そこで急に眠くなって、意識が途切れました。
目が覚めてわかりました。気づきました。知りました。教えてもらいました。
もう一度目が覚めて怒りました。わたしたちはみんなで泣きながら怒りました!たくさん激怒です!
みんなで怒って、みんなで考えました。
決めました!わたしたちはこの新しい世界を恥ずかしくない、誇れる世界にします!胸を張って自慢するんです!
だって、きっとイズナ先生は、また遅れてくるから!
わたしの先生はスゴいんです!
今回は本編で少しだけ出てきたヤノイの話でした。
ヤノイの私感でおかしな所があります。