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ダークネスライト  作者: 京 ゆう
序章 ゲーム世界幽閉
7/42

生と死の殺戮

「あの時の二人の顔はいつ思い出しても笑える!コトミなんてあわあわ言って、メリサは目を見開いて変な笑顔で俺の肩を何度も叩いてきたっけ。地面に埋まるかと思ったわ!」


「忘れてよイズナっ!思い出したくないの!」


「あんなの見て落ち着いてられるほうがおかしいってぇ!目隠ししてるし、スキルもレベルもぉ」


「コトミ先輩、今の話しも含めてイズナ先生について詳しく!」


「おい、コトミ………」


 俺から振った二年も前の話しだが、ちょっと失敗だ。

 気になったら質問攻めにしてくるヤノイが食いついてきた。

 なんとか、誤魔化すか………。


 草原都市と呼ばれる時計塔九十八階のサービスエリアにあるギルドの部屋で、一つのテーブルを十数人が囲む。

 メリサのギルド〔白の女神〕は、俺がメンバー育成を手伝ったことで小規模ながら個人と集団の実力はどこよりも高くなった。が、そのことを知っている人は少ない。

 何故なら最前線組に引き抜かれないように、隠しているから。

 時計塔をクリアして行くなかで最前線組を仕切るアギリの権力が強くなり、強制ではないが強引に参加させられる。

 レベルで判断してそんなことをするから戦闘経験が足りなくて、時計塔で犠牲が出るんだ。それで人数合わせの新人は連携がとれず、すぐに倒れる。

 そんな連鎖は今日までだ。


「俺は教えれることは教えた。お前らはやれることをやった。二年間の成果見せて来い!」


「ええっイズナさんは来ないんですか!?」


「んなわけあるか、イズナは来る。用事があるんだろ?さっさと準備だ」


「ほらほらレイネ!」


「あ、タキ待って!ヤノイもいこっ」


「イズナ先生、待ってまーす!」


 賑やかな部屋を準備が終わった奴から外に出ていく。週二回の付き合いだったが、俺はこのギルドの一員のようになっていた。ようにってのは、正式には入ってないからだ。


「わかってるな、カル!用事を終わらせてすぐに追いつく!」


「クァルだ!急いで用事終わらせて来ないと、俺達だけでクリアするからな!」


「それくらいやる気で行けよ!」


「そうそう、イズナに頼ってばかりいられないって!」


 コトミに続いて最後に俺とメリサが外に出る。

 二年間、俺と噛み合わなかったり、言い争いの喧嘩をすることもあった。それが良かった。俺一人じゃ考えられなかったことを思いついたり、いろいろと考えさせられたりした。

 より強くなることができたんだ。


「待ってるから、イズナ♪行ってきます!」


「なんか変な感じがするが、行ってらっしゃい!また後で!」


 メリサ達、ギルド〔白の女神〕と俺は反対方向に別れる。

 メリサ達は隠していた力をフルに使って最前線組と一緒に時計塔イベントクリアを目指す。

 そういえば時計塔が百階までってわかったのも二年前だったか。

 俺は一度時計塔一階に戻り、そこから誰も知らない地下に入る。

 ソロプレイ専用で1つの階に一人しか入ることができない。しかも強さは地上よりも強いと鬼畜な設定だ。

 今から地下百階の、最後のボスを倒しに行く。

 地上のことは心配していない。メリサ達全員の力なら誰にも負けない。どんなモンスターだろうと勝てるだろう。だから俺は心置きなく戦える。


「時を司る者クローズクロック、レベル760……か。早く終わらせて上に行こう。心配はなくても不安はあるからな」


 巨大なアナログ時計に機械の頭と手足を生やした姿で、右手に二本の指針を、左手にこれまた巨大な歯車を持っている。剣と盾を使うのか?見た目速く動けるようには見えないが、油断は禁物だ。

 時計の外見から考えてそれなりの能力があると考えたほうがいい。


「最初から全力で行かせてもらうぞ!」


 右手に血を吸ったような妖しい輝きを放つ妖刀朱月。

 左手に、拳銃の銃口下の離れた所から手元のほうに沿った長いの蒼い光の剣が一体化した、一見両刃の鎌がついているような銃、銃剣蒼魔。

 神話級のそれらを強く握って構える。カチッカチッと時を刻む音が耳に響き、合わさった鼓動が鳴る。


「〔リミット〕解除、防御に〔リミッター〕発動、〔カウント・オール〕開始、〔障壁〕展開、ライフを犠牲に……〔バーサク〕発動っ!!」


 上に待たせてる仲間がいるんで、様子見なんてせず最初っから攻める!

 それに……。こっちは〔バーサク〕で能力が上がる代わりに、徐々にライフが削られるから時間がないんだ!


「……!?っは!!」


 一瞬身体が遅くなる感覚があったが、無理やりに取り払う。

 振り下ろされる指針の合間を縫って正面から股を抜け、その瞬間に両足を切断。

 倒れる背を駆け上がると同時に両肩、頭の順で斬りつけ、そのまま蹴って空中に跳ぶ。


「最後に胴体だっ!!」


 落下しながら銃を連射。

 そして終いに、斬り刻む!

 着地すると煙を上げて爆発しそうなモンスターから跳び退いた。

 ガタガタ音をたててるし、終わりだろう。トドメに一撃いれとくか。


「今楽にしてやるぞ」


「………ピッ」


「っん!?まだか!!こんな簡単には終わってくれないよな!」


 時計の部分だけが起き上がって何をするんだ?まさか時間を巻き戻して復活とか?

 面倒だ。おかしなことをされる前に潰すか。


「……ピピッ、時計塔地下イベント〔時に刻まれたもの〕をクリア。二分の一の達成を確認」


『認証しました。おめでとうございます。〔時に刻まれたもの〕のクリアにより死亡者が全員蘇ります。更に歯車を一つ稼働させます。クローズクロックのタイマーを設定。……完了。間もなく開始します』


「………よみ、がえる?」


 死亡者が蘇るって言ったか?

 じゃあ………マガタも☆々もミントさん達もみんな?

 ………サカマとアカサが蘇るのか?

 ………いや、考えるのは後だ。このゲームをクリアしなければ、また死んでしまうかもしれない。


 何が起ころうとしてるんだ?

 クローズクロックと地面から声が聴こえて、歯車の噛み合う音が空間に鳴る。

 嫌な予感しかしない………。

 クローズクロックの胴体だけが修復され、武器だと思った歯車と指針が組み込まれた。

 天辺に揃った針が動き始める。


「ピッ…カコ。今より三十分後に、時計塔を破壊。イベントを終了します。クローズクロック、開始」


「っ!?急がないと!!」


 唐突に何かが発生するのには慣れた。立ち止まらず、行動しながら考えればいい。

 現れた転送装置で地上一階へ、そこからアイテムを使ってギルドに移動。んで、九十九階へ!


 その間に情報の整理だ。

 地下イベントをクリアしたことで死亡者が蘇る。

 ゾンビとしてじゃなければ、問題ないからこれは後でいい。

 歯車が一つ稼働ってのも、意味がわからんから後だ。

 問題は……三十分後に時計塔が破壊され、イベントが終了すること。

 イベントをクリアできなくなる。けれどログアウトするにはイベントのクリアが必用。

 これが意味するのは………残り三十分以内に百階のボスモンスターを倒してクリアしなければ、ログアウトできなくなる!?


「まずい、クリアする順番間違えた!!」


 地下は隠しイベントだから、本当は地上が終わってからのはずだったんだ。それを俺が先にクリアしてしまった。

 普通ソロでこんなとこ来てもクリアするのに地上の倍はかかるよなぁ!

 あいつらだけでボスを倒せていたらいいが。さっきのモンスターと同じなら実力的には勝てるはずだ。


 ………はずだったが、これはどういうことだ?

 モンスターのいない九十九階の歯車の階段を登って来た百階。そこではギルド〔白の女神〕と最前線組がモンスターと戦っていた。

 アギリの指示のもと白の女神のメンバーを盾にする形で。

 ギルドメンバーはメリサの指示で連携を取ろうしているが、最前線組が邪魔をしている。

 更に敵が最悪だ。


 剣に槍に斧、拳銃に散弾銃に狙撃銃、他にも人よりも多いいくつもの種類の武器が空中を浮遊する。

 誰も近寄ることを許さず、広い空間の奥に立つ巨大な人影。ボロボロで穴の空いた漆黒の布から覗く、ひび割れた骸骨。黄昏色の右目、左目を覆う錆び付いた歯車が血を流し、異様に白い骨の腕が伸びる。


「……レベル1200、死を司る者メメントモリ。………死の象徴か。最悪の敵に最悪の状況。白の女神のメンバーは強いから欠けてはいないが、いつまでもつか」


 最前線組は今も減っている。個人が個人を邪魔して、時には言い争いが起こっていた。

 ………こいつらはここまで上がって来る間、何をしてたんだ!

 まさか、最初の頃と変わらず犠牲を何人も出して、人を入れ替えるだけで連携も何も学習せず来たのか?


「呆れた………」


 何も言わずに帰りたい。メリサ達と時間制限がなかったら、即帰ってる。

 こんな奴ら助ける価値を見出だせない。

 それでも仕方ない。

 攻撃と人を避けながらメリサのもとへ駆ける。

 ギルドメンバーのサポートもしながら戦うメリサはかなり辛そうだ。


「苦戦してるな、メリサ」


「最前線組とアギリは好きになれないの。イズナは好きだけどね♪」


「そんなこと言えるなら余裕だろうが、全員下げてくれ」


「ここまで相手にされなかったら逃げるのも手ね。わかった」


「俺がサポートする。はぁ………全員下がれーーーっ!」


 メリサ達さえ逃げてくれればいいんだが、最前線組が邪魔なんだよ。

 どうやらモンスターは離れて攻撃しなければ安全のようだ。


 俺の声にギルドメンバーは全員即座に下がる。最前線組は数人が戸惑いつつ下がろうとするが、近くの奴やアギリが邪魔をする。

 本当に虫酸が走る。

 俺のことを知らないから無視して戦うのはいい。俺の判断を信用できないのはわかるから。

 だが、自分の命がかかった判断を、あいつらは何の権限で縛ってるんだ?こんな戦場の状況を判断して、ボスを倒すには、生き残るには、と考えてる奴らは構わない。が、狂ったように戦い、死にに行こうとしてる奴らが、生きようとしてる人を邪魔している。


「メリサ、俺はアギリを一発殴ってくる」


「気をつけて、イズナ」


「大丈夫、外見は変わってなくても俺は昔とは違う」


 壁際までメリサ達が移動したのを確認して、一番安全な所から指示をだして銃を撃ってるだけのアギリの所へ急ぐ。


「おい、全員下げろ!最前線組が全滅するぞ!」


「突然現れて何を言ってるんだ?君こそ彼らを戻して戦いたまえ!見てわかるだろう、戦力が足りてないんだ!このままでは君の言う通り全滅する。それでも、恐れて逃げていてはいつまでたってもログアウトできないんだ」


「なら、なんであんたは前線で戦わない?」


「俺が死ねば指揮する者がいなくなり混乱する。俺は最後まで生き残らなければならないんだ。俺が指示しなくてはより多くの奴が死ぬことになる。俺が指示通り戦えば、モンスターを倒して、前に進めるんだ!俺が希望だ、光なんだ!」


 つまり、早くログアウトしたいから他の人を殺してでもクリアする、と言ってるのか。

 そして、騙して、クリアしてきて、祭り上げられて、思い上がって、己惚れて……。希望の光ときたか。

 どうやら俺のことは覚えていないようだけど良かった。こんなグズになんて、覚えられたくない。


「君も、君の仲間も逃げずに戦え!でないと君達はこれからずっと、負け犬と呼ばれるだぉっ――!?」


「負け犬で結構。仲間を守れないより、全然良いさ。それに、あんたが希望の光というのなら……、俺は絶望の闇にでもなって全部ぶっ壊してやる」


 俺は昔とは違う。友達も仲間も他人も、犠牲にしないために強くなったんだ。もう、生き残るために仕方がないと言い訳し、後悔しないために。

 こんな奴の話しに付き合ってる暇はないんだ。刻一刻と時間は過ぎている。説得できないなら、あんたは邪魔だ。


 言葉を詰まらせて、アギリの頭が舞い上がった。

 迷うことなんてない、覚悟を決める時期なんてずっと昔に終わった。

 血の滴るそれを掴んで高く挙げる。

 負け犬、人殺し、なんて言われようと仲間は守る。そのために俺は強くなった。俺の大切な人達には、神の決めた運命だろうと触れさせないために。


「アギリは倒れた!これから俺が指揮をする!全員、下がれーーっ!!」


 突然、アギリの頭を掲げて叫ぶ俺に従わない者は当然いた。それでも指示されなくては戦えないような奴らだったから、戦いに狂った奴ら以外は下がってくれた。


「イズナ、どうするの?………逃げるんでしょ?」


「メリサはお見通し、か。嘘が通じないな」


「駄目、逃げるよ!勝てない!」


「そうだよ!メリサの言う通りだって」


「イズナ、いくらお前が強くても一人じゃ無理だ!」


 俺は嘘が下手なのか、全員が何をしようとしてるのか見破っている。そして心配して、俺を止めようしてくれてる。

 本当に良い仲間に出会えた。


「ありがとう!」


「一回戻って対策を考えれば勝てる!ね、行こう!」


「悪い、……あと二十分」


「え?」


「俺が一人で攻略していた時計塔地下イベントをクリアしたんだけどさ。攻略するの早すぎたみたいで、二十分後に時計塔は無くなって、ログアウトできなくなる。今倒すしかないんだ。今度で飯食べに行こう!」


「………うん、勿論、イズナの奢りね!」


「ああ、いいぞ!」


 って、ちょっと待て。俺はリアルでもメリサに引きずられるんじゃないか?

 ………それも悪くないか、おかげでみんなに会えた。

 懐かしい思い出に浸りながら、モンスターのギリギリ攻撃範囲外から準備を始める。

 武器をボックスに納めて両手を空け、スキルを発動させる。


「〔リミット〕完全解除、防御に〔リミッター〕発動、〔カウント・アタック〕開始、〔障壁〕を任意展開」


 本来レベル差をなくすための〔リミット〕を戦闘の感覚を掴むために常に発動させていたが、完全解除する。

 オリジナルスキル〔リミッター〕で、防御値を下げる代わりに他の能力値を上昇させる。

 敵の武器に攻撃するたびにカウントし、溜まるとその武器を破壊する〔カウント・アタック〕の開始。

 障壁を俺の意思した場所に展開できるようにする。

 強くなると力を求めてから今まで、一度も開放しなかった力。身体が軽い、呼吸が必要なく感じる。些細な空気の流れや音、周囲の動き、地面の揺れがわかる。意識すればみんなの動きがゆっくりになる。俺だけ違う世界にいるようだが、正面のモンスターもいる。

 さっきまでの焦りも苛立ちもすっと消えて、周囲が騒がしいのに頭の中が静寂に包まれていて思考が加速している。

 これは………違和感が半端じゃない。


「ボスと同じ、レベル……1200。でも、手数が足りない。……私も」


「メンバー全員で、サポートする!」


「動くな!邪魔だ。メリサ、みんなを頼んだ」


 一歩進むと黄昏色の眼が向く。

 骨の腕が伸ばされ、武器が襲ってくる。

 これ、怖いな。

 前から来た武器をかわしたと思えば、背後とか左右からの攻撃に加えて銃による遠距離攻撃。

 クリアをさせない設定としか考えられないだろ。


 気配察知スキルの〔心眼〕がなかったらボスモンスターに近寄る前に死んでたかも。目隠し戦闘で熟練度上げてて良かった。


「お前で最後だし、もう隠す必要はないか。てか、対抗するには使うしかないし。………〔武双乱舞〕! !」


 戦いに狂った奴らが全員倒れ、狙う対象が中央の俺一人になり武器が囲む。


「ちょうどいい」


 おっと、思わず口が緩んでしまった。

 仕方ないだろう……、周囲を漂っていた武器が狙い道理、見事に落ちてくるんだから。


 あるものは斬られ、あるものは貫かれ、あるものは砕かれ、あるものは地に叩きつけられる。それは武双乱舞によって落下してきた武器によるもの。

 それでもいくつかの武器が残ったがそれらの攻撃は通らない。

 何故なら、障壁と俺の周囲を浮遊する剣が防ぐからだ。

 〔武双乱舞〕は、まず上空から広範囲に武器を展開させる。その数、百の武器が降ってくるため逃げ場のない広範囲攻撃としても使え、二つ限定で武器を任意で操れるスキル。

 更に降ってくる武器を強くすれば、敵の防御だろうと武器だろうと破壊する回避不能の攻撃。

 いくつか残ったのは武器が当たらなかったか、そっちが強かったか。まぁ、そんなのどうでもいい。障壁と剣で防ぎつつ、銃弾を当ててカウントを稼いで破壊だ。


「どうした、武器が全部破壊されて動揺してるのか?」


 地面に転がる壊れた武器。それらを踏みながら迫る俺に、表情のないはずの骸骨が歪む。

 俺が降らせた武器はほとんどが神話級最上位に値する、幻想級に届こうかというものだ。敵の武器が幻想級ばかりだったらヤバかったが、幻想級がそんなに揃っているわけないよな。


「………ヨクゾ、ココマデ来タ。強者ヨ、全力ヲ持ッテ、我ニ挑ムコトヲ許ソウ」


「偉そうに言いやがって。………無駄口はいい、最初からそのつもりだっ!!」


 叫び、両手の銃を乱射。俺が作った特殊弾が空になったら投げ捨て、近くの地面に突き刺さっていた剣に持ち替える。


「どこに持ってやがったんだ?そんな大鎌」


 大鎌というか巨大鎌により銃弾は容易に弾かれた。

 銃を撃っただけで倒せるとは思ってなかったが、なんてものを出してくるんだ。


「カウントが溜まらない、破壊不能か」


 しかも幻想級。

 持ち手まで刃の巨大鎌を小枝の如く振るい触れることを許さず、俺が高速で駆けて振るう二つの剣も、操る空中を舞う二つの剣をも弾く。


 斬りかかっても撃っても防いでも、薙ぐ鎌に全て吹き飛ばされる。それでも攻撃はやめない。

 剣が弾き飛ばされれば近くの刺さった剣を使えばいい、弾が無くなれば次の銃を使えばいい。


「まだ諦めてたまるか!」


 いつでも殺せる、と嘲笑うような攻撃ばかりしやがる。

 俺が地面に這いつくばって無駄な攻撃を繰り返す姿を見ながら時間を潰しているつもりか?


 十五分後には終わる。敵のたった一撃に当たれば終わる。俺が死ねば終わる。なら限界まで全力を。死ぬまで目を開けて戦ってやる!


「ライフを犠牲に〔バーサク〕2倍発動!」


 〔バーサク〕によってライフを削られ十五分後に0になる。倒せなければ俺は死ぬ。

 相討ちになろうと、倒してやる。


「本当はこれを使いたくなかったが………。メリサ、最弱最悪じゃなかったぞ。見てろ、これが本来の双神刀影灯だ」


 手に持っていた剣を地面に突き刺して両手を前に伸ばすと、二色の仄かな光に包まれて二本の刀が現れる。

 闇をも断ち切る純白の刀を左手に。光をも断ち切る漆黒の刀を右手に。

 背に二丁の銃剣蒼魔を浮遊させ、静かに構える。


 一呼吸し力強く駆け出す。初速からさっきまでの倍以上の速さで斬り込む。が、擦り傷を付けたところで防がれた。

 急な変化に反応が遅れた敵は危険を感じたのか、構えを変える。

 この刀を使いたくなかった理由はスキルにある。ゲームの設定通りなら存在しないはずのスキル。それを発見した時、こんなものがあっていいのかと目を疑った。


「スキル〔影〕と〔灯〕を使用。瞬きするなよ?できないだろうが。………っ!!」


 離れた場所から純白の刀を薙ぐと、そこから真っ白な光の斬撃が飛んでいく。

 モンスターは鎌で破壊すべく振り下ろす。


「光を斬れるわけないだろう」


 斬撃は膝に当り、切断できなくとも膝を着かせた。そこへ斬撃の後を走っていた俺が二丁の銃剣蒼魔で骸骨を斬り上げる。

 当然モンスターは鎌を、今度は振り上げ俺を斬ろうとした。が、刃は横を通り、空振りに終わる。

 銃剣が二本の深い溝を骸骨に刻み、後退してモンスターの目線の空中で止まる。


「どうした?何をされたかわからないってか?」


 鎌が振り上げられる前に俺が漆黒の刀を振り上げ、地を這う影の斬撃で軌道を変えた。それだけだが、モンスターは巨大故に死角が多く、気配の無い斬撃に何をされたかわからない。


「まだだ、行くぞ!」


 障壁を足場に空中での行動を可能にし、立ち上がる隙も与えず斬りかかる。

 いくら巨大な鎌を小枝の如く扱えようが、本体が遅ければ関係ない。硬い骨だろうと状態異常〔弱体化〕を刀に付与して何度か斬れば断てる。


 光や影の斬撃を飛ばす、まるで魔法のようなスキル。さらに〔防壁〕スキルを変化させて足場に応用したり。今のところ使い道がないスキル合成ができる。もともと攻撃スキルのなかったゲームにはあり得ない、チートスキル。


 そしてこの双神刀影灯は一本の大剣でも刀でもなく、二本の刀。それぞれに分けることで相殺する能力が無くなり、本来の能力を発揮する、最強最高の刀。純白の刃と、サカマとアカサから貰った漆黒の刃を使って、分けることができた。


「素早キ強者ニ呪イヲ」


「呪いとか、無駄だ!」


 骸骨の口が開き紫色の煙りが吐き出された。煙りならば防げず、脚が速かろうと関係ないと考えたんだろう。呪いなんてこの刀の前では無意味だ。


 まったく変化を見せない俺に呪いが効いてないと気づき、膝を着いたままに姿勢を低くして鎌を振り回す。立っている時より死角は少なくなるが、動きが制限される。


「このまま行かせてもらう!」


 骨が硬くなったからって意味はない。

 鎌の攻撃を防壁と斬撃で対処し、二丁の銃剣と二本の刀を駆使して地面と空中で攻撃する。時には銃剣から剣に替え、地面に突き刺さっていた武器を操ってモンスターに放つ。


 戦闘に集中しているからか、双神刀影灯のおかげか。いつもより冷静で速く行動でき、武双乱舞で武器を手足のように操れる。


 白と黒、蒼の光の線を引きながら攻撃する俺の姿を目で追える者は誰もいなかった。三色の光と様々な剣と銃が雨のように飛び交い、モンスターの欠片が舞う。

 それからすぐにモンスターは崩れ落ち、残骸となった。


「はぁはあぁ……っ残り十秒。危なかった………」


『死を司る者メメントモリの討伐を確認。時計塔イベント〔避けられぬ死〕をクリア。認証しました。おめでとうございます。〔避けられぬ死〕のクリアによりログアウトを可能にします。更に歯車を1つ稼働させます。二つの歯車の稼働を確認。これより二十分後に時計塔及び世界の破壊を開始します』


 やっとこの世界を出て、リアルに帰れる。全員がそう思った。

『どういうことだ?』『帰れるんじゃないのか!?』

 スキルを全て解除し、疲れきった俺の耳に届いたのはそんな声だった。

 俺に近づく複数の足音に背後を振り返ると、涙を流しながらに満面の笑みを浮かべるメリサがいた。他のみんなも面白い顔をしている。


「イズナ、お疲れ!」


「馬鹿みたいな顔だぞ、メリサもみんなも!」


「いつものイズナだ!」


「いつものバカイズナだね!」


 安堵した様子のクァルとコトミがアイテムを使って回復させてくれた。

 ライフも体力も回復して落ち着いた俺は改めて周囲を見る。

 確かにログアウトが見つからない。ログアウトは可能になったはずなのにできない。混乱するのも当然だ。


「ッ、ツつ………強者よ。選択肢を与えよう」


「な、こわっ!!?」


 残骸のなかで逆さまになった骸骨が口を開く。聞き取りやすい言葉に違和感を感じつつ、数歩前に出る。

 巨大な骸骨が逆さまで喋るってなんだ?いろんな意味で恐いから!

 周囲が『まだ生きてたのか!?』『今なら倒せるかも』とか騒いでいるが、倒したのは確実。ならこいつには役割がある。


「選択肢?」


「他者を犠牲に、自分一人が生き残るか。自分一人が犠牲になり、他者を生かすか。選びたまえ。さすれば方法を伝えよう」


「なんだそんなことか、決まってる」


 みんなを犠牲に生き残るなんてあり得ない。俺一人が犠牲にみんなが助かるのならば、それを選ぶ。


「………っそうか」


 言葉を詰まらせた骸骨は、まるで俺の心を読んだかのようにその方法を頭に伝えてくる。その方法を俺は躊躇ったが、すぐにそんなものなくなった。

 これがみんなを救う方法ならやるしかない。

 残り二十分で、この世界ごと俺達は死ぬんだから少しでも可能性があるなら。

 持ち手まで刃の巨大な鎌が小さくなって俺の前に立つ。それの持ち手ではなく、刃を迷いなく握った。


「イズナ、生きてね♪……んっ!!」


「え?お前、なにやって………っメリサ!?」


 近くにあった純白の刀を手に取ったメリサは自分に突き刺した。

 血を吐きながら深く深く、根元まで刀を突き刺した。

 俺に微笑みながら、そうしたメリサに全員が唖然とする。

 そのなか俺はすぐにメリサの意図を理解した。

 けど──


「ありがとう。ごめん………」


 それじゃ駄目なんだ。

 血が赤の装備を更に赤く染め、純白の刃を血を流れる。

 目の光が弱くなるメリサに歩みより、大鎌の柄の刃で首を斬り落とした。

 ぼとりっと落ちた頭が地面を転がって足下に来ると、力の抜けた身体が倒れる。

 涙で霞んでいたが最後までメリサの顔は微笑んでいた。


 俺の行動に当然、武器を構える者や叫ぶ者、泣き崩れる者がいた。

 例外としてコトミとクァルは、メリサと同じように自らに武器を突きつけている。


「お前だってこうするだろ……っ!!」


「今までありがとっイズナ……っ!!」


「ごめん、メリサを頼む」


 二人が迷いなく自らの武器を突き刺したあと、首を斬り落とした。

 切り口から飛沫が上がり、血の雨が降る。

 生暖かい血が涙と混ざり、頬から滴り落ちる。


 俺がもし逆の立場なら、一人を犠牲に生き残るなんて考えない。誰かを犠牲して得た生に意味はない。

 同じように自殺するだろう。自らを突き刺すのはかなり苦しく、激痛だ。だから俺が楽にしてやる。


「ま、まって………ぁっ!!」


「イズナ先生っ!?」


 俺は狂人の如く、殺人鬼のように首を刈っていく。

 二年間一緒に過ごした友達と仲間を、初めて会う人を殺していく。

 肉と骨を断つ感触が手に伝わる。

 俺はこれを一生忘れてはいけない。

 たとえ、みんなを救うためだとしても。


 死んだ人の身体は光となって消え、新たに人が現れる。

 部屋から逃げることはできず、俺に挑む者もいたが、かすり傷一つ負わずに返り討ちにした。

 俺以上に強い奴はいなかったし、俺が殺されるわけにはいかなかった。


 けれど、叫びが絶叫が悲鳴が憎悪が、人を斬ることで嗚咽する俺の心に刻まれ、心を斬り裂く。

 いっそ、感情なんて無くしてしまえば楽だろう。

 だが、それは駄目だ。そんなの殺人鬼か殺戮兵器だ。死ぬ時まで、俺は人で在りたい。


 何人殺しただろう。

 その中にはサカマとアカサも、出会った様々な人がいた。

 本当に生き返ってた、良かった………。

 さっき殺したアギリまでいたが………。

 そんな感傷に浸る暇はなく、殺戮を繰り返す。

 部屋は光に満たされ、人より死体が多くなった。

 踏み場が無いため障壁を足場に、ひたすらに大鎌を振るって人々の命を刈り取っていく。

 広い部屋の中心で一人、俺は上を向いた服も身体も髪も顔も血でべっとりと濡れているが、両目の下は涙の筋がくっきりと残っていた。


「みんな、幸せに!………さよならだ!」


 カチッという音の後に時計塔の鐘がなった。

 床や壁、天井のいたるところにヒビが走って物音を立てる。

 ガタガタと揺れて天井が落ちて空が見え、壁が倒れて床に穴が空く。

 鐘が鳴りやむと時計塔は下から崩れ、落ちる瓦礫と百一種の武器と俺を飲み込む。

 目を閉じた微笑んだ俺を、闇は無情に呑み込んだ。


 メリサは死ぬことで、犠牲になれると思った。

 犠牲になって俺を生かすつもりだったんだろう。だが……違う。

 俺がこの大鎌を使って殺すことで、この世界から解放されるんだ。

 俺が大鎌を使って自殺すればみんなをこの世界に残して、一人でリアルに帰れた。

 逆に俺一人がこの世界に生き残れば、みんながリアルに帰れる。

 だから俺は………選択した。


 俺は二つの選択肢から自分一人が犠牲になり、他者を生かすことを選んだ。


 なんでって?


 さあ、なんでだろうか。


アギリ(気絶 → アギリ(死亡

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