疑問と不思議
俺は強くなるために様々なことをした。
メリサは一人で行動する俺を心配してか、たまに着いてくる。
そして森のエリアで今日も捕まってしまった。さらにギルドメンバーの二人までいる。
あの時ので人が信用できなくなるんじゃないか心配だったが、その必要はなかったようだ。
「なんで俺のいる場所がバレてんだ?」
「ん?ああ、イズナはフレンド登録してあるから」
「なるほど、じゃあ消そ」
「ちょっとなんで!?ダメだよ!ただでさえフレンドのいない、イズナのフレンドに私がなってあげてるんだから!」
「消してやるっ!」
「あっダメよ!消さないで!」
フレンドから削除する動作をしたら、慌てたメリサに強い力で止められた。
大剣を使うだけに力が物凄く強い。これダメージくらってね?
「冗談だって冗談!近いから」
「あっごめん、ってなんでイズナなんかに謝らないといけないの!」
「なんかってなんだよ?」
「なんかは、なんか!」
「はいはい」
面倒だ。こんな所で休憩してないで早く進みたいんだが。
にしても、ここまで来たってことはギルドメンバーの中でも二人はかなりの実力者か。
「メリサっ!そいつに会うためにワザワザこんな所にきたのぉ?ゴミは捨てて先行こうよ!」
「この前のっ!誰がゴミだ!」
「コトミ、イズナはゴミじゃないよ。きっと♪」
「なんだっその自信のない、きっとって!?」
もう付き合っていられない、さっさと進もう!コイツらなら問題なく進むことができるだろう。
メリサに抱きつくコトミという茶髪女をを睨み付けてからエリアの奥へ足を進める。
「あっイズナぁ!!」
「なあ、なんでアイツにこだわるんだ?」
「え?うーん、誰よりも弱くて強いから」
「は?」
「イズナは自分の弱さを知ってるから強くなる。だから一人にしておくと心配なの♪」
「は?」
二度聞きされてるぞ。
まったく、そんなことでここまで来たのか。何かあったらどうするんだ。
最近はエリアに出たまま帰って来なくなるやつがいるらしい。その理由は判明している。
エリアレベルの低さに対して、エリアボスのレベルが倍近く高い。レベル相応のエリアに行ったつもりで、不相応の死地に足を踏み入れているんだ。
時計塔クエスト開始後から少ししてこういうエリアが増えてきた。ここもそのうちの一つだ。
あとは、PKか。
「テメェイズナ!」
「な、なんだ?」
コトミだっけか?いきなり喧嘩腰というか、あまりの眼力にたじろいでしまった。こいつの向ける眼差しは、明らかにメリサにだけ違う。なんというか……、柔らかくて穏やかな感じだ。
「キライだ!!」
「は?」
「だから、テメェのことがキライだ!」
「はぁー!俺もお前みたいなのは嫌いだ!」
なんだこいつ?疑問しかないが、頭に来たから言い返してやった。
正直どんな奴なのか知らないし、メリサの仲間というだけで悪い奴じゃないと思う。だが、舐められるわけにもいかない!
「テメェの倍キライだ!」
「その倍嫌いだ!」
「ぬっその倍キライだ!」
「さらに倍嫌いだ!」
「ぬがあぁぁーー!!」
「おっおい!?」
理性が飛んだように襲いかかって来やがった、野生の獣かこいつ?というか本気で斬りかかって来やがった!?武器は駄目だろ!
「っと、あっ………悪い」
振り下ろされた剣を、咄嗟に俺も剣を抜いて防いでしまった。
防がないと俺が斬られてたんが……、防いだことでコトミの剣が折れてしまった。
「え?あっ………ああぁぁぁ!!」
「どうした?あーあ」
「だから強いって。本当すぐに追い抜かれたなぁ!」
折れた剣に叫ぶコトミに戸惑う俺、呆れた声の男に微笑むメリサ。
なんだこの状況は!いや、原因はわかってる。
俺のレベルはメリサを超えていた。武器もそれなりの物なわけで、だからコトミの剣は折れた。
「剣がぁ………」
一変して静かになったコトミは顔を青ざめて落ち込んでいた。
装備品というのは努力と苦労の証のようなもの、ただステータスを上げたり着飾るものじゃない。それなりの想いがこもっている。
先に進みたいが、置いて先に行くのは後味が悪い。今日はここまでか。
「メリサ達はそこにいろ」
「置いて行くなんて薄情もの!裏切りもの!バカイズナ!」
「くっ。危ないから下がってろ!」
「お願いするときはきちんと!」
お前らのためにやってやろうってのになんで俺が………。
「危ないから下がっていてください!」
嫌味をこめて言うったのに、それでもメリサは微笑む。その笑顔にはどうしても勝てる気がしない。
メリサ達から離れ、少し開けた所で球体の水晶を投げる。水晶は空中で輝いて砕け、飛び出した中身は大きくなりながら木造の家へと姿を変えた。
突如として現れた家に、後方で驚いた表情で硬直する二人が当然の反応だ。こうした技術や物を持つ人は少ない。というか、いるのか?
ただ一人、メリサは表情を変えずに、イズナなら持ってて当たり前、早くドアを開けてよ。とでも言うように家の前で待っている。そこに好奇心が加わってか目が輝いていることに気づき、俺は多少後悔したが、もう遅いと諦めた。
「イズナお茶は?」
「そこにあるから自分でやれよ、お前は何様だ」
「お客様!」
「ああーもうっ!」
このまま会話を続けていても時間の無駄だ、最終的には俺がやることになるんだ。こいつとの会話の場合、潔く諦めることを最近覚えた自覚がある。
ひたすら自分の家のように寛ぐメリサの隣にまだ驚きが抜けていない二人がいる。
「二人ともメリサほどにとは言わねえけど、もっと気楽にしていいんだぞ」
「そうそう!今日はここに泊まるわけだしね!イズナはそのつもりだよね?」
「わかってらっしゃることで………」
『は?』
見事にシンクロした二人の声というか、反応が普通だと思う。なのにメリサの反応はなんだ?図々しいにも程があるんだが、それにこの頃慣れてきた自分が怖い。
もしメリサがこの家に住み着いたとしても受け入れてしまいそうだ。
「イヤイヤイヤッここは高レベルモンスターがいるエリアなんだけど!襲われるでしょ!」
「そうだ、家ごと潰されて終わりだ!」
「はい、イズナ説明よろしく!」
「わかってたんじゃねえのかよ?よく落ち着いていられるな」
「信頼してるから!」
イズナが大丈夫って言ったなら大丈夫!と、何を見聞きしてか知らないがメリサは堂々と言い放って、お茶を一口飲んだら熱いと文句を言ってくる。淹れたばかりなんだから当然だろう。
熱いお茶を飲んでクシャッとした顔が面白く、今度からアッツアツで出してやろう。
「モンスターはこの家には近づけない。近づこうものなら迎撃するようになっている。だから安心して休め」
「………メリサぁ、コイツの頭は腐ってるよぉ」
「おい!?」
「だって、モンスターを迎撃できる家なんて聞いたことない!」
「そんなものがあれば、かなり噂になっているはずだが?」
まあ疑うのも当然だ。俺も偶然失敗したものをほったらかしていたら近づいたモンスターに攻撃したんで、何度か試してみて気づいた。だいたい失敗すれば廃棄するだろうから気づかないし、俺は誰にも話していない。
「外でやってるイズナだから気づいたってことだね!」
「頼むから誰にも話すな、面倒事はゴメンだ。メリサ一人で事足りる」
「それにしても、いっつも一人でコソコソ寂しくしてると思ってたらこんなの作ってたんだ」
「はいはい。それよりコトミだったか?折れた剣を貸せ」
「えっ!?何をするつまり!!」
「つまりってなんだ?まあ、つまりといってしまえば、打ち直すんだが」
『は?』
再びシンクロし、今度は呆れる二人。打ち直すということにではなく、鍛冶ができる場所がないから無理だと言いたいんだろう。
メリサは一人お茶を飲み干して立ち上がる。おそらく俺の次の行動を見越してだ。
たまに考えを読まれている気さえする。
説明が面倒だったんで、とりあえず着いてこいと三人に言い家の奥へ行く。途中にある部屋が何なのか聞いてくるメリサは無視だ。
相手をしたら見せろとか言ってくるに決まってる。
「外見よりメチャメチャ広い。しかも、いろんな設備が揃ってる」
「ああ、かなり苦労して揃えた。結構危ないやつもあるし、メリサとかが下手に触ったらドカンッといくかもな!」
「え?」
ピタッと動きを止め、本当に?と戸惑った面白い顔を向けたもんだから、思わず笑ってしまった。
実際に危ないものはある。大爆発起こすようなものやら、毒物やらが。そんなの簡単に触れられるところに置いておくはずないだろう。
「冗談だ!危ないものは保管してるぞ、安心しろ」
「バカイズナ!」
「がっ!?」
こいつ、大剣振りまわすほどの力があるのに、ほぼ加減なしで殴りやがった!おかげでライフが少し減ったぞ。馬鹿力が!
「イズナが悪い!」
「どこがだっ!」
「どこか!」
「どこだ!」
奇妙な会話に、呆れと驚きを見せる二人。
それはメリサがギルドメンバーの前では、こんな馬鹿みたいな姿も言動もしないからだろう。俺も初めて会った時はしっかりしたお姉さんくらいの印象だったんだが、感情に素直なところを見たら子供としか思えない。
「ここだ、入ってくれ」
小窓のついたドアを開けると、狭いが十分設備の揃った鍛冶場がある。驚きっぱなしの二人と、好奇心で見てまわるメリサ。怪我しても自己責任だぞ、と言うと手を引っ込めた。
「そこに武器を置いてくれ」
「え、ああ」
驚きすぎたせいか、コトミは言う通りにしたがってくれた。
三人にリビングで待ってろと言ったが、興味と心配で見ていることになった。
正直見られるのには慣れてないんだが、集中してしまえば気にならなかった。
コトミの武器は軽く、攻撃力と速さが優れている。だが、防御力や耐久力が特に低い、防ぐこととかを考えてない攻めに特化した武器だ。打ち合いになれば不利、最悪破損するか。
せっかくだから、よしっ!
作業を始めて刻々と時間が過ぎ、外が暗くなった頃。ようやく剣の打ち直しが終わった。
振り向くと変わらず微笑むメリサとさらに驚いた二人の顔があった。
まあ、仕方ないかと思いつつコトミに剣を渡す。
「これなに?」
「強化したんだけど、ちょっとやりすぎたか?」
「な…んか、色とか能力値とかレア度とか違うんだけど?」
「やっぱりやりすぎたか」
やってるうちに面白くなって、調子にのっていろいろとしてしまった。
能力値の底上げに伴ってレア度の上昇と色までただの緑色から鮮やかな緑色に変わっている。
そこまでやるのはマズイかった。
「そんなことない、好きな色だから!それにスゴいよコレ!!能力値が三倍は上がってるし、弱点がなくなってる!」
「そっか、よかった!その剣なら上級くらいの武器なら斬れるぞ!ほら」
いわゆる聖剣とか魔剣と呼ばれる、一般の武器よりも上のものを取り出してコトミに斬らせてみる。
はじめは躊躇ったものの「折れたらまた打ち直す」と言うと、なら大丈夫と納得して真っ直ぐに振り下ろした。
コトミの剣は紙を斬っている錯覚を起こすほど、意図も容易く剣を斬った。
見事見事!
「な!」
「な!って、……いくら払えば?」
「ん?いや、折ったのは俺だから、お詫びだ。それに練習にもなった」
「貴重な素材を使ったんじゃぁ?」
「いいって!タダが嫌ならメリサに返してくれ」
メリサには助けられた借りがあるし、俺なんかの心配をしてくれるメリサを助けてやってほしい。俺はまだ近くにいられないから。
「そう言うなら………。なんかテメェは悪いヤツじゃないし、斬りかかって悪かった」
「こっちも折って悪かった」
恥ずかしいのか視線を反らしたまま言うコトミ。
何故か突然、仲直りしたのを嬉しく思ったメリサが料理すると言い出した。
俺はあんまり得意でもないから、晩飯はどうしようか迷っていたところだし、ちょうど良かった。
晩飯を食べたあと、明日どうするかについて話し合う。
「話し合う前にオレの名前は──」
『カール』
「違う!」
今度はメリサとコトミが同時に言う。
けどそれは本当の名前ではないらしく、イタズラに笑う二人に対して男は全力で否定する。
物凄い必至だ。
「クァルだ!」
「なるほど」
納得した、確かにカールって聞こえる。よく聞かないとわからない、ややこしい名前だ。
クアルじゃ駄目なのか本人に聞いてみたが、どうやら駄目らしい。理由はこういう名前だから、だそうだ。実際リアルで名前を間違えられるのと同じだろう。
「私はイズナに着いて行こうと思ってる。というか、そうしないとボスは倒せないからね!」
「倒さないで帰るんじゃなかったのぉ!?」
「そうだ!どんなボスかもわからないのに戦うは危険だ!」
「うん、よくわかってる。メリサを連れて帰っていいぞ!」
そうなれば俺は自由に行動できる。メリサ達の心配をする必要がなくなって心置きなく探索だ。
何回も来たことあるから、どんなモンスターなのかもわかってるし。
「なんだか嬉しそうね?」
「っいや、そんなことはない!ああ残念だ」
落ち込む演技を見せると、ニヤリと笑みを浮かべるメリサ。
あ、ヤバイ………企みに嵌ったかもしれない、メチャクチャ笑顔だ。
「仕方ないね、イズナがそう言うなら着いて行ってあげる!」
「あぁーありがとう………」
やっぱりか。棒読みの俺の言葉に、いやいやぁと笑いながら肩を叩いてくるメリサ。
なんとかしてくれと、コトミとクァルにアイコンタクトをとる。
真剣な表情で頷いた二人は、メリサに向き直して口を開いた。
「メリサぁー、ソイツに着いて行って勝てるとは思えないよ。どう見てもレベルだけで外見も中身も弱そうだよ!頭は完全に腐ってるよぉ!」
「生産が得意なようだから戦闘は不得意だろう。そいつがボスを倒せるとは思えないし、あんたに死なれるのは困る」
半分以上悪口を言われたが……、なんとかメリサを帰らせることができるなら、この際胸に突き刺さった言葉のナイフの痛みは我慢しよう。
「え?イズナは生産系じゃないって、バカみたいな速度重視の攻撃系。一人で効率的に冒険するために鍛冶とかできるようになっただけよ。ね?」
「バカってなんだ?装備の耐久度が下がった時の修理とか、簡易拠点造りが出来ないと長期間いられないだろ。お見通しか」
「わかりやすいだけ!イズナはかなりの生産技術があるから装備も二人より上だし、そもそも一人で倒すつもりだったんだから大丈夫!」
俺とメリサの何気ないやりとりに、もはや諦めまじりに呆れる二人。
なぜなら、エリアを一人で冒険するなんて自殺行為と言っても過言じゃないからだ。
アイテムボックスにある程度の物は入るが限界もある。
食材を多くすれば長期間エリアで冒険できるが、武器が壊れれば終わりだ。逆だと短期間しかいられないし、半々だと中間程度。
そもそも戦闘の際には一対多の戦いになる。回復するためのアイテムを含めると、一人で長期間の冒険は不可能だ。する人なんて俺以外にいないと断言してもいい。
「常識ってなんなの、カル?」
「クァルだ。考えるだけ無駄だと思うが、っ!?」
そう言い後方の窓から外を見るとウッドモンキーという猿に似たモンスターが迫って来ていた。
「アイツはヤバいよ」
「倒しに行くか」
呑気に会話をする俺達を尻目に戦闘準備を始める二人。
「行かなくていいぞ、というか危険だぞ。お茶でも飲みながら見てろって」
「あのモンスターに破壊されるのをか?」
高レベルのモンスターに警戒する二人を落ち着かせることはできず、まあまぁ私を信じてとメリサの言葉で止まった。俺の言葉にはそんなに信憑性が無いのか?
「あと一歩だな」
「一歩でなにが起こるの?」
期待の眼差しを向けるメリサの両隣りにいる警戒したままの二人に、何度大丈夫だと言っても警戒を解かない。
俺は見て驚けと、不貞腐れ気味にお茶を口に注ぐ。
飲み干したコップをテーブルに置くのに合わさって踏み出したモンスターが動きを止める。それは好意的にではなく、全身に突き刺さった根によるものだ。根からモンスターはライフを削りとられ最後には消滅した。
「モンスターのライフを吸いとった?」
「家のほうがモンスターみたい………」
「ああして、この家は成長するんだ。お前らの思っている通り、半分はモンスターみたいなもんだし」
「流石はイズナ!」
表面上いつもの表情をかえず俺を叩いてくるが、流石のメリサも動揺したのか力が加減できていない。
つまりかなり強くて、かなり痛い………。
反対側では、常識の二文字が音を立てて砕け、驚きのあまり停止した二人がいた。
全然動かないものだから意識があるのか心配になって目の前で手を振ると二人の視線が俺に向き、こんなの夢だ、とひきつった苦笑いと同時に二人は言う。
………俺も最初は驚いた。と二人に共感し頷く。
メリサだけは、意に介してなかった。
こいつの精神力が凄いのか、変に高く評価されているのか。
どっちにしても、不思議だと思った。