イベント攻略開始
次回も未定ですが、なるべく早めに頑張ります。
「転移玉を使って逃げろ!!急げ!!」
アカサとサカマは転移玉を取り出して使用する。転移玉が光る……がすぐに光りが消えてしまった。
到底勝てない相手と出くわしたときの逃走手段として、転移玉と転送玉があり命綱ともいえる。それが使えないというのなら、死から逃れる術はない。
「どうしたんだ!?急げ!!」
「どうして!?転移玉が使えないよ!!」
「転送玉を使え!!」
焦りに嫌な汗を浮かべたサカマが転送玉を取り出して使用する。輝く転送玉に祈り、希望を抱く。
しかし、光りはすぐに消えてしまう。
「ダメだ!転送玉も使えない!!どうする?!」
転送不能エリア!?そんなのなかったのに!逃げられないならやることは決まっている。やるしかないんだ。けど、倒せるのか?いや、考えたって仕方ない。選択肢は倒すか、死ぬか。
簡単じゃないか。
「こうなったら倒すしかない!行くぞ!!」
「お、おう!」
「うん!」
俺はモンスターが撃ってくる銃弾を避けながら駆け出し、手加減も様子見も無しに思いっきり剣を振り下ろした。
斬ったところからは数字のデータが青く見えたが、すぐに戻る。傷はなくともモンスターのライフが少しだけ減っている。
サカマが俺に続いて斬りかかろうとしたが、モンスターの骨の手によって振り払われ、吹き飛ばされた。
「くっ!?」
予想以上にサカマのライフが減っている。振り払われただけであの威力なら、武器の攻撃を受けるのは不味い。
「サカマ!大丈夫か?」
「サカマ君、早く回復アイテムを!」
アカサが急いで駆け寄って取り出したビンの中の緑色の液体をサカマが飲む。すると、減っていたライフゲージが回復していく。
「イズナであんだけしか削れないとしたら………。イズナ、俺が囮をするから倒してくれ!!」
サカマはゆらゆらと立ち上がりながら言う。
「サカマ君本気なの!?」
「ああ…、俺が攻撃したってたぶんダメージはほとんど与えられない」
「だけど、サカマ!」
「いいから頼む!!悔しいが俺は一番弱い、このままじゃ全滅しちまう!!」
サカマを囮にする。状況から考えてそれが最良、それが一番生き残れる確率が上がる。だから思い浮かんだ。そして、考えて最初に除外した。
俺が一番レベルが高くて、モンスターにダメージを与えることができる。アカサはサポートに特化しているから攻撃力はあまりない。サカマはどちらも劣る。
アカサのサポートを受けながらサカマを囮に俺が確実にモンスターにダメージを刻んでいく。
その作戦は弱いサカマを一番の危険にさらすことを意味している。
駄目だ。それだけは駄目だ!
そう思っていたのに。
震えた声だった。けど、そこには、その姿には覚悟があった。
それが死に近づくと理解しているはずだ。怖いはずだ。
それでも覚悟を決めて、提案した。
なら、俺は応えるしかないだろう………ずるいぞっ。
「………わかった!アカサ、サポートを頼んだ!」
「………っ了解!」
サカマがモンスターの周りを走り出したのと同時にアカサが構え、俺は外周を反対に走り出す。
「おい、こっちだ!」
得物を拳銃に変えたサカマが射撃によってモンスターを挑発する。
乗ったモンスターはサカマに向かって銃を撃ち始めた。そこを見計らって俺は直角に方向を変えて全力の攻撃を仕掛ける。アカサもサポートするべく、ライフルを発砲する。
「うおぉぉー!!」
俺はモンスターを斬りつけ続けた。
何も考えず、全力で斬りつけてようやくモンスターのライフが少しずつ減っていく。
俺には力がない。そういう風にしたんだから当然だ。
だから今は、もっと速く斬るんだ!もっと速く、速く速く!そうしなとサカマが……、考えるな!
失いたくないなら、速く斬ろ!手を、足を止めるな!動かし続けろ!
俺にはそれしかできないんだ。
俺はただ斬りつけ続けた。
それしかできないから。
サカマの声が、アカサの銃声が聞こえる中、モンスターのライフゲージが黄色くなり、次第に赤くなっていく。
そして、モンスターが二つの銃を地面に落とし、骨が布の下から崩れ落ちていく。
──倒し、た?
ボス討伐の報酬アイテムが俺の目の前に落ちる。
アイテムは確かにレア中のレアアイテム、伝説級だったが──
「……サカマ、アカサ、倒したぞ!」
俺は光り消えていくモンスターを見ながら笑顔を作って言った。
……………静かだ。
返事はなく、ただ風で周りの木々が揺れる音だけがする。
「なあ、このアイテム俺使えないぞ!」
振り向かずに消えていくモンスターだけを見ていた。
……………嫌だ。
「なあ、二人共最後だからって悪戯はやめてくれよ!」
嫌な思考が、いくら否定しても浮かんでくる。
……………怖い。
「なあ!サカマ!アカサ!!」
……………答えてくれ!
静寂に耐えられなくなって、笑顔を作れなくなって、二人の名前を叫んだ。
返事は返って来ない。
頬を撫でるそよ風に促されるように振り向いた。
二人の子どものような笑顔を願って。
「………ぁ」
何も無い。
何もなかった。
誰もいない。
何も残っていない。
目に映るものが、二人は存在しなかった。夢だった。始めからいなかった。始めから一人だったと、告げているようで。
身体の奥から何かが崩れ落ちた気がした。
気が付けば地面に膝をついていた。
サカマが俺の肩を叩くような気がして、アカサが俺に近寄って来て声をかけてくれると思って………。
二人がいないのが嫌で、認めることが怖くて、いると信じたくて。
でも誰も映らない。何も映らない。現実なんて見たくない。
世界を視認しなくなって、どれだけそこにいただろう。
ずっとサカマやアカサのことが頭の中を廻っていた。
だけど、涙が流れなかった。
いくら考えても悲しくても流れてこなかった。
──街に戻っていつものようにクエストの報酬を受け取った後、誰にも会いたくなかった俺は少女がいるかもしれない家には帰れなくて行く当ても無く彷徨っていた。
この街の空を貫くほどの巨大な時計塔の近くに来た時、突然鐘がなった。大きな円形の時計前に画面が表示される。今までなかった変化に希望を抱いき、周りにいた人達も集まってくる。
『イベントのお知らせ。
これより、時計塔イベント〔滅びゆく世界〕を開催します。力に自信のある方はふるってご参加ください』
告げられた内容に『なんのおふざけだ!』『なんだよこれ?』『帰れるんじゃないの?』と、集まった人々が騒ぎ始めた。
当然だ。このような告知がされたということは、外部から繋がることができた。それを意味しているはずなのに、告げられたのはイベントの開催。これには運営側の人たちも戸惑っている。
一つの疑問が生まれる。
運営が意図的に起こした異常事態じゃないのか?
そうでなければ、誰がこの世界に干渉している?
疑問は生まれた。だが、誰もが抱いたのは、絶望だった。
『報酬は全ての人のログアウト。つまり、このイベントをクリアすると現実へ戻れます。
クリア条件は時計塔に待ち受けている全てのボスを討伐することです。
なお、サービスエリアをご用意していますのでお楽しみに。
それではご健闘を』
それを最後に画面は消えた。
そして、時計塔の重厚な扉が開く。
暗かったため誰も入って行こうとはしなかったが、皆騒ぎ急いで走り去って行った。
俺は、今はそんなことを考える余裕も興味も無く、また歩き始める。
暗い路地裏に来た時、メールが送られて来た。送り主は──
「サカマ?」
メールには──
『イズナ、今までありがとよ。このメールは直接言うと恥ずかしいからこうさせてもらった。お前はこの世界からログアウト出来なくなって混乱して絶望していた俺を助けてくれたよな。仕事だから、といつも言ってたけどお前いつも装備品を俺やアカサに無料で渡したり、拾ったアイテムを分けるときに自分のアイテムを混ぜてたの気づいてたぞ。
お前、自分で気づいてるか知らないけどさ、すっげーお人好したぞお前!だからいつかもしもだぞ、もしも、俺達が死んだとしても落ち込まないで前へ進んでくれ!アカサも俺もお前のおかげで希望を持って前に進めたんだ。そして俺達は結婚するんだ!全部お前のおかげだ、ありがとな!
こんな手紙、縁起が悪いって笑って捨ててくれていいからな!絶対に俺には見せないでくれよ。
あと、たまには遊びに来いよ!絶対に死ぬんじゃねぇぞ!これはお礼だ、遠慮せずに受け取ってくれ!まあ、お前には使えない武器だけどな。いつか、使えるようになるだろう』
そう書いてあり、アイテムが付いていた。
「ああ……これ使えないぞ俺……」
アイテムは、〔漆黒の刃〕という武器、ではなく短刀の形をした黒い鉱石だった。
「…しかも武器じゃないし……」
正直、使い方も何に使うのかもわからない。
けど、これは記憶以外の、二人がいた証。
悪いけど、手紙は捨てない。ずっと持っている。
「ありがとな……絶対に死なない。………でも、前に進めるかどうかはわからない」
だけど今やることは決まった。
強くならないと。俺は弱い。少し強くなったからって、上手くいっていたからって思い上がったせいで、二人が死んだ。
俺が二人を、殺した。
弱い、力がない。誰も守れない。もしもまた、同じことがあったら、俺は………。
もっと強くならないと。力がいる。
そう決意した後、俺は家には帰らずに宿に泊まった。
家にはおそらくローブの彼女がいるだろうから。決意しただけで、まだ情けない俺を見せたくなかった。
翌日、時計塔近くの広場で会議があるという情報をPNで聞いた俺はとりあえず行ってみると、そこには四十人ほどの人が集まっていた。
やっぱり少ないな。みんな、突然のことで戸惑っているのだろう。ここに集まった人達はおそらく絶望してもう死んでもいいと思っている人やこのイベントに希望を抱いている人達だろう。
来てないのは、生きたい、死にたくないから戦わないと言う人達がほとんどだろう。
俺はそのどちらでもない………。
「それでは時計塔イベントについての会議を始める。俺の名前はアギリだ、よろしく!まずこのイベントを信じるか信じないかだ!」
青い鎧の男が前へ出て来た。この会議を開いたのは彼だろう。
「俺は信じるぞ!だからここにいるんだ!!そうだろ?」
ある男が立ち上がり、周りの人達もそれに応えるように騒ぎたて始める。
俺はその姿をただ見ていた。
「それもそうだ!じゃ、次だ、ソロで行くかいくつかのパーティーを作っていくかだ」
周りで話し合う声が聞こえてくる。
だけど、これは俺にとって関係のないことだ。
「俺はパーティーで行った方がいいと思う!その方がサポートができるからさ、そっちのほうが安全だろ」
鎧の青年が言った。周りの人もそれに頷く。
「ではパーティーで行動すると言うことで、アイテムはどうする?」
「それは受け取った人のものでいいじゃないか!」
また別の青年が立ち上がって言ったが、離れたところに座っていたさっきの男が立ち上がった。
「それじゃあ不公平にだろ!」
その男の周りの人達も肯定するように騒ぎ始めた。これ、仕組んでるんじゃないのか?話し合いで無駄に争ったり、長引かないようにするために前もって用意してたんだろう。とんだ茶番劇だけど、必要なことか………。
「しかしそれでは、アイテム数が足りなかった場合やレアアイテムが手に入った場合、仲間割れになってしまう!」
青年の言葉に周りで言い争いが始まる。
少しして体格のいい男が痺れを切らしたのか立ち上がり、剣で勢いよく地面を突き刺した。金属音が響き渡り全員の視線がその男に集中する。
「アイテムは後でパーティーごとに話し合いで。アイテムの一つ二つで仲間割れするようなヤツはここにはいないだろう!」
騒いでいた人達も首を縦に振り、納得し始める。
いないねぇ。黙認してしまえば問題ないってことだろ。ここに集まった連中は馬鹿なのか。それとも全員わかってて納得したのか。
「全員納得したみたいだから、アイテムはパーティーごとに話し合いということで。それではパーティーを組んでくれ、人数は何人でもいいが力の片寄りが出ないように、なるべく均等になるようにしてくれ!」
集まった人達が話し合いパーティーを作っていく中、俺は離れたところでそれを眺めていた。
パーティーは最大八人まで組める。だから大体七・八人のパーティーが六組ほどできた。
どのパーティーにも入らず一人離れたところで俺は様子を見ていた。すると、突然目の前に『メリサからパーティーの誘いが来ました』と表示され、横に目を向けると、白く短い髪で綺麗な顔立ちの女性が座っていた。一見年上で、軽く丈夫そうな赤い鎧を着ている。
こいつがメリサか。
「俺はパーティーに入るつもりはない」
俺はパーティーの誘いをキャンセルした。が、すぐにまた『メリサからパーティーの誘いが来ました』と表示される。もう一度キャンセルを押すと、またすぐに表示される。
「だから俺はパーティーに入るつもりはないって!」
「いいから、入ってよ♪あと残っている人あなたしかいないんだから、ね!」
ここに集まっているのはもともと仲がよかったやつとか、実力のあるのが多い。そこで余って行き場がなくなったってところか。
俺は仕方なくOKを押した。
「その代わり、絶対にモンスターが出たら隠れてくれ」
「いやよ。人の言いなりになるの私嫌いだから」
「じゃあ隠れなくていいから、遠くで見ててくれ!」
「いやよ、私も戦う!」
俺はソロで行くつもりだったんだぞ。パーティーに入れてやったってのに、なんと強情な女だ!
「わかった。じゃあ絶対に俺の近くで戦え!」
「えー、人にお願いする態度それ?」
あー!面倒だ………。
「俺の近くで戦って下さい」
「いいよ♪」
そんな風に俺達が話している間に、周りの人達は移動をし始めていた。
「行くか」
溜め息一つ吐いてから俺達は後に続いて進む。時計塔に入ると一階のエントランスでまだ立ち止まっていた。
今まで時計塔のイベントなんてなかった。ここに入るのは初めてだけど、まさかここまでだとは。
「広いなー」
「滅茶苦茶でかいぞ!」
薄暗い時計塔の中はかなり広く、奥には扉がある。
ここにはモンスターはいない。……準備のための安全エリアっていったところか?
「皆、この扉の先に迷宮エリアがあるようだ!準備はいいか!」
アギリさんが扉の前で声をかけた。すると人々が『おおぉー!』と、声をあげる。
「では、行くぞ!!」
アギリさんが扉を開け、流れ込むように入って行く。
そして、エントランスには俺とメリサだけが残った。
俺は剣を抜いて、何があってもすぐに戦えるように構える。けど、メリサは呑気に武器を取り出しもせずに隣を歩いている。こいつは何しに来たんだ?
「絶対に俺の近くで戦えよ」
「わかってるよ!行こう♪」
「ああ」
扉の中に入ると視線の先から光りに包まれ、転送された。
気づくと、所々に大きな歯車が落ちている暗く奇妙な森の中にいた。一定の間隔で歯車の噛み合う音が聴こえる。
先にいた人達はこの光景に、『気味悪いな…』『なんだこの歯車?』『初めて見るエリアだ』など、言っていた。
「では、これからパーティーごとに探知できる範囲まで別れて捜査を開始する!ボスを見つけても倒そうとせずにすぐに知らせてくれ!非常時の時もすぐに連絡するように。それじゃあ解散!」
アギリさんの声でパーティーごとに固まって別々の方向に移動し始める。
「さあ、行こうよ♪」
思えば、こいつとの出会いが俺の面倒の始まりだった。