死亡フラグ
少し、昔の話しをしよう。
人によっては大昔と言うかもしれないが、昔は昔だからたいして変わることはないだろう。だから、昔とさせてもらう。
ほんとにただの昔の話しなんだ。
ほんとに、ただの昔話し。
一人の人間が一人の人間をひたすらに恨み続けて、一人になった話し。
大きな世界の中のちっぽけな話し。
誰でも知っているのに、誰も詳細なんて知らない。
そんな物語
時折、暗闇にチカチカと光が射し込み、それが反転していた。
──三つの人影が木々の影と混ざり、様々な生物の鳴き声や風に揺れる草木、注ぐ川の音色の中に気だるげな声が呟かれる。
「なあ、まだ着かねーの?俺もう疲れたー」
両手をだらりと下げ、体を前に倒したままゆらゆらと歩く茶髪の男。疲れの見える顔を上げた視線の先には淡々と歩く二人。
「私も疲れたー!そうだっ、この辺で休憩しようよ?」
短い赤毛の髪を揺らしながら高く両手を伸ばして笑みを浮かべる女の顔色からは、疲れなど全く感じられない。
「サカマはわかるけどさ………。アカサ、お前どちらかというとまだまだ行けますよって顔だぞ。それにこれでもう何回目だと思ってるんだ………」
呆れ気味に──いや、すでにもう呆れている。
男女二人の前を一番疲れた顔で歩く少年。何度目かの溜め息を漏らし、黒髪で隠れていないほうの目を押さえた。
こいつらに誘われてクエストに来たわけだが、誘った奴が文句言いやがって。結局いつも通りと変わらないじゃんか。
「だって俺まだ31レベルだし………」
「だから、レベル上げにわざわざ付き合ってるんだろ!」
「そうそう、だから文句言わない」
「いやお前には言われたくねえよ!ていうか今日は息抜きじゃなかったのか?」
たしかに今日は依頼でもなんでもなく息抜きで来た。今日は休暇でのんびりしようかなって思ってたところにお前らが誘ってきたから来てみれば、あまりにもサカマが弱すぎた。
反論する権利はお前にはない!
「つーかさイズナ、なんでお前ってそんなに弱そうなのに強いんだ?」
自分の姿だから確認するまでもなく、弱そうに見えるのは自分でも思ってる。けどさ、人に言われるとイラっとする。
だいたい俺は普通の高校生だったんだから弱くて当然なんだ。自分が美男だからっていい気になりやがって!
「知るか、普通の高校生なんだぞ俺は!」
「いや、そうだけど………その装備だって!鎧も何もないただの白と黒のフード付きのコートなんて………防御力低そうだぜ」
「うーん、確かに弱そうかも………」
結構気に入ってるんだけど、なんて思いつつ苦笑いを浮かべる。
性能はかなり良いんだけど見た目、ただの服だ。サカマの言う通り、私服としても通用するし、防具にはあまり見えなくて戦闘に向いているとは思えない。
俺の外見と合わさって一見弱く見えるのは仕方ない。けど………人を外見で判断するのはよくないと思うぞ、俺は。
「でも、格好いいからOKだ!」
「うんうん!格好いいからOK!」
無駄にはっきりと言ってくる二人。なんだ、励ましてるつもりか?自分でもわかってるから、今さら別に落ち込んだりしない。
別にしてなかったけど、誉められると照れる………。
「着いたぞ」
目の前には巨大な扉。草とか蔓に苔まで生えた古い遺跡にありそうなやつだ。
山の中のエリアの一番奥に建つ、それの前にようやく辿り着いた。
普通なら1時間もしないのに、4時間以上も掛かってしまった。主にサカマとアカサが休憩を取りすぎたせいで。
今日は仕事はないから息抜きとしてはちょうど良かったのかもしれないけど。
「よし、行こうぜ!」
サカマがゆっくりと扉を開く。硬質な岩が擦れる音とともに、絡まった植物が千切れる。
「死ぬなよ……サカマ」
「大丈夫だよ、イズナ君。私がサポートするから!」
アカサが微笑み、胸をどんと叩いて言う。
頼りになるし、ある程度の実力もある。対してサカマは………ため息がでるくらいだ。まったく、好きな人に守ってもらってどうするんだ。いつものことだけど、情けない。努力をしているのは認めるけど、まだまだだ。
「まあ、それもそうか」
開かれた扉の中に俺達は進んだ──
「はいこれ、今日の報酬ね!」
俺達はクエスト屋の前で報酬を受け取って、それを三人で山分けにする。
「どうも」
「また今度もよろしくな!」
すでに日が沈み始めていた。
用事があるらしく、アカサとサカマは手を振りながら小走りで帰って行く。夕焼けに照らされる二人に手を振り替えして見送り、姿が遠くなった所で俺も帰る。
約半年前、ログアウト出来ないと知ってから、問題が解決するまでこの世界〔ブレイク・ザ・ワールド〕の中で生活する事にした。
もちろん混乱したり絶望したりした。俺は何も考えられなくなって、逆に冷静になったんだと思う。すぐに、これからを考えていた。
それから時間はかかったが、約二ヶ月後。俺はレベル上げや、クエストを手伝う代わりに報酬を貰うことで安定した生活費を稼いでいる。
ゲームだからといって何も食べないでいると腹も空くし、飢え死にしてしまう。
それが関係しているのかはわからないけど、この世界にいる俺達は味覚や嗅覚などもある。
身体の感覚も容姿も現実と同じ。違うといえば今のところ血が出ないとかだ。
つまり今、俺達はこの世界に生きている。この世界が俺達の現実なんだ。
そして、サカマとアカサの二人は始めた頃から関わりのある常連さんで、ほぼ週に3回は依頼してくる。
最近は他の人からの依頼の数が増えてきている。おそらく理由はモンスターにやられたら死んでしまうからだろう。
まあ、俺に取ってはありがたいことだ。金は稼げるしレベル上げも出来るし、おかげで俺は今52レベルだ、そこら辺のモンスターなら普通に倒せる。
意外と低いのは依頼人に合わせたレベルの場所に行くからだ。
あとは、このゲームのレベルの上がり難さだ。
「ありがとうございました!!」
「またの利用を、お待ちしています」
「はい、またお願いしますね!」
今日も無事に仕事を終える。順調に知名度も上がって、稼ぎも増えてきた。最近は依頼が多くて困る、なんていう嬉しい忙しさだ。
「さーてと、これからどうすっか……」
家で食べるか、いつもの店で食べるか。晩飯のことを考えながらレンガでできた家が並ぶ、岩が敷き詰められた街路地を歩いていた。
「──んッ?どうしたんだ、あんた?」
狭い路地に小さくなって座っている人がいた。着ている白いローブはところどころ汚れている。別に珍しくはない。今は少なくなってきたが、金がなく居場所も食べ物を買うこともできなくなった人達が見えにくい所にはよくいた。
「……………」
返事がないけど生きているのは確かだ。死ねば身体は光に包まれて消える。
だけど、このままだといずれそうなるのも確か。低レベルの人は一日を生きるのも大変な今、こういうひとがいる。全員が上手くこの世界に適用できたわけじゃない。俺は特例と言ってもいいだろう。
「………あぁ、そうだ。なあ、あんた料理………少しでも料理のスキルあるか?無いなら別にいいけど、無いなら、そこの店で一緒に飯食べないか?」
ちょっと誘い方が怪しかったか?というか怪しいか。けど、道端で見ず知らずの人の誘い方なんて知らない。緊張した!
このまま何も食べなければ餓死するのは目に見えてる。今の俺なら金にも余裕はあるし、見殺しにするのは寝覚めが悪い。そう思いながら手を差し出した。
すると顔を少し上げた。けど、中はローブで隠れていて見えない。
だが、俺を疑い、思考をめぐらしていることくらいわかる。
この世界の状況で優しさを悪意として疑うのは当然だ。けれど死を前に、差し伸べられる手があれば希望を抱くのも当然。なら、希望に隠れているのは善意なのか、悪意なのか。
………黙ったままでいられると困るんだけど。
食べ物とやり直すための物を少し置いていくだけにしとくか。
「──料理スキルなら、あるよ………」
その弱々しくも少し大人びた声とともに、ローブの下から現れた震えている白い手を、俺は掴んで立ち上がらせた。
背丈は俺とよりも低い。声からおそらく女性、ということはわかる。
「んじゃ、行こう!」
今にも倒れそうにゆっくり歩くその歩幅に合わせて歩いて行った。
家に着くと俺は防具を私服に変え彼女にはひとまずソファーに座ってもらい、余っていたパンを渡した。
するとやはり何も食べていなかったのだろう、荒々しくかぶりつき食べていく。
「どうだ、少し腹は膨れて落ち着いたか?無理はしなくていいけど………」
誘い方がやっぱり駄目だった!空腹でフラフラしてるやつに料理作らせるって鬼畜だろ!俺は壊滅的に料理はできないし、いつもの店に行くべきだった!
「本当に無理は駄目だぞ。なんなら外に食べに行っても──」
「大丈夫………」
小さく頷いてキッチンへ歩いて行った。言葉通り、さっきまでのフラつきはない。
少し食べただけなのに。ゲーム的な何か補正でもあるのか?
俺が材料を手持ちのアイテムから取り出して置いていく間に少女(?)は、手を洗って道具を準備していく。
「んじゃ頼んだ」
俺は料理をしている姿を眺めていることにした。ふらついて倒れないか、ケガしないか心配でだ。
料理をするときもローブは脱がずに着たままだった。俺を信用してないし、警戒してるんだろう。常に包丁を手の届く所に置いてる。が、料理は手際良く作られていく。初級の料理スキルで作れる料理ばかりだが、とても美味しそうだ。
料理が出来上がりテーブルに並べられて、少し感動した。手料理なんてこの世界から出られなくなってずっと食べていなかった。それで俺はあんな誘い方したのか。………飢えてたんだな。
そうして、自分に対しての評価が下がった。
この世界に閉じ込められてから約半年、現実の世界はどうなっているんだろうか。
最初のうちはいた人達も半分にまで減少してしまった。
そのほとんどがやり始めたばかりの人や上手く金を稼げずに飢え死にしてしまう人がほとんどだ。一日を生きるのが大変で誰もそんな人達に目を向けることはできなかった。
「よし、食べよう!」
向かい合ってイスに座る。ローブを脱ぐべきか迷っていたようだが、本人の自由にさせた。俺に何もする気がなくても、信用されてるわけじゃない。
「いただきます!」
「い、いただきます………」
小さな声で言うとすぐに料理を頬張っていく。
料理中心配して見ていたんだが、見張られてると勘違いして腹がなってるのにつまみ食いを我慢して尚更食欲が増したようだ。
「あまり急いで食べると詰まらせ──」
「ぅっ!?」
喉を押さえて胸を叩き始めた。
言わんこっちゃない………。予想通りの展開に、用意していたコップに水を入れて差し出した。
すぐにコップを取り、慌てて水を飲む。
「大丈夫か?もう少しゆっくり食べろよ、心配でこっちが落ち着いて食べれないからさ…」
食べながら呆れ気味に言うと、頷いてからゆっくりと食べ始めた。
これで安心だ、食事中に喉に詰まらせて窒息死なんてされたら最悪だ。一生のトラウマになるレベルだよ。
「………ありがとう………」
消えそうな小さな声がフードの下から聞こえた。その言葉に頬が緩む。
黙々と食べる音だけが響き、多めに作った料理はあっという間に完食した。
「ごちそうさま!ありがとな、美味しかった」
食器を全部運んでから皿洗いをしながら、ソファーでくつろいでいる彼女に声をかけた。けれど返事はなく、心配になって振り向く。
「………すぅ~」
寝転んで眠っていた。
はぁ……仕方ないか。おそらく今まで何も食べていなくて疲れも溜まっていたのだろう。それにずっと警戒なんてしてたら、精神的にも疲れが堪っていてもおかしくない。
フードをかぶっているから顔は見えないが俺より年下だろう。今までよく頑張って生きてきたもんだ。
「頑張ったな。………おやすみ」
ボックスから毛布を取り出して彼女の弱々しい身体にかけた。後片付けを終わらせてから、電気を消して部屋を出ていき自分の寝室で眠る。
「おはよー!良く眠れたか?」
リビングに行くと、ソファーに座っている彼女は小さく頷いた。それは良かった、という俺の言葉を遮って、彼女の腹が鳴る。
「朝ご飯は外食にするか。それで良いか?」
近寄って聞いてみると彼女はうつむいて呟く。それには腹が鳴った恥ずかしさ以外にも含まれているみたいだ。無理に聞くことでもないから、首を傾げてみる。
「お金……」
「もちろん俺の奢りだ」
「…でも……」
フードで顔はわからないがおそらく困惑しているのだろう。今でもゲーム時代からの仲間しか信用できないし、自分達が生きることを優先して損得を考えて他人に奢ったりする奴はいない。
俺はもともと誰かとやってたわけじゃないから、仲間なんていなかった。今こそいるが、一人が不安なのはわかる。
頭を撫でて笑いかけた。
「俺が誘ったんだから俺が奢る、当たり前だろ。ほら行こう!」
手を差し出すと、躊躇い気味に彼女は掴んで立ち上がった。というより、立ち上がらせたのほうが正確だ。俺だって腹が減ってるんだ、早く朝食を食べたい!
「よし!──っとの前に、風呂とか入りたいなら入ってもいいぞ?」
別に覗いたりする気はない。純粋に身体が汚れているのは嫌じゃないんだろうか?という疑問からだったが、腹の音が急かしてきた。
ひとまず、いつもの店に行くことにした。
「どうだ、美味しいだろ!この店は俺のお気に入りなんだ」
彼女は黙って頬張っていく。それを見ていると、なんだか笑顔になってしまう。
そろそろ仕事に行かないとな………。今日はあいつらだったっけ。早めに来てるだろうし待たせても悪い。レベルを考えると行くのは、いくつかには絞れる。あ、でもなんか行きたいところがあるとか言ってた気がする。
「んじゃ、仕事あるから行くけどあの家自由に使ってくれていいから!」
俺は装備を弱そうと言われる戦闘用に変えて、家の合鍵を置いて立ち上がった。そのことに正面の彼女は、上下に頭を動かす。
「…え?」
「あとこれ、渡しとく」
俺は彼女に装備と金を渡した。
彼女はおそらく驚いた表情をしているのだろう。
「こんな大金に装備………。なんで、ここまでしてくれるの?」
俺は彼女の頭を撫でる。別に昨日あっただけの赤の他人だし、一緒に食事をしただけ。だけどさ、俺は何もできなかった。何もしなかった。何度も倒れている人を見た、絶望の声を聞いた、光になって消える瞬間を見た。目を逸らしても、映ってしまった光景は焼き付いている。
俺の自己満足だ。あと、このまま別れてしまったら、すぐに死んでしまうのは目に見えてる。関わった以上、生きていてほしい。っていう偽善だ。
「なんでだろうな……?あえて言うなら、なんとなく……かな。じゃあな、と言ってもあんたが俺の家にいればまた会えるんだけど!あ、出て行ってもいいから。うん、自由に生きてくれ」
「……ありがとう!」
彼女が俺の手を強く握って言った。その時、彼女の顔が一緒見えた気がした。とても美しい綺麗な顔だった。
「きたなーイズナ!」
時計塔の下にサカマとアカサが立っていた。
「イズナ君、今回もよろしくね!」
サカマの背には大剣、アカサの背にはライフルが背負われている。で、俺は片手剣。両手剣も使えるんだけど重いから。軽い物もあるけど、やっぱり片手剣よりスピードが落ちてしまう。ずっと速度重視で戦ってきたから変えると違和感が凄い。
「それで今回の依頼はなんだ?」
アカサとサカマの表情が待っていました!と言わんばかりだ。
「今回の依頼はこの新クエスト、〔終焉の者達〕だ!」
「この新クエストのボスを倒すと何か凄いのが手には入るんだってよ!私達で行けるかな?」
俺は一度アカサとサカマのステータスを確認する。
まあ、サカマの装備も揃っているし、レベルもそこそこある。アカサは、普通にサカマより強いし──
「まあ大丈夫だろう」
俺もいるし、このクエストレベルなら大丈夫だ。
「じゃ、はいこれ!」
俺の目の前に『アカサからパーティーの誘いが来ました』と表示され、俺はOKを押した。すると二人の頭の上にライフゲージが表示される。
「よし、行こうぜ!」
俺達は青い光りを発して浮いている転送装置に近寄ってエリア名〔トゥーンブラッド〕と入力しOKを押す。
すると身体は光りに包まれて目を開けると暗い森の中にいた。
「そういえば、転送玉と転移玉いくつ持ってる?」
俺の右側にいるアカサとサカマに話し掛けた。
二人はアイテムを確認し始めた。
「あたし転送玉十個と転移玉二十個あるよ!」
「俺は転送玉五個に転移玉十三個だ」
二人共持っているな、なら少しは安心だ。
転送玉と転移玉の違いは、転送玉はエリアから街に行くことが出来る。転移玉はエリアからエリア内の別の場所にランダムで行くことが出来るアイテムだ。もし強力なモンスターに出くわしたり、危険な状況になったとしても逃げることができる便利アイテム。これがなかったら死んでたかもしれない時もあった。冒険に出るなら必ず常備すべきものだ。
「なら大丈夫か、行こう」
『クエスト〔終焉の者達〕スタート!!』
アカサとサカマは右手を上に突き出した。
この二人は毎回これをやる。この前なんでやるのか聞いたら『雰囲気』だそうだ。
「お、なんかいるぞ!」
サカマが指差した方向にはトカゲの化け物のような剣を持ったモンスターがいた。
「先制攻撃する?」
「俺が行く、サカマは後に続いてくれ。アカサはサポートを頼んだ。」
「了解!」
「わかった!」
俺は肩の鞘から剣を抜いて構え、二人も武器を構えたのを確認してから一気に斬りかかる。
「よしゃー!楽勝だぜ!!」
モンスターを倒し続けてようやくボスの扉の前に来た。
「強くなったねーサカマ!前は足手まといにしかならなかったのに」
アカサは嬉しそうに微笑んでいる。サカマも照れくさいそうに頭を掻いている。
俺は依頼人が嬉しそうに笑っている姿が好きらしい、依頼人が笑っていると俺も笑ってしまいとても幸せな気持ちになる。
「まあ、これもイズナのおかげだぜ!ありがとよ!」
「いや、俺は仕事だからやっただけ別に礼なんて言われる筋合いはないって………」
「そんなことないよ、イズナ君が手伝ってくれたからサカマもあたしもここまで強くなれたんだしさ!
今までありがとね!」
「なに死亡フラグみたいなこと言ってるんだ?」
するとサカマが横から慌てたように両手を振って──
「ああ、ちげーよ!アカサも言い方がわるいぞ!」
「ごめんごめん!えっとね、あたし達このクエストが終わったら結婚するんだ!そしたら〔癒やしの湖〕近くの森でゆっくりすごそうと思うんだ!」
アカサが照れくさそうに頬を赤らめたら横にいるサカマも赤くなった。
「だから今日のこのクエストがイズナ君に依頼する最後のクエストなんだよ。」
「俺達はイズナのおかげで出会えたんだ、だからこのクエストのボスを倒すと手に入るレアアイテムをお前にプレゼントしようと思ったんだ!」
それを聞いた瞬間俺はとても嬉しかった、今この世界にいる人達は絶望している人が多い。しかし二人はこの世界で一生懸命幸せな道を探して見つけ出した。
俺は思わず泣いてしまった。そして笑って──
「おめでとう!!」
「へへー、ありがと!」
アカサに隠れるようにして後ろでなにかアイテムをいじっていたサカマがようやく出て来た。
「それじゃ、行こうぜ!ラストクエスト!!」
「行こう、ラスボス!!」
………それにしても、このエリアなにかおかしい。クエストレベルに対してエリア内のモンスターが弱すぎる。でもまあ、二人も実力はあるし大丈夫だろう。最悪転送玉を使って逃げればいい。
そして、扉を開けた。
違和感を感じてたいたのに。今まで何もなく、安全にすごせていたから慢心していたんだ。死んだら終わりの世界で、一度の油断は死に直結しているのに。わかっていたのに、理解していなかったんだ。
扉の向こうは大きく開けていて奥に、第一の終焉ア§△る%、という名前のモンスターがいた。
バグを起こしているような異常で読むことすらできない名前。ボロボロの布を纏った巨大なモンスターの顔は見えないが穴の空いた布から白い骨が見え、両手には銃が握られている。
「おい、マジかよ………?」
サカマの顔を見ると驚愕の色に染まっていた、アカサも同じ顔をしている。
「どうしたサカマ?怖じ気づいたのか?」
「ああ……あいつのレベル…見てみろ…」
そう言い指差したサカマの手は酷く震えている。
どうしたんだ、ここまで震えているのを見るのは初めてだ。
視線をライフゲージの横にあるレベル表示へと移すと、そこには『84』の数字。意味するのは強さ。
これはまずいことになった……。
エリア内のモンスターが弱すぎる訳だ。気づいていたんだ、エリア平均レベルに普通のモンスターが全然達していないことに。そこから考えれば、ボスのレベルくらい容易にわかったはずなのに考えなかった。
そもそも、俺たちのレベルにしては簡単に進み過ぎていたのに、強くなったと勘違いしていたんだ。
俺の失敗で責任だ。が、今はどうするかを考えなければ。
この世界での30レベル差はかなりの力の差だ。しかも俺と同等のレベルが三人ならギリギリ倒すことは出来るだろうが今いるのは、37レベルのアカサに34レベルのサカマ、52レベルの俺しかいない。
この状況はまずい、力が足りない!完全に力の差が目に見えてありすぎる。
くそっマジで死亡フラグ立ってた!!