柊夢乃の日常
SIDE:夢乃
「あ、あの、突然の事になっちゃって悪いとは思っているんだけど。その、
一目惚れしました!!良かったら俺と付き合ってくれないか!?」
お分かりだろうけど、絶賛告白されちゅう。
目の前の彼を一言で表すな爽やかスポーツマン?顔も悪くないし制服の上から見る限り体も程よく引き締まっているっぽい。
ウチの物とは違う制服を見ながらどこの学校だったかなーと思っていたら再び聞こえてくる彼の声。
「あ、あの。」
改めて彼を見る。
高くも無く、低くも無く。平均的な身長。どちらかと言えばちょっと高めかな?
そして、つまりは、いつも通り。声が聞こえてくるのは私の上から。
「ありがとう。でも、ごめんね?今は彼氏とか考えられないの。」
下から彼を見上げ、困ったような、それでいて泣き出してしまいそうな笑顔を向ける。そうすれば
「あ、い、いや、いいんだ。気にしないで。伝えられただけで満足だから。」
ほらね。他の人と似たり寄ったりな事を言いながら、彼は去っていった。
告白を断るのは簡単。今みたいにすればほとんどの人が大人しく去ってくれる。
如何に自分に害の無いよう相手をフルか。そんな事もこの3年間でほぼ完璧に身についてしまった。
女の子達を取り込もうと立ち回ったつもりだったのに。まさか男共にまで影響があったとは。竜翔には「普通簡単に予想がつくだろ」と呆れながら言われたけど。
正直に言えば、元々恋愛にはあまり興味がない。
……………変に男をつくったら兄姉、さらには母がどんな反応をするかわからないという考えのせいもあるかもしれないけれど。
そもそも、気持ちを伝えられただけで満足してしまうような奴らなんか要らないわよ。
せめてあきらめずに何度も猛アタックしてみようとか思いなさいよ。
竜翔今日は生徒会の仕事があるんだよなー。
終わるまでどうやって時間潰そう・
そんな風に思っていたらタイミングよくメールの着信を告げる私のスマホ。音でわかる。相手は竜翔。
「20分後には駅に着く」
てことは、後18分程で駅に着くんだな。学校から最寄り駅までは、私の歩きで約10分。けれど竜翔にとっては7、8分。
さっさと教室に戻って駅まで一緒に帰ってくれる女の子を見つけよう。
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私と竜翔は学校ではほとんど関わらない。
何故なら私が嫌だと言ったから。
けれど、登下校も二人別々と思われているそれは間違い。家の最寄り駅から家までは必ず竜翔と一緒。だってそれが条件だし。
けれど、学校からその最寄り駅までは誰か他の人と一緒。
だからこうして、竜翔はメールでタイミングを教えてくれる。
彼は出来うる限り、登下校の時間を私に合わせてくれる。
だから、何故か竜翔が生徒会長なんかに就任しちゃって、そのせいで何回かは竜翔に合わせなければいけないとしても、多少なら許せる。
結局、教室に人が居なかったものの、昇降口で捕まえることができた女の子達と一緒に駅に向かう。
ホームに着いたら竜翔にメール。「27分のに乗る。たぶん3号車」
そっけないけれど、かまわない。だって、早く届くに越した事はないから。
「夢乃ちゃんまたメール?駅に着くたびにしてるよね?」
「うん。乗る電車教えてるの。迎えに来てくれる人が居るから。」
「え?誰々?彼氏?」
声を弾ませて聞いてくる女の子達。
なんでこうも恋バナが好きなんだろう?というか、何故、すぐそっち方面に話を持っていきたがる?
疑問に思いながらも最初から誤解を与えるつもりでいつも通りの返答をする。
「彼氏じゃないよ。でも、この連絡忘れると兄姉筆頭に怒られるんだよね。」
連絡相手が兄姉だとは言ってない。けれど、こう言えば
「やっぱりお兄さんお姉さんも夢乃ちゃん可愛いんだねぇ。」
「わざわざ迎えにきてくれるんだ?いいなー、優しくて。」
ほら、誤解した。ついでに言わせてもらえば優しいのではない。度を越した過保護だ。過保護すぎだ。
電車に乗る直前に竜翔から返ってきたメールはただ一文字「4」
なるほど、今日は4号車に乗ってるのか。
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家の最寄り駅に着いた。
いつもの場所で待っていてくれるから、改札を出てすぐに竜翔を見つける事が出来る。
「お待たせー。」
竜翔の前を通りながら、相手の顔も見ずに声を掛ける。良くない態度だって事は重々承知している。それでも彼は
「おう。」
一言返してくれる。目の前を通り過ぎる私に上手くタイミングを合わせて隣を歩いてくれる。よく出来たもので歩幅すら私に合わせてくれるのだ。
私今まで生きてきた中で、竜翔ほどエスコート上手い人って知らない。
私たちの家は隣同士。だから、家に入る直前まで一緒に帰る。
でも、駅での会話と言えない会話以外にはお互い喋らない。てか、私が彼と歩きながら喋るのが嫌いなのだ。
だって身長差35㎝だよ?お喋りするには見上げないといけないんだよ?そんな事毎日やってたら首が痛くてしょうがない。
竜翔も私が喋らない理由を知っているから合わせてくれる。
そした今日も、いつも通り。私は家の扉を開けながら振り返る。
すると、ほらね。竜翔は【私の】家の門の前に立って見送ってくれる。
これなら微妙に距離があるから、見上げる角度はわずかなもの。だから
「りゅーしょー、今日もありがとね。」
私は今日もお礼を言うの。偽りのない、私の笑顔で。
でもね?竜翔、なぜか、この言葉には返事くれないの。
片手を上げてそれで終わり。
それでも、これが私の日常。