008話:班決め
午後は林間学校についての話し合いだ。
学級委員長の谷口 夏帆が黒板の前に出て取り仕切っていた。
「では班決めから……皆さん六・七人で一組のグループを作ってください」
ザワザワと動き出すクラス内の生徒。
俺と鈴木と山田も三人で固まる。
いつも思うけど、このフリーダムな班決めって良くないと思うんだよね。
ボッチが残っちゃうじゃん。
最初の班に入れないと、どんどん孤立しちゃって最終的にどの班にも入れなくなるんだよ。
まっ今、俺には鈴木と山田がいるから別にいいんだけど!
どんどん、班が決まっていく。
女子たちは元々班分けを考えていたのかさっさと各々のグループに分かれていった。
次々と五~七人のグループを作る中、残っているのは、俺達男三人と……石橋とその舎弟(仮)の女二人……
ほらぁ!!! 残っちゃうじゃんか!!!
どーすんのこれ……?
「あっ、宮代君たち余り!? 良かったら、一人ずつ分かれて入らない……? ほら私たちの班まだ五人だしさ……!」
「あっ! だったらウチのとこも入れるよ!」
「こっちも!!」
原木だ。
原木が俺を誘ってきた。
そこからは堰を切ったように女子たちが俺達を誘ってきた。
いや、“俺”を誘ってきた。鈴木たちにお声がかかっていない……
俺は鈴木たちを、そして石橋達を見る。
鈴木と山田は『どーする?』みたいな視線を俺に向けている。
そして、石橋とその舎弟(仮)の方は黙って立ったまま俯き、床を見ていた。
俺達は少ない男子だからかチヤホヤされるけど、石橋達は……
「あー悪い、俺達男子は固まってたほうが嬉しいからさ……」
「あっそれじゃ、わた……」
「おーい! 石橋! お前達こっち来いよ、同じ班になろうぜぇ」
「「「「えっ!?」」」」
俺達を誘ってくれた原木一同女子全員が唖然とする。
鈴木と山田も唖然とする。
そして、ゆっくりと顔を上げた石橋と、その舎弟(仮)も……唖然としていた。
俺は固まった表情のままなかなかこっちに来ない石橋に近づき声をかける。
「オイ! 聞いてる!? もしかしてまだ怒って……ました?」
石橋にキッと睨まれた。
怖い。
「……がとう」
「は、はい?」
「ありがとうって言ってんだよ……」
「あ、あぁ……」
……
「それじゃ、私も余ってるしそこ入れてもらおうかな!」
「「「えええ!!! ぶーぶー! 職権乱用だぁ!!」」」
委員長だ! メガネの委員長! 委員長の谷口がブーイングの中、俺らの班に入ることになった。
皆ぶーぶー言ってるが、これは委員長なりに、そして皆なりに空気を読んでくれたんだと思う。
俺がクラス一の不良、石橋に声をかけた瞬間完全にクラスの空気が氷った。
それを委員長がうまいこと溶かしてくれたんだ。
それに、この班に入りたい奴なんてそうそういないだろう。
それから、委員長が一緒なら不良の石橋も安心だって皆も思ってるだろうし。
さすが委員長だ、これが最善の策だろう!
それにしても、石橋は感謝してたのかよ……
良く見たら目尻に涙溜まってやがる。
そんなに嬉しかったんか? じゃあこれで睨むのはもうやめてくれ、ついでに昨日の件も許してくれ。
その後はなんとか鈴木と山田を説得して俺達はやっと六人組を作ることができた。
――放課後。
「それじゃ、まずは私たちの班のリーダーを決めようか!」
「それ委員長でよくない?」
「僕もそう思うな」
おっ、山田が珍しく食以外の意見を言った。
しかも俺の意見に賛成だ。てか既に取り仕切っているし、谷口以外がリーダーになるのは考えられない。
「いやいや、宮代君! ここは一応民主主義として聞いておこうと思ってね! どうかな、石橋さん達?」
「……別に文句ないよ」
「私も石橋さんと同じ」
舎弟(仮)ちゃんは、石橋と違う意見は出さない気がする。
ちなみに鈴木も賛成でリーダーは委員長になった。
「よし、僭越ながら私がこの班の長をやらせてもらいますね! さてと、じゃあ当日の予定を一応確認するよー」
……委員長が話してくれた林間学校の予定はこうだ。
まず、クラス毎にバス移動。
宿舎についたら荷物を置いて、先生からのありがたいお話。いやどうせ、山の注意とかそんなんだけど。
あー、ちなみに泊るところはクラス毎だが、男子は少ないので全員で同じ部屋だ。
そんで登山……なんだよ登山って!?
とりあえず、山の中腹には博物館やら果樹園やら、花畑みたいのがあるらしいからそこまで登るらしい。なんて中途半端……
そんで夕方前まで自由時間。
自由時間終わったら下山。
宿舎の前まで帰ってきたらキャンプファイヤー……いや下山したらもう寝たい気がするんだけど……
で、入浴、就寝と。
濃いな一日目……
二日目は朝飯を宿舎で取った後川原まで行ってカレー作り。良かったな山田。お前の好きなカレーだぞ。
そんで帰る。
えっ、二日目薄っ!!
ま、まぁとりあえず、クラスナンバー2の可愛さを誇る委員長と一緒なんだ、少し仲良くなれるといいな。
うん、そうすべきだ! これはチャンスだ、もしかしたら何かのきっかけで付き合うことに……なぁーんてな!
「さて、それじゃ、自由時間でどこへ行くか決めておきたいんだけど、一応先生に報告しないといけないからさ!」
「カフェ!」
「山田お前……」
「僕も室内が良いな、できればWifi入ってるとこ」
「鈴木お前まで……」
「え、えーと石橋さん達は? 行きたいとこないの?」
「委員長ー! 石橋さんはって『秘宝館』ってとこに行きたいって言ってたけどー」
「ばっ! バカ! お前男子の前で何言ってん……!!」
いや秘宝館て……
ねーだろ、そんなん林間学校で行くような所に……
ちなみに秘宝館って性の博物館みたいなところだ。
と言っても俺も行ったことないからよくわからない。
しかももしあっても俺達高校生が入れるはずないだろ……
鈴木と山田はなんだそれと言った感じで首を傾げている。
委員長は……えぇっ!? 委員長知ってんの『秘宝館』!?
委員長はなんだか顔を赤くしていた。
「あっ、ほら! 宮代が白い目でみてるじゃねぇか!!」
「えっ、つか宮代知ってるの!? 男のくせにスケベ―!!」
ぐっ……
男だからスケベなんだよアホう! 舎弟(仮)ちゃんのアホう!
「と、とにかく、博物館とガラス館で良いかな? うん、そうしようよ、ねっ!」
「あ、あぁ委員長! それが良い、俺もそれが良いと思う! おい、石橋達もそれで我慢しろ! 鈴木と山田も室内なんだしそれで妥協しろ!」
「宮代が行きたいとこなら俺は別に……」
なんか、相変わらずふざけた話になりそうなので、無理やり決めさせてもらった。
なんか、目前に迫ってくるとけっこう林間学校楽しみだな……!