007話:時計搭食事会
朝。
若干寝不足気味なのか目の下にクマを携えた妹と朝飯を食べ、いつも通りのバスに乗り、いつも通り学校にやって来た。
教室に入るとまたまた原木と神崎が挨拶をしてくる。
それに丁寧に応えて席に着く。
石橋に見られている気がするが目を合わせてはいけない。
昨日のことを怒っているかもしれない。
合わせたら狩られる。そんな気がする。
その日は一日酷く疲れた。
石橋とその舎弟(仮)はその美しい身に有り余る力で他の生徒から教室の一番奥の席を奪いとり、そこにふんぞり返っている。
ちなみに舎弟(仮)とは石橋にいっつもくっついてる舎弟的存在の女の子だ。別に同学年だから上下関係はなさそうな気もするけど石橋に逆らわないから舎弟っぽい。
そんなヤンキーに俺は監視されているような視線を感じつつも、授業を受けていた。
キーンコーンカーン……
「それじゃ今日の授業はここま……」
バッ!!
俺は先生の話が終わるか終わらないかのタイミングで立ち上がり購買に向かう。
女の子が多い学校だから、昼間に慌てて購買に走るような生徒はあまりいない。
しかし、俺は流石にあの教室に耐えられなかった。
石橋薫……なんて恐ろしい娘っ!!
しかして作戦は成功だ。
石橋が再度俺に接触を図ってくるとすれば昼休みか放課後、昼休みはミッションコンプリートなのであとは放課後なんとか出来れば……
「あっ! 宮代君! こっちこっち! 待ってるよみんな!!」
「へ? 葵?」
俺は葵に手を引かれ時計塔の前に……
って、昨日と同じパターン?
しかし、そこには華やかな空間が広がっていた。
そこかしこに女生徒、女生徒、女生徒……!!
セーラー服の女の子が青い芝生の上に座り、談笑しながら食事している姿が沢山見える。
楽園!? 楽園なのかここは!?
そして、その楽園の中心には真一と……誰だか知らないけどもう一人金髪の男がいた。
俺は葵に連れられるままにその二人に合流した。
「やぁ祐ちゃん来てくれたんだね! そうだ、こちらの金髪小悪魔系な彼は塚本 雪人! 雪、もしくはユッキーと呼んであげてよ!」
「いや、そこは『ゆきひと』でいいから。よろしく、えーと祐樹君だっけ? 雪人です。聞いたよ? 昨日は真一のバカに呼びつけられたみたいだね……」
その雪人なる男は、八重歯の見える笑顔でニコッと笑って、手を差し出してきた。
俺はその手をとり、よろしくと一言、握手をする。
それにしても確かに昨日は大変だった。
石橋に呼び出されたと思えば、真一というホストみたいな男と出会うし……こんな世界とは思っていなかった。
そんなこんなしていると周りから、周りの“女子”からヒソヒソ声が聞こえてくる。
「うぉぉぉ! イケメン一人追加しましたー! ヤバイ、この四人ヤバくない!?」
「ねぇ! イケメンの周りにイケメンが集まるって本当だったんだね!」
「ねっ! 良い男が集まる時計搭食事会が毎日開かれてると噂を聞いて来たみたけど本当だったね!」
「ただ、ちょっと倍率高いよね、ここにいる女子全員あの内の誰か狙いでしょ!? あーいいなぁ、誰でもいいからお近づきになりたいわー」
ムフフ……
来てよかったかも……
あっ、誰でもいいならここにいる真一君に五千円払えばデート出来ますよ。
「よし、じゃこれでみんな揃ったし、真一お祝いしよーよ!!」
「そうだな、じゃお昼ご飯としますか。ほら、これ、祐ちゃん!」
「あっ、うん? ナニコレ? つか、俺まだパン買ってないんだけど……」
葵いわく俺のお祝いをしてくれるようだ。
真一から白い箱を渡された。
でも俺はパンを買う前に連れてこられてしまって昼飯がない。
とりあえず飯の前にこの渡された箱開けてみますか……
ゴソゴソ、ぱかっ。
「おーケーキだ! 真一、お前ケーキなんて学校に買って来たの!? しかもデカっ、ホールかよ!! ウケるわ~!」
「今の僕は小金持ちだからねっ! ふふん!」
「えぇーいいなぁ僕も食べたいかも~」
「いや、ありがたいけど、ホールケーキなんだし皆で食べようよ」
「あー、ありがたいけど僕はいいや、太るし」
ニコニコの真一が言う。
お前太るもん俺に食べさせようとしてんのか!?
「あー俺もいいや、甘いの苦手なんだわー」
雪人もベッと舌を出して断った。
葵は……キラキラとした瞳でこちらを見ている。
か、可愛い……しかし俺は頭を撫でたい気持ちをぐっと押さえた。
「でも、俺と葵だけじゃこんなに……」
俺は気づいた。
真一がイヤにニコニコとしている。
何かおかしい。
雪人もやれやれといった感じに薄ら笑いを浮かべている。
何かおかしい。
葵はキラキラと、キラキラキラキラと、手を組んで俺を見つめている。
すげー可愛い。
そして、周りに座っている女子達がシンと静かにしていた。
まるで聞き耳をたてているかのような静けさで、皆そわそわとしていた。
「あ、あのぉ……」
俺は立ち上がる。
「ケーキ食べたい人ぉ……」
……
もみくちゃにされた。
最初は『ハイ、ハイ!!』と言って沢山の女子が寄ってきたんだ。
そして、遠くにいる女子まで寄ってきて押し合いへし合いとなった。
ケーキが潰されたどころか俺まで潰される所だった。
それにしても異常に体を触られた気がする。服の中にまで手を入れられそうになったのは焦った。
そんな惨状に真一は大笑い、雪人もケラケラと笑い声をあげていた。葵は潰されたケーキに本当に悲しそうな顔をしていた。
真一、雪人許すまじ! 葵はあとでケーキを買ってあげよう!
そんな訳で時計搭食事会とやらの俺のお祝いが終わった。
教室に帰るなり原木唯と神崎麗に取り囲まれる。
「み、宮代君、パン買いに行ったんじゃないの!?」
「あーパン買いに行ったら葵ってやつに捕まって、真一ってやつと雪人ってやつと飯食ってきたん……」
あれ?
俺飯食べれてないじゃん!
ふざけんなよマジでぇぇぇ!!!
「えっ、祐樹それって時計搭食事会ってやつ!? とうとうあんたに招待状が来たかぁ!」
「えっ!? 麗ちゃん時計搭食事会ってあの時計塔の前で男の子が開いているって噂の!?」
あぁ、そんなに噂になってるんだ……
「ほらー、唯! あんたが早くしないから、祐樹がさらに遠い存在になっちまったぞ!? こりゃあんたお願いするしかないね、私のはじめての相手になってうぶっ!」
「こ、こらー!! な、なんでもない、なんでもないから祐樹君!!」
原木は焦って神崎の口を抑え、そのまま自分達の席の方へと帰っていった。