006話:家での妹
「ただいまぁ……」
なんか今日は色々あった。
スケバンのあの石橋が俺に用事があったみたいだけど……
それだけが唯一の心配だ……
明日学校行って何もされてないといいけど。
「お、お兄ちゃんお帰り!!」
あれ?
珍しいな、いつもは俺のことをハエか何かかと思っている妹、春香が俺に「おかえり」とか言った気がする。
なんだ俺の耳がおかしいのか?
「ご、ご飯作っといたからさ! 食べる?」
「え? お前がご飯……?」
「そ、そうだよ! 温かい内に食べたほうがいいよね! 早く食べよう!」
「なんだ……夢か」
「いや、『夢か』じゃないよ!! もう、早く着替えてきて!!」
「あ、あぁ……」
何事だ?
貞操観念が逆転して女らしくなったのか?
どうゆうことだ?
我が妹意味不明なり。
とりあえず短パンとシャツに着替えてきた。
まだ春で少し肌寒いけど、別に大丈夫だろう。
自分の部屋から出て、階段を下り、リビングに向かう。
そこには既にテーブルに座る春香がいた。
目を大きく開けてこちらを見ている。
「お、お兄ちゃん!! なんて格好してるの!?」
「へ? 格好? シャツと短パンだけど?」
「ち、ち、乳首が透けそうだけども!!」
えぇ、そういうこと言うなよ……
なんか恥ずかしくなるよ……
「べ、別に良いだろ! 兄妹なんだ、気にすんなよ! それより美味そうじゃん! ハンバーグか?」
「そうだよ、お兄ちゃん好きでしょ? せっかく作ったんだからさ、あ、あのさ、ところでさ、お兄ちゃん何も言ってこないけど、この前の朝のことは……」
「ん? いいから早く食べようぜ! 腹減ってきた!! いただきまーす!!」
妹が何か言っていたが、食欲には勝てなかった。
春香ってこんなに料理上手かったのか!!
良い嫁になるなぁ!
……俺は夢中で食べた。
すっかり皿の上には何も残っていない。
「ふい~……腹いっぱい」
「で、でさお兄ちゃん、この前のは……」
「この前の? 朝がどうしたって?」
「……っ!! 覚えてないなら良いよ!! ご飯作って損した!」
え?
何で怒ってんの?
あぁ、そういえばこの前なんか洗ってる妹を見掛けた……
あれか? あれの話か?
そういえば秘密にしてとか言ってたな。
まぁ別に誰かに話そうとも思ってなかったけど、秘密にしといてやるか。
とりあえず、怒ってる妹を飯が美味しかったとか適当に宥めて俺は風呂へ向かう。
……
「ふはぁ~……生き返るぅぅぅ……」
そういえばもうすぐ六月……そんでもって林間学校かぁ。
林間学校では六人一組のグループだっけ……
とりあえず鈴木と山田を班に入れるとして……残り三人、女子は可愛い人と一緒だと良いなぁ……
クラスで自他共に認めるナンバー1、東條 綾。
深窓の令嬢よろしく、黒髪ロングのお嬢様。声も瞳も澄んでいて、立ち振舞いは大和撫子。そんな彼女と同じ班になれたならそれだけで最高だ。
それからナンバー2の委員長なんかでもいい。原木やら神崎とは少し話したから全然オーケー。ただ、石橋だけは顔は良いがダメだ。怖い。
湯の中で、そんな妄想に浸っていると外からゴソゴソと音が聞こえてきた。
なんだ……?
風呂のドアには曇りガラスがかかっているが黒い影が見えている。
「……オイ! 春香か?」
「……お、お兄ちゃんが遅いから様子を見に来たのよ! のぼせてないかなと心配してあげたの!」
なんか怒っているが、俺の心配してくれるなんてやっぱり今日の妹はおかしい。
まぁ悪いことはないんだけど、いや、むしろ良いんだけどさ。
「お兄ちゃんは大丈夫だー! 安心してくれー!」
「うっさい!!」
え……
照れてんの?
うるさいと一言残し妹はドタドタと走り去って行った。
世界は変わったみたいだけど、風呂の中は特に変わってないな。てか、何から何まで変わっていたら気が休まらない。
俺はいつも通りに頭を洗い、体を洗い、それから風呂に浸かって、脱衣所兼洗面所へ出た。
両親ともまだしばらく帰ってこないので、だいたい俺が一番風呂なわけだ。サッパリングー。
あれ?
俺の服がない……
さっき春香が来てたし洗濯機に入れてくれたのかな?
うん、たぶんそうだろう。
なんだか至れり尽くせりだ。
「オーイ、春香ー、風呂どぞー」
俺はバスタオルを腰に巻き、リビングでテレビを見ていた妹に声をかける。
だいたいいつも妹は俺が風呂から上がるのをテレビを見ながらソファに座って待ってるのだ。
「な、な、な、なんて格好してんのぉ!! ちゃんと隠しなさいよっ!!」
「はぁ? ちゃんと隠してるぞ! ホラ」
俺は腰を突きだし、そこに巻かれたバスタオルを見せる。
ウリウリ! 流石に妹に見せるのは憚られるからキチンとバスタオル巻いてるぞっと!
「バ、バカ、そこじゃなくて!! 胸! 胸でしょ! 変態!!」
「はっ? 胸?」
何言ってんのこの妹?
胸隠せってか?
俺はそっと腕をクロスにして隠してみた。
「もう、私だって女なんだからね!? お兄ちゃん、ちょっとは警戒したほうがいいよっ!!」
いや、妹なんだから女なのは当たり前じゃね。
さっきからこいつ何言ってんだ???
マイ乳首を隠すと言うアフォな体勢のまま俺は考える。
なんか随分偉そうだな……
乳首を隠すのが普通みたいだけど、あれか?
お姉ちゃんが風呂上がり胸隠してなくて困る弟みたいなあれなんか?
ははーん……
ドキドキしちゃってんだなこれ?
俺はそんな煩悩に刈られた我が妹をからかおうと一計を案じた。
「なぁなぁ春香ー……」
「何? もう私お風呂行こうと思うんだけど……」
「チクビーム!! なんちってっ!!」
春香の顔はみるみる紅潮していく。
俺は自分の乳首を摘まんだまま笑顔で停止中だ。
しかし、次の瞬間……
ポタタ……
妹は鼻血を出した。
しかもドンドン流れるように垂れてる。
「うぉっ!! 大丈夫か春香!?」
「バカ、バカ! お兄ちゃん来ないで! 来たらもっと出る……かも!」
「お、おぉ……」
春香が涙目で怒るので、遠くから見守ることにした。
まさか鼻血まで出すなんて……
いや、俺は悪くない! ただチクビームしただけだし!
春香は鼻血を拭くとキッと俺を一睨みしたあとそそくさと風呂へ向かった。
なんだか悪い気がしたので、その日はタンスの奥からスウエットを引っ張りだしてきた。
ふざけすぎたな。あとで春香に謝ろう。