046話:化粧をしよう
「呼ばれて参上っ!! 神崎 麗ちゃんだよぉ!!」
「「「……」」」
「えっ。何この冷たい空気……? ちょっと祐樹これどゆこと?」
「あぁ、悪い悪い、ちょっとメイクをして欲しくて……」
「えっ!? 祐樹どうしたのV系にでも目覚めた!? 良いよね〜男性ビジュアル系って!!」
「いや、俺じゃねぇよ! この子、この一年生!」
俺が秋葉を指し示すと、神崎がその秋葉の顔をじっと見はじめた。化粧とか出来そうなやつを探していたら教室で寝ていた神崎を見つけたので引っぱってきたのだ。
ホームルームが終わっても誰からも起こされない辺りに少し可哀想になってしまった。
さて、そんな神崎は真剣な眼差しで秋葉のことを見ているが、どんな化粧をしようか考えてくれているのだろうか。
……などとは考えないことにしよう。だって神崎だし。
「これは女の息子、いや、格好が女だから男の娘か……うん、アリだな!」
「いや、アリとかナシとかじゃなくてだな。この子はそもそも女の子で、もっと女らしくなりたいんだと。だから化粧の一つでもしてやってくれって言ってるんだ」
「ふぅーん。まぁいいよー」
そんな訳で神崎が秋葉の顔に化粧をし始める。
今更だが、ボランティア部何もしてないな。まぁ、化粧企画をしたってことで多少秋葉が快く思ってくれるといいなぁ……
――十五分後。
……完成した秋葉灯の顔はヤバかった。
急に高校生とは思えないほど大人びたような顔になり、目がパッチりとした美しい女性になっていた。髪型とかセットすればもっと凄いことになるだろう。なんだこれは、誰だ!?
「う、うおぉぉ……化粧って凄いんですね、雰囲気別人だわ」
「確かに……男の俺達からするとやっぱマジックか何かに見えるよな……」
東條、谷口の我が高校ツートップには劣るものの、充分ここにいる神崎や薫とは勝負できるレベルだと思う……
あっ。
薫が嫉妬のこもった目でこちらを見ている。
後でフォローしておかないとなぁ、ウジウジすんだよなぁこいつ。
まぁ、フォローって言っても「好きだよ」の一言で機嫌直るからチョロいんだけど。
「よし、ありがとう神崎! もう帰っていいぞー!」
「えぇっ!? ヒドイ!」
「よぉし、それじゃあ次は出会いを探しに行こう! どんなのがタイプなんだ?」
「え、えっと、目は大きめで身長は程々に高くて、少し胸板がある男の子が好きです。あと、なるべくイケメンで……」
表面的な話しか出てこない。
内面をあまり気にせず、やっぱ男は見た目だよなぁって勢いで好みを伝えてくる秋葉。
もっと優しいとか、明るいとかなかったのだろうか。
とりあえずどうやってそんなカッコイイ彼氏を作ればいいんだろう……顔は可愛いくなったけど、この世界の男女が付き合うまでに至るプロセスがわからん……
「あ、あの、でも私が上手く彼氏なんて作れるでしょうか?」
「大丈夫、大丈夫! ほら、そんなに下を向くと可愛い顔が見えないぞ? 折角化粧したんだからもっと顔上げて、顎引いて……」
「っ!! か、かわい……」
あ、ヤベ。
あ〜あ、やっぱり薫が怒ってるなこれ。
なんか頬を膨らませてるもん。いや、つーか可愛いな。お前はリスか!
「ちょっと思ったんだけど、彼氏云々の前にちょっと恥ずかしがりすぎじゃね? そんなんじゃ男と喋れないぞ?」
「なにっ!? 陸が至って真面目なことを言ってる気がするんだが!? 幻ちょァベシッ!!」
殴られた。痛い。
だが、幻聴等ではなかったようで、確かにその通りなのだ。
秋葉は自分に自信がないせいかドオドとしてしまい、あまり会話が進まない。
ここは頑張って会話に慣れてもらおう。彼氏とかはそこから自分で頑張ってもらうって感じで。うん、そうだよ彼氏の前にまずは好きな人作らないと。
だからそのためにも会話力をつけてあげよう! それが俺達ボランティア部の出来ることだ!
「じゃあちょっと会話の練習しよっか。そうだなー秋葉、俺が彼氏とし……なくてもいいか、ここにいる陸が彼氏だとしよう。さぁどこにデートに行きたい!?」
「えっ、かれ、彼氏!?」
「うーん、俺は映画に行きたいかな。『悪の三人』あの映画が気になっててさぁ……」
「じゃ、じゃあ映画で……」
「……陸、ちょっと静かに。今回は秋葉のトーク力を鍛えたいんだから秋葉に話させて。何か秋葉オススメのとことかないのか?」
「えっと、ふ、古本屋とか? 立ち読み出来るし……」
「えぇ、古本屋ぁ?」
「ゴ、ゴメン、やっぱり映画とか、どう!?」
結局映画になっちゃったよ。
その後もデートトークとか色々試してみたが陸の自己主張が強すぎて秋葉はほとんど相打ちを返すだけだった。
まぁ、カッコ良さも大事だけど趣味の合う彼氏を探した方がいい気もするよなぁ。
そんなふうに悩んでいるとガラッと扉が開く。
入ってきたのは真一だ。
「あぁ、良かった祐ちゃんいた!」
「どしたー? 何か悩み事ならここにいる石橋が全て解決するぞぉ」
「ちょっと雪にイタズラしたらめちゃくちゃ怒っちゃって、少し隠れさせて!」
「まぁたなんかしたのかよー」
「雪、焼きそば食べたいなってお昼に言ってたじゃん。だから焼きそば入れといたんだ……筆箱に」
「おぉ……それは怒るわ……真一、お前ちょっと一回しっかり怒られたほうが良いぞ」
「たまには刺激が必要かなってパンチの効いたことがしたかったんだよぉ……!」
これは真一有罪だわ。
スマンなと言って秋葉に向き直るが、当の秋葉はすっかり真一に見とれていた。
あぁこいつカッコ良いもんな。
まぁ今日は少し自信を付けられたってことでお開きにしますか。
「ゴメンな秋葉。彼氏云々については今度合コン組んでやるから……」
「なにっ!?」
「ウルサイ石橋。反応はえーよ。合コンって言うかあれだ、真一達と一緒にカラオケとか行って男に慣れようってこと。要は一緒に遊びに行くだけ! 今日はこれから真一を雪人のとこに連れていくから」
「そんなぁ! えっと、ごめんね秋葉ちゃん? 邪魔しちゃって……でも、君可愛いからすぐに恋人も出来るよ、焦らないで!」
「あ、ありがとうございますっ!!」
真一にそう言われ、嬉しそうに赤い顔をする秋葉。あれ、これって……
いや、真一だけは止めておけよ秋葉。
俺はそう思いながらボーッと真一を熱っぽく見つめる秋葉に不安を覚えていた。
次話は久々の原木唯の話にしようかなぁと思います。さほど期待せずにお待ちくださいな。




