004話:ヤンキー女と女男
金髪スケバンの石橋 薫。
俺は今、そいつの後を着いていってる。
先日、変な女の子に絡まれた時に助けてもらったのもあり、無下には断れなかった……
はぁ、いったい何をされるのだろう……
なんか旧校舎に連れてこられたのはいいけど、さっきから同じところグルグル回ってる気がする。
もう帰って良いだろうか……?
「なぁ、どこまで行くんだ……っ! ……ですか?」
くっ。
睨まれて怯んでしまった。
コエーんだよ、目が!
あれ、そう言えばこいつ朝っぱらから教室の中で男の裸が見たいうんぬん言ってたな。
俺、もしかしてこれから裸にひんむかれるのか!?
マジでそんなことされたらお婿にいけなくなる。
カツアゲ程度で我慢してくれ、いや本当に。
五百円やるからさぁ……さっきパン買ったから今五百円しかないけどやるよ、だから校内で裸にするのはやめてくれ……
「い、いいから黙って俺に着いて来い!」
ん?
俺? こいつ自分のこと俺って言うの? あーホントにスケバンって感じだわ。
てか、こいつ今一瞬吃った? 吃ったよね?
なんだビビってんのか?
ふふん……やはりこの世界でも男の強さはあるみたいだな!!
まぁ俺もケンカになったなら女なんかに負けるはずないと思ってたけど?
一瞬、震える声を聞いただけで、俺はいきなり強気である。
「オイ、石橋! お前いい加減に……っ!! ……トイレに行かせてくれませんかね?」
ダメだ、やっぱりヤバイよこいつ、怒ってんのか!?
目が血走ってんだよ!!
大きな態度で行こうとしたけどダメだったわ、とりあえずトイレに逃げ込もう!
落ち着いて考えるんだ、昨日の件だけじゃない気がする、なんでこんなにお怒りなのかは知らないけれど、一旦一人で考えよう……!
そのためにもまずはトイレに行かなければ……!
意外に石橋は俺をあっさり男子トイレに案内してくれた。
「あっ、じゃあ失礼しま~す……」
ギィと鳴る古いドアを開けてトイレに入る。
やっと解放された。
さてこれからどうする……?
「ふぅー……なんなんだいったい? うーん、よくわかんね。まぁ、とりあえずしょんべんでもすっかぁ……」
……
「お、おい!! ……大丈夫か!?」
俺がチャックを開けたその時、トイレの外から石橋の声が聞こえてくる。
大丈夫かって……
何が?
「お、おい! 宮代!? いるのか!? 入るぞ!!」
ギィ!
「……はっ? いや、ちょっ!! 何やってんのぉぉぉ!?」
急いで仕舞ったが見られただろうか!? ……俺の自慢の一品を……
真っ赤な顔と血走った目の石橋がドアからこちらを覗いていた。
「す、す、すまん!! に、逃げられたかと思って……でも、大丈夫だ! お前のは影しか見えなかった! セーフだ!!」
はぁぁぁ!?
お前コエーよ!? なんなんだよ!?
……あっ、でも影しか見えてないならセーフか。
……じゃねえよ!!
そもそも男子トイレを女子が覗かねえよ!
しかも、ここ三階だぞ!? 逃げるってあんな小さい窓から逃げれるかよっ!?
トイレの窓は人一人潜れるかどうかというほどの小ささだった。
そして、一連の異常な出来事で俺の尿意も一気に体の奥へと引いていた。
「あ、あの……それで、なんなんですか? 俺なんかしました……? この前、絡まれた時に石橋の名前を出したことに怒ってるなら謝るけど……」
「い、いいからさっさとして出てこいよ! も、もう見ねえから! こんなとこでする話じゃねえんだよ!」
いや、普通だから! 普通見ないし! 見るんじゃねぇよ!
てかもう出ないわ。出る気がしない。
「あの……やっぱりトイレもう良いです」
「あっ、おまっ! じゃ、じゃあもう話かけないから、ちゃんとしろよ!」
「いいから、さっさと用事済ませてくれません?」
「み、宮代キレてんのか!? なぁ、怒ったか!? ス、スマン本当に!」
「……は?」
「い、いや、別に覗こうと思って覗いたんじゃ、す、少しは下心もあったが、その、こっちも必死で!!」
「わ、わかったから。落ち着けよ石橋!」
「あ、あぁすまない……」
「とりあえず用事済ませようぜ……」
なんか謝りだしたぞ?
うん、あんま怖くなくなったな。
よくよく見ればやっぱ可愛いし、そんなに恐れることないのではないか?
とりあえず、早く用事済ませて帰ろう。
なんか今日はもう疲れた。いや今日も疲れたって感じか?
「こ、ここでいいか!!」
多目的室。
旧校舎にはほとんど人がいない。
もちろんこの教室も無人だ。隣の教室もその隣も。
ここで何の用事があるというのか?
何故ここなのかは中を見ればわかるのだろうか?
ガラッと勢いよく石橋が扉を開いた。
その時だった……
「オーイ! 宮代君、探したよぉ!」
は?
なんか茶髪でくりくりな髪の学ランだぼだぼ男子が廊下をこっちに向かって走ってくる。
中性的……というかむしろそこらの女より可愛い、そんな男が俺の名前を呼んでいた。
「えっと、君誰だっけ……」
「石橋さん! 石橋さんだよね!? 少し宮代君借りてくよ!」
「えっ、ちょっ!!」
「まぁまぁ、いいでしょ? 今度埋め合わせするからさ……」
俺の言葉を無視して、石橋に話しかける男子生徒。
ゾクッとするような上目使いで石橋を見るその男子生徒。
そんな野郎に石橋も真っ赤になりつつ、目を反らしながら吃りだした。
「う、う、埋め合わせって、な、なな……」
「よし、行こう宮代君!」
「え? お、おぅ……」
俺は自分より小さなその男子生徒に手を引かれて旧校舎から脱出した。
石橋は立ち尽くしていたので今日は諦めてくれるってことだろう。
俺達は外に出て、そのまま時計塔前の広場にやってきた。
この茶髪の男子生徒は俺より小さいし、たぶん俺と同じく一年だろう……
ていうか、この高校で男は一年生しかいないんだけどな。
それにしても、同学年にこんなやつがいたのか……
「ここまで来れば大丈夫だね! うん。大丈夫だった? 不良に目をつけられちゃうなんて運が悪かったね……」
「お、おう……で、お前誰だ?」
「あっ、僕? 三日月 葵だよ、よろしく!」
「葵……な、よろしく。それで、なんで俺のこと?」
「男は少ないからねぇ! 一応、僕男子生徒はだいたい知ってるし、真一が学校の中でカッコいい人同士知り合っておきたいって宮代君と話したがってたんだよ!」
「えっ!? カッコいいって俺!? 俺が!?」
ナニコレ嬉しい!!
鈴木や山田に言われるよりはるかにこの可愛い系男子に言われたほうが嬉しかった。
それにしてもカッコいい人同士知り合っとくか……
なるほど、元の世界でも可愛い子の周りは常に可愛い子がいた!
あんな感じだろうか!?
俺もそんなメンバーの一人なんだろうか!?
スゲーモテちゃうんだろうか!?
「うん、普通系のカッコよさだよね!」
「え……?」
これ喜んでいいのかな、いやダメじゃね……?
普通系って付くだけでレベルが2つくらい落ちる気がする。
俺は本当にカッコいいのか? 普通なのか?
モヤっとするな本当に……
「あ、そうそう、僕達はいつもここで……あれ? 真一は中かな?」
そう言うと、葵は俺を置いて時計塔に入って行ってしまう。
時計塔は階段がずっと続いているだけなので、人があまり入らない。そこへ葵は入っていった。
なんだ? 俺はどうすればいいんだ?
時計塔の中に真一とやらがいるのだろうか?
あー、真一ってやつが俺と話したいとか言ってたよな? 俺から一応挨拶くらいしておくか……
俺も葵に続いて時計塔へ入って行った。