037話:【冬休み編】愛すべきバカ野郎
思いっきり殴ってしまった。
最悪だ……
初めて女の子を殴ってしまった……
男としてあるまじき行為だ……
「痛ってーなぁぁぁ!! てめぇ……あん? お前は……」
「すまん、殴ったのは謝る!」
「はぁぁぁ!? 舐めてんじゃねぇぞ!? こっちはお前のせいで散々なんだからなぁっ!!」
「いや、だからね、何があったのか聞かせ……」
「うるっせぇ!! そもそもお前がいなきゃこっちはなぁ……あがっ!!」
「あっ、悪い……」
あまりに話を聞いてくれないので頭突きを食らわせてしまった。
手は出してないので今度はギリギリセーフだ。たぶん。
「なんで俺のせいにするんだって聞いてんの!」
「それは薫が……お前みたいなやつとやっていくには私達みたいな奴等と手を切らなきゃいけないからだろうが!」
「だからそれが何でだっつってんの!! 関係ないだろうが!! お前達の友情はそんなもんなのかよ!?」
因みに俺はここまでずっと襟を捕まれたままだ。一発殴ったあと起き上がってからは頭突きをしようが彼女は手を離さなかった。
俺より背が低いというのに、祭という女の子は俺の頭を襟で引き寄せて話してくる。
いつもの俺だったらビビってしまうだろうが、今はそんなことしていられない。俺のすぐ隣には今、ボロボロの石橋がいたからだ。
「っ!? お、お前はそれでいいのかよ……?」
「はぁ? 人の友達にとやかく言うクソじゃねぇよ! 大事なのはそいつが何をするかだ!」
「み……みやじろ……」
「お、オイ……石橋、お前大丈夫かよ?」
「ごんなの……屁でもない……祭と友達でも……いいのが?」
「だからさ、不良をやめたいならお前がやめれば良い話だろう? なんでそこにこの祭ちゃんが出てくるわけ?」
「なっ……じゃあ、なんで私はこんなに殴っちまったんだ……ん? じゃあ、なんでお前は私を殴ったんだ!? オイ!!」
「あー石橋が殴られててついカッとなって……だからスマンってば! だけどさぁ、石橋も君も顔は可愛いんだから殴りあいはもうやめなよ、なんか勿体ないし……」
「「っ!!」」
襟を掴む手が緩んだ。
どうやら話が通じたみたいだ。
「はぁ……もうやめだ、やめ。なんでこんなことしてるんだろ。薫……ごめん、一方的に殴った」
「ち……がう。俺が、悪い……まだ……友達でもいがな……?」
「……っ!! ったりまえだっ!! 私達は親友だからな!!」
今回のことの顛末はこうだ。
石橋は不良をやめたかった。昨日の金髪の悪魔と呼ばれたのもキッカケかもしれないし、もしかしたら女らしくしろと俺が金髪をやめさせたり、俺と言うのを直させたりしたのも原因かもしれない。何がキッカケかはわからないが、不良の石橋をもう捨ててしまいたかったようだ。
だが、昨日の祭ちゃんとの直接のやり取り、そして、そのあとメールで引き続きやり取りをしたことで、石橋が暴走して祭ちゃん含めた不良の友達たちと縁を切りたいと言ってしまったとのことだった。
他の不良仲間を祭ちゃんが連れてこなかったのは、彼女なりの親友への優しさなのか、自分一人で目を覚まさせようとしたのか今となってはよくわからない。
とりあえず誤解は解けた。
石橋が不良をやめたいからって友達をやめることはないし、祭ちゃんも実際は親友に縁を切りたいと言われてショックだっただけなのだ。
全く、石橋がバカ野郎だ。俺はきっと悪くない! うん、悪くないはずだ!
「おーい!! 宮代くーん!! 見つかった!?」
「おー! 委員長! 見つけたぜ! 今連れて行くから皆を家に集めて待っててくれー! すまん、たのんだぞー!」
さすが委員長だ。
こちらまで来ることなく、俺の表情や仕草から何かを察してくれたようでユーターンして帰っていった。
「オイ薫、あいついいなぁ……くれよ」
「……は? 何いっでんだ。やるが……俺のだ……」
「ん? 何か言ったか?」
祭ちゃんは石橋に寄り添って何かを話していたが、俺は委員長と話していたのでよく聞こえなかった。
「さて、スマンが今日は石橋は借りていく。殴りあいは友情を深めるために大切かもしれないが、それはまた明日にやってくれ!」
「ははっ、もうしねーよ。こんな不良でも可愛いって言って貰えるらしいからさぁ……さて、お邪魔虫は帰るとするか、オイ薫! この後のことあとでしっかり聞かせろよ! 親友だもんな!(ニヤニヤ」
ぐっ、なんかこの子ちょっとしたたかさを持っているな……
とりあえず石橋に肩を貸して二人で帰路についた。
◇◇◇
「さて、石橋。お前に言わなきゃいけないことがある」
「な……なんだよ……」
肩に抱いた石橋はよろよろと歩く。病院には行かないと言うが、とりあえず骨は折れてなさそうだから大丈夫だろう。
話もしっかりできるくらいには回復していた。
「この、バカ野郎!」
「……っ! スマン」
「バーカ、バーカ」
「……悪かった」
「今日はクリスマスパーティーだろ? 皆待ってたんだぞ?」
「……申し訳ない」
「本当にバカ野郎だな。はぁ……あれだ。俺はバカ野郎が好きみたいだ。石橋、付き合ってくれ」
「……ごめ……え?」
「……」
俺は立ち止まって石橋を見つめた。
石橋の答えを待った。
今日は石橋が直ぐにメールや電話の返事をくれなくて不安になった。
石橋が殴られていて怒りが沸いた。
それに元々俺は石橋に助けられていたんだ。もしかしたらあの時から好きだったのかもしれない。
唯のことがあって、付き合うとか怖くなっていたけど、石橋といていつのまにかそんなことを忘れていた。
いつも俺の日常のどこかに石橋はいた。
俺はいつの間にか石橋にそばにいて欲しいほど好きになっていたんだ。
「ちょまっ!! ダメ、ダメだ! 今のなし!」
「そ、そうか、なんかスマン……」
「ち、ちが、違う!! そうじゃなくて!! お、俺、じゃない! 私は……えっと……宮代裕樹が好きです!! つ、つ、付き合ってください!!」
さっきまで殴られていて、辛いはずなのに……突然石橋はピシッと立って俺に頭を下げた。
「プッ……ハハハ! なんだよそれ!?」
「バカ野郎! こういうのは女が言うものなんだ!」
「ははは……はぁ……そう言うものなのか、じゃあよろしくお願いします! でいいのか?」
「あぁ!」
ボロボロの顔だったのに涙まで流して、石橋の顔はそれはもう酷いことになっていた。
だけどそんな石橋の笑った顔はとても良い笑顔で、俺は吸い込まれるようにキスをした。