032話:【冬休み編】図書室
「やっと明日から冬休みじゃーい!」
「いぇーい! 祐樹ぃぃぃ! やっと休みだね! 遊びまくろうぜー!!」
「あれ、神崎? お前は今から補習だろ?」
「ぐぁぁぁぁ!! や、やめろぉぉぉ!! 私にそれを思い出させないでくれぇ!!」
補習なんて数時間我慢すれば終わるのにな。
まぁ、俺も石橋もそれが嫌で頑張ってきたんだけど。
とにかくこれでやっと休みだぜ~!!
帰宅部な俺は帰りの準備を済ませ、スキップで教室を飛び出した。
「きゃっ!!」
「あだっ! ……ててて、あっ! すまん委員長!!」
委員長にぶつかってしまった。
盛大に委員長の腕の中から、山積みの書類が床にぶちまけられてしまう。
「悪い、今拾うから……!」
「う、うん」
「あれ? どした……?」
委員長が廊下に座ったまま足をさすっている。
恐らく挫いてしまったのだ。
「あっ、わ、悪いっ!!」
「大丈夫大丈夫このくらい!」
「いや、全然大丈夫じゃないよ! 保健室行こう!」
この世界では貞蔵観念が逆転している。そのせいだろうか、調子の悪い男子生徒に優しく声をかけて保健室に連れていく女子はいても、怪我をした女子を保健室に連れていく男子はなかなかいない。
だが、体の強さなんかは元のままなんだ。女の子は力が弱い、ここは俺が連れていってあげるべきだ。
「あはは、大丈夫だよこのくらい。それより資料を図書室に持っていかないと……」
「じゃあ俺が持っていくから! 委員長は俺の肩捕まって!」
「え! い、いいの?」
委員長の顔が少し赤い。
この世界の一般常識として、男子に気軽に触れるのはセクハラとなるのだ。だが、俺は全くそんなこと考えたこともない。
女の先生なんかは男子生徒に過度なスキンシップしないように注意したりしているが、そんなもんはただの考えすぎだと思ってしまう。
「あぁ! そんなもん気にしないし、俺が怪我させちゃったからさ! もうどんどん触ってくれ! むしろお姫様抱っこか? ここはお姫様抱っこするべきか!?」
委員長に触られるなら別に良いと思う。
だが、なんだか躊躇しているので、俺はちょっとふざけてみた。
「い、いや、ちょっと、肩、肩を貸してくれるだけでいいからね、宮代君!?」
慌てた委員長萌え~。
さて、俺は書類を回収し終え、委員長を左肩に捕まらせる。
彼女はよろよろと立ち上がり俺の肩に少し体重を預けた。
「おい、やっぱり保健室行くか?」
「いや、その前に図書室だよ。早く届けちゃお! 行け~宮代丸!」
「ヒヒーン!」
馬の鳴き声を出してみたものの、委員長の足が心配なので牛歩だった。
あちゃーこれ大丈夫かな? 仕事なんてほおっておいて保健室行くべきだったか?
「最近、元気になったね宮代君……」
「ん……そう?」
「失恋からはすっかり立ち直ったのかな?」
「……知ってたのか委員長」
「いや、あのタイミングで元気もなくなって、学校も来なくなるなんて嫌でもわかるよ……」
「んー、立ち直ったのかな? 俺は自分でもよく分かんないんだけどね。でも、学校サボると怒るやつがいるからさ……自分だってサボる癖に怖いんだよな」
「それに最近、勉強頑張ってるように見える」
「ん? そうそう、俺は実はやれば出来る子なのです!」
そうこう話していると図書室についてしまった。
もう保健室まで連れていくのが面倒なのでちゃちゃっと保健室まで行ってビニール袋に入れた氷を持ってきた。
書類も片付けたので委員長には暫く図書室で足を冷やしてもらう。隣に座らせて俺が彼女の足を氷で冷やしていた。生足ハァハァ! おっとイカンイカン。
「宮代君は原木さんが転校してから図書室に来ないよね? 前はたまに図書室に寄るとちょいちょい宮代君の姿見てたのに」
「あ、あぁ、唯のこと色々と思い出しちゃうしね……」
「ふーん。あまり良い思い出じゃない?」
「んー……いや、そういうわけでは」
ヒソヒソと小さな声で話す。今日から冬休みのため、本を読む人どころか図書委員もいないのだけれど、ここではこうやって話すのがルールだ。
昔はあの目の前にあるカウンターに唯が座っていて、俺は唯の仕事が終わる時間までそこら辺で適当に本を読んで時間を潰していた。
唯がいなくなってからは図書室とも疎遠になってしまった。
「新しい彼女でも出来たの?」
「えっ!? いないけど!」
「そうなんだ、石橋さんあたりと付き合ってるのかと思ってたよ」
「石橋!? いやいや、ないでしょ! あっ、そうだ! 今度石橋とか神崎とかあと男共とクリスマスパーティーやるんだけど委員長も来る!?」
「魅力的なお誘いですね。じゃあ、お邪魔しちゃおうかな?」
「二十四日に俺の家ね! プレゼント交換するから千円くらいで何か適当に買っておいて!」
「了解!」
イタズラに笑う委員長に少しドキドキとした。
なんだかこちらが恥ずかしくなる。ダメだもう帰ろうか。
「そ、それじゃそろそろ帰ろうか!」
「あっ、ちょっ!」
慌てて立ち上がったため委員長の椅子ごとまとめて引いてしまった。こちらに倒れてくる委員長。
うおっ……!!
チュッ。
え?
柔らか……っ唇!?
「ご、ごめん!! これはあれだ、不可抗力ってやつだきっと!」
「……」
「ご、ごめんってば、キスするつもりは……」
「……あはははは! よいしょ……このキスが宮代君にとっての図書室の良い思い出になるといいなぁ」
「あ、え……う、うん」
「さて、帰りましょうか!」
「……」
なんだか委員長手慣れている?
キス一つじゃ動揺しないとか凄いなぁ。
……と思ったら鼻血拭ってるや。しかも、耳まで真っ赤になっている。たぶん恥ずかしいんだろうな。俺も恥ずかしいもん。
まぁでも気持ちはわかるよ、キザなセリフとか俺も一度は女の子に言ってみたいし。それが死ぬほど恥ずかしいのだろうけど。
そして、無言か続いたこの状況をぶっ壊したのはなんと神崎だった。
「あれぇ!? あれあれあれぇ!? なんで裕樹がまだいるの!?」
「補習終わってしまったか神崎」
「なにその反応!? 終わらないほうが良かったの!? もう、なんか最近酷いよなぁ裕樹は……てか、なんで委員長と? ははーん……図書室かそこらであーんなことやこーんなことしてきたな?」
なんでこいつこんなときに限って勘が働くんだ。とりあえず言い訳しても逆に怪しくなりそうなので言葉を選ぶ。
「別に神崎が弄られキャラだからだろう? みんなに愛される弄られキャラって感じなんだからそんなに悲しそうにするなよ」
「私は愛されて弄られるキャラなのか、なるほどじゃあ今度から私のことは愛ぶぅっ!」
チョップしておいた。なんだよ愛撫キャラって。