031話:大変なことに気が付いた④
大変なことに気が付いた。
この世界……なんと、電車で男が痴漢……痴女? されるらしい!!!
それに気が付いたのは木枯らしも強く吹き付けるようになってきた、もう冬休みは目前のとある休日のことだった……
「お兄ちゃーん、リモコン取って~」
「リモコンは春香側だろうが~俺は絶対に取らないぞ~」
「ケチ! 変態! ビッチ!!」
「何とでも言え、我は不動なり」
「この! 動け、不動明王!! ゲシゲシ!!」
「痛っ! コタツの中で蹴るなてめぇ! このナマケモノがぁ! ゲシゲシ!!」
「痛いぃ! もう怒った!! うらららら!!!!」
ヤバい!! 両足を掴まれて、俺の股の間に春香の足が入ってきている!!
電気アンマという名前の、男の股間をぐりぐりと押しつぶされていく拷問が始まろうとしていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!! お、おまっ! ヤメロ! たまが! たまが潰れて死ぬ!! 死ぬぅう!!」
「ふへへへ!! 死ね! 死ねぇええ!!」
「ちょ! マジで! マジでヤメロ! タイム、タイム、一回休憩! 五分、いや、五秒! いぎゃぁぁああ!!」
「へへへ……へへっ、は、はぁ……はぁ、はぁ、はぁはぁはぁ……」
「いだだだ!! あ、あれ? ちょっと春香さん……? 鼻血出てますよ?」
「っ!!」
春香は慌ててコタツを飛び出して洗面所の方へ向かって行った。
なんだあいつ……?
おー痛ぇ……
まったく、血尿出たら恨むぞマジで……
だいぶぬくんだので俺はそろそろ出発することにした。
今日はクリスマスパーティーでのプレゼント交換のため葵と買い物に行く約束をしていた。
女子もいるのでそれなりの物を買おうと思っているので男どもで予定を合わせて買いに行こうとしたのだが、真一と雪人は女と約束があるとかで断られた。
雪人は絶対妹の梓ちゃんとイチャイチャしているだけだと思う。妹なんだからそんなんいつでも出来るだろ! うん。俺もそう思ったんだけどさ、あいつらクリスマス前を良いことにこれ見よがしにそこら中でイチャイチャイチャイチャしている。なんか梓ちゃんの方も満更じゃなさそうにしていて雪人には何度も殺意が湧いたが、殺る機会がなかったので残念ながらまだ生きていた。
今回のクリスマスパーティーには血に飢えた非リア充の猛者達が集まってくる。血のクリスマスにならないことを祈ろう。
「おーい! 宮代君!」
「おす! 葵!」
葵が走って来た。葵は顔は中性、いや、下手な女の子より可愛い顔をしているので手を大きく振りながら近寄られるとデートの待ち合わせのようで少しドキリとする。
短い髪や服装が男そのものなので、辛うじて周りから男に見られるが、なんかもうスカートとか履かせて俺の恋人と言い張ってクリスマスを迎えてもいいと思うこともしばしばあった。
あれ? 俺、飢えてるのか? ……リア充爆発しろ。
「3つ先の駅にある百貨店なら色々売ってると思うんだよね~!」
「だから駅に集合なわけか。因みに葵は何買うか決まってるの?」
「秘密だよー! それ言っちゃダメじゃん!」
「ああ、そっか……でもネタには走らないだろ?」
プレゼント交換するから、その前にバレたらつまらないもんな。
ただプレゼントに関して、マジなやつか、笑えるようなやつかどちらにするかは結構悩んだ。
男同士でやるならネタ優先でプレゼントを選ぶ。全長二メートルのふ菓子とか、バンジージャンプセットとか、ショッキングピンクのブーメランパンツとかにしただろう。
「うん、女の子達はちゃんとしたの選ぶと思うんだよね、だならこっちもちゃんとそれなりのを選んだほうが良いかなって!」
「あー、確かにな~」
「あっ、電車来たよ乗ろう!」
休みだと言うのに、人が多い……
3つ先の駅には色々と揃っていて、俺達以外にもクリスマスプレゼントを買う人やカップルがデートで訪れる。
イベントか何かがあるのだろうか? 電車もそれなりに混む時間帯に当たってしまったようだ。
「うぐっ苦しっ……!」
「だ、大丈夫!? 宮代君……」
「だ、大丈夫だっ!」
押しくらまんじゅうだ。乗れたはいいが、ドアに押し付けられる。しかもこちら側のドアは3つ先の駅まで開かない。俺はこのまま圧縮布団のようになりながら暫く待機することになりそうだ。
左隣の葵のほうを見れば葵も葵で必死に潰れないよう体を支えていた。小鹿のようにプルプル震えているがこれあと三駅も持つのか? 葵のほうが大丈夫じゃない気がする。
……
二つ目の駅も過ぎたころ。やっと余裕感が出てきた。
今の今まで、俺を電車のドアに押し付けてくるオバサンと無言でプレッシャー(圧力的な意味)勝負をしていたがどうやら勝ったようだ。さすが俺!!
その時だった。
俺の手がギュッと握られる。
えぇ!? ななななにごと!?
数ヵ月前に味わったあの、しっとりした柔らかな感触が手に蘇る。つい唯を思い出してしまった……
しかし、俺の手を握ってきたのは葵だった。
な、なんだよ……? 男同士で手を繋ぐなど不快以外の何物でもない。恐らく鈴木や山田、雪人などにされたら怒る。真一にされたら恐怖と殺意を抱くだろう。
しかし、葵は何か中性的だし、どこか小動物かのような雰囲気もあったので、ただ、どうしたのかと疑問を抱いた。
よく見ると顔が真っ赤だ。てか、なんか泣きそう?
「お、オイ、どうし……っ?」
あら? なんかよく見たら葵のお尻に手が……
え? もしかしてあれか? 痴漢? いや、痴女になるんだっけ?
凄い勢いで撫で回している……葵は何故か息を荒くして、なんだか色っぽくなってきた。いやいや、男が色っぽくなってどうする。
それにしても、痴漢……あっ痴女か。本当にいたんだな……
電車では男性専用車両という、汗臭い社会の害悪でしかないものが作られ痴女対策が取られている。
しかし、まだまだその被害は泣き寝入りが多いと聞く。だが、別に俺からすればなんともない。露出狂に出会ってしまった俺からすると自ら出会いたいとは思わないが、まぁ別にケツを触られたくらい無視でいいかくらいなことに思えた。
……って考えてる場合じゃなかった! 葵にとってはツラいことかもしれない早く止めよう。
俺は葵のお尻に延びる手をなんとか掴もうと左手を伸ばす。
よしっ! 掴んだ!!
混みすぎていて、手を伸ばすと無理な体制になるので完全に手探りだったがなんとか葵のお尻を撫で回していた犯人を捕まえたようだ!
しかし、犯人は俺の手から逃れようと暴れだす!
くそっ! うりゃ!
俺は犯人の必死の抵抗にも手をけして放さない。あまりに暴れるで俺の左手首につけていた時計がクリーンヒットしてしまったようだ。
動きが止まってプルプル震え出した。
よし、顔はわからんがこのまま警察に突きだして……
「ご乗車~ありがとうごさいます~」
シューッ!
「う、うわっ!!」
「痛っ!!」
電車の扉が開く。
俺は後ろから降りる人達に押され、人波に飲まれた……
……
「あっ、宮代君いた! それにしても、凄い人だねぇ……」
「お、おぅ葵……大丈夫か?」
「なにが?」
まぁ気にしてないならいいか。
人波の勢いが強く、逆らうのが無理だと思ったので、俺は階段の先まで行って改札口で葵を待っていた。
「じゃあ行きますか~……あれ!? 東條?」
今、人混みの中に東條綾が見えた気がした。
マスクをして、髪をポニーテールにしていたが俺の目は誤魔化せない。
学校のやつらが来るようなイベントでもあるのだろうか?
右手を怪我したのか抑えながらそそくさと去って行った。
「よし、さっさと行こう宮代君!」
俺達も先を急いだ。