025話:大変なことに気が付いた③
大変なことに気が付いた。
この世界……なんと、痴漢の代わりに痴女が出るらしい!!!
それに気が付いたのは、いや薄々気がついていたけれど、しっかりと思い知ったのは夏休みのとある一日の朝の時だった……
「あーん、もう! なんで鼻血出ちゃうかなぁ!!」
「おーす! 春香! 朝っぱらからエロい夢見てんじゃねぇよ!」
「あっっっ!! お兄ちゃん!! な、なんで今日に限ってこんな朝早く……」
ハハハ……
それは俺が今日デートに行くからに決まってるでしょうが!
唯と町に繰り出すのが楽しみすぎて遠足の前日かってくらい眠りが浅かったのは秘密だ。
ちなみに女子は興奮すると鼻血出るらしいよ。
おかげで春香はよく寝起きに鼻血を出している。
思春期おつです。
「ちょ、ちょっとぉぉぉ!!! こっち見んなぁ!!!」
「はー? なになに恥ずかしいの? 春香さんや、そういえば最近鼻血を良く出しますなぁ!」
「ばかぁぁぁ!! 死ね、変態! 痴女に襲われろっ!!」
げふぅ!!
蹴られた。腹を。思いっきり……
よ、容赦ねぇ……
というか最後のはなんだ?
『痴女に襲われろ?』何それ、うらやまけしからん。
てか、やっぱりそうなのだろうか?
元の世界の痴漢が痴女に変わっているってことでいいのかな?
洗い途中でびちゃびちゃな可愛いパジャマを持ったまま、妹は俺を蹴ってそのまま洗面所を飛び出して行ったしまった。
俺は床にうずくまりながらそれを見送る。
……
「ごめん! 唯はいつも早いなぁ!」
「いや、丁度今着いたとこだよぉ!」
そんな待ち合わせのカップルの会話を終わらせて、俺達は大きなショッピングセンターに来た。
まずはセオリーな映画鑑賞だ。
見るのは邦画。俺はけっこうヒューマン系の感動できる洋画が好きなんだけど、彼女と見るなら洋画より邦画のほうが良いだろう。
よくCMでも流れていたやつだし。
──一人の少年が突然時を越える力を手に入れるも、物事は結局なかなか上手くいかないと言った青春ジュブナイル恋愛もの。
昔のリメイク作品らしい。
暗がりの中、俺は唯と手を繋ぎながら映画を見た。
な、なんかドキドキとした。
どこかソワソワとする、こう、暗いし、色々と感覚が鋭敏になっていた。
うん。そのせいか映画の内容を余り覚えていない。
映画のチケット代、1000円が……
だ、だがまぁいいか。気分味わえただけでも良かったようん。
その後は食事したり、海に行くための水着を選んだりした。
楽しいと時間はあっという間に過ぎる。
いつの間にか日は傾き、時間は夕方になっていた。
「じゃーねー!! 祐樹また明後日ー!!」
「おーう! 楽しみすぎて明後日まで寝れないわー」
「もーちゃんと寝てねー!」
遠くなるまでぶんぶんと手を降る唯を見送ってから俺は帰路に着いた。
家までの道は車通りも少なく、人もあまりいない。
日が落ちるとけっこう不気味だ。
街灯がチカ、チカっと切れかかっていたりする。
もう、本当そういうのやめてくれ。
これでその下の暗がりから怪しいやつが出てきて、私キレイとか言われたら……
「……う、うわぁぁぁ!!!」
ビ、ビックリしたぁぁぁ!!
本当に人いるんだけど!!
しかも帽子かぶっていて、サングラスにマスク、更には茶色いロングコート……
オイ……まさか口は裂けてないだろうな……!?
叫んでしまったのであからさま、向こうはこちらに気づいている。
俺はどうすべきかわからず立ち止まった。
こっちに来たらダッシュだ……あれ? でも、逃げ切れるか俺の脚力で!?
た、確か逃げると凄い勢いで追ってくるんじゃ……
思案していると、そんな俺の気も知らずに動きだし、ゆっくりと道の真ん中に立つロングコート……
え? なにこれ、ど、どうする……?
その時だった。
バッッッ!!!
突然コートの前部分が全開に開かれた……!!
「はぁはぁ、お兄ちゃんよーく見ておくれ……」
「う、う……」
「へへへ、私は男が動揺するのを見て興奮す……」
「ウゲェェェェェェエエエ!!!」
俺は吐いた。
盛大に。
確かに痴女はいたのだ。春香の言った通りだった。
俺の目の前にはお化けでも妖怪でもない、正に生きている人間が立っていた。
いや、違うな……
ある意味でそいつは、『妖怪』だった……
コートの下は全裸だ。ここは元いた世界の痴漢と同じで全裸に靴下というアホな格好。
しかし、その体つきは五十歳程度であろうか、うん、ちょっと俺にとってはキツイ物だった。
まさか、年齢までそのままかよ……
俺はもっと可愛い痴女をどこかで期待していたのだけど、完全に俺の妄想でしたすみません。すみません。すみませんからどうかそのままお帰りください。
俺の目の前に立つその姿は……
うっ……ダメだ直視するとキッツイ……
ウゲェェェェェェエエエ!!!
よく見たらさらに気持ち悪くなって、俺は再び吐いた。
痴女も引いちゃってる。
というか、痴女は俺を介護しようか、逃げようか迷っているようだ。
逃げてくれ! 頼むからここからいなくなってくれ!!
迷わずにさっさとお前がいなくなれば済むんだよ!
俺は気持ち悪すぎて言葉を発することも出来ず、地に両ひざそして両手を着いた。
地面に体を投げ出してしまいたい。あっ、ダメだそんなことしたら自分のゲロまみれになるわ。
それにしてもヤベェ、痴女の破壊力ヤベェ……これはトラウマになる……
痴漢に出会った女の子の気持ちってこれか!? これなんか!?
この気持ち悪さがトラウマになるんか!?
「ちょっと! あなた何してるんですか!? あっ、コラ逃げるなぁ!!」
えっ誰?
誰かが俺を助けてくれたの?
救世主? 救世主降臨?
「ねぇ、君大丈夫……あ、あれ? み、宮代君……?」
「えっ!? あれ!? と、東條!?」
なんと救世主は東條だった。
ありがとう東條、先ほど見てしまった汚物の記憶が浄化されていくようだ……
そんな美しさを持つ東條に助けられた。まさに救世主。
「あ、あはは……まさかの偶然だね……」
「あ、あぁ、助かったよありがとう……!」
「いえいえ、家こっちなの? 良かったら途中まで送るよ?」
「あっ、いいよ、もう本当にすぐそこだから! クソッ! あの野郎!! 家帰ったら通報してやる!!! 東條も気を付けろよ!」
「えっ? う、うん?」
「そうと決まったら早く電話しよ! もう会いたくないし俺はさっさと帰る! じゃーなー東條!! あっ、そうだ! お前、俺のこと避けるなよっお互い林間学校は忘れよーなー」
「う、うん!」
俺は家へ駆け込んだ。
はぁ、東條がいてくれて助かったよ本当に……
あのまま痴女の前で気分が悪すぎて倒れるなんてことになったら洒落にならん一大事だった。
今度東條に会ったらちゃんと『ありがとう』と感謝を伝えよう!!
あれ……そう言えば、一つだけ不思議なことが……
なんで東條はこの真夏にロングコート着てたんだ……?




