023話:双子の兄妹
──今日は先日行われた試験の結果発表日。
「宮代~! お前何位だったの? 因みに俺は一一八位……」
こいつは鈴木。アゴ割れオタクメガネだ。
クラスの中で数少ない男の一人。
「お前、頭良いな鈴木……俺なんて二二六位……山田は?」
二七二人中の二二六位。
三十三人いるクラスの中でも二十九位だった。
赤点ってやつだ……はぁ……補習行きかなこれは……
あっ、そうそう、山田はこのクラスの中のもう一人の男子である。
だいたい俺と鈴木と山田はいつも固まっている。このクラスの男子は三人だけなのでまぁ仕方ないのだ。これが自然の摂理なのだ。
「僕は五三位だよ」
「うぇっ!? けっこう頭良いのな山田……」
……
そんな訳で今日はテスト結果の順位が五十位まで貼り出されているってことで休み時間に見に来てみた。
「へぇー、やっぱ委員長頭良いんだなぁ! 一位かよっ! てか、東條も二位、あっ唯も四十位……あいつらトップレベルで可愛いながらも勉強もトップレベルか……神はなんて不公平なんだ、トップレベルのカッコ良さの俺には勉強の才能をなぜ与えないのだ!?」
※宮代祐樹の外見は普通系イケメンであり、トップレベルではありません。
「おい~祐樹! お前校内何位だったんだよぉ?」
「ん? ……に、二一六位だよ」
「ぬわー負けたぁ!!」
バカが話しかけてきた。間違えたバ神崎が話しかけてきた。
若干サバ読んでしまったが依然として二百位な部分が情けない……
でもなんだか神崎のほうがバカそうだしサバ読まなくても良かったな。
「神崎お前、校内何位なんだよ?」
「えっ? 私? 私は二二五位だよ……次は絶対勝ってやる! アへ顔でダブルピース決めてやる!」
ぬぉぉぉぉ!
負けてんじゃねぇか俺!!
しかも一位差かよっ!
ちょっと真面目に勉強頑張ろ……
「……あ、あぁそう。頑張れよ~」
「ちょっ! 冷たくない祐樹!? 今の所は、勉強で勝っても、ベッドの中では俺がアへ顔ダブルピースだぜ!! でしょっ!?」
「なんで俺がアへ顔でピースしなきゃいけないんだよっ!!」
バ神崎と話しているとふと、神々しい何かがいることに気づいた。
あっ、なんだ東條か。
どうやら東條も順位を見に来たみたいだ。
「おーい、東條、お前二位かよ! 凄いんだな!」
「ッッッ!!」
しかし、何故か俺に気付くと顔を真っ赤にして慌て出す。
あっ、逃げた。あっこけた。
ぬぉぉぉぉ!!
パンツ見えとるがな!
だが、東條はバッと立ち上がるとダッシュで逃げていった。
「あー。祐樹のパンツ見ちゃったからなぁ、しかも自分で脱がしちゃって。あれは忘れられないわ」
なるほど。
林間学校で俺は東條にズボンを降ろされてしまった。
何故かわからないが、東條にはスゲー謝られて結局微妙な間柄になってしまったわけだ。
あれ? てかそれもこれも神崎のせだよね?
なぁおい。
……
昼休み。
俺は時計塔の前へ、購買でパンを買ってから向かう。
「そう言えば真一お前何位だったの?」
「僕は三位だよ~!」
雪人の問いに笑顔で答える真一。
そう言えば順位表で東條の下に真壁って名前があった気がする。
すまん、真一。思春期の男子の目には男の名前は映らないようだ。
「やっぱり真一は頭が良いなぁ! 僕は二十九位!」
あっ、葵も順位表にいたの?
すまん、葵、思春期の男子(以下略)。
ってことは雪人もトップランカーなの……?
「俺なんて一三三位なのに、お前達凄いな……祐樹は?」
「あ? あぁ俺!? えっとね、二二六位……」
あぁ、やめて、可哀想な目で見るのはやめてくれ!!
少し居心地悪くなったときにふと唯と目が合った。
クラス内での彼女のグループも最近はこの時計塔前に来て食事をすることになったようだ。
この場所は主に真一狙いの女子が多いらしい。
真一はそんな中でもイケメンを囲ってゆうゆうと食事をする。
なんだか女の子とイケメンを囲うってどこぞの色情魔王のような野郎だと思ったものだが、男同士で食事をするのは彼なりの安らぎらしい。付き合ってやろう……女の子に見られるのも悪くないし。
兎に角だ、唯は俺と目が合うとにへらっと笑ってくれる。
俺はそれだけで幸せだ。本当二二六位とかどうでも良くなる。
しかし、そんな女子達の中、こちらに向かって来る女の子が一人いた。
「雪人お弁当間違えたでしょ?」
俺達の前まで来ると彼女はそう言い放った。
長い黒髪ツインテールが可愛い女の子だ。
女子は誰も近づくことのなかった聖域に、絶対領域に、真一フィールドに、彼女は悠々と立ち入った。
何故かは知らないが、声がかかるまで遠くから眺めるだけ。
そんな女子達の暗黙のルールを完全無視して俺達の前に来たのだ。
おかげで、周りがザワザワとしている。
騒然だ。暗黙のルールが破られたことに女子達がどうすべきか各々話し合っている。
「ん? おぉ間違えてるわっ! すまんすまん、あっ、皆! この女の子は、梓。俺の彼女です!」
「「えっ!?」」
「ちょっ、ちょっと! 違うでしょ!」
「あぁ、すまんすまん、俺の……『嫁さん』だっ!」
「「えぇぇ!?」」
そう雪人が言い放つと、周りの女子が驚きを隠せずに声を上げる。
当の梓なる女の子は、急に真っ赤な顔でうつむいた。
そして、雪人の弁当を取り替えて急いで走り去る。
……が、腕を掴んで雪人がそれを止めた。
「ウソウソ! 我が愛する双子の妹でーす」
そう言うと、雪人は無理矢理自分の隣に妹を座らせた。
確かに言われてみると何処と無く雪人と似ている。
金髪と黒髪ツインテールなのでパッと見は全く違うが、目元や口元はそっくりだった。
周りの女子からも親族と言うことでオーケー判定が出たようだ。
一気に元の状態に収束していった。
「もう、雪人やめてよ。私こんな風に人が沢山いるところ苦手なんだよ?」
「悪かったよ梓。家に帰ったら、ちゃんとお詫びするからさ……」
「……っ!」
なんか、小声で囁き合う異常なムードの雪人と梓。
小声と言っても、俺達には丸聞こえである。
「あのーお二人さん?」
「あ、あぁすまん祐樹、えっとそうそう、妹の梓なっ。ほら梓、挨拶して、俺の友達! カッコ良いでしょ?」
「あっ、えっと、雪人の双子の妹の梓です。初めまして……兄がお世話になってます」
「よろしくねー梓ちゃん!」
ニコニコ顔で手を差し出す葵。
こいつは人と仲良くなるのが上手い。
よ、よしここは俺も……
「よ、よろしく、梓ちゃん!」
しかし……
「だーめ、梓は誰にも触れさせないから!」
はっ?
「ちょっと雪人……」
「梓の体と心は俺のものだろ……?」
なるほど。
そのあとも二人はイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ……
どうやら、梓ちゃんのほうも満更でもない様子で付き合っていたが、一つだけ言える。
雪人は妹のことになるとすげーめんどくさい。