021話:動物園
六月ともなると、大分暑くなってきた。
そんなわけで、今日は半袖で外出しても全然寒くない、大丈夫だ。
よし……
動物園だーーー!!!!
えー、私、宮代祐樹は動物園に向かっております。
気合が入りすぎて一時間くらい早く着きそうだぜっ!
デートらしいデートは初めてなので気分が高まりすぎました!!
よし、ちょっと持ち物の確認しておくか。
『財布』よし、これないと動物園に入れないからな。
『ケータイ』よし、これないと唯とはぐれたときに連絡がとれないからな。
『タオル』よし、ちょっと暑いから汗かいたら拭こう。
『ハンカチ、ティッシュ』よし、まぁ色々使うこともあるだろう。
『コンドーム』よし、もしもの時もこれで大丈夫。
えっ最後のコンドーム?
この前、真一が「ちゃんとしなよぉ? 男の方でしっかりしないとダメだから」と言ってくれたんだ。
あいつも何気に良いところあるよな、本当。まぁ俺と唯はまだ避妊するようなこと何もしてないどころかキスもまだなんだけどね。
よーし、到着……あれ?
「……唯?」
「あ……れ? 祐樹?」
「ハハ、唯も早く来たのかよ!?」
「なんか気分が昂っちゃって! 祐樹も?」
「そうそう、人生初めてのデートだと思うとね!」
「初めてのデート!?」
「ん? そうだよ、彼女だって初めてなんだからさ。てか、唯もだよね?」
「うん、そうだけど……えへへ、初めてかぁ……えへへ」
既に入場ゲートの所に唯が立っていた。
白い半袖のシャツに、水色のスカート……
夏っぽくて可愛い!
それにしても、『初めて』ってワードを気に入ってくれたみたいだ。
でも、その気持ち分かるわ~……
いいよね、初めてって、なんか俺色に染めるぜ~って感じでついつい笑みが漏れる。
あれ? でも唯さんも俺のこと染めようとしているってことだろうか?
うーん、じゃああれだな、二人で上手く染め合おう。二色の絵の具が混ざると……黒くなっちゃうな、あれ?
「どうしたの、祐樹? なんか顔が暗いよ……?」
「えっ!? い、いやなんでもないよ……?」
なんか、最近唯に考えてることを表情から読まれている気がする……
うーん……まぁいいんだけどさ。
「もぉ、ちゃんと私だけ見てよね?」
「もちろん!! 俺の頭の中は唯でいっぱいさ!」
「えへへ!」
さて、イチャイチャしてないで入りますかぁ!
ちゃちゃっとチケット買って入場ゲートをくぐるとけっこう人がいた。
ファミリー率が多いな。カップルもチラホラと見えた。
さすが日曜日だ。
「さて、どこから見よっか!?」
「やっぱりライオン?」
「よーしライオンのところに行こーう!!」
なんか、別に凄いことしてるわけじゃないけど、唯とこうやって一緒にいるだけで楽しい。笑顔になれた。
俺は笑いながら唯を追いかける。なんか幸せだ……
「あっ、あったあった! ライオンのブース!」
「おっ、ライオンいたな……っ!?」
ライオンのブースが見えてきた。
この動物園は檻を使わず、高低差を使って動物達を客に展示しているブースがある。
地面を窪ませ、大穴と言っていいようなスペースの中に動物が各々生活しているのだ。
このライオンのブースもそのような形で、こちらからはライオン達を見下ろす形で全体を眺めながら楽しめる。
そして、そのライオンのブースには小高い石の丘が設置されていたのだが……
その麓では、たてがみの立派な雄ライオンが腹を出して寝転がり、その上に雌のライオンが乗っかっているのだ。
見たこともない状況だった。
「な、なぁ唯、あれ何してるんだ? ジャレてるのかな? それとも雌に服従のポーズ???」
「え、えーと、あれは交尾だね……」
「え?」
「あれは交尾だよ! こ・う・び! もう、祐樹はウブだなぁ」
若干恥ずかしそうにしながらも、ほんのりと嬉しそうな唯さんが教えてくれました。
マジかよ!? この世界って人間以外も貞操逆転してんの!?
そこからは色んな動物の様子を見たが猿も熊も兎でさえも雌に組しかれて交尾するらしい。
なんてこった。
いや、動物の交尾には別に興奮とかないんだけど、なんか面白いというか単純に興味が出た。
動物レベルで逆転するといろいろ問題が出るんじゃないのか……?
「ね、ねぇじゃあ馬は!?」
「馬は後ろからだよ。雌が動くけど」
マジかよ……
馬とか、お腹を出せないやつは若干の引っ掛かりはあるものの通常通りらしい。
すげーなこの世界。
因みに、雄のほうが力は強かったりするとこは一緒みたい。
ただ、雌のほうが性に積極的で、そのせいか雄の方から性的な行動をあまり起こさないみたいだった。
やっていけてんのかこの世界? 雄が積極的にならないと色々問題も起きそうだけどな……
「もう。祐樹さんはエロいですなぁ! 知ってたけどねっ」
そう言って笑う唯。マジ天使。
エロでもなんでもいいやぁ……ふへへ……
「えーと、次は……あっ虎だ! 見てみて、虎!!」
「あっ、ちょっ! 唯、待って!!」
「えっ?」
唯が虎の檻に走って近づいた時だった。
虎は唯に向かってお尻を向けていたのだ。
そして、その檻に付いている注意書き……
『虎のおしっこに注意! 虎はおしっこを飛ばすのでお尻を向けたら逃げましょう』
プシャ!
「ギャンッ!!」
唯が虎のおしっこでビシャビシャになった。
グリーンヒットだった。
綺麗な金髪もビチャッとしてるし、可愛かった白いシャツとスカートも濡れちゃっている。
それを見た俺に沸き上がるのは……『怒り』。
そう、『怒り』だった。
人の彼女に何してくれたんだぁぁぁ!?
この虎風情が小便引っかけるなんて何様のつもりだわれぇぇぇ!?
唯が虎の汚物にまみれてしまったことは、俺にとってなんだか虎に彼女を寝取られた気分だった。
マーキング的なことだろうか? お前ネコ科だろうがっ!
「うへぇ、臭いよぉ……」
「と、虎畜生に俺の……俺の唯が……許すまじ……」
「祐樹? 大丈夫? なんか私よりショック受けてるみたいだけど……なんで???」
「えっ、いや大丈夫、大丈夫! ちょっと虎が俺の唯におしっこかけたのにムカついただけだから、それより着替えよっか!」
ちょっと勿体ない気もするけど、それなりに動物も見れたので俺達は動物園を出て服屋を探そうとした。
髪と上着が濡れている唯の姿はけっこう目立つ。さっさと見つけないと……
と思っていると、動物園出てすぐの所にお土産コーナーを見つける。
そこでちゃちゃっとTシャツを買った。
虎がプリントされているのもあったけど、それだけはやめてくれと唯にお願いしたら兎のTシャツを選んでいた。
唯は兎のようなちっちゃな可愛い動物のほうが似合う。
虎は許すまじ。
「あー、でも、どこで着替えよう……っていうか、この髪どうしようかな……」
「そうだよなぁ……あ! なぁ唯、あそこなんてどうかな……?」
俺はシャワー完備の個室ネットカフェといった文字が書かれた看板の建物を指差していた。