020話:夏前の月曜日
──月曜日。
あー、真っ昼間から真一にキスプリ見せられた!
キスプリ!!
うん、羨ましい。いや、羨ましいよあれは!
俺なんてまだ唯とキスどころかプリクラさえも撮っていない。
今度プリクラ撮りに行こうと誘おう。絶対に誘おう。
雪人は、お前本当誰にでもキスプリ撮らせるよなギャハハと笑っていたが俺と葵は呆然だった。
ただ、おれは唯という彼女がいる! もう彼女がいないそこいらの男子諸君とは違うのだよ!
俺は唯という存在によって、少しだけ心の安寧を保てた。
さて、そろそろお昼休みも終わりだ。教室帰るか……
……
教室に帰る。
唯と目があった……
林間学校以来、石橋ともそれなりに上手くやってるし、呼び出しも受けていない。
彼女も出来てしまったし最高な訳だ!
これこそが、最高な高校一年ライフスタイルな訳だ!
俺は幸せすぎて、そろそろ死なないか不安だった。
「よぉ! 爆発しろーリア充」
あっ、違った。
最近の不幸といえば専らこいつ、神崎だ。
まぁ、不幸と言えるほどじゃないんだけど、けっこうめんどくさい。
「うるせーよ、神崎。お前顔は可愛いんだから下品なところ直せば良いことあると思うぜ」
「っっ!!」
そう、こいつは一応、黒髪でショートカットパッチリとした目鼻立ち、ボーイッシュな可愛い女の子なんだ。その可愛さは我がクラスのトップファイブには入るほどだ。
性格は完全にただのエロオヤジなんだけど。
いや、セクハラしてくる童貞って感じだろうか?
よくわからんが、俺がその神崎の下ネタに付き合うからか、他の男子にはしないようなセクハラをかなりしてくる。
別に可愛いという点のおかげで嫌じゃないんだけど、皆が見ているクラスの中とか唯が見ている前であからさまに反応はしたくないので本当にやめてほしい。
「そ、そんなこと言って、私の体が目当てなのね! もう、祐樹のビッチ!」
「ビッチは神崎だろ……」
「えー? そうかなぁ? 祐樹もかなりビッチ臭するんだけど……」
「やめろ、その自分と同じような臭いがするみたいな感じの表現! 俺は彼女がいれば一途だから!」
「えーじゃあ彼女いなかったらビッチなのぉ!? じゃあ唯と別れて私と遊ぼ……」
「麗ちゃん、何話してるのかなあ……?」
「ゆ、唯!? いやいや、今のは冗談、冗談に決まってるじゃないかあああ……」
唯に耳を引きずられて神崎は強制退場させられた。
午後の授業を受けきって放課後。
原木は図書委員なので月曜日はいつも夕方まで図書館だ。
なので、最近俺もその時間帯は図書館で本を読むことにしていた。
しかし、今日は数学の宿題が出されていたので教室に残って片付けてる。
んー、けっこうムズい……
xとyをなぜ掛け合わせなきゃいけないんだ。
「あれ? 宮代君? まだ残ってたんだ」
「ん? あぁ、委員長か、今日の数学の宿題やっちゃいたくて……」
俺一人だった教室に委員長が入ってく……うぉお!?
委員長の谷口は、どこかで一仕事してきたのかしっとりと汗をかいていて、そのためか胸元のボタンがいつも以上に開放されていた。
何かこうセクシーな感じだ。グッジョブ! 委員長……!
「丁度先生に頼まれてた備品整理終わったし、私が教えてあげるよ!」
そう言うと、俺の隣の席に座り、ずいっと机をくっつけてくる。
おぉ!? 積極的だな……林間学校以来委員長とは少し距離感が縮まった気がするけど、こんなに近くに座っても汗の臭いとか気にならなくなってるのはきっと貞操逆転してるからこそだろう。
この際よく嗅いでおこうクンクン……
「宮代君……?」
「あ、あぁ、すまんすまん。ここがわかんなくてさー」
「あぁ、これはこうして……」
委員長のお陰でスイスイと問題が解けていく。
頭も良くて顔も良い、それに隣に座ってよく分かったがおっぱいも大きい!
机にまんじゅうが二つ乗っかっていた……
もしかして、委員長最強なんじゃないか?
メガネだし、胸もチラチラ見せてくるしし……
「よーし、これで終わりっと!」
「おぉ! サンキュー委員長!! ……っと! ヤバ、五時だ、そろそろ行かないと、ホントにありがとうなー」
委員長に礼を言ったあと、俺は校門へ急ぐ。
そこには金髪で体の小柄な女の子がポツンと立っていた。
その子は校門に背を預けて空を見ている。
「ごめん! けっこう待ってた!?」
「いやいや、今来たところだよっ! えへへ、これ一度言ってみたかった台詞……」
ぬおー!! 超絶可愛いよねホント。
もう食べちゃいたい! もちろん、ベットの中でしっぽりとね! あれ? ずっぽりと……? 何だったっけ、まぁいいか。
俺と唯はいつも一緒に帰る。
俺はバス通学なのだが、帰る方向は一緒なので唯と帰るために一つ先のバス停まで歩くことにしていた。
わざと下校時刻を他の生徒とずらして帰るのでけっこうイチャイチャ出来るのが嬉しい。
そう言えば、俺達が付き合っていることは周りには秘密にしている。
茶化されるのも嫌だし、逆に公衆の面前でイチャイチャできる心臓の強さもお互い持ち合わせていないからだ。
そんなわけでここぞとばかりに人気のない夕方の帰り道はイチャつく。
「ねぇ、祐樹、手を繋ぎましょう!」
「んっ」
差し出された彼女の手に俺が自らの手を合わせる。
そして、ギュット握ってまた歩き出す。
これも俺達の恋人としての付き合い方の一つの形だ。
手を繋ぐだけでもけっこう幸せになれるものだ。
「なぁ、唯、今度の日曜日一緒に遊ばないか? 駅前とか行ってさ!」
ついでにゲーセンでも行ってプリクラ撮ろう!
キスプリは無理かもだけど恋人っぽいことの一つプリクラはけっこう重要だろう。
「え、駅前!? あー、えーと、そうだ! 動物園はどうかな!?」
「おっ、いいよ! 行こうよ動物園!」
「うん! デートだね!」
「……なぁ、唯あれやって?」
「えぇ! もう、絶対こんなところ友達に見させられないよぉ……」
俺が言った“あれ”というのは何もそんなに変態的なことではない。
ただ、唯に腕を組んでもらうだけだ。
唯の方がしっかりと俺の腕に絡まり、いわゆる元の世界のイチャイチャしてるカップルのような状態になるってだけ。
どうやらこの世界では女はそんなことしないらしい。
男の側が女の腕を取ることはあるらしいけど。
だけど、俺の価値観は元の世界のままなんだ。誰が何と言おうとこうして貰えると嬉しい。しかも、これなら俺の腕に唯のおっぱいが当たる。
誰がなんと言おうと、下心込めてもこれが良いと思う。
「えへへ、これやると祐樹の腕がおっぱいに当たっちゃうね」
そんなふうに、ちょっとだけ恥ずかしそうに言う唯。
え!? バレとった!?
しかもなんか恥ずかしそう?
とりあえず、そんな不純な目的はないけど別にいくらでも押し付けておいて構わないと弁明しておいた。