019話:とあるDKの一日
──僕の名前は真壁 真一。
なんと、名前の中に真って漢字が二度も使われているんだ。
まぁ、だから何? って感じなんだけどね。うん、名前なんて本当にその人を表さないよね……
「ねぇ~真一! お願い!!」
「はぁ……だから嫌だって皐月さん、僕精力剤なんて買いたくないし」
「ぶぅ!!」
近年数多くの男性に処方される精力剤。
それは少子化が進むこの日本においてとられている一種の政策でもある。
基本的に男性は女性と付き合う中で、ここぞと言う時に色々と恥ずかしがって色々と不都合なことが起きる。不都合なことが起きるとなかなか少子化が改善しない。
そこからけっこう気軽に使用されるのがこの精力剤ってやつだ。
別に性的なこと以外にも用途は多く、まぁ簡単に言うと男の気分を盛り上げて情熱的なデートをするための一種の刺激剤的な役割を持っていて、値段も安く気分を盛り上げたいカップルでさえ簡単に手に入れることができるものなのだ。
ただ、あれ飲むと男としてのホルモンバランスが崩れるとかで変に性欲が強くなるんだ。
いやに女の子の胸とかお尻とかとにかくセクシーな部分が気になって仕方なくなる。
だから嫌だ。飲んだ日は一日中目が冴えちゃうし、家に帰っても女の子の妄想ばかりをすることになる。
それに、病気じゃないのに薬を飲むのも変だし、正直これからデートしますと言っているようなもので、病院行くのも恥ずかしいからさらに嫌になる。
「迫られたいー! リードされてみたいー! 積極的な真一が見てみたいー!!」
「もー……」
皐月さんは親が社長らしい。
週の半分は五千円握って僕の所にやってくる。
多い時は週に五万以上も持ってくることさえあった。
「はぁ、皐月さんにはいつもお世話になってるから……今回だけだよ?」
「えっ!? ホ、ホント!? やったぁぁぁぁ!!!」
「でも、薬の代金は皐月さん持ち、だからね! あと今日は一日付き合ってあげるから一万円!!」
「大丈夫、大丈夫!! ほらっ!」
「う、うわぁ……!」
そう言って皐月さんは札束を取り出す……
どうしよ、あんなにあったらなんでも買えるな……欲しかったカメラも……ゴクリ。
……
「お大事にー……」
病院を皐月さんと二人で出た。
僕はさっそく錠剤を一錠、水もなしに丸飲みした。
そんなわけで皐月さんはウッキウキだ。飛び跳ねている。
「じゃぁ真一君、薬も飲んだし、今から私をどこに連れて行ってくれるのかな!?」
「はぁ……もう、んっ?」
今すれ違ったあの金髪は確か……
祐ちゃんの彼女の……
確か原木さんという金髪の女の子が、彼女の母親だろうか? 同じく金髪の外人さんのような女性と一緒に病院へ入って行った。
日曜日の朝っぱらから病院なんてどうしたんだろ?
「こら! 精力剤飲んでもらったのは私だけに釘づけにするためなんだからね! 他の女見るなんて許さないんだから! こうなったらお仕置きだぁ……!」
「えー……」
「ふふふぅ……覚悟したまえぇ!」
やれやれ、今日は色々大変そうだなぁ、明日の学校に響かないといいけど……
お金には困ってないけど、今、僕は一眼レフとかいうカメラが欲しいなと思っている。
良い機会だしこの際ゲットしよう! うん!
プルルルル……
「あっ電話だ。はいーもしもしー……あっお父さん、うん、うん、えっ!? いやちょっ、え!? でも! うぅ!! ……ハイ……」
プツ。
「どうしたの皐月さん? お父さんから?」
「うん……今すぐ帰って来いって……」
「ええぇ!?」
「う、うえぇぇぇん!!!」
皐月さんが泣きながら走って行った。
あれ? えーと……一人ポツンと残されてしまった……
どうしよう……
とりあえず、駅前をぶらぶらとすることにした。
ここにはカメラ専門店もあるのでさっそくショーウインドウに貼り付いて欲しかったカメラを眺める。
あぁ皐月さんにいきなり用事とかが出来なければ、僕は大金を手にしてすぐにこのカメラ買えたんだけどなぁ……
「君ー! 何してるのぉ? もしかして暇!?」
突然声をかけられた。
振り向くと、そこには年上と思われるような女性が立っていた。
茶髪でショートカット。まだまだ若そうなイメージ、大学生だろうか……?
ナンパ……としてはまあまあかな、声のかけ方はつまらないけど、容姿も良いし何より一人だ。
男一人に何人もの女で声をかけられても困る、全員相手するのがけっこう面倒だからだ。
「うん、暇かなー」
「本当!? じゃ、お姉さんと遊ぼうよ!!」
「えーいいけど何するの?」
「大丈夫、大丈夫! ご飯とかそんな感じだから!」
まぁ別にヒマだし何でも良かったんだけど、一応食事してどんな人か見ておこう。
変な宗教の人だったら困るし。
その女性に連れられてファミレスに入る。
まぁジャンクフードよりかはマシか。ちょっと回転寿司食べたかったけど。
「へぇ! 真一君って言うんだ! いやぁ、こんな格好いいDKとご飯に来れて今日は良い日だなあ……」
──DK。
それは僕のような男子高校生のことだ。
男子(D)高校生(K)それぞれの頭文字でDK。
DKは一種の男のステータスだ。この二文字が着くだけで女の人は目の色を変える。
楓さんは尽きることなく僕に話しかけていた。
ご機嫌取りってやつかな?
「楓さんも可愛いじゃないですかー!」
「えっ、本当!? 良い子だなぁ……よーし、じゃんじゃん食べちゃってー!!」
「いただきまーす!」
女子大生の楓さん。
二十歳とのことだ。
お金はそんなにないと言ってあるので奢ってくれた。
バイトしてるみたいだし、お金はそれなりに持ってるみたいだな。
「それでそれで、真一君は彼女とかいるのー!?」
「いませんよー。いても楓さんなら遊んでもいいかなぁ……なんて、アハハ」
「っ!? へ、へー、もしかして真一君は童貞かな!?」
「違いまーす! 残念でしたぁ!」
いきなり童貞かどうか聞いてくるなんてがっついてるなぁ。
普通だったらセクハラで訴えられるか速攻嫌われてるぞ?
「へぇ! し、真一君ってけっこう恋愛経験あるの!?」
「僕より楓さんはどうなんですかー?」
「私? 私はその、この前彼氏と別れちゃってさぁ……」
「ふーん……」
別れちゃったのかぁ。うん、なんか寂しそうだし、今日は一日楓さんと遊ぼーっと。
よく見れば胸も大きいし顔も可愛いや……
「それで……どうして別れちゃったんですか???」
「……え? うーん、あははちょっとガッつきすぎちゃったみたいでさ、もう嫌だって言われちゃったんだ……」
あ、やっぱそうなんだ。
ちょっと急いでるというか焦っているというか、もっと余裕を持った大人の雰囲気があったほうが男にはモテると思うなぁ。
男の人へのアプローチなのか、それとも、恋愛というプレッシャーのせいなのか知友はわからないけど今でさえ少しその兆候が見える。
「でも、まぁ良い機会だから今日は恋愛とか忘れて遊ぼうよ? 遊ぶことを楽しもうと思ってればガッつく癖も出ないでしょ? 今日は一日僕が付き合うからさ!」
「えっ!? う、うん! ありがとう……!」
……
「んー!」
伸びをする。
ここはカラオケルームの一室。
部屋の中心には机が一つ置いてあって、二人が入るにしてはちょっと広めの部屋だ。
うーん、僕がここまで彼女の手を掴んで連れてきて、さらには隣に座らせるなんて精力剤が効いているんだろうな。
「ははは! 久しぶりに全力で歌った!」
「楓さん、まさかヘビメタ歌うなんて僕爆笑なんだけど!」
「えぇ!? けっこう好きなんだよこれ?」
「いや何言ってるか分からなかったし! ププ……」
「え~……」
「……」
「……」
僕がじーっと見つめていると、ジュースに手を伸ばした楓さんがそれに気づいてニコッと笑った。
「なんだ、恋愛でもそれくらい落ち着ければいいのに……」
「え!?」
「楓さんは恋人のことを無理に楽しませようとしたりしなくていいってことです! さ、そろそろ時間ですよ? 次はえーと……ボーリングとかどうですか!?」
「う、うん! そうだね! ね、ねぇ……真一君、ボーリングの前にプリ撮って行ってもいいかな……? き、記念に!」
……
──月曜日。
ボーリングを二人だけで八ゲームもしたせいか疲労感が抜けないー……
楓さんは大学お昼からとか本当ズルイ!!
あー僕ももうちょっと休んでいたかった……
まぁ、楓さんかなり張り切ってたし女の子だから寝ても疲れとれないかもね。
お昼休みと言うのに僕は随分と眠かった。
ピロリンピロリン!
「ん? 真一、ケータイが鳴ってるよー」
「あぁ、ありがとう葵……」
ケータイを開くと、楓さんからメール送られて来ていた。
そこには……
感謝の言葉と、それから昨日二人で撮ったプリクラがあった。
「昨日はありがと! もう、昨日帰ってから元彼のことなんてすっかり忘れて、真一君のことで頭がいっぱいになっちゃってるよ! また遊ぼうねっ!はあと」