014話:【林間学校編】キャンプファイヤーの夜
――夜。
キャンプファイヤーが始まる。
……いや、始まっちまった。
俺は今すげードキドキしてる。
今日の昼過ぎ、俺は原木に宿舎の裏に呼び出された……
日も落ちて、暗くなった宿舎の前に燃えるキャンプファイヤー。
宿舎の裏側なんてたぶん今ごろ真っ暗だ。
いや、案外よく晴れてるし星月が綺麗に輝いているかも……
はぁ、一人で来いってことはあれだよな……あれ、もうあれとしか考えられない。
さてと!!
よ、よし、そろそろ行くか!
ひ、ひ、ふー、ひ、ひ、ふー……
俺は一歩一歩を踏みしめるように俺達が泊まる予定の宿舎裏に向かって歩いた。
──いた。
闇夜の中に彼女の金髪だけが月明かりに照らされて、いやに目立っていた。
宿舎に背中から寄りかかったその小さな体……原木唯の姿がそこにはあった。
「あっ、宮代君……」
「ハ、ハイ!」
「えへへ……私より緊張してるなぁ!」
「……そりゃあ、なぁ」
「まぁ、これから私が何を言うのか分かってると思うけど……早速伝えさせて貰うよ」
――好きです。私と、付き合ってください――
キャンプファイヤーの周りで生徒達が騒いでいる声がこの場所では遠く遠く聞こえて。
空に浮かぶ星月に照らされた静けさのほうがたくさんあるこの宿舎裏。
ただただ金色の綺麗な言葉だけが聞こえてくる。
「……はい。と言いたいところだけど、一つ聞いていいかな?」
一つだけ確認しておきたい。
別に世界が変わっても変わらなくても俺はそれを聞いたと思う。
「はぁー……緊張した! 何かな宮代君!?」
「あの、さ……なんで原木は俺と付き合いたいの、かな?」
「えっと、顔も好みなんだけどさ……この前、林間学校の班決めの時、宮原君は石橋さんのこと気遣ってあげてたよね? ……私あの時の宮原君の優しさにコロッときちゃいまして……あぁ、この人しかいないって、そう思ってしまったのだよ!」
「そっか……うん、そうか、あー、えっとそれじゃ……これからよろしくお願いします!!」
「えっとオッケー……ってことで良いんだよ、ね?」
「うん、俺と付き合ってくれ原木!」
「えへ……へへへへ!! やったぁぁぁ!!!」
……
やったぁ! は俺だ。
俺にもとうとう春が来ました!!
苦節十数年。とうとう、とうとう……
初彼女できたぞぉぉぉぉ!!
誰でも良かった訳じゃない、原木のことを詳しく知っているわけでもない。
でも、外見も可愛いし、今までの俺への接し方は天使そのものだった原木なら俺には勿体ない位の彼女なのではないだろうか?
ヤバイ、今日は夜寝れねえぞこれは……!
「これからたくさん宮代君のこと、教えてね?」
「いやいやこっちこそたくさん教えてくれよ! 原木!」
そんな言葉を交わした気もする。
携帯のアドレスも交換した。
そんなわけで俺はいつの間にか宿舎の中にいた。
なんか浮かれすぎて記憶ねえや……
へへへ……
……
「えー!? 祐ちゃん、告白されて付き合ったの!?」
「イエーイ! 祝福してくれよなっ!」
「おめでとう祐ちゃん! あーあ、祐ちゃんの童貞は僕が貰うつもりだったんだけどなあ……」
「オイ、真一、風呂場でその発言はやめてくれ、流石に第三者の俺でも引くぞ。何より祐樹おめでとう!」
「ありがとう、雪人! あと、真一お前にやる童貞はない!」
「祐ちゃんその原木さんのこと好きだったの?」
「ん? んー好きかはまだよく、わからないかなぁ……でも、可愛いし気になる女の子って感じ」
「ふーん」
俺達は今、宿舎についている大浴場に来ている。
女子は多いのでローテーションで入ってるみたいだが、男は完全に入る時間帯がフリーだ。
少ないと少ないでけっこう楽なんだよなぁ。
そんなわけで、俺、真一、雪人の並びで湯船に浸かりボーイズトーク(笑)に花を咲かせていた。
いつもはここに葵がいるのだが、今日は調子が悪いらしく既に布団に入っていた。
「そういえば、真一、お前っていつ童貞捨てたの?」
「えっ? 五年生の時かな……近所のよく遊んでたお姉さんと」
「マジか……」
「それは俺も初めて聞いた……」
俺も雪人も唖然だ。
早すぎない……?
この世界、男の子のほうがマセてるの……?
いや、でも雪人もビックリしてるな、真一が特殊なのか……
「ゆ、雪人はどうなの!?」
「いや、俺はまだ……でも、好きな人はいるんだ!」
「雪は妹ラブだもんねー」
え? 今、この爽やかな笑顔の真一君なんて言いました?
雪人が好きなのは妹……?
「あっ、でも双子だからあんま妹とかって感じはないんだけどさ……梓って言うんだ。めっちゃ可愛いから!」
「出たーシスコンの雪。妬いちゃうねぇ」
あっ、そう双子……双子ね、双子なら好きになっても……
……ってなるかぁ!!
「雪人もちょっと変かも……」
「ん? そうか祐樹?」
「大丈夫、雪は至って普通さ!」
「真一に言われると逆に不安になるな……」
そんな時だった。
窓の外にキラリと何かが光った気がする。
なんだ……?
風呂についた窓はちょっと高い所にある。
そこは今、湯気を逃がすために開け放たれていた。
外は暗く、浴場からはすぐ側に生えている大きな木ぐらいしか見えない。
俺は先ほどの一瞬の光が気になり窓に近づくと、真一と雪人もなんだなんだと後から着いてきた。
窓の外、そこに立つ木の上に光を発した何かがある。
いや、そこには人がいたのだ……
そこにいたのは……
双眼鏡で男湯を覗きながら、はぁはぁと息を荒立てる神崎……
またお前かよぉぉぉぉ神崎ぃぃぃ!!!
こいつ本当にバカ野郎なんじゃないか?
いや、既にバカ野郎なんだけど、バカ野郎達の中でもその頂点に立つキング・オブ・バカ野郎だ。バカの王様だ。
「なあ、おい祐樹、あの人って……」
「すまん、うちのクラスのただのバカだわ、許してやってくれ……」
俺はそう雪人に言うと、風呂に大量に積まれている風呂桶を一つつかんだ。そして、投げるっ!!
俺は窓の外の神崎に向かって全力で投げた。
パコーン!
なんと命中!!
マジか!?
木から落ちる神崎……
女の子だからとか全く考えなかった。
風呂桶じゃあ大事に至らないだろう。てかむしろ覗きが学校にバレたほうが大事だ。
そう、これは神崎を助けるための処置。
だが、木から落ちたら別だ。
怪我の可能性がある。
「オ、オイ、祐樹……」
「ね、ねぇ祐ちゃん……」
「あ、あぁ……盛大に落ちたな、み、見に行こう!」
……うええ!?
ヤバくない!?
だんだん怖くなってきた。
あいつが登っていた場所は地上からそこまで離れていないけど、俺のせいで怪我なんてされたら嫌なんだけど!!
急いで着替え、髪も濡れたまま外に飛び出た。
そこで足を挫いたと言いながら、草むらの中にひっくり返っている神崎を発見。
「へへへ……水も滴る良い男が三人も……」
そんなことを言っていた。
ヤレヤレ……
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