013話:【林間学校編】ガラス館
とうとう山登りも終わった。
山田が汗ビッショリだ。委員長が山田のリュックを持ったり声をかけたり凄く気を使ってくれたおかけで山田もなんとか山の中腹まで辿り着けた。
ただ、あまりに山登りに時間がかかったため俺達は博物館をスルーして、ガラス館へと向かうことになる。
──ガラス館。
ガラス細工を売っているそれなりの大きさのガラス工房だ。
キレイな青や緑のガラスのコップ、花瓶、置物等が沢山展示されていた。
中に入ってみると、そこには聖桜花学園のジャージを着た女子達が沢山いた。
こんな世界でも女子達がガラス細工を好きなことは変わらないみたい。
同じクラスの女子もどうやら沢山いる。
男みたいに下品でもこういう所は女の子っぽいんだな……
突然変わってしまった世界。俺だけが元の世界を、本来の男女の立ち位地を覚えていた。
まぁ変わったと言っても、どうやら男女の性格や嗜好に変化はあるものの、男のほうがスポーツに向いていると言った体の作りや、女子が可愛いものが好きという趣味等に関してはそこまで変わりはないみたいだ。
ただ、全く変わりない訳ではない、多少の影響はある。例えば、女子は鼻血が出やすいみたいだし、それから写真集等も男の物が多い。逆にテレビに出る芸人は男女比が同じくらいになっている……
女子が積極的になったこと以外としては、そんな違いもチラホラ感じた。
「あっ、オーイ! 宮代君!」
「おっ、葵もここか?」
「うん! 綺麗だよね~ガラス細工!」
そういえば、葵は男なのに女っぽいな。
まぁ元の世界の時からそんなこともあるか。
葵は可愛いから女っぽくてもオーケーだ。
「あっほら、あのコップとか可愛いよ!」
「あーホントだ……春香にお土産で買っていってやるかなぁ……」
青や緑に彩られたガラス作りのコップを見ているそんな時だった。
「兄ちゃんええケツしてんのぉ!」
「ヒッ!!」
ケツを鷲掴みにされた。
あまりの出来事に変な声が出る。
「お、お前か神崎!! やめろバカやろう!」
「いやぁ、『ヒッ』なんて、そんなエロい声出されたら鼻血も出てまうなぁ!」
鼻の下を伸ばした神崎がやって来た。
今回の行きのバスで味をしめたのか、俺に躊躇なくセクハラしてきやがる。
マジでこいつ世界が変わってただのエロオヤジになっちまったんじゃないか?
しかも『ヒッ』って何もエロくねえよ! お前の脳内どうなってんだよ! 怖いよ!
ただ、神崎は可愛いので、セクハラされてもそこまで嫌悪な気持ちは沸かなかった。ウザイだけだ。
「ちょ、ちょっと! 君! 宮代君嫌がってるじゃないか、やめなよ!」
だが、しかし、何もわかっていない葵が俺と神崎の間に入る。
「およ? 嫌だった? スキンシップのつもりだったんだけどな……」
「葵、大丈夫だからガラス細工見ててくれ、こいつと話したら汚されるぞ」
俺は無理矢理葵に遠ざかってもらう。
葵を神埼の毒牙にかけるわけにはいかない。
「はぁ!? 祐樹酷いなぁ! 私と話したら妊娠させちゃうってか!?」
「妊娠させるってお前な……」
「大丈夫大丈夫! ちっとそこの草むらの中でお話しようって連れ込むだけだから!」
「はっ!?」
なんだこいつ、とんでもないこと言ってんぞ!?
若干引くレベルじゃないか? それともこの程度が普通なのか?
「おー! 男子に言うと大抵引くか、罵声を浴びせられるか、ひっぱたかれるんだけど、やっぱ宮代は下ネタいける口みたいだな! アハハ」
神崎が満面の笑みだ。
てか、やっぱり引かれるのかよっ!
……ダメだこいつ。
「……はぁ」
俺は溜め息をついたあと、無言で神崎に背を向けた。
ダメだこれ以上こいつと話したら。なんだかおバカになりそう。
「あれ!? おーい、どこいくの? ねぇ、祐樹無視ですかっ!?」
「うっせ着いてくんな! お前あんまセクハラばっかしてると嫌われるぞ、分かったら本当にそれ以上は……」
「大丈夫! 時と場合はわきまえてるからさ!」
ウインクする神崎。
おっなかなか可愛い……じゃねぇよ!
ダメだこいつ、俺は無視して離れようとしたのだが、後ろをくっ着いてきた。
「俺トイレ行くから、お前ガラス細工見てろよ」
「まぁまぁ……」
あれ? 俺はトイレに行きたいって言ったはずなのに、神崎はまだニコニコ顔で俺のあとを着いてくる。
こいつ、なんなんだ!? トイレまで着いてくる気か? 最早、ただの変態だぞ!?
俺だから良いが、いつか他の男子に訴えられるんじゃないか?
俺が神崎に追いかけられながらもガラス館の外にあるトイレへ入ろうとしたそんな時だった。
「きゃっ!!」
「えっ?」
振り返るとなんと、俺を追いかけることに夢中になっていた神崎がトイレから出てきた女の子にぶつかってしまったのだ。
しかも、そのぶつかった相手はなんと……クラスナンバーワン美少女の東條綾だった!!
「っ!!! お、オイ大丈夫かっ!?」
ガラス細工を持っているためバランスが取れない東條は大きく倒れかかっていた。
俺はすぐに駆け寄る!
「キ、キャア!!」
「うおっ!!」
ドターンッ!!
「いつつ……」
俺は盛大に倒れていた。仰向けで大の字状態だ。
さらに、東條のガラス細工は俺が抱きかかえたのでたぶん大丈夫だ。
ん? いや、違う、何か下半身に違和感がある……
……あっ。
東條が俺のジャージのズボンをガッツリ掴み、倒れ込んだ時にずり下ろしていたようだ。俺はトランクス状態になっていた。東條は俺の足元らへんでジャージを掴んだままうつ伏せに倒れている。
「ふ、ふえええええ!?!?」
うぉっ、ビックリした!
東條が顔を上げた瞬間叫んだ。
まぁそれもそうか、パン一の男が目の前で地面に倒れてるんだから。
「ふ、ふおおおお!! ぱ、ぱ、パンツ!! パンツパンツパンツ!!」
あぁそうだ神崎もいたんだ。
パンツパンツうるさいよ神崎。
と、その時東條の鼻からタラリと鼻血が垂れる。
因みにさっきから神崎は鼻血を飛び散らせていた。
やめろ、興奮するな神崎!! 興奮してとび跳ねるな神崎!!
「あのー東條、ちょっとジャージから手離してくれない? 立ちたいのと、ズボン履きたいんだけど?」
「あっっ!!」
……静かに東條は手を離し、俺は足首にまでずり落ちていたジャージを掴む。
俺も東條も無言だ、坦々と立ち上がりズボンを履いた。
そんな中、神崎がパンツパンツと、うるさく騒いでいた。
小学生男子かお前はっっっ!!
「ご、ごめんなさいぃぃ!! こんなつもりなくて!!」
突然謝られた。
東條が鼻血を垂らしながら謝っている。
しかも土下座し始めた。ナニコレ?
「宮代君のパンツは見てない! 違った、見ても忘れるから! ゆ、許してください!!」
俺はとりあえずそんな土下座状態の東條の前でしっかりジャージをずり上げた。
あっ、クソッ……土がケツにメッチャついた。
それと神崎のバカの鼻血がジャージどころかそこら中に飛び散っている。
はぁ、それもこれも、全部……神崎が悪い!!
俺は立ったまま狂喜乱舞してる神崎を睨んだ。
「あっ、えーと……祐樹のパンツ超イケてるね! テヘ、それじゃ私戻るね、ははは……」
「オイ、待てコラ神崎、てめーこの状況どうしてくれんだ……?」
……
神崎にはキツいお仕置きをしておいた。
顔に油性ペンで落書きだ。
額には『性』の文字、そして眉毛を繋げて、鼻毛を書き、とりあえずほっぺたは真っ黒にしておいた。
ここまで行くと可愛さのかけらもなくなる。
本当にただの変態のオッサンに成り下がっていた。
「あ、あのーごめんね宮代君……」
「いや、だからパンツ見られたくらい大丈夫だって、つかほらコレ……」
「あっ……ありがとう!」
ナイスキャッチした東條のガラス細工を手渡す。
どう? 俺カッコいいっしょっ!? しっかりガラスを守りましたよっ!
……
「あっ! 宮代君いた! 探してたんだよ! ってえ!! 麗ちゃんどうしたのその顔!?」
「あはは唯~……ちょっと唯の後ろで顔隠させてー……」
「ん? あぁ原木か?」
原木だ。金髪でちっこい原木。
なんだろう? そろそろ下山の時間だし委員長が探してるとかかな?
結局トイレ行かなかったけど、神崎に落書きをしていたせいでけっこう時間が経っていた。
「あ、東條さん……宮代君、ちょ、ちょっとだけ二人だけで話せない……かな?」
「ん? ここじゃダメなのか?」
「えっと、まぁ、いっか……宮代君ちょっと耳貸してね……」
背伸びして俺の耳もとに口を近づける原木。
俺はそんな原木に耳を傾ける。
小さな唇が俺の耳に息を吹き掛けるように動く、原木は小さな声を発した。
『今日の夜。キャンプファイヤーの時、一人で宿舎の裏に来てください。私、待ってます』
彼女は確かにそう言った。
え……
これって……もしかして……