012話:【林間学校編】登山道
教頭の長ーいお話が終わったあとはグループ毎に固まって登山だ。
みんな既にジャージに着替えていた。
石橋もジャージになると怖さ半減だな。
舎弟(仮)ちゃんは別にそこまで怖くないし、これなら全然一緒に行動できる。
「山登り頑張ろうなー石橋!」
「み、宮代っ!? お、おうよ! 無理はすんなよ? 俺に頼っても、その、いいからな?」
「何真っ赤な顔でカッコつけてんだよ。お前こそ無理すんなよ!」
「バカヤロー! これはあれだ、熱いだけだ! はーあちぃあちぃ!」
石橋はジャージのチャックを全開に開くと、その下に着ていた体操着の首元をつかんで引っ張っていた。
熱いときにやるあの襟元ぱたぱただ。
ただ、結構大きくやるせいでブラチラしとる。
石橋は真っ黒なブラを着けていた。なんだこれ!
思わぬところで眼福やぁ!
「ほらみんな行くよ! 私達だけ置いてかれちゃうよ?」
俺が石橋の胸元をガン見していた間にみんな出発したようだ。
いつの間にか、登山者の中でも最後尾のグループになってしまった。
加えて俺たちのグループにはおデブの山田がいる。
なので、なかなか前のグループには追い付けないでいた。
登山道は林に包まれた舗装されていない山道だ。獣道ほどではないが、勾配のついた土と砂利の険しい道を俺はおニューの靴で歩く。
そんな道の定点毎には、先生達が一定間隔で立っていて山田を応援してくれている。頑張れ山田!
俺、鈴木、山田、委員長、石橋、舎弟(仮)ちゃん。
六人一丸となって山を登っていたその時だった。
「……んぁ! んっ!」
え?
今なんか聞こえませんでした?
「石橋さん、今なんか……」
「あぁ聞こえたな……ちょ、ちょっと様子を見てみるか? お、お前達は待ってろ、俺達で見てくるからよ!」
「あっ! 石橋さんちょっと!! 勝手に……」
委員長の叫び虚しく、既に石橋と舎弟(仮)ちゃんは脱兎の如く坂道を駆け出していた。
俺達はそんな二人を山田と共にゆっくり追いかける。
さっきの声、気にはなるが、まぁあの二人が行ったし俺は山田の山登りを委員長と一緒に応援しよう!
汗をかくメガネな委員長も良いよね!!
俺はそれなりに登山を楽しんだ、いや、委員長を楽しんだ。
暫く行くと、何故か道を外れた茂みの中に二人を発見する。
しゃがんで何かを食い入るように見つめていた。
「あっ! ちょっとぉ」
「ふふふ……」
気になる声が聞こえてきた。
流石に気になるので俺もグループを離脱した。山田の休憩がてら待っていてくれーなんて気持ちだった。委員長が後ろから待ってとかなんとか言っていたが、しかし、聞こえない!
なんだが怪しい声が俺を呼んでいるんだっ!
ささっと石橋の隣に俺はしゃがみこんだ。
「おい、どうなってんだ石橋?」
「シッ! 静かに! あそこの木の所だ……たぶん俺達と同じジャージだからウチの生徒だぞ! はぁはぁ、木陰に隠れてキキキ、キスしてやがる!」
石橋も舎弟(仮)ちゃんも夢中で見ていた。
二人とも顔が赤い。はぁはぁしてる。
その熱心な視線の先には……
我が校指定のジャージの女の子と、そのジャージの女の子に抱きつかれているこれまた我が校指定のジャージの男の子だった。
「もう、そんなとこ触っちゃダメだよ」
「えーいいじゃん、ちょっとくらい……!」
「あっ、もう!」
皆さん。
誤解しないで欲しい、男の子が女の子にイタズラしているかのような声が聞こえているが、声からしてその妄想は《逆》であると言わざるを得ない。
そんなとこを触られているのは男子であって、ちょっとくらいいではないかと触っているのは女子なのである。
いや、というかあれは……
真一じゃんっ!!
何やってんの真一!?
なんか男のほうだけ知り合いだとわかると一気に冷静になれるよね……
「っ!」
「ふふ……真一君って男のくせに……積極的だよねぇ、でも、そういうのも好き」
「も、もう……そんなこと言わないでよ……」
真一はそんなこと言いつつキスをしている。
……あの恥ずかしそうな素振り、絶対演技だろ。
なんだか、この世界では男の羞恥に悶える様子を見ることが女性の性的嗜好のようだ。
本当に逆だな。俺だったらむしろ女の子が恥ずかしがる顔を見たい。
「はぁはぁ……クソッ! 絶対あいつキス以上の何かしてるぜ! だけど、角度的にここからじゃなかなか見えねぇ! はぁ、チクシ……あれ? みみみ宮代ぉぉぉ!?」
「は? 今ごろ気付いたのかよ石橋?」
「ち、違う! これは違うんだ!!」
まるでハーレム系主人公が幼なじみの着替えを覗いてしまった時のような台詞を吐く石橋。
ここはとりあえずセオリー通り返しておく。
「何が違うっていうの……?」
「違うんだ、こ、これは不可抗力で……!」
こいつ面白ぇぇぇ!
状況的には『こんの変態スケベ、石橋のバカー!』とか言ってビンタの一発でもするべきなんだろうけど、その前にこの茶番のせいで真一達に気付かれた。
木陰でのやり取りは終わりにしたらしく、乱れたジャージを直してこちらへ向かって来る。
「もぅ、誰かと思ったら祐ちゃんかー! 覗きはダメだよ!」
「えー? 私は別に見せつけても良かったけどぉ?」
タラリと鼻血を出す女子生徒。
それに真一がいつもと変わらない笑顔で返す。
「バカ、そういうのは別料金取るよ!」
「ちぇ~っ」
「まぁただ、今回は邪魔されちゃったからデート料金はサービスってことにしといてあげるよ」
「マジ!? 真一大好き!」
なんだかその女子生徒と真一は再び軽いキスを交わすとさっさと二人で道を登って行ってしまった。
帰りがけに真一は俺にまた部屋でね~とか言っていたが、俺はおうとしか返せない。
「……な、なんなんだあいつら?」
「……石橋さん、あれ、あいつだ。時計塔の前で昼飯食べてるって噂の、あのイケメンが集まる時計塔食事会とかなんとかってやつの一人だよ、きっと……」
「じゃあもしかして金払えばて付き合ってもらえるってのもマジなのか!?」
「み、みたいだね! どうする石橋さん!?」
「バ、バカか!? そんな虚しいこと俺がやるはずないだろうが! ホストみたいな野郎だな!」
「だよねー石橋さん硬派だもんねー!! 私はあんなイケメンと一緒に遊べるなら金払ってもいいかも……じゅるり」
石橋は俺の方をチラチラ見ながら舎弟(仮)ちゃんと話していた。
男と遊びたいだとか、俺を前にしてはそんなこと言えないってことだろうか?
ふーん。石橋って硬派なんだ。この世界の硬派ってよくわかんないけど。
「ふーん、まぁ真一に頼むなら一時間五千円らしいよ」
「えっ!? 知り合いなのか宮代!?」
「あ、あぁ、いつも昼飯一緒に食べてるからな」
「なっ……マジか……最近昼いないと思ったら……やっぱりあのとき告っとく……」
そう、噂の時計塔食事会とやらに俺は招待されたのだ。
主催は黒髪で端正な顔立ちの王子様系イケメン真一。
そこに茶髪で可愛い系男子の葵と金髪で八重歯がキラリの小悪魔系イケメン雪人、そして超絶最強唯我独尊系イケメンの俺が集まっているのだ!
えっ言い過ぎ? 知らんがな。
そして、その噂を聞き付けた女子がお昼は続々と時計塔前に集まってくる。
正直気持ちいい。昼休みは毎回チヤホヤされてる気分だった。
「さぁ、とりあえず行こうぜ!」
そのあとは委員長達と合流して、怒られつつもなんとか俺達は山の中腹まで登りきった。