010話:大変なことに気が付いた①
大変なことに気が付いた。
この世界……なんと、女性が胸を隠すことはさほど重要でないらしい!!!
それに気が付いたのは家で風呂上りの牛乳を飲んでいる時だった……
「ぷふぁ~!! うめぇ! ……はっ!!! ヤバい、つい一リットル飲みきってしまった……」
俺は今まさに空になった牛乳パックを見て愕然とした。
ヤバい……春香に怒られる、「お兄ちゃんってアホなの!? そんなに飲んだらお腹壊すくせに何で同じ失敗繰り返すの!? とりあえず明日牛乳パック買ってこい」
うん、こんな感じで多分言われる。
「あーーー!!! お兄ちゃんってアホなの!? そんなに飲んだらお腹壊すくせに何で同じ失敗繰り返すの!? とりあえず今すぐ牛乳パック買ってこい」
あーっ!! 惜しいっ! 今すぐでした! あはは、我が妹は鬼だわ。
「はーい、ってぶふぉ!!!」
春香が腰にバスタオルを巻いている。
いつもは最近日に日に膨らむ胸を隠すように巻いていたはずだ。
それがどうした、今は随分とワイルドな巻き方になっている。
小ぶりな胸が上から下まで丸見えだ。小ぶりながらもめちゃくちゃ自己主張しているではないか。
「お、お兄ちゃん何吹き出してんの?」
「いやっ!! てっ、え? ちょ、ちょっと、お、お前、それ!! 早く隠せよっ!」
「そ、そんなに怒らないでよ! てかちゃんと拭いてよね! 牛乳臭くなるんだからさ!!」
俺の慌てようにびくりと震える春香。
プルンと小柄ながら胸が揺れる。
えっとー、お怒りのところ悪いですが俺の思考回路がですね、色々とまずい訳ですよ。ショートしそうな訳ですよ。
童貞におっぱい見せるとこんなに簡単にパニックになれるんだなahaha。
「いや、違う! これは春香が悪いな!」
そうだ、ここで動揺しては負けだ! お兄ちゃんは常に妹のお兄ちゃんでいなければならない!
やっべ、なんだ俺、意味不明!
「えう!? わ、私!?」
「そう! そんなにるおっぱいを俺に見せるほうが悪い! だから春香牛乳はお前が買ってくるべきだ!」
「え? え? いや、別におっぱいくらい見せた所で、それに兄弟なんだし……」
「何を言ってる! おっぱいってのはなあ、夢と希望がつまってるんだ!! だから簡単に見せちゃあいかんのだ!」
「え……? お、お兄ちゃん何言ってんの……?」
「……え? 何言ってるんだおれは?」
と、まぁこういう訳だ。
どうやら兄弟同士など、親しい仲なら別に胸を隠さないのが普通らしい。
まぁ、俺も妹に全裸見られても何とも思わないな。そういう感じだろうか。
あと、一応外で胸を露出すると警察に捕まるとは言っていた。
あっ、法律はあるのね。
うん、ということで俺は牛乳の買い出しに出ている。キチンと床は拭いてきた。
しっかり拭いておかないと後で牛乳臭いとまたどやされるからな。春香はけっこう口うるさいんだ。世界が変わろうが関係なく口うるさいんだ。
さて、しかしどうしたものか毎日あんなもん見せられると刺激が強いな。小さい頃はどうとも思わなかったが、いや今も別に妹に対してはどうとも思わないんだけど、『女性の胸』ってところに慌ててしまう。
はぁ、これも全部俺が童貞なのがいけない。童貞じゃなくなったら大人な対応が出来るようになるんだきっと!
しかし、しかしだ! 童貞だからと言って、俺は妹に動揺してはいけないのだ。お兄ちゃんは常に妹のお兄ちゃんでなければならない。
そんなことを考えながら玄関のドアを開ける。
「ただいまー」
「あっ、お帰り。牛乳ちゃんと冷蔵庫入れといてね」
「へいへい」
既に妹は短パンとTシャツに着替えていた。
……あれ?
前に俺が同じ格好したら肌を隠せみたいなことおっしゃってませんでしたか!?
ぐぬぬ……!
「そう言えばさ、お兄ちゃんって男の癖になんかスケベだよね。私の体ジロジロ見てくるし……まぁいいけど、ビッチにはならないでよね? そんな兄がいるなんて世間体もよくないし」
「……はぁぁぁ!? ウルッセーこの処女が! マセたこと言ってんじゃねーよ!!!」
なんだよスケベとかビッチとか……
普通だよ、普通の男子高校生レベルだよ! お年頃なんだよ! 俺は下ネタもほどほどに好きな一般的な男子だよっ!!
てか、俺そんなに妹のこと見てたんか……今度から気を付けよ……
「はぁ!? 逆ギレですかー!? それに、な、なに言ってんの、ししょしょ、処女なんてとっくに捨ててますーだ!!」
「……え? お、お前処女捨ててんの?」
「あ、ああ、当ったり前じゃん!! もう、私モテちゃってモテちゃってさぁ……!」
怒りが一気に収まった。
なんてこった、妹に先を越されてしまったのか?
ダメだお兄ちゃん失格だ。これからは春香を春香お姉さまって呼ぼう、俺は弟になろう。
「お、お兄ちゃん?」
「ん? あ、あぁ……なんか、ごめん。俺そろそろ寝るかなぁ……」
「え? あ、あれ? そう……」
「ごめん。なんか冷静になったわ、おやすみ」
「な、なに!? わ、私何か悪いことした? ご、ゴメン、さっきの言葉言い過ぎたのかなっ!? ねえ! お兄ちゃん!?」
俺は春香お姉さまを置いて自分の部屋に向かった。
そしてそのままベッドにダイブした。
はぁ、なんで俺まだ童貞なんだろ……
とりあえず、彼女欲しー……
そうだよ、彼女を作ればいいんだ。
それできゃっきゃうふふしてれば俺もいつの間にか脱童貞しているだろう。
春香なんて目じゃないぜ。
はぁ、いいなぁ『彼女』……その響きだけで何故か青春って感じがする。
彼女なんてできようものなら、嬉しさと優越感に浸れる毎日なんだろうなぁ……
コンコン。
なかなか寝れないでいるとドアがノックされる。
「お兄ちゃん起きてる? ちょっと、いい?」
「……んー」
がちゃ。
春香は枕を抱いていた。
そして俺の寝てるベッドまで来ると勝手に座った。
ベッドが沈む。
俺は寝返りを打って春香に背を向けた。
「ね、ねぇ一緒に寝てもいいかな?」
「……ど、どうしたの!?」
なんか春香がしおらしい……?
生意気な妹が急に可愛く見えてくる。
いや、それよりどうした!?
お前が俺と寝ようなんて隕石でもふってくるのでは???
参った、お前はいいかもしれんが俺は童貞のまま死ぬのはごめんだぞ。
「いや、違くて! 横になるだけなんだけど、だ、だめ?」
「い、いいけど? 寂しくて、お兄ちゃん一緒に寝て? ってやつ?」
「はぁ? 何言ってんの?」
難しい、難しいよこの世界……
何がなんだか全くわからん……
冷たい言葉が俺のガラスのハートに突き刺さった。
「いや、なんか様子がおかしかったからビッチとか言って傷つけちゃったのかなって。それに私もなんか意地はってつい……実は、わ、私は本当はしょ、処女です」
「……はぁ!? なんだやっぱ処女じゃん! はっ! 驚かせやがって!!」
「うわっ! きゅ、急に元気にならないでよ!!」
「お、お兄ちゃんは?」
「え? お、お兄ちゃんはとっくに童貞捨て……」
って、俺達ってやっぱ兄弟なんだな……
今まさに妹と同じ轍を踏む所だった。
これじゃあ、あかんな。
「童貞でございます」
「ふふふ……」
「てめ、何笑ってんだ!?」
「笑ってないですー私はもう寝てますよー……ぐぅぐぅ」
「ここで寝るなよ! お前もさっそと自分の部屋帰って寝ろ。おやすみー」
「うん、お兄ちゃんお休み……」
今日は、勝手に俺の布団に潜り込んできた春香と語らった。
兄妹ってこんな感じで語るんだっけ? まぁたまにはいいか。
お互い背中合わせだけど兄妹として本音を語れた良い日だったかもな……
語った内容はよくわかんなかったけど。