0日目 事故に遭った日
別に、予感があったわけじゃない。
大学祭でサークルの露店を出して、その打ち上げに出て、たまたま隣の席が不幸体質と有名な吉野くんだった。
学籍番号が近い関係で講義もよくかぶり、彼とはお喋りする機会が多かった。それで、今までの事故遍歴も聞いていた。
吉野俊也。二歳年上の彼は、高校三年生のときに車に轢かれ、一年間植物状態だったらしい。高校は中退だったから、リハビリを終え高卒認定試験を受けた。そして大学受験をし、合格発表を見に行くと、道の脇の工事現場にあったクレーンが倒れてきた。入学式、足にギプスをはめてやってきた彼の姿をわたしは忘れることはないだろう。
次にサークルの新人歓迎会で見かけた彼は、足を滑らせたと頭に包帯を巻いていた。ゴールデンウィーク明けに講義で会うと、旅行先で崖から落ちそうになったと青白い顔をしていた。
毎月のように、彼は事故や危険な目に遭った。みんなお祓いをすすめたし、お守りを彼にプレゼントした。そこらへんの神社のお守りから、海外の怪しげなお土産――身代わりになってくれるのだという不気味な人形まで。おかげで彼の鞄は常にお守りの類で一杯だ。もしかしたら、そのカオスぶりがさらに良くないものを引き寄せているのかもしれない。
飲み会の席だったので、冗談まじりで「罰あたりなことしたんじゃない? 心当たりないの?」と何気なく尋ねた。吉野くんは「罰あたりなことはしてないよ」と、遠い目で言った。それはまるで、心当たりはあるかのようで。少し、引っかかった。
飲み会が終わり皆が出てくるのを外で待ちながら、なんとなく吉野くんの姿を探した。彼はちょうど道路に面した少し先のコンビニから出てきたところで、ビニール袋の中を探っていた。
そしてコンビニの向こうから、こちらに猛スピードで向かってくるトラックが見えた。
予感があったわけじゃない。吉野くんを探したのはたまたまだ。
駆け出したのも直感だ。あのトラックがスピード違反をしていても、普通ならまっすぐ道路をいくわけで。わたしたちなんか通り過ぎていくわけで。
でも、普通じゃなかった。
「吉野くん!」
呼びかけに振り返る吉野くん。彼の斜め後ろから、車道から歩道に突っ込んでくるトラック。
吉野くんを突き飛ばした。けど、間に合わなかった。
わたしは、自分から事故に巻き込まれにいっただけ。