魔導会議
突き抜けた魔導師と閉じこもった魔法使いの次の話です。今までで一番戦闘のシーンが多いので注意。とはいっても作風などは変わらずなので気にせず読めるものになっているはずです。また今回は『小説家になりたい』さんにのみの投稿にしています。
教育ですか。考えれば考えるほどに分からなくなりますね。教育・・・。唯一つ言えるのは人が人と関わると言う行為には違いない事です。相手は人です。どの方向を歩いてはいても_せんせいからヴィヴィアーニへ。
ある国のとある寄席の客席に男の姿はあった。男は着物を着ている事以外は普通の黒髪の男であったが男からは確かに強い静寂とそれと対立する力強い何かが渦巻いていた。男はトリの落語が終わるとゆっくりと外に出た。
その男の姿をようやく見つけたと言う様に一人の魔術師が息を整えてから話しだす。
「関先生、ヴェルナ―さんからお電話がありまして」
「うーん、ヴェルナ―さんが。いやいやなんとも懐かしいな」
ほんのりとした笑顔で関は速く帰るように促す魔術師を横目に着物に手を隠しながらゆっくりと自分の勤めている大学へと向かって歩いていった。
魔導師、関孝和。それがこの島国にいる唯一の魔導師である。関は自分の研究室に着いた。研究室には神棚とその周りに高等数学の証明が書かれた扇子が飾られていた。さっそく関はヴェルナ―に電話を掛けた。
「・・・・もしもし、関です。どうもお久しぶりです。ヴェルナ―さん」
「こちらこそ、お久しぶりです。関さん。どうですか、あれから魔法の方は」
「いやいやなんとも、非常に、非常に面白いです。まあ、そう言いながら寄席などに浮気したりもしてますが」
電話をしながら関は研究室の周りを歩き回り、机に置かれていた自分の扇子を手に取った。
「あははは、相変わらずですね。関さんがはまるほどの芸、興味ありますね」
「うーん、それは残念ですなあ。ヴェルナ―さんまで浮気していることがばれたら魔法の奴が嫉妬してしまいますね。今度、二人でこっそり行きますか」
そう言いながら、関は自分の扇子を勢い良く開いた。
「あははは。本当に相変わらず、面白い人ですね。寄席楽しみにしています」
「ありがたいです。そう言えば要件の方は」
そう言って、関は扇子を今度は閉じる。
「ああ、すみません。失念していました。実は一度、魔導師達で集まって話をしたい事がありまして」
「話ですか。それも魔導師で集まって、いやいやなんとも楽しみにしています」
「それでは参加と言う事でよろしいですか」
「もちろんです」
ヴェルナ―と関はその後もしばらく話した。関は電話を切ると研究室の自分の椅子に座った。そして、扇子を自分の机の上に置いた。
さきほど関に電話の事を伝えた魔術師が関に話しかける。
「関先生、ヴェルナ―さんはどういったご用件で」
「面白い話を聞きに来ないかと」
そう言いながら、関は着物に手を隠した。
所変わって、こちらもある国のある丘の上。その丘の頂上に向かって走って行く一人の少女の姿があった。
「ラマヌジャン様。ラマヌジャン様」
少女は丘の上にある祭壇に向かって祈りを捧げる男を見つける。男はローブを身にまとっていた。そのローブの下から強烈な力を、男の表情からは引き締まった強い知性を感じさせる。
「どうした」
「いえ、ヴェルナ―様からお電話がありまして」
「ヴェルナ―さんから?・・珍しいな」
魔導師ラマヌジャンは妻である少女と共に丘を下りて自分の家に着くと自分の書斎に向かう。そこには大量の数学書の山がきちんと整えられているという矛盾を持ってそこに存在していた。その大量の数学書がまるで門になっているかのようにラマヌジャンの机を囲んでいた。そしてその机の上の大量の、しかし綺麗に整理された大量の計算の行われた計算用紙の山の上に置いていた自分の携帯からヴェルナ―に電話を掛けた。
「・・・・。もしもし、ヴェルナ―さん。こちらに電話が来たのでお電話しましたが」
「はい、お久しぶりです、ラマヌジャンさん。実をいうと今回魔導師同士で集まって話をしたいなと思いまして」
「そうですか。面白そうですね」
ラマヌジャンはそう言ってほほ笑んだ。
「それでは参加して頂けますか」
「ええ、もちろんです。・・・」
ラマヌジャンは電話をしながら部屋の外からこそこそとこちらの様子を窺っている妻を見て考え込んだ。
「?どうしました」
「妻も連れて行ってもよろしいですか」
「ええ、もちろんです」
「ありがとうございます」
「ではまた会場で」
ラマヌジャンは電話を切ると椅子に腰を下ろした。そして、部屋の外から様子をうかがっている妻を手招きして呼び寄せた。
それに気付いた妻は赤面した後、落ち着いてからラマヌジャンの元に駆け寄った。
「ヴェルナ―様はどういったご用件で」
「ええ、魔導師同士で話しあいをしたいと・・それでな」
そう言ってラマヌジャンは笑顔で妻を見つめる。
「なんです」
「お前も来てもいいそうだ」
「!本当ですか」
妻は飛び上がって喜んだ。
「ああ、ここ最近構ってやれなかったからな。そのお詫びと言う事だ」
「ありがとうございます」
そう言って妻は深々と頭を下げた。
「ふふ、楽しみだ」
数日後、ある国のホテルの会議室を借りて魔導師による話しあいが行われる事となった。
当日、最初に会議室に姿を現したのはヴェルナ―だった。ホテルの関係者との料理などの持て成しの確認をするためだ。しばらく関係者と話した後、会議室の席に座った。
しばらくすると次にラマヌジャンが姿を現した。約束されていた時間より二十分ほど早い時間だった。
「お久しぶりです、ヴェルナ―さん」
「こちらこそ、ラマヌジャンさん。お早いですね。まだ二十分ほどありますよ」
「ええ、少し早く着きまして観光でもしようと思っていたんですが妻が疲れて寝てしまいまして」
「なるほど。それなら良い観光地を紹介しますよ」
「本当ですか」
そう言うとラマヌジャンはポケットからメモ帳を取り出した。メモ帳の多くのページは大量の計算と傍からは何か分からない数学的に有名な数の羅列がこれでもかと書かれていた。
二人が話し始めて何分か経った時、会議室にソフィが姿を現した。
「おお、ソフィ。ラマヌジャンさん、こちら魔導師のソフィ・ジェルマンです」
「宜しくお願いします」
「でソフィ。こちら魔導師のラマヌジャンさんです」
「あなたがラマヌジャンさんですか。有名な数学者だと聞いています」
「有名ですか。それならソフィさんの方が有名ですよ。最強の軍人と聞いています」
それからしばらくして。
「いやいやなんとも壮観な光景ですね。楽しみにしていたかいがあると言うものです」
そう言うと関が着物に手を隠して会議室に現れる。
「全くだ。これは面白い話が聞けそうだな。関」
その後ろからジークムントが姿を現す。
「そうですね、ジークムント」
二人から少し遅れてトマスが姿を現す。
「おいおい、俺が最後か。時間どおりに来たんだがな。おお、ラマヌジャン。あんたの話を聞きたいと思ってたんだ」
「残念ですがとりあえず全員そろったので話しあいを開始します」
ヴェルナ―がそう言うと会議室に料理が運ばれ始める。ラマヌジャンの席だけベジタリアン用の物となっていた。
「おおなんとも豪勢な」
そう言うって関は着物の中から扇子を取り出した。
「私の料理はベジタリアン用ですね、ありがとうございます」
そう言ってラマヌジャンはヴェルナ―の方を向いて軽く頭を下げた。
「気合入ってるわね」
ソフィは嬉しそうに料理を眺める。
「ほう」
ジークムントは机に置かれたワインに目を奪われている。
「待つのが辛い早く始めようぜ、ヴェルナ―」
そう言ってトマスが食べる準備を開始した。
「はいはい、分かりました。では会議を始めます。あ、その前にここにいない魔導師が2名いますが彼らは今回連絡がつきませんでした」
「まあ、彼らはね」
「予想はできたな」
その場にいるヴェルナ―を除く全員がしょうがないなと思った。
「そういうわけで彼らは抜きで始めますね。どちらにせよ今回の話しあいの議題は彼らには関係の無いものでしょうから」
「そうなんですか」
「ええ実は今回、MSPでとある事件がおきましてね・・・・。その事件の犯人を私とジークムントが特定したのですが」
そう言ってヴェルナ―はジークムントの方に目をやる。
「それなら何の問題もないと思うのですが」
関がもっともな疑問を口にすると申し訳なさそうにヴェルナ―は言葉を続ける。
「それが私たちの魔法の師匠でして」
「ほう、なんとも」
関は一瞬驚いた顔をしてにやにやとした口を開いた扇子で隠した。
「そうなんだ」
「それで今回の事件の解決を私とジークムントだけでやらせてもらいたいのです」
「なるほど、身内で解決したいと」
関は表情を整えると扇子を閉じて、そう言った。
「本音を言えばそれだけではありません。今回の事件を起こした原因に心当りがあるので」
「私は問題ありません」
ラマヌジャンはそう高々と宣言した。
「私もです」
関も扇子を着物の中に隠すとそう言った。
「俺も」
どうでもよさそうにトマスがそう言った。
「私は気に食わないけどいいわ」
じっとヴェルナ―の顔を見てソフィはそう言葉にした。
「よかった」
安堵したようにヴェルナ―は肩を落とした。
魔導師達はその後、料理を食べて会場から出てきていた。
「さあて、堅苦しいのは抜きにしてヴェルナ―の家で飲みに行くか」
そうジークムントがワイン片手に言い放った。
「ええ!」
ヴェルナ―は突然の提案に驚きを隠せない。
「まあ、良いわね」
ソフィが驚いた顔のヴェルナ―をにやにやと見つめる。
「いいですねえ、面白い話が聞けそうです」
関は笑顔でヴェルナ―を見つめる。
「おお、待ってたぜ。そういうの」
トマスが両手にワインを持ち、片方のワインを空に掲げてそう歓喜してワインを空になるまで飲みほした。
「妻も連れてきてもいいですか」
そう言ってラマヌジャンはヴェルナ―をじっと見つめる。
「良いですよ。仕方ありませんね」