第7話 絶体絶命、神の奇跡は性転換
俺がぶつかったのはどうやら獣人の少女みたいだ。
ライトブラウンの毛並みに猫耳、尻尾の俺より年上っぽい少女。
かわいい子だなぁ…ってそんな場合じゃない!
「隠れるよ!」
その子に手を引かれて、俺たちは通路脇の木材の陰に身を隠した。
その直後俺を追って角を曲がってきた奴らが魔法をぶっ放し、これまたなぜか反対の角を曲がってきた憲兵が魔法をいきなり放っていた。
その結果、
「ぐわぁあ!! なんで憲兵が!」
「ぐぅう! こいつらも仲間か!」
と魔法の応酬が俺たちのすぐそばで始まったのだった。
どうすんの、この状況!
浮浪者集団はプライド的に引けないみたいだし、憲兵は仕事に対する責任感のから後には引けない感じだ。
とりあえず、いつまでこの木材が持つか分からないけど、憲兵たちってこの子を追いかけて来たんだよな…たぶん。
話を聞かないことにはどうにもならないか
「ねぇ、どうしてゴロツキに追われてたの?」
話しかけようと思ったら逆に話しかけて来てくれた。
かわいい声してるぜ!
「ああ俺は、迷子になったところでさっきの奴らに追いかけられて逃げてたんだ」
あ、つい素の返事しちまった。
「そう、災難だったね」
「そういう君はなんで憲兵に?」
特に気にしてなさそうだし、師匠もいないから素で話すことにした。
お嬢様演じるの疲れるんだよ!
「アタイは…仲間が奴隷商人につれて行かれそうだったから、奴隷商人襲って助けたんだけど、そこで憲兵に見つかって」
奴隷商人を襲った!?
こんな10歳くらいの女の子が!?
獣人ってすげぇんだな。感心したわ。
「それより、アンタ巻き込んじまって悪かったね」
と急に謝られた。
何のこと?分からん。
「アタイがぶつからなかったら、アンタ逃げられたのに」
「ああ、そういうこと…いや、こっちも適当に角曲がっただけで行き止まりとかだったら危なかった。むしろ憲兵連れてきてくれて助かったよ」
微笑んでそういうと、女の子が顔を赤らめて俯いてしまう。
おっ?照れたのか、かわいいなあw
女の子はうつむいたまま、「べ、べつにアンタの為とかじゃ…」とか独り言を言ってる。
「(天使クレアです。今時間大丈夫でしょうか)」
こんな時にクレアから通信とは、チャンスかもしれない。
助けを願うのもありか?
「(クレアか、今立て込んでるんだ。話を聞くから助けてくれないか)」
「(あなたの意見なんて聞いてません)」
えー…。今時間大丈夫って聞いておきながら問答無用!?
「(ですが、あなたに話を聞いてもらえないと困るのも事実。不本意ですが助けましょう…。メイルが。)」
あ、そこ助けるのお前じゃないんだ。
幼女メイルってお前の上司じゃん、上司あごでつかうの?
「(メイルが世界を改変して何とかしたようです。話を聞いてもらいますよ)」
世界を改変…って、何したんだ?
すると、俺の袖を少女が引っ張る。
「ねえ、ちょっと、これどういう状況?」
「ん? …な!?」
今目の前で起こってることありのまま話すぜ…。
ゴロツキと思われる男達が美女に早変わり憲兵の人たちと抱きしめ会ってる。
熱い抱擁とキスの嵐。
どうして、こうなった。
ゴロツキ達はぼろ布みたいな服や上半身裸のおっさんとか居たんだが、全員美女にかわってる。
さすがにゴロツキも憲兵も驚いて魔法を撃つのをやめた。
んで、落ち着くかと思ったら、ゴロツキの何人かと憲兵の何人かが抱きしめ会う。
さらに、憲兵の奴らとゴロツキは相思相愛のようでお互いに愛の言葉をささやき合っている。
元ゴロツキの奴ら、上半身裸だった奴とかもいて服装がかなりきわどいことになってるやつもいる。
そんな奴ら奴に紳士的に上着をかけてあげてる憲兵。
またも相思相愛。
「(って、おーーーい!! クレア!メイル! ちょっと出てこいや!!!)」
「(おお、無事だった?君がピンチだと聞いて柄にもなく張り切っちゃったよ)」
「(お前は何を張り切ってんだ!!どう考えても大問題じゃねぇか!)」
「(失礼な! クレアに、男達に襲われそうな彼を助けるには、片方を女性にしてカップル成立させる以外に道はありません…っていわれたから多少無理して助けたのに。感謝してほしいよ)」
またかクレア! またお前のいやがらせか!
「(メイル様…それを言ったら面白くないじゃないですか)」
「(おまえら、どう収拾つけるつもりだよ!)」
「(まあ、解決したんだし…これはこれで…あり?)」
「(ねーよ!!! 新たな問題が大発生だよ!)」
つか、少女の奴静かだな、と思ったらめっちゃガン見してる!
君にはまだ早いんじゃないかな!
「(まあ、結果はどうあれピンチからは脱したわけですし、指示に従ってもらいます。)」
「(釈然としない。)」
「(その路地を大通りに出て少し進むと果物屋があります。そこでリンゴを1箱買ってください)」
無視か。
「(それにどんな意味があるんだよ!)」
もう返事すらなかった。
確かに、転生時に指示があるまでは自由って言われてたし…初の指示だ。
面倒だがやるしかないか。
とりあえず、ラブラブな空気を醸し出しているゴロツキと憲兵をよそに俺と少女は大通りにでた。
「憲兵もゴロツキもあんな状態になったら、さすがに追ってこないだろ」
「あ、ああ。アタイはまだ憲兵に追われてるかもしれないから、しばらく身を隠すよ」
「じゃぁ、元気で」
とクレアの言う果物屋を目指して歩こうとすると、袖をつかんで止められる。
「あ…アンタ! 名前…名前教えてよ。 アタイはミリア!」
「お、私はユウリ・グレンノースです」
「そっか、じゃあユウリ、元気でね!」
そう言って人ごみに完全に隠れてしまうミリア。
ほんの数分だったけど、猫耳少女にあえて満足した俺だった。
さってと。
クレアの言う果物屋に何があるのか分からないけど、行ってみるかね。
俺は路地裏で抱きしめ会う憲兵とゴロツキをそのままに大通りを歩き出した。
さて、言われた先にはさびれた果物屋が一件しかない。
何件かあれば悩まなくても済むんだが、このさびれた果物屋しかない。
てことはここか?
どう考えてもリンゴを1箱も扱ってるようにはみえない。
かと言って幼女神やクーデレ天使に聞こうにも【信託】に反応がない。
しゃあない。
行ってみるしかねえね
「すみませーん、リンゴありますか?」
「はいよー、お譲ちゃんお使いか?えらいねー、いくつ必要だ?」
さびれてる割には案外まともなおっさんだ。
「リンゴを1箱です」
「な!!」
途端に驚いたような顔でこちらを見てくるおっさん。
その顔やめろキモイぞ。
「じょ、譲ちゃん…間違いじゃないのか?」
「間違いじゃありません。頼まれたんです」
そう、天使クレアに頼まれたのだ。
てか、店員のこの反応見るに、なんかの隠れ蓑だったぽいな。
クレアのやつ、何させる気だ。
「そうか、最近はこんな子供も使いによこすのか。譲ちゃんこっちだ。入んな」
とお店の中に案内される。
中には何もない部屋があるだけかと思ったら、魔法陣が書いてあるじゃないか!
「この中で見たもの聞いたものは絶対外で言うんじゃねえぞ。あとこれが許可証だ首からかけとけ」
その注意事項を聞きながら魔法陣をくぐった。
一瞬光で目がくらむ。
次に見えたのはずらりと並ぶ檻に入れられた獣人や魔物。
そう、ここは
「ようこそ!貴族の皆さま、本日も活きの良い奴隷が目白押しでございます!!」
奴隷市場だった。
「(無事に潜入できたようですね)」
「(おいクソ天使!今度はどういうつもりだ)」
いきなり通信が入ったけどそれよりまず、こんな処に少女を送り込むなんて正気の沙汰じゃねえぞ!
「(べつに目的はありません。あなたが先ほど出会った少女に関する情報からここの情報を持った男に行きつきまして)」
さっきの少女っていやぁ、ミリアか。
ミリア関係っていうとミリアが襲った奴隷商人の記憶が一番それっぽいな。
「(それで、ここに連れてきて今度はどうするつもりだ。 何させようっていうんだ)」
「(先ほども言いましたが、目的はありません。ホントに果物屋の奥に魔法陣があったんですね)」
「(へ? なに、それだけ?)」
「(私は満足です。 後はご自由に)」
通信がまたも途切れた。
…なに? 秘密を暴いてみたかっただけってこと?
こんな、奴隷をこっそり売買しようとする奴らの中に少女を突撃させて?
俺は奴隷市場にて一人立ちつくしていた。